温泉宿より豪華な部屋
「アイリーン、着いたわよ!木箱の上蓋開けるから顔と体を毛布で包んで伏せてなさい。」
返事をしてから言われたとおり身体と顔を毛布で包んで伏せて待っていると、頭上からギィィバキバキと無理やり木箱をこじ開ける様な音がして目を硬く瞑って音が止むのを待った。
「アイリーン?もう大丈夫よ。自分で出られるかしら?」
アメリアさんの声が聞こえて恐る恐る毛布から顔を出すと辺りはすっかり夜で、アメリアさんはランプを掲げてこちらを覗き込んでいた。
「は、はい!出ます!!出られます!すいません!!あぶっ!!!」
慌てて木箱から出ようとしたせいで、毛布が足に引掛り顔面から地面に落っこちるところをまたしてもアメリアさんに支えられ、事なきを得た。
「アイリーン?慌てなくて大丈夫よ。もうここは私の家だから怖い男の人達は居ないわ。ふふふ」
アメリアさんは笑いながら木箱の中に入れていた私の荷物もう出してくれて、リュックとお土産袋を従者のような人に渡してまた手をつないでくれた。
「ありがとうございました。...あのぅ、アメリア様には旦那様とか、お子様とかはいらっしゃるんでしょうか?」
「私の旦那はねぇ、さっきの部屋にいた副隊長よ。ふふふ。仕事大好きで全然家に帰らないから気にしなくていいわ。4歳の息子が居るけど離れにいるから顔を合わせる事もないはずよ。」
「ふ!副隊長ってデビット様が!!?凄いですね...。」
何が凄いのかはこの際置いておく。
「だから本邸には私とアイリーンの他は召使いしかいないから気楽にしていいわよ。ただし今から案内する部屋からは許可なく出ないと約束して頂戴。どこかに行きたいときは召使いに頼んで私を呼んでね。私と一緒なら許可が降りれば連れて行ってあげられるわ。」
そう言われて立派な洋館の中を案内されて奥まった部屋に通された。
「とりあえずここが今日からあなたの部屋よ。家具は好きに使っていいけど壊さないでね?何か分かり次第教えてあげるわ。だからできるだけ大人しくしててね?約束よ。」
その部屋はとても品のいい調度品が備え付けられていて、言っては何だが温泉宿で予約した部屋なんか比べ物にならないほど広くて豪華な部屋だった。
「おぉぉ...すごい...。」
「今日は疲れたでしょう?部屋に食事を運ばせるわ。侍女を呼ぶから先に身を清めに行ってらっしゃい?」
言われるままに侍女さんに連れられてお風呂を頂いた。お風呂から出るとさっきまで着ていた服が無くなっていて、代わりにふわっとした柔らかい生地のワンピースを着せられた。
さっき案内された私の部屋に戻ると湯気が上るスープとパンと果物が乗ったトレーがすでに用意されていた。
おぉー!
和食が良かったなーとは言えないけど、あったかスープとフルーツ有り難い!
お腹ペコペコだったから、侍女さんの目を気にしながら行儀作法に気をつけてバクバク食べた。パンは少しモサモサしてるけど紅茶もあるし、おいしいおいしい。
食べながら部屋を観察していると、窓には格子がありドアに前にも召使いという名の見張りが内側2人外側2人。
こんな不審者よく家に泊めるなと思ってたけど、豪華な牢屋だったのかここは。納得納得。
はーお腹いっぱいでは無いけどちょっと余裕出てきた。
しかし侍女さんの目が気になるし煙草と珈琲は今日は我慢してさっさと寝よう。はぁ疲れた。
天蓋ベットなんて初めてだ。
見た目に反して布団はそんな柔らかくないけど、まぁ木箱に比べれば天と地の差はある。布団最高。
これ寝てるうちに拘束とかあったらどうしよう、どうしようも無いけど。
年齢不詳で身元も不明。持ち物も不審物オンパレードだしなぁ。
あの場で死んじゃう事がなくて良かった。
とりあえず今布団で寝られる事に感謝して、有り難く眠らせてもらおう。
もークタクタだ。
おやすみなさい。とつぶやくと部屋の明かりが優しく弱まっていった。