温泉宿でリフレッシュ休暇
箱根は、観光地だけあって歩いてるだけで楽しそうだったけど、パンパンにしたリュックが重いので、とりあえずタクシーを拾ってさっさとチェックインする事にした。
観光は明日か帰るときのお楽しみに取っておこう。
とにかく今日は温泉だ!和室だ!夕食はお部屋で上げ膳据え膳だ!!
愛想のいいタクシーの運転手が、かかった料金とこの宿のおすすめポイントを教えてくれたので、お礼を言いながらキリのいいお金を渡して
「お釣りは結構です」
と格好をつけてタクシーを降りた。うーん楽しい。
久しぶりの旅行で浮かれている為か、軽い足取りで早速チェックインしてロビー横にある売店で、来て早々お土産を物色する。
「美味しそうー。これも絶対美味しいやつだー。和菓子もいいなぁ。買っちゃおう。余ったら実家のお土産ってことで」
と、言い訳をしながら箱の和洋菓子を3種類買ってついでにおつまみも思うままに買っていく。
リュックを背負って、両手に今買ったお土産とおつまみを持って、若干買いすぎたと反省しながら予約した部屋のドアを開け、そして閉めてチェーンを掛けた。
「さー、まずは一服いっぷくぅうぇ?!」
今の今まで私を優しく包んでいた森と温泉の匂いが急に消えた。
なんだこの匂い・・・図書館みたいな・・・?。
へぇ?!
今まで素敵な温泉宿の廊下にいて、
素敵な和洋室のありがちなホテルのドアを開けて、
そしてドアを閉めたと思ったのだが...。
もう一度部屋の方を振り返ると5人の大人に物凄く驚かれている。
そしてとても睨まれている。
ここは何処だ?
そしてこの人たちはいったい誰で何奴??
え?私は何か間違えましたか?
振り返っても先程の素敵宿のドアは無い。
無い代わりにこれはこれで素敵で重厚なドアはある。
人間びっくりすると言葉が出ないと言うのは本当だったのか。
代わりと言ってはなんだけど心臓が物凄くうるさい。
「...。どこから入って来た?」
最初に目があった一番近くにいた騎士風の人が問いかけてきた。
この人はなんで腰に剣を携帯しているのか。
そして手にかけて今にも切られそうで怖いんですが...。
「あの、ドアから、ですが...。」
と言いながら背後のドアを振り返っています指差した。
ちょっと待って。何ここ、何処ここ。
ここは確実に温泉宿ではないだろう多分。
どっちかと言うと執務室のような会議室のような、仕事しそうな部屋だ多分。
でかいリュックに両手にお土産の詰まったビニール袋持ってる私ってけっこう間抜けでは無いだろうか?
会社に旅行気分で来ちゃった的な?会社勤めした事無いから知らないけど。
今そんなこと言ってる場合じゃないか。
仕事しそうな部屋に5人、見目麗しい男女がいる。
まず1人。
1番部屋の奥にある椅子座っている多分一番偉い人。ビシッと固めた茶色い短髪に口髭眼鏡が似合う上司風のおじ様。皆騎士っぽいからあだな上官で良いか。
2人目は上官の横に立ってこちらを見ている人。癖のある柔らかそうな金髪でこの人も腰に剣を携帯していてとても睨んでいらっしゃるのでとても怖い。あだなは副官にしよう。
3人目は副官の反対側に立っている唯一の女のひとだ。明るいブロンドヘアーを美しく編みこんだ美しい女性騎士様だ。この美女も剣を携帯しているけど、ミラクルボディーの影に隠してくれているので威圧感が無い。わざとだろうか、とても優しそうに微笑んでいる。あだなは参謀にしよう。
4人目は壁際に立って書類を持っている人。黒髪に眼鏡のインテリ系騎士様だ。あだなインテリでいいか。
無表情でこっち見てるからそれはそれで怖いです。インテリなのに腰に剣携帯してるし。
5人目が一番ドアに近いところに立っていて、最初に話しかけてきた一番斬り込んで来そうな一番騎士っぽい人。殺気が凄い。怖い。
皆さん剣持ってるし、全員騎士的な感じなんでしょうか。
やっぱり日本じゃないな。うんうん。皆西洋人っぽいし。
でも何でか日本語しゃべってるな、言葉通じるっぽいからまぁよかった。
じゃあやっぱり日本なのか・・・?
キョロキョロとヘヤの中や人物を観察していると、今度は上官さんが話しかけてきた。
「君がそこのドアからはいってきたのは我々も見ていたので間違いないが、ここまでどうやって来たのか説明してくれるかい?」
優しい口調なのに眼光が鋭くて怖いです上官さん!
「えっと、説明したいのは山々ですが、私にも何が何やらわからなくて...。ここはどこなんでしょうか...?日本であってます?」
部屋の空気がピリついたような、気温が下がったような...。
怖い怖い帰りたい。
こんな事なら温泉旅行なんてしなきゃ良かった!
実家直行すればよかったよー!おかーさーん!
涙目になってうつむいていると、美女の参謀さんが間に入ってくれた。
「隊長!こんなかわいい子をそんなに睨んじゃだめですよ!ごめんなさい?こんな目つきの悪い男の人ばっかりじゃ怖くて泣いちゃうのも無理ないわ。こっちにいらっしゃい、少しお話しましょう?」
そう言って美女の参謀さんが手を引いてローテーブルの近くのソファーに一緒に座ってくれた。
腰をおろした途端、どっと疲れが襲ってきて、目眩にふらついた所を美女の参謀さんに支えられ倒れずに済んだ。美女めっちゃいい香りがする。
「こんなに小さいのにそんなに大きなリュック背負って両手にまで荷物持って...。貴女は奴隷か何かなのかしら...?記憶がないの?貴女のことを色々聞きたいのと、荷物を見せてもらいたいのだけど、大丈夫かしら?」
確かに私は小さい。身長150cmしかないしどう頑張っても高校生位にしか見られないほど童顔でもある。体のメリハリもそんなにないしなぁ。
「えっと、奴隷ではないです。リュックの中身はお姉さんになら全部見せても平気です。全部私物なので、男の人に見られるのは少し恥ずかしいです。話をするのも大丈夫です。記憶はあると思います。」
なんか子供だと思われてるっぽいしバレるまで子供っぽく振る舞っとこ。
「ありがとう。私の名前はアメリアよ。あなたの名前を教えてくださる?」
「っはい。私の名前は愛...(外国っぽいから外国っぽい方がいいかな...)アイリーン•ハトリーです」
「アイリーン•ハドリーね」
あ、違う。
インテリが何やら書き込んでる。
書紀なのかな?ハドリーになっちゃったけどまぁいいか。
「アイリーンはここまでどうやって来たのかしら?」
「えっと、それが、来たときは違うドアだったんです。もっと小さい硬いドアで...。その小さいドアを開けて、閉めて、振り返ったらここに居ました...。」
「転移か...?」
上官さんが呟いた。
「てんい?...転移・・・?転移って魔法の転移ですか???」
ここって魔法の国なの?やっぱり日本じゃないの?
ドアの先が異世界ってありえないでしょ。
これ帰れるのかなぁ。無理かなぁ・・・。
「転移はまぁ魔法だな。トラップの可能性もあるか?君はどれくらい魔法を知っているんだね?」
魔法・・・。地球じゃない事決定!いえーい。
えー・・・。本当に異世界なのかな・・・?そんなことあるの?
「えと、魔法は知りません。使ったこともありません。使えるかもわかりません。初めての魔法が今の転移だと思います。自分の力だとは思えないので、トラップだとおもいます多分...。」
帰りたい。お土産食べてたダラダラしたい。煙草吸いたい。珈琲飲みたい。温泉入りたい。寝たい。泣きそう。
グスッ
「あーもー隊長!!泣いちゃったじゃないですか!あとは私に任せて下さい!色々聞いておきますから。アイリーンも良いわよね?私の部屋に行きましょう案内するわ。一旦休憩しましょう。」
美女参謀のアメリアさんは私の両手に持ってたお土産を持ってくれて、あいた私の手を引いて部屋から連れ出してくれた。
「私の部屋すぐそこだからもう少し頑張ってね。」
グスッグスッ
泣いたら止まらなくなってしまった。
愛車の酷い有様とか、虫野郎の不快な視線とか、知らない場所で知らない人に囲まれて尋問とか、もうキャパオーバーでもしょうがないでしょう。
うぅぅ グスッ
「さ、ここが私の部屋よ!入って。好きなところに座っていいわよ。さーカバンの中身見せて頂戴?」
グスッ
美女参謀のアメリアさん。別に慰めてくれない。
さすが参謀、仕事が出来る。
ノロノロとリュックを下ろし、チャックを開けて中身をどんどん出していく。
「お菓子と、旅行道具と、煙草と、珈琲と、インスタントコーヒーと、おもちゃと、着替えと、下着と、...これは雑貨屋さんで買った鏡だったんですけど・・・割れちゃってますね...。あと薬とマスクとティッシュ、そっちのはお土産で全部食べ物です。グスッ」
鏡...。一目惚れして少し高かったけど思いきって買ったのに、袋から出す前に壊れた。グスッ泣きたい。いや、もう泣いてた。うぅーグスッ。
「ちょっと待って?たばこって言ったのは何?どうやって使うもの?あとこーひーも分からないわ。薬は分かるけど、これがマスクですって?こんなマスクの形初めて見るわ。」
「煙草はこっちを口にくわえて反対に火をつけて吸って煙を楽しむものです。珈琲は飲み物です。グスッ」
「煙を...?まぁいいわ。」
と言いながら色々物色し始めたアメリアさん。コンビニのお菓子のパッケージに興味津々の様だ。
鏡...。フレームだけでも無事だったら飾る位出来たかもしれないのに...。悲しい...。
「あのぅ...。さっきの部屋の、皆さんの、名前とか、聞いても良いですか?」グスッ
「良いわよ〜。えっと、奥の椅子に座ってた人が私達の上司で、【トリスタン・エディソン】様よ。隊長かトリスタン様って呼ぶといいわ」
「トリスタン様...。」あー、皆様付けて呼ばなくちゃ駄目な感じかな?貴族社会だと礼儀作法全然わかんないな...。やばいなぁ。
「因みに、隊長は43歳よ。愛妻家で、娘が3人いて、一番上の子が私よ。」
「え?!トリスタン様が、お、お父様なんですか!...アメリア様は何歳か聞いても大丈夫でしょうか?」
「ふふふ。私は25歳よ。隊長の隣で睨んでた男も25歳。副隊長で、【デビッド・モラン】様よ。副隊長は、仕事大好き人間よ。既婚者で、4歳の息子が1人居るのにあんまり家に帰らないで仕事ばっかりしてるわ。」
「デビット様は仕事が好き...。」皆結婚して子供居るのかな?凄いな。
「壁際に立ってた眼鏡の子が【トレヴァー•バロン】様よ。18歳で結婚はまだしてないと思うわ、うちの隊員の中で最年少よ。あなたに一番最初に話しかけた人が【ダニエル•ローフォード】様よ。22歳だったかしら?」
「トレヴァー様とダニエル様。」年下だったんだ...。あんなに怖かったのに。
「アイリーンは何歳?いつもは何をしているのかしら?」
「いつもは...。ご飯作ったり、食べたり、食べさせたりしてました。えっと、ご飯作る所で働いていたので。あの...、私って何歳に見えますか?」
「ん?うーん...。13,14歳ってところかしら?あたってる?」
ゴフッ「すみません!ゲホゲホ...。えっーと、私って捨てられてたらしくて、ちゃんとした年はわからないんですが、働いていた所でも13歳って事にしてました。」
捨てられたなんて、適当なこと言ってごめんねお母さん。しかし、13歳か...。10歳もサバ読んじゃったけど大丈夫だろうか。
わかりやすいからいいか。
「まぁそうだったの、苦労したのねぇ。ねぇアイリーン。あなたのカバンの中身を隊長達にも見せたいんだけどもう1度さっきの部屋に戻っても大丈夫かしら?それともここに残って待ってる?」
「あー。大丈夫です、一緒に行きます」お姉さんと離れるのも怖いし。
「じゃぁ行きましょうか、衣類はココに置いてまた取りに来ましょう。」
そう言ってまたお土産のビニール袋を持って、手を繋いでくれた。
逃げないようにしてるんだろうけど、誰かと手を繋いで歩くの久しぶりだなー。
「隊長!アリシアです。戻りました」
「入れ」
やっぱりこの部屋、緊張するなぁ。
アリシアさんは部屋に入って、私をソファーに座らせた後。インテリ眼鏡のトレヴァーさんの所に行って耳打ちしていた。トレヴァーさんが書き込んでる辺り、多分私の個人情報でもまとめてるんだろうなぁ。
その後、隊長さんに耳打ちして、また最初に居た隊長の横に立ってこっちを見て笑ってくれた。
「私にもカバンの中身を見せてくれるかな?」
最初より眼光優し目の隊長さんがこっちを見ている。
「はいっ!ど、どうぞ!!」
リュックを机の上に乗せてアリシアさんに説明した時と同じ様にカバンの中身を並べていくと、いつの間にか全員に囲まれていた。怖い近い怖い。
「ふむ...。見覚えの無いものばかりだな...。アイリーン、君はいつもはどこで、何をして暮らしていたんだね?できるだけ詳しく教えてほしい。」
「場所は...。うまく説明出来ません。どうやって戻ればいいのかも分かりません...。時間になったら起きて支度をして、近所のご飯屋さんで働いて、終わったら来た道を戻って部屋で寝てました。毎日その繰り返しでした。...ココは何処なんですか?」
隊長さんが本棚に目をやると、インテリ眼鏡のトレヴァーさんが地図を持ってきてくれた。
「ここはアーガント国という国だ。王国の中央にあるのが王城。王城に連なる建物のうちの1つがここだ。主に騎士が集まる軍事施設のようなものだな」
軍事施設...!!!
「通常、この部屋に許可なくたどり着くことは不可能だ。本来魔法でも有り得ないんだが...。君はこうしてここに居る。とても不思議だ。見た所嘘もついていないし、どうしたものか...。」
「ど...、どうすればいいんでしょうか?」
「アリシア」
「はいっ」
「とりあえずお前に任せる。この部屋に居るものを使って、ここにいる者以外にこの事が漏れないように注意しろ。」
「了解しました。」
そして今、なぜかクッションと毛布に包まれ、木箱に入れられて馬車に揺られています。
極秘に軍事施設から脱出する為なんだって説明されたけど、扱いが酷い様な...。荷物も一緒に入れてくれたのは有り難いけど。
あぁ眠くなってきた...。