歓迎
あれから少しして、村長夫妻の親戚一同が続々と集まり始めた。
来られる親戚は全員きているらしく、20人以上が集まった。中には子供もいる。
テーブルは繋げられ、足りない椅子は各々が持ち寄っている。差し入れにと野菜や果物、それに大きなイノシシのような獣も届けられた。
そうしてあっと言う間に私たちの歓迎の宴の準備が整えられる。その頃には辺りはすっかり暗くなり、部屋には魔法のランタンの明かりがつけられていた。
「わ~! 美味しそう!」
〈マスター、これ全部食べて良いのですか?〉
私たちの目の前のテーブルには、ごちそうが所狭しと並べられている。
「もちろんさね! 妖精様たちのために腕によりをかけて作ったからね! それに今日は肉も野菜も大猟だったみたいだから、材料はまだまだあるんだよ! 足りなきゃいくらでも作れるからね!」
そう言って恰幅の良いおばちゃんが「やっぱり妖精様のご利益があったんだよ」と豪快に笑う。
「ねえ、母ちゃんもう食べていい?」
「こら、妖精様が先だよ!」
「はーい」
私たちがおばちゃんと会話をしている間も、子どもたちは待ちきれないといった様子でソワソワしていた。
さっさと食べ始めよう。
「アイカ、食べようか」
〈その方が良さそうですね、マスター!〉
アイカと私は手を合わせ声を揃えて言う。
〈いただきます!〉
「いただきます!」
アイカと私がそう言うと、周囲に感心の声が広がった。
「おお!」
「なるほど。食前のお祈りか」
「わしらもやるぞい!」
皆が手を合わせ、子供たちも大人の様子をみて真似をする。
「「「いただきます!」」」
そうして賑やかな歓迎の宴が始まった。
◇
〈マスター! このお肉すっごく美味しいです〉
「妖精様のお口にあって良かったよ」
アイカが食べたのは、漫画に出てくるような塊肉だった。
専用の台で運ばれてきたそれは、まだ焼き立てであることを主張するように、肉が焼けるジューという音を立てていた。表面からは肉汁が滲み出して滴り落ちている。
その表面の一番おいしそうに焼けた部分を、おばちゃんが適度な大きさに切り分け、一口サイズに切れ目を入れて食べやすくしてから皆に配っている。
そのお肉のあまりにも美味しそうな見た目と香りに、私は思わず喉をならす。
「私も食べたい……!」
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
目の前に置かれたのは、おばちゃんが切り分けた焼きたての肉。
湯気と共に、ニンニクのような香辛料の香りと肉の焼ける良い香りが立ち上る。私は食欲をそそるその香りに再び唾を飲み込んだ。
一切れ掴むと肉汁が溢れてきて、表面の艶で更に美味しそうな見た目になってしまった。
(食欲が……!)
口に含み、目を瞑って味わう。
噛むと、火傷しそうな熱さの肉汁が口の中に旨味とともに広がっていく。
(甘い……)
最初に出てきた感想はそれだった。
肉の良質な油が口の中に広がり、甘さを感じさせる。
そして、柔らかすぎず硬すぎない赤み独特の噛みごたえがあり、噛めば噛むほど旨味たっぷりの肉汁が再び口の中を満たす。
「この肉……やばいわ……」
私は反則級の美味しさに、ほおとため息をついた。
そしておもむろにアイカの方を見ると、次から次へと肉を頬張り、ハムスターのように頬に溜めていた。
〈まふはー、このおひうおいしひふひはうーーー!!!〉
うんうん、美味しいのは分かったから飲み込んでから喋ってね。
可愛すぎて、獣人さんたちが崇め初めちゃってるよ。
◇
その後も、森野菜のサラダやデリシャスきのこのスープ、もちもち生パスタなど色んな料理を堪能した。
村長秘蔵のお酒も振る舞われて、歓迎の宴は大いに盛り上がった。
そして、お腹が膨れた所でテム茶が運ばれてきて、今はのんびりムードである。
「妖精さま! よかったら、これも食べてみてください!」
「ねえちゃんも食ってみろよ!」
「私たちがとったの……」
そう言って、子どもたちがフルーツを持ってきてくれた。
元気っ子、なまいき男児、内気っ子って感じかな。
渡された果実を観察する。
大きさも形も桃に近い果物で、縦に割れ目がある。
ただ、桃よりも割れ目が深く、毛が生えていなくて表面はつるりとしていた。
チラっとおばちゃんの方を見ると、「かしてごらん」と言われたので子どもたちにもらった果実を渡す。
「こうして割って食べるのさ」
おばちゃんは、果実に入った割れ目の部分に指をかけ簡単に2つに割ってみせてくれた。おばちゃんが2つに割った果実を返してくれる。1つをアイカに渡して、もう1つを観察する。
割った切り口からは、果汁がじわりと滲み出しみずみずしさを主張している。香りは、想像通り桃のような甘い香りだった。
皮ごと食べられるらしいので、私は半分になった果実をかじってみた。アイカも同じようにして食べ始める。
控えめに端の方だけ食べるつもりが、その甘い香りに誘われて大きめの一口になってしまっていた。
噛むと、梨のようにとてもみずみずしく、果汁が顎を伝ってたれそうになるほど、たっぷりと水分を含んでいた。
しかし、水っぽくて味が薄いということは無く、むしろ味が濃くてしっかりとした味わいだった。甘さも強いのだが、程よい酸味がそれを中和していて後味はとてもさっぱりとしていた。
少し硬めのシャキシャキした歯ごたえがあり、噛む度に良い香りと甘酸っぱい濃厚な果汁が溢れてくる。
「美味しい……これ何ていうんだろう?」
気づくと私は、思った疑問を口にしていた。
「「「モモルの実!」」」
「モモルの実って言うんだね。すごく美味しいよ。ありがとう!」
〈美味しかったです! ありがとうです!〉
私とアイカが子どもたちにお礼を言うと、勢いよく親のもとへと帰っていった。帰ると言っても、隣のテーブルに居る親の膝の上に戻るだけなのだが。
彼らを目で追っていると、「偉いよ」と頭をなでて褒めてもらっていた。子どもたちが、えへへと笑いながら親に甘えている様子がとても微笑ましい。
聞くと、ここに居る子どもたちは村長のひひひ孫つまりは来孫らしい。
(一体何世代いるんだろう)
私はそんな事を考えつつ、残りのモモルの実をぺろりと食べてしまう。
お肉やパスタでお腹いっぱいのはずなのに、貰った分をペロッと食べてしまった。
そして「モモルの実、美味しかったなあ」と思って、子どもたちの様子を見ると、いつのまにか食べ物を取り合って喧嘩を始めていた。
「あ! それ俺の肉だぞ!」
「もう食べちゃったもーん!」
「ずるーい! ミーちゃんのスープお肉たくさん入ってる!」
(子供って見ていて飽きないなあ)
なんだか賑やかで、暖かくて、お腹もいっぱいで、
とっても幸せ……!
子供の頃におばあちゃんちに親戚みんなで集まったことを思い出す。
(年末年始と夏休みに、山形に行くのを楽しみにしてたっけ。)
ニッコリと微笑む私。
私は自分でも気づかないうちに笑みを浮かべていた。
──アイカは、それを見逃さなかった。
アイカのモモルの実を食べる手が止まり、その表情に見惚れる。
〈マスターのあんなに幸せそうな笑顔は、初めてみました……!〉
アイカは小声でそうつぶやいた。
そして、何かを決心したような表情になる。
キリッとした顔をしているが、口の周りが食べかすで汚れてしまっているので、威厳はまったくない。
〈決めました!!!
いつかマスターを最強の魔王にして褒めてもらうのです!!!〉
「え? 今なんて言ったの?」
「わーーーーーーーっ! なんでも無いですっ!!!!」
アイカが心底慌てた様子で、手をブンブン振ってごまかしている。
(何をそんなに必死になっているんだろう)
口の周りが汚れててちょっと間抜けなんだけど、一生懸命な姿はとてもかわいい。
そんなアイカが可愛くて、尊くて、面白くて──
──思わず私はくすくす笑ってしまった。
次回、迷子。
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読んで下さってありがとうございます!
今回は遥香に羽を伸ばしてもらいました。
ゆっくりのんびり、いっぱいモグモグ。
一方作者の執筆は食欲との戦いでした……!(笑)
いくつもメニューを考えたのですが、一番美味しそうなメニューを選抜させて頂きました。
やっぱり肉は最強ですね!(胃もたれしないようにフルーツも添えてみました)
皆様の食欲を刺激できていたら幸いです!
もし読んで『お腹すいた』『他のメニューも気になる』と思って頂けていたら
ぜひ小説評価を☆☆☆☆☆で聞かせてください!
ブクマ・感想もお待ちしております!
旅とグルメは切っても切り離せませんので、もし今後の展開ではもっと料理を詳細に書いてほしいとか
品数増やしてほしいとかスイーツも……などありましたら、お申し付けくださいませ。




