願いの対価
ふぅー。
いつまで煙草吸えるのかなぁ〜。
もう意識しなくても、ここが夢か現か分かるようになってきた。まぁ、何にもない所になぜかベランダの手すりがあって、そこに腕乗っけてタバコ吸ってりゃ夢だって誰でもわかるかー。
しかし、レイさんは全くもって、困ったイケメンだな。
まぁ楽しかったからいいけど。
「あいちゃん、いらっしゃい。」
あ、神さまの一部さん来た。
相変わらずの光の玉だ。
今日は、ふわふわ浮いて来ないで、転がってきた。
コロコロしててタマゴっぽい。ちょっと可愛いな。
「あいちゃん、お願いはちゃんと叶ったんだよね?」
「あーはい。大丈夫でした。ありがとうございました。」
ちゃんと起きれたし、ちゃんと元気だったってことは、お願いは叶ったんだろう。
「あいちゃん、あいちゃん」
ん?
「なんですか?」
「神に力を求め、与えられる。与えられれば、対価を返さなければいけないんだよ。」
ーん?
「対価…?」
「叶える願いはひとつだよ」
「そうですね。」
ねがいはひとつってずっと言ってたから覚えてますけど?
「あいちゃんが願ったのは2つだよ」
んえ?
「あいちゃんが、願ったのは、睡眠時間を自由に調節したい。そして、寝たら身体を完全回復させて欲しい。2つだよ」
っは?!
え、だめだったの?!
これ2個だったの?
確かに言われてみれば2個か…?
え、どうしよう。
「す、すいません。どうすれば良いんですか?」
「私が、あいちゃんに、与えたんだよ。」
ぐ…ぐぬぅー!!恩着せがましいー!
でもちゃんと確認して大丈夫そうだったからお願いしたのにー!
なんで脅されなくっちゃいけないんだ!
怖い!
迫ってこないで!眩しい怖い!
私の周りを転がらないで!
ただの光の玉なのにプレッシャーが凄いよ!
「あいちゃんに、お願いしたいんだよ。」
お願い?
「何ですか?」
「私もほしいんだよ」
はい?
「何がほしいんですか?」
「私という存在だよ」
ーは?
ちょっとよくわかんないな。何が言いたいんだろう。
存在してるじゃん?
「私は神様の一部だよ」
そうですね。
「私は私に成りたいんだよ。」
んー?
「今のままじゃだめなんですか?」
今と、[なりたい私]の違いは何だろう?
「私は私に成りたいんだよ。あいちゃんが、神様に与えたように、私も神様のように成りたいんだよ。」
私が神様に与えたって、何だっけ。
「どうすれば良いんですか?」
「想像するんだよ」
想像…。んー、どういう想像をすれば良いんだろう。
「考えなくて良いんだよ。」
え?なんで?
「あいちゃん、もっとくつろぐんだよ。」
くつろぐ...。
「目を閉じるんだよ。」
ふぅー。神様のように成りたい、神様の一部さん…
「あいちゃん、とらわれないで、もっとゆったりするんだよ。」
ふぅー。ゆったり、くつろぐ…。
ーしばらくの間、目を閉じて呼吸を繰り返したー
私の息遣いだけが聞こえる中、急に「ピシッ」っと何かが割れる音がした。
「んな??」
急に響いた割れる音に驚いて目を開けると、さっきまでコロコロ転がっていた光の玉に1筋の黒いヒビが入っていた。
「え?!割れてる!!!?あわわわ、これ私が壊しちゃったの?!私のせいで??え?大丈夫???壊しちゃった???ひえぇえ」
どうしよう、どうしよう。
とにかく確認してみようと、光の玉の前に膝をついて両手を伸ばして触ろうとした途端、「ビキッビキッ」っと満遍なくヒビが入った。
「ギャーーーーー!どうしよう!!?どうすれば??!だ、だれかー!かみさまー!助けてー!!!」
泣きそう!
あ、すでに涙出てた。
どうして…どうしよう…どうすれば…。そんな言葉だけが頭の中を巡って、どんどんひび割れて崩れていく光の玉に、触れることも出来ず、ただただ眺める事しかできなかった。
あぁーぁぁごめんなさい。私のせいで。
さっきまでコロコロ可愛かったのに。
こんなボロボロに…。グスッグスッ。
完全に崩れ落ちると、砕け散った欠片の山の中から小さな光の塊が、花火のように天に昇っていって、広がりながら辺りを照らして消えた。
「神様の一部さん、なんでー…。」
召されてしまった…。
なんどでも会えるって言ってたのに、居なくなっちゃったじゃん!嘘つきじゃん!!言われた通りにしたじゃん!
途中で目を開ちゃたからかな…?失敗した?
…もう夢で会えないの?
何でも話せて、何でも相談できて、凄く楽しかったのに。また名前を呼んでほしいのに、もう誰にも呼んでもらえない、私の本当の名前…。
私はボロボロと泣きながら、うずくまって、その場を動くことができなかった。
「戻ってきてよぉ…。」