新しい朝だよ
「チューは!?チューは何のためのチューだったんですか!!神さまの癖にセクハラじゃない・・・あれぇ?」
気が付くとそこは天蓋付きの豪華なベッドで、物凄い勢いで起き上がったからか、眩暈がして起き上がった時と同じくらいの勢いでまたベッドに倒れこんだ。
「アイリーン様!?お目覚めですか!!」
昨日から私の身の回りのあれこれを淡々とこなしてくれていた侍女さんが凄く慌てて近づいてきた。そんなに早く動けたんですね侍女さん。そういえば名前聞いてなかった。
「お、おはようございます。すみません今何時ですか?」
侍女さんは私の額や首筋に手を当てながらホッとした様子で他の召使にあれこれと指示を出しながら私の方に向き直った。
「アイリーン様、ただ今の時刻は11の刻となります。付け加えて申し上げますと、アイリーン様は3日ほどお眠りでいらっしゃいました。お身体に何か不快な点はございませんか?」
3日・・・?え、そんな寝てたの?
だから侍女さんあんなに慌ててたのか。
「そうだったんですか。すみません、ご心配おかけしました。少しクラクラしますが、多分お腹すいてるだけだと思うので、体は大丈夫です。」
侍女さんは深くため息をついた。
「アイリーン様はアリシア様がお招きになったお客様でございます。ですので、私共に謝罪の言葉など不要でございます。ですが、アリシア様がとても心配されていたようですので、アリシア様がいらっしゃった時には、お声かけ頂けるとお喜びになられると思います。アリシア様もそろそろお戻りになると思いますので、身支度を調えさせていただいてもよろしいでしょうか?お食事はお部屋でお召し上がりになりますか?アリシア様とご一緒なさいますか?」
アリシアさんにも心配かけてしまっただろうか。味方だって神様のお墨付きもらった人達だし、多分とっても心配してくれたんじゃないかなぁ。
悪いことをしてしまった気がする。
そもそも何でそんなに寝こけていたんだ私・・・。
そういえば神様が早く起きて欲しそうだったのは、そーゆー事かな?
神様とお話しすると、時間が過ぎるのが早くなるのか?
若しくは神様との対話が体に負担を掛けていて、お話が終わった後寝込んじゃったか、どっちかのパターンかなぁ。
「アリシア様とご一緒したいです。」
「かしこまりました。では先に身を清めさせていただきます。こちらへどうぞ。」
そういって最初に来た時と同じようにお風呂に入れてもらって、今度はお嬢様な感じのドレスが用意されていた。
「えっと、こんな豪華なドレスを着て良いんですか?」
動きづらそうで重そうで汚しそうで落ち着かない。もっと簡素な服がいいな~と思って一応聞いてみた。
「アリシア様がご用意されておりましたので、折角ですから是非お召しになってくださいませ。アリシア様もお喜びになると思われますので。」
そういいながら侍女さんは私にコルセットを付けてググっと締め始めた。
こ・・・これからご飯食べるのにコルセット嫌だな。と思ったけど、死ぬほど締められなかった辺りに思いやりを感じた。
「アイリーン!!!寝込んでいたのに、いきなり歩きまわって大丈夫なの?!」
ドレスを着終わって部屋から食堂へ移動して、食堂のドアの前に着いた時に、丁度アリシアさんが帰ってきたようで物凄い速さで階段を駆け上がってそのままの勢いで抱きしめられた。
「ごっ、ご心配おかけしました。体は大丈夫です。お腹がすきました。」
あぁアリシアさん柔らかくていい匂い。
そしてやっぱり心配してくれていたようだ。いいひとだ。
「ふふふ、よかった。元気そうで安心したわ。ドレスもとても良く似合っているわ!アイリーンにはふんわりとした可愛いドレスが似合うと思ってついつい買い過ぎてしまったのよ。沢山あるから色々着て見せてくれると嬉しいわ。はー!急いで帰ったから私もお腹が空いたわ!一緒に食べましょう!」
それから、一緒に手をつないで食堂に入り、向かい合って座って久しぶりのご飯を食べながら、アリシアさんは分かったことを色々と教えてくれた。
「ごめんなさい。アイリーンの出身や身元なんかはやっぱり分からなかったわ。隊長達と色々と調べてみたんだけど、力になれなくて不甲斐ないわ。」
頭を下げて謝られてしまったので驚いてしまった。
この人貴族だよね?こんな不審者に頭なんか下げちゃだめでしょうに。
いい人過ぎない?さすが神様の采配ともいうべきか。とても心強い。
「あの、アリシア様。私なんかに頭下げないでいいですから!それよりも、少し聞きたいことがあるんですが、今聞いていいですか?」
アリシアさんも騎士団の偉い人っぽかったからあんまり私の事で煩わせたくないんだけど、夢の話とか一応しておいた方がいいだろう。
神様も5人が護ってくれるって言ってたし。
「ええ、いいわよ。なにかしら?」
優雅に紅茶を飲みながらアリシアさんがこっちを静かに見つめている。はぁ美人だ。
「あのですね、少し分かった事があったといいますか・・・。えっと、信じてもらえるかわからない突拍子もない話で申し訳ないんですが・・・。」
分かった事と言いながら、これから話す内容が夢の話なんて、めっちゃくちゃ子供っぽすぎないかと恥ずかしくなってきた。
「ふふふ、かまわないわよ?なんでも気になることは教えて欲しいわ。」
アリシアさんにやさしく微笑まれて、なんだかいたたまれなくなってきた。
早く話して楽になりたい。
「ありがとうございます。あのー•••多分、私が寝込んでた原因でもあるんじゃないかなーと思うんですけど、夢で神様に逢いまして・・・」
「神様!!?」
話の途中で身を乗り出してめっちゃ食いついてきたアリシアさん。
信じてくれてるようだ、良かった。
「はい。神様と色々お話をさせていただきました。えっと、ついつい私を連れてきてしまったから遊んでいってほしいそうです。それと、アリシア様達に護ってもらってって言われました。あと、馴染んだら魔法が使える様な事も言っていたんですが、その辺はまだ実感がありません。それでですね、えーっと、私の保護を隊長様方にお願いしてもよろしいでしょうか?私にできることは何でもやるので!!お願いします!!」
自分で言ってて信じられない様なことばっかり言っていてマジで不審者です。童顔でよかった。これで普通の大人だったらめっちゃ疑いの目で見られそう。いや私大人だけどね。
「やっぱりそうだったのね!!」
アリシアさんは疑いの目どころか、なぜか尊敬の眼差しでこっちを見ている。
すごくキラキラした目で見られている。
なんなら感激して今にも涙が零れそうな、きれいな瞳が潤んでいるようにも見える。はー美しい。
何でそんなにいい人なの?信じるの早すぎでしょ?!ちょっとは疑おうよ!
疑われたくはないけど・・・。
「アイリーンが[神の友人]じゃないかって隊長が言っていたのよ。神の友人っていうのはこの世界を作った神様が他の世界から連れてきた気に入ったものという話だったわ。神の友人の事についても詳しいことは分からなかったけど、神様と対話できたならアイリーンは神の友人で間違いないと思うわ。もちろん保護の事は私たちに任せて!さっそく隊長に報告しなくっちゃ!申し訳ないけど、私はもう一度塔に戻るわね!アイリーンは病み上がりなんだから今日はお部屋から出ちゃだめよ?明日も元気だったら色々な所に連れて行ってあげるわ。」
アリシアさんがめっちゃ早口!
私って神様の友達だったのか。生みの親って言わせるより遥かにましだからそのへんの事は内緒にしておこう。
そういうとアリシアさんはいそいそとまた出かける準備を始めた。
「あの!アリシア様!!」
また一人になっちゃうと許可とかいろいろ取り辛いから今のうちに色々聞いておこうと思って慌てて呼び止めた。
「なぁに?」
ゆっくり振り返ってやさしく微笑んでくれるアリシアさん。癒される。
「あの、私の荷物ってあれ好きにしちゃっていいですか?部屋に置いてあるリュックの中身と袋の中の食べ物の事なんですけど・・・。」
ああ!といってアリシアさんは近づいてきて頭をよしよしとやさしく撫でてくれた。
「ふふふ、ちゃんと私に聞いてえらいわアイリーン。もちろん貴女のものは好きに使って大丈夫よ?でも危ないことはしちゃ駄目。部屋から出るのも駄目。今日はお部屋でゆっくり身体を癒すことに専念して欲しいわ。でも、我慢はしないでね?嫌なことや不満は侍女に伝えてくれるかしら?教えてくれないとわからないことが、きっと沢山あるわ。」
はわぁ。アメリアさん優しい。
「あ、ありがとうございます。とても優しくして頂いてうれしいです。あの、前に荷物を出したときに説明した煙草の事なんですが、使う時に室内だと煙がこもるのでベランダとか窓際で窓を開けて吸いたいんですが、そういうことができる場所にはまだ行っちゃだめですか?」
あー私の我儘!
わかってる、煙草の話が忙しいアメリア様を呼び止めてわざわざするような話じゃない事ぐらい!でもずっとタバコ吸ってないんだもん!
吸いたいんだもん!!心身が癒されるんだもん!
でも、ダメって言われたら諦めよう・・・。
リフレッシュ休暇企ててから全然すってないのに私、偉い。グスッ
「あーあの知らないアイテムね!なるほど、煙を楽しむっていってたわねぇ・・・。じゃぁ食堂のベランダを使ってもらえるかしら?ただし侍女の許可をもらってね。侍女には私が伝えておくわ」
わーーーーやったー!
「ありがとうございますアメリア様!!」
思いっきりアメリアさんに抱き着いて喜んだ私に、少し驚いた様子のアメリアさんだった。けど、またいつもの優しい微笑みを浮かべて頭をなでなでしてくれた。
いやっふー!煙草と珈琲!食後にいっぷくー!やったー!