聖獣
〈まさか、アーシェがましゅ丸に保護されているとは思いませんでした〉
「ほんとにね」
獣たちに囲まれているのを見たときは、もうダメかと思った。
でも今にして思えば、その獣の中に明らかに草食動物っぽいのも混じっていた時点で気づくべきだった。
鹿とかリスもいるもんね。
まあ、何はともあれ本当に無事で良かったと思う。
私とアイカはすっ転んだ時の土埃を払いつつ、心の底から安堵する。
そして、その場にへたりこむ。
アーシェは、ましゅ丸の事をとても気に入ってしまったようで、ぴったりとくっついて離れなかった。
そこに森の動物たちが寄り添っている。
木漏れ日が差し込む中、少女が森の動物たちに囲まれていて、なんとも絵になる光景だった。
私は軽くため息を吐いてから、アーシェに話しかけた。
「それにしても、なんで森の中に?」
「んとね、これが欲しかったの」
アーシェがそう言ってカラフルな丸い木の実を見せてくれる。見ると真珠のような大きさで、丸くて光沢のある実だった。様々な色合いのものがあるが、一つの植物からとれるのだろうか。
(おばあちゃんちの近くに生えていたジュズダマみたい)
でも実の形がジュズダマより、球に近いし違うなあ。こんなにカラフルじゃないし。
「これは?」
「これはね、ホプルの実っていうの。もっていると、願いが叶うんだよ」
村では、この実に糸を通して一繋ぎにし首飾りにして身につけておくという風習があるようだ。ご利益としては願いの成就や、魔除けのお守りにもなるらしい。ときには、想い人に贈ることもあるのだとか。
「でも一人でこんな所に来ちゃダメでしょ?」
「ごめんなさい……うっ、ひっく……」
泣き出すアーシェ。
(あちゃー! 怖いの我慢してたのかな。そりゃそうだよね)
泣かれるのに心底弱い私は、アーシェを抱き寄せて優しく抱擁する。ましゅ丸も大きくて柔らかい尻尾を、重ねてきてアーシェを優しく包み込む。
周りに集まってきている森の動物たちも心配そうにこちらを見守っていた。
「よしよし。もう大丈夫だよ。お姉ちゃんが付いてるからね」
「うっ……んっ……」
アイカがその脇でこっそりと、ましゅ丸に事情を聞いてみると、アーシェは一人で森に入ってきたらしい。
いち早くその事を察知したましゅ丸が、影から見守っていると、どんどん森の奥へと進んでいったのだという。ましゅ丸もその後を気付かれないように追いかけていき、それに伴って、森の仲間たちの中でも好奇心の強いものが、徐々に集まってきて今の数になったようだ。
〈ふむふむ、それで?〉
キュイキュイーーーッ!
しばらくすると、ホプルの実を見つけて喜んでいたので、そのまま帰る物だと思って安心していたらしい。だが、そこから道が分からなくなってしまったようで迷いながら右往左往していたが、しばらく経つとその場にしゃがみ込み、ついには泣き出してしまったので見かねて姿を表したのだと言う。
「帰り道……分からな……怖く……うわぁあああん!」
「よしよし。もう大丈夫だから」
私は、涙が止まらなくなってしまったアーシェの背中をポンポンさすりながら優しく抱きしめた。
「怖かったよね。今度から一人で無茶しちゃダメだよ」
なんだか一人で仕事を抱え込んでいた自分にも言ってるみたいで、こっちまで泣きたくなってきた。
自分のこと騙して、ずっと深く考えないようにしてきたけど本当は辛かった。
気づくと目には涙が溜まっていたが、下まぶたのダムがなんとかこぼれ落ちるのを阻止する。
「怖く……ごめんなさ……い……」
「うん。もう大丈夫だよ。ましゅ丸もいるし」
「ましゅまう……?」
「ましゅまる。この子の名前だよ」
私が勝手に名付けちゃっただけなんだけど。
「ましゅ……まるって言うんだ……かわいいね」
そう言ったアーシェはいつの間にか泣き止んでおり、少しぎこちないが笑っていた。
私も目元を軽くこする。泣いてないけど。
「あのね、お姉ちゃん……大好き!」
ぎゅーっと抱きしめられる。
(はう! なんかやばい幸せ!)
私の母性が溢れる。
私もぎゅーっとアーシェのことを抱きしめ返した。
いつの間にかアイカもどさくさに紛れてくっついてきた。
〈ずるいです! 私もマスターとくっつきたいです!〉
アイカがそう言ったのを皮切りに、森の動物たちも優しく寄り添ってくれる。
「あはは、皆やさしいね」
「うん。あったかいね、お姉ちゃん」
〈マスターを泣かせるやつは私が許しません!〉
なんか一人だけ温度が違うよ、アイカ。
落ち着いて、ね?
そうしている間にも一匹また一匹とリスや、狐が寄り添ってくる。
私の膝の上にはアーシェ、頭の上にはアイカ、腕にはリスが3匹、アーシェが狐を抱っこしている。そのアーシェごと私たちを包むように、ましゅ丸が尻尾を巻きつける。
その後も動物たちが集まってきた。
なんか大人気なんだけど、このモフモフ天国ってデジャヴ!
ここの森の子たちはみんなこうなのかな?
その後も、森の獣が続々と集まってきて、おしくらまんじゅう状態になっていた。
〈あはははは。そこ!そこはダメですー! くすぐったいです~〉
「お、お姉ちゃん! なんかすごいいっぱいで楽しいね! そーれ!もっと押しちゃえー!」
「ちょ、痛い! ハリネズミちゃんが刺さってるから押さないで!」
私たちは少しの間、森の動物たちと賑やかな時間を過ごした。
◇
「パパたちもきっと待ってると思うよ」
もちろん、パパ(アーリオ)は待っていられる訳もなく、追いかけてきているのだが、そんなことは猛ダッシュの砂埃で見えなかったので知らない。
「帰ろっか」
〈はいです!〉
「うん! せいじゅーさま、ましゅまるバイバーイ!」
(ん? いま聖獣って言った?)
(言いましたね)
私の言葉にアイカが同意する。
聞き間違えではなさそうだけど、念の為にアーシェちゃんに確認しておこう。
「アーシェちゃん、さっき聖獣っていった?」
「うん、だって森には白くて大きなせいじゅーさまが居るってパパとママが教えてくれたよ。ましゅまるって、せいじゅーさまなんでしょう?」
「ええええええええええええええ!?」
アーシェの肯定の言葉に、私は驚きの叫び声をあげた。
(つまり、私って聖獣様を……)
この世界に来てすぐの試し切りの事を思い出す。
森の一帯を切り飛ばしたときに、うっかり聖獣様のことも切りそうになっていたってことだよね……?
(……あ、危ないところだったぁあああ!!!)
転生した直後に聖獣様を倒しちゃうなんて、それこそ魔王だよね……。
女神様から装備を奪っちゃうアイカもたいがいだけど、私も危うく似たようなことをしちゃうところだった!
いや、借りた物ならまだ返せる可能性が全くゼロじゃないだけ、まだましか……。
私は身が縮む思いだった。
だが一方で、敬うとか崇めるということを知らないアイカは、気にも留めていない様子でアーシェの頭の上で揺られ、眠そうに目をこすっていた。
こうして冷や汗が止まらない私を尻目に、一行は村への帰路についたのであった。
次回、帰還。
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読んで下さってありがとうございます!
やはり前回は好評だったようで、追加で評価頂きました!
頑張ったかいがありました!!! こうして努力したのが認められるっていうのは
本当に嬉しくて、小躍りでもしてしまいそうです(笑)
今回もお礼を兼ねて、ボリューム多めの3000字で書かせて頂きました!
楽しんで頂けていたら幸いです!
さて、この森の子たちですが……
やはり、遥香の料理によってしっかりと餌付けされているようです。
そんな森の仲間たちとましゅ丸の活躍もあって、アーシェを無事に発見することができました。
じつは少し前のお話で村長宅での歓迎が有りましたが
その裏でも、ましゅ丸たちが裏で活躍していたんです!
その辺りのサイドストーリーを読んでみたいという方がいらっしゃったら
ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想で聞かせてください!
もし待ってくださってる方がいらっしゃったらSSも書いていきたいと思います!
もちろん、本編の続きが気になる方はブクマも大歓迎ですー!




