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食事

 アーシェの家は、村長の家より少し小さく、こじんまりとしていた。

 作りや魔法のランタンの明かりなどは村長の家と同じだが大きさが半分くらい。

 農家なのか農業に使いそうな道具や編みかけの藁紐があった。


 軽い挨拶をすませ、大きな木製のテーブルを囲むように座ると早速料理が運ばれてくる。


「さあできたわよー」


 アーシェ曰く、どれも母シェリーナが作った自慢の一品らしい。


(見た目からして美味しそう!)


 一番最初に運ばれてきたのは、麺料理だった。湯気とともに食欲をそそる香りが立ち上っている。かまど用なのか取っ手が取れるようになっている異世界風のフライパンが使われていた。


「アイカ、あれってパスタかな?」

「そのように見えますね。いい香りです」


 アイカはそう言うとフライパンの近くまで飛んでいき、くんくんとパスタの香りをかいでいる。


「この村で取れた麦で作ったんですよ。風車があるでしょう?あそこで粉を引いているんです。いま取り分けますからね」


 アイカの今にもよだれを垂らしそうな様子を見たシェリーナが、最初にアイカ用のお皿にパスタを取り分けてくれた。


 たっぷり大人一人前の量をもられているけど食べちゃうんだよね。

 昨日の村長宅での食事のことが村でもう広まっているのか、妖精の身体に不釣り合いな量のパスタが盛られている。


「私ね! これが一番すきなの!」

「アーシェ、お客さんが先だからもうちょっとだけ待ってね」

「はーい!」

「さあどうぞ」


 そうしていると私にもパスタが盛られた皿が差し出された。


(トマトソースっぽい)


 それは鮮やかな赤い色をしており、新鮮なハーブも添えられていて、良い香りが食欲を刺激する。


「いただきます」


 私はそう言うと同時に、アーシェが配ってくれたフォークで麺をくるっと巻いて口に運んだ。

 すると、クリーミーな酸味でたっぷりと旨味を含んだソースが口の中に広がる。


「美味しい……!」


 トマトソースじゃない。トマトクリームだ。

 以前、レストランで食べたトマトクリームパスタを思い出す。しかし、正直それよりも何倍も美味しかった。

 麺はもちっとした歯ごたえがあり、クリーミーなソースととても良く合っていた。


「これはキノコ?」

「この時期に森でたくさん取れるんですよ。歯ごたえが良いでしょう?」


 噛むとプリッとした食感で、麺のもちもちした食感に良いアクセントを加えていた。

 キノコ本来の旨味に加えソースの旨味も吸っていて、噛み切ると中から旨味がじわりと溢れてくる。


(季節のキノコのトマトクリームパスタって感じ!)


 そうして私がパスタに舌鼓を打っていると次の料理が出てきた。


「昨日もらったお肉で作ったシチューよ」


 アーシェの父アーリオの耳が肉と言う単語を聞いて1回、さらにシチューと言う単語を聞いて2回ほど、ピクピクと動いた。そしてシェリーナが鍋の蓋を開けると、「おお」と小さく声を漏らした。

 抑えてはいるようだが尻尾がブンブン振られている。


(暖炉の前で温められている鍋があると思ったら、中身はこれだったんだ。どうりで家に入ったときから良い香りがする訳だね)


 大きめに切られた肉はスープがよく絡んでおり、部屋の魔法のランタンの明かりに照らされて艶めいて存在感を主張している。

 肉だけではなく、面取りされた赤い根菜や薄切りにされた肉厚のキノコの上に、茹でられた鮮やかな色合いの葉野菜が添えられていた。


 私は小さくつぶやくと唾を飲み込んだ。そして、木製のスプーンを手に取り、スープをすくって口に運ぶ。

 とろみの付いたスープは、濃厚な肉と野菜の旨みがぎゅーっと凝縮されており、まろやかでコクがあった。


「ビーフシチューみたい……」


 スープの味をしっかりと堪能した後、私は肉に手を伸ばした。

 スプーンを押し当てると簡単にほぐれるほど柔らかかった。

 よく煮込まれているみたい。


 私は、スプーンで一口サイズにしてから、そっとすくい上げ、スープと共にゆっくりと口に含む。

 すると、煮込みきられた肉は口の中でホロホロと溶け、たっぷりと含まれた旨みが口いっぱいに広がった。


(美味しい……!)


 そう思ったが、既に言葉にする余裕は無くなっていた。

 肉、野菜、スープ、そして再び肉の順番で、書き込むような勢いで口に運ぶ。

 あっという間に、器は空になった。

 次に口にする言葉はもちろん──。


「おかわり!」

〈おかわりです〉

「ママ! おかわり!」

「おかわりだ!」


 全員が揃えたようにピッタリのタイミングで、シェリーナにおかわりを要求する。

 その様子を見たシェリーナは、口元に手を当ててあらあらと言いながら、嬉しそうに微笑んだ。


「たくさん作ったから慌てないで食べてね」


 そう言いながら、最初と同じ順番でおかわりを盛り付けてくれた。


 ◇


 その後も、『蜂蜜入りのピクルス』『ウマウオのキノコ蒸し』『モモルのパイ(デザート)』と次々と料理が運ばれてくる。

 じつは厨房にあと何人かいるんじゃないかって思うほどのボリュームだった。

 ウマウオはアーリオが釣ってきたみたいなんだけど、鮭に似た味で少し懐かしく感じた。


 アーシェは、お腹もいっぱいになって眠くなってきたのか、デザートのパイを食べながらコクリコクリと船を漕ぎ始めていた。


 口に広がるパイの甘さと、まったりとした雰囲気に、私は自然と笑みを浮かべていた。

 アイカも私の表情を見て嬉しそうに微笑む。


(なんか良いなあ。こういうの……)


 私は子供の頃に家族旅行で泊まった民宿を思い出す。

 初めて来た場所だし、初対面のはずなんだけど、不思議な懐かしさを感じる。


(ここは異世界だし、周りにいる人も、私だって人間じゃないんだけど不思議な感覚)


 テーブルに突っ伏して寝ようとするアーシェの耳がピクピクと動いているのを眺めながらそんな事を考える。

 私がそうしていると、アーリオが娘が寝てしまって申し訳なさそうにしていた。


「娘がすまない。だが、やっぱり今日は疲れたんだろう」


(あの小さな体で、森まで行って迷子になったんだから疲れるよね。異世界のおつかいって大変だなあ)


 私が日本の長寿番組を思い出しているうちに、シェリーナがささっとテーブルの上を片付けた。


「本当にごめんなさい。私この子を寝かせてくるわね」

「いえいえ、全然気にしてないから大丈夫」


 私は慌てて手を降って答えた。

 シェリーナはそれを見て軽く頭を下げてからアーシェを抱き上げた。

 そして、アーリオにチラッと意味ありげな視線を送ってから、寝息を立て始めたアーシェと共に寝室へと向かった。



 アーリオが一呼吸おいてから、改めてといった様子で居住まいを正し、真面目な雰囲気で話しかけてきた。


「ハルさん、ちょっとだけいいか」


 暖炉の前で温められていたホットワインを渡される。

 私はなんだろうと思いながらも日本人らしい丁寧な動作で両手でホットワインが入ったカップを受け取る。

 雰囲気を察したのか、アイカも私の肩の上で居ずまいを正している。


「妖精様、ハルさん! 今日は迷惑をかけちまって本当にすまなかった!」


 アーリオが机に頭をこすりつけそうな勢いで謝ってきた。

 私とアイカが面食らっていると、さらに言葉が続く。


「実はな、弟ができたんだ」

「え!? お母さん身重だったんだ!」


 私は思わず驚きを声に出してしまった。

 全然気づかなかった。見た目じゃ分からないなあ。


(でもあの時の顔はそういう事だったんだね)


 私は村長の家の前での、彼女の強い意志のこもった眼差しを思い返し、彼女の表情を思い出して納得した。


「すまねえがアーシェのことは多めに見てやってくれ。あいつにも弟のことを知らせたいんだろうよ」

「あいつ?」

「長男、アーシェの兄のことだ。村を出て行っちまったんだが……」


(一人っ子じゃなかったんだ! 実は三人いたの!? いや、まだ二人だけど!)


 いきなり色んな情報が飛び込んできて、驚きと混乱で言葉につまっていると、アーリオが長男のことについて語り始めた。


「あいつは悪い子じゃないんだが……。毛色が俺らと違って白いせいで……」


 アーリオは遠い目をしながら、短い言葉で長男の事を話す。

 村の獣人たちは、毛の色が黒か茶色なのに対して、アーシェの兄は毛が白いらしい。

 そのことで他の子からいじめられていたようだった。


 アーリオは少し寂しそうな顔をしていた。


「……それで、手紙を置いて出て行っちまったんだよ。

 まあ結局のところ、この村の空気が合わなかったってことだ。それだけの話さ」


(いや空気合わないからって村を出るってバイタリティありすぎでしょ!

 どんな子なんだろう……!)


 とっても気になるけど、アーリオさん辛そうだし聞きにくいなあ。


 ◇


 込み入った話が終わると、寝かしつけから戻ってきたシェリーナがハーブティーを入れてくれた。


「いい香り」


 爽やかでほんのりと甘い香りがする。


「お二人は迷宮(ダンジョン)に向かうんですよね。いつ旅立つんですか?」


 シェリーナがお茶を注ぎながら聞いてきた。


「次のニノ月が満月の日だったかな」


 村長の奥さんがそう言っていたはず。

 確か行商人の人に便乗させてもらえるようにお願いしてみる事になってるんだっけ。


「え……!?」

「それって明日じゃないか!!!」


 シェリーナが驚いてお茶をこぼすほど動揺し、アーリオも驚きの声を上げるが、私たちの方がもっと驚いていた。


「ええええええええええ!?!?!?」

〈ええええええええええ!?!?!?〉


 私とアイカの叫びが村中に響いた。



 村に来て2日目の夜の出来事であった。

次回、旅立ち。


**************************


読んで下さってありがとうございます!!!


今回は間が空いてしまったので、ボリュームの多めの4000文字でお届け致しました!


いよいよポルクス村でのお話も残りわずかとなって参りました。

今回は村では最後のグルメ回でしたが、皆様の食欲を刺激できていたら幸いです!


もし読んで『パスタ美味しそう』『ビーフシチューが食べたくなった』『他のメニューも気になる』と思って頂けていたら

ぜひ小説評価☆☆☆☆☆で聞かせてください!

もちろんブクマ・感想もお待ちしております!

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