Goto水辺
馬車が揺れるー!ひぃぃ
水辺に向かって道を逸れた辺りから、揺れが尋常じゃ無い!ぐわんぐわん揺れる乗り心地にぐったりしてきた…。
「そろそろ水辺が見えてくると思うのですが…。」
レイさんが窓の外を見渡しながら呟くと、木の間を縫って走っていた先に拓けた場所が見えてきた。
「あ、あちらですね。枯れていなくて良かったです。」
太陽の位置的に昼は過ぎて2時位かなぁ?ようやくお昼ご飯にありつけるー。現地調達っていうのが些か不安だけど、まぁなんとかなるだろう!レイさんもギルさんも頼もしそうだし。
水辺の少し手前で馬車を停めて、水辺には歩いていくらしい。
「お嬢様、お手をどうぞ」
と、レイさんが軽い身のこなしで馬車を降りて手を差し伸べてくれた。
「森の中は涼しいですね〜!」
馬車を降りてから、レイさんとずっと繋いでるけどきっと多分安全性の問題なんだろうな!うんうん。優しさ優しさ!
怪訝そうな顔でギルさんが後ろからついてきてるような気がするけど、多分安全確認的なあれだろう!警戒大切だよね!
みんなで仲良く森のお散歩をしていると、ザーーっと水が流れる音が聞こえてきて、辺りに水の匂いが立ち込めてきた。
「滝だー!!すごーい!水きれー!」
足元の岩に足を取られながら急ぎ足で水辺に駆け寄ると、めっちゃファンタジーな滝と湖のような果てしない滝壺?が目の前に広がっていた。
「お嬢様ー!滑りやすいのでお気をつけて下さいね。」
私が滝にうっとりしていると頭に葉っぱを乗せながらギルさんが両手に色とりどりの果物を抱えてやってきた。
「結構見つかったっすよ。適当に摘んできました。」
そう言いながらかギルさんが赤い実をむしゃむしゃ食べていた。美味しそう。
「ギルさん!私も食べたいです!」
ギルさんに両手伸ばしてくださいアピールをしたら、ギルさんが食べていたのと同じ赤い実をポーンと投げてくれた。
「りんごみたいな見た目...。ガブガブ」
おぉぉお…林檎だ。見た目を裏切らない。
そしてジューシーで甘い!なにこれー美味しー。野生で美味しい果物最高!
レイさんも食べればいいのに、レイさんは自分で持ってきた携帯食をパパっと食べて食事は終了らしい。
大きい岩に座って赤い実をもぐもぐ食べているとレイさんが布に包まれた何かを持ってきた。
「そういえば、お嬢様にこちらをアンナから預かっていました。」
そう言って差し出された布の中には大好きなクロテが3つ入っていた。
「わー!ありがとうございます!食べちゃおーっ」
ニコニコしてるレイさんの横で、ギルさんが食べたそうにクロテを見ている気がした。
「ギルさん、赤い実のお返しにクロテ食べますか?半分こします?」
「はぁ?はんぶんこ?」
3個だから1人一個ずつでも良いかと思ったけど、レイさん食べなそうだし、全部半分こすれば味が違うのも全部味見できて良いかなーと思って言ってみたらめっちゃ引かれた。
「あれ?すいません。半分こ嫌ですか?じゃぁ好きなの2個選んで良いですよ。私は残ったの食べますので。」
「…本当変な人っすね。はんぶんこってどうやるんすか?」
何やら半分こに興味がある様なので、手で3個のクロテをもぎもぎ半分にして渡してみた。
「はい、半分こ!」
お腹が空いていたので私は速攻で食べてしまったけど、ギルさんはしばらく私が適当にちぎったクロテを眺めていた。
ギルさんって潔癖?そんなふうに見えなかったけどちょっと無作法だったかな?
「ちょっ?!レイさん??」
ギルさんをボケっと見ていたら目の前にレイさんのニコニコ顔がサッと現れて、びっくりして仰け反ってしまった。
「お嬢様、暗くなる前に町に向かわなければ、要らぬ手間が増えてしまいます。ですから、一息ついたら馬車へ戻りましょう。」
レイさんは胸元から取り出した懐中時計を確認しながら、私に向けて手を差し出した。
「わかりましたー。じゃぁ馬車に戻りましょう!町まであとどれくらいですか?」
「おそらく3刻ほどで着くと思います。まだ暗くなるまで時間は有りそうですが、念の為早めに向かいましょう。ギル君も行きますよ。」
ギルさんは、レイさんに頷いて返事をしてから、手の中のクロテを包み直して胸元に仕舞い、レイさんと私の前に進み出て、馬車まで道を先導しながら歩いて行ってしまった。
馬車に乗ってからは、腕を組んで寝始めてしまったので、結局クロテを食べるギルさんは見られなかった。
レイさんは、ギルさんがとった果物を入れた籠を膝の上に抱えてニコニコしながら外を眺めていた。
お腹も満たされて、静かな馬車の揺れが心地よくて、私も馬車の外を見ながら、ぼーっとしてしまった。
なんだろう、この多幸感。実家にいるような、親に守られている様な、穏やかで満たされた感覚。
日本でも最近感じていなかったなぁ、こんな幸せな日常。
あの時の私って精神的に結構追い詰められてたのかな…?
久しぶりに肩の力が抜けたような気がする。
ちゃんと神様は私の事助けてくれてたのか。
ずっとふざけた感じだったから遊ばれているだけだと思ってた…。
ごめんね神様。
さっきまで煌煌と照らしていた太陽が、柔らかい茜色に変わった頃に、活気と喧騒で溢れた町にたどり着いた。
「お嬢様、本日は宿泊して、明日お買い物と言うことでよろしいでしょうか?」
レイさんが、馬車の手続きを終えて戻ってきたギルさんに聞こえるようにそう言った。
「私は大丈夫ですけど、ギルさんは大丈夫ですか?」
覗き込むようにギルさんの顔色を伺っていると、ギルさんは「はぁー」と大きく息を吐きながら、
「…どうせ俺に選択肢は無いんで大丈夫っす。」
と言って笑った。どうやらギルさんはレイさんに振り回される決心がついたようだ。なむなむ。
レイさんが用意してくれた宿は、一際大きな建物で、遠くからでもすぐにわかった。
「こんな凄いところに泊まるんですか?大丈夫ですか?」
「この執事様は加減を知らないんすよ…。」
「申し訳ございません。お嬢様、続き部屋があるのがこの宿しか無かったものですから…。」
レイさんが宿の入り口の目の前で、まるでプロポーズする様に、片膝を付きながら私の手をとって、その手に額をあてて申し訳無さそうに下から見上げて私に向けて謝罪をした。
騎士見習い服の私に、ぴっかぴかの執事様が謝っている異様な光景に、町の人が驚き、足を止めて人がどんどん集まってくる。
「やっやめてください!大丈夫です!レイさんは悪くないです!楽しみです!ありがとうございます!嬉しいです!行きましょう!!!はやく入りましょう!」
「お嬢様、呼び方を」
「レイ!早く!」
「かしこまりました。」
本当にこの執事は思い通りにならないな!