迷子
歓迎の宴の翌朝。
ポルクス村の村長の家。
「ふわぁ~。昨日は楽しかったなあ」
私が目覚めるとすっかり太陽は登っていた。少し凹凸のある丸い窓からは、子どもたちが放し飼いにされている鳥を追いかけて、元気に走り回っている姿が見える。
子どもたちの「まてー!」という明るい声も聞こえてきた。
(満ち足りた朝って感じだなあ)
少しの間のどかな光景を堪能した後、ベッドに腰掛け、その柔らかさを確かめるようにポフポフと軽く押してみる。
(やっぱり、このベッド最高かも……)
このベッドはウールウッドと呼ばれるこの世界の木から作られているらしい。クッション性がありつつも、しっかりと身体を支えてくれるため、抜群のフィット感でとても寝心地が良かった。
(それにしてもウールウッドってどんな木なんだろう……)
私は羊みたいにモコモコな木を想像する。
うーんやっぱり、おっきな綿飴みたいな感じかなあ。
〈マスターおはようございます〉
私が目覚めた事に気づいたアイカがヒラヒラと飛んできた。
〈昨夜はよく眠れましたか?〉
「うん、このベッドすごく寝心地良くてびっくり!」
〈それは何よりです〉
「こんなにいっぱい寝たのって久々かも」
〈ずっと忙しかったですからね〉
そうしてアイカと話していると少し遅れて村長も私の様子を見に来た。
「ふぉっふぉっふぉ。長旅の疲れが出たんじゃろうて」
村長が顎の長毛を撫で付けながらそんな事を言う。
(いや長旅どころか、この世界に来てからまだ1日しか経ってないんですけど……)
これはたぶん仕事の疲れです……なんて言えないなあ。
私はそんな事を考えつつも、とりあえずベッドのことを褒めて話を逸らすことにした。
「いやー、このベッドがとっても寝心地良いもんだから。あはは」
「これはのぉ、ウールウッドと言うてじゃな……」
あちゃー!
村長の家具自慢のスイッチが入っちゃったよ。
昨日もそれでずいぶん長いこと語ってたっけ。
私は適当に相槌を入れながらも、サラリーマン時代に培ったテクニックを駆使して軽やかにフェードアウトした。
「ちょっと顔洗って着替えてきまーす。アイカも手伝って」
小声でそう言うと脱出成功である。
◇
私は村の中央の湧き水で顔を洗う。
「冷たくて気持ちいい~」
〈どうぞ、マスター〉
「ん、ありがと」
私はアイカに手渡されたタオルで顔を拭きながら、村を見渡す。
この湧き水を中心に、この村は構成されているようだ。
湧き水は、そのまま村の中央の池に貯められ農業や生活に使われる。ここを中心にしてポツリポツリと家が立っており、その中でも一番大きいのが村長の家だ。
そんな家々から少し歩いた所には畑や風車小屋があり、村人の獣人たちがのんびりと農作業をしているのが見える。
聞くと、この村の大半は農民で普段は日の出と共に起床し、男は支度をしてから畑に、女と子供は朝食の準備を始めるらしい。朝食の準備ができた頃を見計らって男が戻ってきて皆で食事をし、その後に全員で農作業をするようだ。
太陽と共に起きて太陽と共に眠るなんて、とても健康的だと思うよ。
「のどかだね~」
顔を洗い終えた私は、村を見て回りながら村長宅へと歩みを進めた。遠くの方で慌てた様子で走り回っている獣人男性の姿が見える。
(なにかあったのかな……?)
少し疑問には思ったが、村長たちを待たせてもいけないので、あまり深く考えることなく村長宅に戻ってきた。
「ただいま」
口をついて出たその言葉に自分でも少し驚く。
しまった!
(自分の家じゃないのに、ただいまなんて言っちゃったよ~!)
しかし、村長の奥さんのカルールさんが「まあまあ」と口に手を当てながらも、優しい声で返事を返してくれる。
「あら、おかえりなさい」
(ああ、気遣ってくれた! なんて良い人!)
〈ただいまです!〉
「妖精様もおかえりなさい」
アイカも私の真似をするが、それにもきちんと返事を返してくれた。
(このアットホームな雰囲気好きだなあ)
妖精大好きとはいえ、昨日来たばかりの私たちの事をこんなに暖かく迎えてくれるなんて……。
私は胸の中がポカポカと暖まるような感覚を覚えた。
それからルンルン気分で着替えを始める。それを手伝うアイカもごきげんである。
そして、着替えが終わり居間に戻ってくると朝食の支度ができていた。時間的には朝食というよりもブランチに近いかも知れない。
(もうここに永住したくなってきちゃうよー!)
「こんなに良くしてくれて、ありがとうございます!」
思わず敬語で感謝を告げると、村長夫妻が優しい言葉を返してくれる。
「ハル様が妖精様を連れてきてくれたおかげで、昨日は大猟だったしのぉ。お礼を言うのはわしらのほうじゃ」
「そうだよ。好きなだけ居て良いんだからねぇ」
またしても心がポカポカになる。
「さあさあ、昨日ほどのごちそうじゃないけど良かったら食べてちょうだい」
私は、軽く照れ笑いしてから食卓を眺める。
いい香り。
メニューは、生ハムの新鮮野菜サラダと、巨大卵のチーズ入りふわとろオムレツ、それに昨日教えた天然酵母のふわふわパンだ。パンに使う酵母はアイカが手持ちの物を渡してくれたらしい。
デザートには、私が気に入ったモモルの実でパイも作ってくれているようだ。
冷めないうちに食べ始めよう!
「いっただきまーす!」
〈いただきます!〉
どれもとても美味しくて、アイカと目を合わせて「おいしいね!」と微笑み合う。
昨夜の食事はお酒に合うパンチの効いた味付けだったが、今日の食事はまろやかで優しい味付けだった。
食べる度に自然と顔がほころんでしまう。
私たちがそうして、にこにこと笑って食事を楽しんでいると──
バァンッ!!!
──壊すような勢いで家の扉が開け放たれた。
「おい村長! うちのアーシェを見てないか!?」
血相を変えた様子の獣人の男が、村長宅へと勢いよく飛び込んできた。
その男に村長が短く問いかける。
「む、何事じゃ?」
「うちの子が、迷子なんだ!!!」
次回、捜索開始。
(更新予定は明日の夜です)
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読んで下さってありがとうございます!
ポルクス村の居心地が良すぎて、迷子のところまで話が進まなそうでしたが、
皆様に応援して頂いたので、頑張ってたどり着けました!!!
評価やブクマなど応援して頂き、ありがとうございました!
今回は、村人の生活について触れつつ、田舎の農村を描いてみました!
読んでいて『情景が浮かぶ』『のどかだ』と思って頂けていたら
ぜひ小説評価を☆☆☆☆☆で聞かせてください!
もちろん、ブクマ・感想もお待ちしております!
登場する村人や世界観についてもっと詳しく知りたいなど、ご意見がありましたら
ぜひお聞かせください!




