温泉宿より豪華な部屋の上の部屋
【アリシア視点】
「ただ今戻りました」
アイリーンをお風呂に連れて行かせてから、私はアイリーンに案内した部屋の、ちょうど真上を位置する部屋に戻った。
そして、待機していた父親こと隊長と、旦那である副隊長に敬礼して簡単に報告をした。
「湯浴みと称して着替えさせて、着ていた衣服を調べましたが、ただの布ですね。特に隠し武器や不審なものは身に着けていませんでした。持ち物に気を配る素振りもなく、出された食事も警戒心なく食べていましたし、本当にただの迷子の子供という印象が強いですね。恐らく剣など持ったこともないような手をしていましたし...。警戒心無さ過ぎな所が若干気になるという位でしょうか。」
無理やり不審な点をあげてはみたものの、こちらが警戒しているのが馬鹿らしくなるほど無警戒で幼い印象が拭えない。
「ふむ。引き続きお前には監視を頼む事になるだろうが、まぁただの孤児かも知れないからなぁ。優しくしてあげなさい。お前が負けるとも思えんしな。」
カラカラと隊長が笑った。
「警戒は怠るなよ」
デビットが目を細めながらお小言を付け足した。
「ふふふ。了解しました。」
「しかし、魔法を知らないなんてことがあり得るのでしょうか?幼いとはいえ息子でさえ知っている事なのです。孤児だからかもしれませんが、孤児の割には教養が備わりすぎているような気もします。少々疑わしいかと思いますが。」
デビットが、先程トレヴァーがまとめた簡単なアイリーンの調査表を見ながら隊長に向かって進言した。
「確かに不思議な子供だったなぁ。色々と秘密が有りそうだ。...もしかしたら【神の友人】かもしれないと私は思っている。」
「「神の友人...!」」
神とは、そのまま全知全能の神のことで、その神が戯れに異界から何かをもって来る事があるという言い伝えがある。
その、神が戯れに異界から連れてきた何かの事を一般的に『神の友人』と総称している。
この世界に何かをもたらすとか、もたらさないとか。
詳しい伝記が残されていないのでよく分かっていないが、『この国が興ったのも神の友人の祝福が有ったからだ』という逸話がある。
「もし本当に、アイリーンが神の友人だったとしたら...私達ははどうすれば良いのでしょうか?」
アリシアが尋ねると、カラカラと笑いながら隊長が答えた。
「なーに心配するな!もしアイリーンが神の友人だったとしたら恐らくアイリーンは危険な人物ではないはずだ。この後王城の書庫で改めて神の友人について調べてみるが、神は、友人が気に入ったから自分の世界に連れてきてしまうらしい。そして友人がいる内は神の干渉が無くなるそうだ。つまり天変地異が無くなる。神の友人がいる内は安泰だ。」
「アイリーンは、凄いんですね...。」
ゴクッと生唾を飲み込むと帰りがけの隊長から背中を思いきり叩かれた。
「心配するな!しかも期待しすぎるなよー。神の友人と決まった訳じゃないんだからな。そもそもどうやって証明するのかもわからん。今の所は警戒心の無い行儀の良すぎる孤児だ!」
カラカラと笑いながら部屋を出た隊長の後を、目で追いながら、デビットが「詳しいことはまた明日。くれぐれも気をつける様に。」とこちらに近寄り髪を一房すくって口づけを落として部屋を出て行った。
「まったくデビットは心配性ねぇ...。私も侍女達から話を聞いてまとめておこうかしら。」
そうと決まれば早速今日アイリーンに関わった使用人達を集めて聞き取りをしに向かった。