煙草と珈琲と太陽
ふぅー。
「あー煙草美味しい」
あれ、煙草すってる?
「あれ?珈琲持ってたっけ?」
いつの間にか珈琲片手にベランダで煙草すってる私。私のアパートだここ。
夢見てたのか!
あれ夢か!
『愛ちゃん愛ちゃん。ごめんね愛ちゃん。アッチじゃなくて、これが夢なんだよねェ』
ん?
『ごめんね愛ちゃん。とりあえず転移初日に何もなくて良かった良かっタ。』
声がする方を見上げると太陽がどんどん目の前に落ちてきた。
「うわっ眩し!」
顔面に熱を感じながら目を瞑って両腕で目を隠す。
それでも眩しいー!!何これなにこれ一体何なの?!
眩しくて目が痛い!顔だけじゃなく全身が熱い!
『愛ちゃんごめんねぇ。愛ちゃんが面白くて、ついつい見ていたら、ついつい私の世界に引きずり込んでしまった様なんだヨ』
私の世界?
『愛ちゃんが今いるこの世界は、私が創った世界なのさ。私は庭と呼んでいるんだけどねぇ。地球とは異なる世界。私が創った庭が、今愛ちゃんが転移した世界。つまり異世界だヨ。』
異世界?
『いわゆる創造神というのかな?全知全能の神ともいうんだっけ?赦しを与えるものとも言うし、幸福を授けるものとか言うよね。恐れ敬われる。そーゆー神様ってやつが私さ。さぁもう目を開けても大丈夫だヨ。』
神様仏様ーナムナム、のかみさま?
確かに目の前の熱が無くなったのを感じて、恐る恐る目を開けると、さっきまで太陽があった場所には、空中に気怠げに腰掛けた腕が6本ある菩薩さまが浮かんで居た。
「ぼっ菩薩!!?っさま...?」
『クックック。有難う愛ちゃん。これは素晴らしいねぇ、かっこいいねぇ。気に入ったよ愛ちゃん。愛ちゃんは本当に良いねぇ。連れて来てよかった良かっタ』
なんで菩薩様に感謝されてるの私。
ふぅーっ。さっぱり訳わかんないなぁ。
「あのぅ、神様?」
『何だい愛ちゃン?』
「先程説明された事が理解出来なくて、申し訳無いんですが、えっと、神様が私を異世界へ連れてきたって事ですか?ここが神様が作った異世界?」
『そうだよ愛ちゃン』
「えっと、では神様の力があれば、元いた世界にも戻して頂けるんですか?」
『んー?愛ちゃんはあっちの世界戻りたいのかい?あのセクハラヤロウは私の庭には居ないよ?私の庭でも遊んでよ。愛ちゃんには沢山楽しんでいって欲しいんだけどなァ』
「セクハラ野郎が居ないのは嬉しいんですが、父も母もいないんですけど...。」
『愛ちゃんが最初に会ったあの5人は愛ちゃんの事をちゃんと護ってくれるから心配しなくて良いよ。是非とも私の庭で遊んでいってネ』
「いや、帰りたいんですが」
『愛ちゃん愛ちゃん。私の庭でも遊んでくれないと詰まらないじゃないか?せっかく創ったんだ、もっと遊んでおくれよ。さて、他の質問は無いのかイ?』
ふぅーっ。帰してはもらえなそうだ。
お母さんとはあの電話が最後か?お父さんは最後会ったのいつだったっけ。
「私はどうすれば良いですか?遊ぶというのはどうすれば良いでしょうか?」
『クックック。ただ楽しんで。それだけさ!私はそれが観たいのさ。いくつかお礼もしたいし、存外愛ちゃんも楽しめるんじゃないかナ?』
「あの、さっきから気になってたんですけど...、何で私は神様から感謝してもらえているんですかね?何かした記憶無いんですがけども...。」
『お礼と言うのはこれの事さ』
と、言いながら神様は、緩く着た着物の、つまり結構はだけ気味な御神体の胸元を指差した。
「これ、と言いますと...?」
『愛ちゃんが菩薩様と言ったのじゃなかったかい?この姿を愛ちゃんから頂いたのさ。それまでの私は光の塊でしか無かったからねぇ。愛ちゃんが神と聞いて想像した姿がこの菩薩姿だろう?愛ちゃんが私を菩薩姿の神にしてくれたのさ。愛ちゃんは私の姿の生みの親だよ。だからお礼がしたいのさ。納得できたかイ?』
「う...生みの親?!」
『そうだよ愛ちゃン。』
菩薩様がニコニコと慕わし気に生みの親なんていうから何だかいたたまれなくなってきた...。
「あれ、じゃぁもしかしたら私が変なの想像してたらその通りになっちゃってたんですか?神様の体...。」
『その通りになっていただろうねェ。』
「例えば虫とか想像してたとしたら...まさか...」
『愛ちゃんの想像した虫に成ってただろうねぇ。』
あ、あぶなかった...。物凄く畏れ多いというか、恐ろしいことになる所だった...。
『クックック。愛ちゃんとの楽しい問答を続けていても私は構わないんだけどねぇ。愛ちゃんの為にもそろそろ現世に意識を戻したほうが良い時間だろう。お礼は何がいいかイ?』
「お礼...ですか。」
『お礼、と言ってもなかなかの思いつかないかな?そうだねぇ、叶えたい事とかなりたい者、やりたい事。何かあるかい?思いつくまま言ってみナ。』
「やりたい事・・・?えーっとえーっと、美味しいご飯食べたいとか、煙草と珈琲は毎日楽しみたいとか?あ!魔法あるんですよね?魔法使えるようになりますか?」
『クックック。いいねぇ愛ちゃん。楽しくなってきたかい?魔法が使える様になりたいんだね?では愛ちゃんに、私からお礼を授けましょう。両手を広げてくれるかイ?』
言われた通り両手を広げて待っていると、神様が音もなく立ち上がり、優雅に歩く所作で近づいてきたと思ったら、ふわっと優しく抱きしめられた。
「か、かみさま?!」
『クックック。では愛ちゃん。お邪魔しますネ』
見つめ合っていたら神様が急に口と口を合わせてきた。
「んむ?!」
神様とチューしてる!!
神様とチュー!!なんで?!なんでチュー???
『クックック、お邪魔しました。さて、愛ちゃんには色々と授けたつもりだけど、どうかな?すぐには馴染まないかもしれないが、まぁ徐々に使えるようになるはずだよ。それでは愛ちゃん、そろそろお別れの時間のようだヨ。』
ペロッとご自分の唇を舐める菩薩様、めっちゃセクシー...。じゃなくて!
「か、神様!私結局なんにも分かんないままなんですけど!このままじゃ困る気がします!」
『クックック。まぁそのうちきっと分かるようになるさ。そうだねぇ、聞きたいことがあったらまた夢で逢おうかねぇ?愛ちゃんの夢に私の欠片でも残しておこう。そうすれば私も楽しめるしね。あぁ楽しみだなァ』
「欠片??」
『さぁ愛ちゃん、そろそろ起きる時間だ。新しい朝だよ愛ちゃん。私の庭で存分に遊んで行ってね。行ってらっしゃい。また逢える日を楽しみにしているよ。早く皆で遊びたいねェ』