捜索開始
私とアイカが、にこにこと笑って食事を楽しんでいるところに、突然男が飛び込んできた。
バァンッ!!!
勢いよく開けられた扉の音が家中に響く。
(え!? なに急に!?)
驚きと困惑、そして警戒。
私は、入ってきた男を険しい目でじっと見つめた。
血相を変えた様子の彼は、若い獣人の男だった。耳と尻尾がある以外は、人間とそっくりである。広い肩幅に太い腕、足元を見るとどこを駆けずり回ったのか、どろどろに汚れていた。そして、額には汗が浮かび、しゃべるのも辛そうなほど息が上がっていた。
「おい村長! うちのアーシェを見てないか!? 迷子なんだ!!!」
男は村長に向かって、唾が飛びそうなほど強い口調でそう言った。
〈なんですか!? 食事ちゅ……!〉
アイカが、私との楽しい食事を邪魔されてマジギレした。
私は慌ててアイカの口元を塞いで小声で言う。
(アイカ抑えて!)
(んむむ。せっかくマスターとゆっくりご飯を食べていたのですよ! 邪魔は許さないですっ!)
アイカは手足と背中の羽をジタバタさせて、ぷんぷんと怒っていた。
そんなアイカに私は諭すように言う。
(まあまあ、これからはいつでも一緒なんだし。お昼ごはんは二人でゆっくり食べられるだろうからさ。それに、この村にはお世話になってるでしょ? 何かあったなら協力しないとね?)
私がそう言っていると、「二人でゆっくり」のあたりからアイカの視線が少し上にあがり空中を見つめ始めた。
これは何か想像している顔だな。
なんかすっごいニヤケ顔になってきちゃったよ?
(アイカ……?)
(マスター、約束ですよ! 絶対に二人でゆっくりしましょうね!)
(う、うん)
普通にご飯食べるだけだよ?
うちの子は一体何を想像してるんだか。
アイカが落ち着いたところで、というか何故かご機嫌になったところで、入ってきた男性と村長に再開を促す。
こうして私たちは一旦食事の手を止めて成り行きを見守ることにした。
「邪魔してごめんなさい。続けてください」
「ああ、食事中にすまねえが、うちのアーシェが大変なんだ!!!」
村長がただならぬ様子の男に短く尋ねる。
「アーリオ、どういうことかの?」
男は汗を拭うのも忘れて答える。
「うちのアーシェが居なくなっちまったんだ!」
(アーシェちゃんって確か、あの可愛かった子だよね)
(そうですマスター。村に来てすぐに出会った少女です)
「居なくなった? いつからじゃ?」
「今朝からアーシェが見当たらないんだ……!」
村長の妻のカルールさんが落ち着いた仕草で、丁寧に扉を閉めながら尋ねる。
「ミーファちゃんの所に行ったんじゃないのかい?」
「俺たちもそう思ってたんだが、あいつの所にも行ってないみたいなんだ! クソッ! こんなことならもっと早くに……!」
男はそう言って、机を拳で力いっぱい叩く。
ダンッ!!!
そのあまりに強い衝撃のせいで机の上の食器が跳ね、アイカが少し驚いている。
聞くと、アーシェが今朝から行方不明で村の周囲にも居ないようだ。農作業中の村人にもアーシェの行方を聞いて回ったせいで足元がそんなに汚れてしまったのだろう。
「ふむ。村に居ないとなると森か草原の方じゃのぉ」
「頼む村長! 皆で探しに行かせてくれ!」
「そうは言ってものぉ。どちらに行ったのかすら分からんのじゃ……」
「そんなことは俺だって分かってるさ! けどよ、あいつに何かあったらって思うと俺は……!
俺は一人でも行くぞ!!!」
そう言った男の声は、震えていた。
彼の震える拳を見て、遊園地で迷子になった時の父の姿を思い出す。
子供の頃の私は落ち着きが無かったから、遊園地ではぐれちゃって、父さんが血相を変えた様子で探しに来てくれたっけ。真夏だったから、遊園地中を駆けずり回って汗びっしょりになった父さんが、私のことを見つけてくれたんだ。
泣きじゃくる私を、痛いくらいに強く抱きしめてくれた時の感覚は今でも覚えている。
この人もきっと……。
──アーシェの父の姿と、自分の父の姿が重なって見える。私の心は即座に決まった。
アイカに小声で問いかける。
「アイカ、探せるよね?」
〈もちろんです〉
私の問にアイカは即答した。
「よし行くよ!」
〈はいです!〉
私は勢いよく立ち上がった。
アイカも私に合わせて飛び上がる。
「行くってお前、宛はあるのか?」
「待つのじゃ! 森には危険な……」
私はそんな言葉を振り切って、扉へ向けて歩き出し──
──女神装備の力を発動した。
──思考加速
──身体加速
瞬間、周囲すべてがスローモーションになり、まるで時間の流れを遅くしたように感じた。
村長たちが慌てた様子で何かを言っているが、体感時間が全く異なる今の私には彼らが何を言っているのか理解できなかった。
(心配してくれてるんだろうけどごめんね。ほっとけないんだ)
私はそんな彼らの静止を振り切り、村長の家を飛び出した。
村長の家の前には、村の男たちが既に集まっていたようで、扉から急に飛び出してきた私たちに驚く姿が見えた。おそらく彼らは、私たちが話してる間に集まってきたんだろう。
(捜索隊かな)
その中には若い女性の姿もあった。その目は不安で潤んでいたが、瞳の奥には強い意志の光が宿っているように感じられた。
この美人さんがアーシェのお母さんかな。
彼らの動きも、いまの私にとっては思考加速の影響でとてもゆっくりに感じられる。
〈マスター聞こえますか?〉
本来ならこの状態ではアイカとも会話はできないはずなのだが……。
「そっちも発動したのね」
〈はい、マスターとの同期完了しました〉
アイカは魔法で私の思考加速と同じ状態を再現しているため、私との意思疎通が可能なのである。
「よし、アーシェちゃんを探すよ!」
〈了解です!〉
私たちは、こうして獣人の女の子を探すために動き出す。
(もう少しだけまっててね。絶対に助けるから!!!)
〈……これより、作戦行動を開始します〉
次回、捜索。
(次の更新は明日の夜の予定です)
**************************
読んで下さってありがとうございます!
今回はシリアス回でした!
緊迫したシーンは特に難しいですね。
描いていて中々悩む所が多かったのですが、なんとか更新できました!
応援して頂いたおかげでがんばれました!
遥香とアイカもがんばれ!!!
今回のお話を読んで『二人とも頑張れ!』『続きが気になる!』と思って頂けたら嬉しいです。
もしそう思って頂いていたら、ぜひ感想や小説評価☆☆☆☆☆で聞かせてください!
ブクマも大歓迎です!よろしくお願い致します!




