迷宮(ダンジョン)とは
私たちは村長の家に案内されていた。
「すごい! 中はこんな風になってるんだ」
「ふぉっふぉ。こんなボロ屋じゃが、気に入ってもらえたようで何よりじゃ」
私は村長の家を見て感嘆の声を上げていた。
家の外観は、ファンタジー映画なんかで見た中世ヨーロッパ風の1階建ての木造建築だった。少し期待しながら中に入ると、想像以上だった。
(木の良い香りがする。山形のおばあちゃんの家みたい)
家の中央には大きな木の柱がたっており、それを中心に太い木製の梁が伸びていた。
家具は、木と皮でできている物が多い。高級な調度品などは一切なく、全て生活に必要そうな物ばかりだった。
日本の文明的な物に囲まれて育ってきた私にとっては、年季の入った木製の椅子や机、少し無骨な石組の暖炉、何かの角でできたジョッキなど全てが新鮮だった。
〈マスター! これは何でしょうか?〉
そう言ってアイカが指差すのは、天井から吊り下げられたランタンだった。まだ外が明るいからか、火は灯されていない。そのため、室内は少し暗いが、それがかえって良い雰囲気を作り出していた。
「それはのぉ、魔法のランタンじゃよ」
暖炉に火を入れ終えた村長が、アイカの質問に答えてくれた。
〈魔法……原理が気になります!〉
(やっぱり普通のランタンじゃなかったんだ! 黙っておいて正解!)
私が心のなかで、セーフのポーズを取っていると、村長が「こうして使うんじゃ」と言いながら、ランタンの蓋を開けた。そして、水晶のように輝く小さな石をどこからか持ってきて、ランタンの中に入れる。
「妖精様は魔法で明かりが使えるからのぉ、見たことがないかもしれんが、こうして魔石を入れると光るんじゃよ」
村長は、魔法のランタンを再び天井から吊り下げ、豊かな顎の長毛を撫でつけながら明るくなるのを待った。
魔石を中心に、じんわりと明るくなっていくランタンを見ていると、時の流れが緩やかになったように感じる。
〈お~! 光り始めました!〉
「綺麗……!」
そうしてランタンが明るくなるのを見ていると、家の奥から老婦人がティーカップを持ってきた。
「さあどうぞ〜」
柔らかな老婦人の声でそう言って差し出されたティーカップに入っていたのは、香ばしい香りがするお茶だった。
この老婦人は、獣人のおばあちゃんで、村長の奥さんのカルールさんと言うらしい。
〈これは何でしょう?〉
「テム茶だよ。口に合うと良いんだけどね」
先程から、好奇心が爆発しているアイカは、お茶にも興味津々といった様子だった。
〈マスター、すごくいい匂いです〉
「そうかいそうかい。それは良かったよ。妖精さま、飲んでみておくれ。ハルさんもどうだい?」
そう言われて私とアイカは、テム茶と言うらしいそれに口をつけた。
〈美味しいです……〉
「ほっ……」
身も心も温まる優しい味だった。
村長夫妻と私たち4人でお茶を飲み、少しの間、無言の時が流れる。
暖炉の薪がパチっと弾けた。
なんだかとっても心地良い。
奥の台所からはトントントンと何かを切ったり、焼いてるような音が聞こえてくる。
歓迎するって言ってたし、なにか作ってくれてるのかな。
お茶を飲んで一息ついたところで、私はこの世界の迷宮について聞いてみることにした。
「……迷宮って知ってる?」
「もしかして、お前さんらあんな所に行くのかい?」
カルールさんとが心配そうな顔で私たちの顔を見つめてきた。
「わしも、おぬしらには危険じゃと思うがのぉ」
村長もそう言って奥さんに同意した。
「何故行くのじゃ?」
なぜって言われてもなぁ。
魔王にしてもらった対価なんて言えないし……。
そうして私が悩んでいるとアイカが口を開いた。
〈内緒です〉
以上。
それで終わり!?
と私が思っていると。
「ふむ、妖精様がそう言うなら深い事情があるんじゃろうて」
あっさり納得しちゃったよ。
この村の人の妖精への信頼度が高すぎる。
「……では教えてやろうかの」
そうして村長の口から語られたのは、迷宮の場所と産出物、危険さについてだった。
迷宮は首都にあり、地下へ向けて無数に枝分かれした構造になっているらしい。迷宮とも呼ばれ、構造の複雑さやトラップ、無数の魔物の出現によって、入ったきり戻ってこない者も多数いるようだ。
語っている村長も若い頃は、何度も危ない目にあった事があるらしい。特に、魔物とやりあったりトラップにかかったりしているうちに、帰り道が分からなくなってしまう事が最も危険なのだとか。
(アイカ、迷宮に行くの不安になってきたよ)
そう思ってアイカの方を見ると、テム茶を飲むのに夢中だった。カップを抱えるようにして傾けてこぼさないように器用に飲んでいる。
(話聞け!)
思わず反射的にそう突っ込みを入れたくなっちゃったけど、きっとアイカのことだから、あんな事をしながらも聞いてるんだろうなあ。
「迷宮で取れるのは先程お主らも見たランタンのような魔法道具や、それらに使う魔石じゃ」
主な産出物は魔物から取れる魔石で、たまに宝箱や魔物の所持品で魔法道具が発見されることもあるらしい。また極稀に、内部構造が変わることもあるようだった。
村長が一通り話し終わり、お茶を飲むタイミングを見計らって、追加で質問してみる。
「それで、首都ってどこにあるの?」
「ここからずっと西に向かっていったところなのじゃが……」
そう言いながら村長は、私を見て「そうじゃのぉ」と何かつぶやきながら思案する。
「おぬしらなら、歩いて1ヶ月はかかるじゃろうて」
絶句。
1ヶ月もの間歩き続ける事を想像して、私は言葉を失った。
そんなの絶対無理。
「あの……歩く以外に方法は無いの? 魔法とか」
「うーむ、魔法と言うてものぉ。わしらは詳しくないでのぉ……」
村長は顎の長毛を撫で付けながら瞑想を始めた。
「魔法……まほ…………」
30秒後。
(おじいちゃん寝てないよね?)
更に1分後。
(これは完全に寝てるわ)
更に3分後。
(い、生きてるよね?)
そうして私が村長を観察していると、呆れまじりのため息を吐いたカルールさんが、提案を口にした。
「そろそろ二ノ月が満月だから、ポルックさんに乗せてもらったらどうかねえ」
カルールさんはそう言いながら、寝てしまっている村長の方をチラリと見た。
「ねえ、じいさん!」
「ん……わしもそう思っておった所じゃ」
(やっぱり寝てたか)
私がそう思ってジト目で見ていると、カルールさんが説明を続けた。
「ポルックさんはね、行商人で色んなところを旅しながら商売をしているんだよ。荷物と一緒に便乗させて貰えば、良いと思うんだけどねえ」
行商人か。
荷馬車に乗せてもらうのかな。
私はそう思ってファンタジーな風景を想像する。
(異世界旅って感じですごく良いかも! まずは首都まで行って、迷宮のことはその時考えよう)
「それでいこう!」
〈マスター、そうしましょう!〉
お茶を飲み終えたアイカも同意する。
あのお茶、アイカには多いと思っていたんだけど、どこに入ったのやら。
アイカは「ふぅー美味しかったですー」と満足そうにしている。
村長の方を見てみると、すっかり寝入ってしまっていた。
暖炉にしっかりと火が回り、室内が暖かくなってきたのも眠気を誘う要因だろう。
そう思って暖炉の火を見ていたら私まで眠くなってきた。
「ふわぁ~」
こうして迷宮の情報を得て、私たちの旅の方針が決まったのであった。
次回、歓迎。
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