食後の紅茶でいい気分
お庭でまったり煙草を楽しんだあと、アンナさんの薦めで一度湯浴みをして着替えて隊長さんたちとの夕食に備えることになった。
「はぁ〜、毎日食っちゃ寝で申し訳ないけど至れり尽くせりで最高〜。何だかんだ温泉旅行は出来なかったけど、上げ膳据え膳な毎日送れてるなぁ」
これでご飯がもう少し美味しかったらなぁ〜。まぁ、私の好き嫌いの問題かも知れないけど。
煮た豆とか、野菜スープとかばっかりで飽きたー。
あとドレス慣れないー。
「お嬢様、夕食の準備が整いましたので、食堂までご移動願います。」
恭しくレイさんが頭を下げて片手を出したので、自分の手を重ねて誘導してもらう。
なんかこういう振る舞いにちょっと慣れてきたなぁーなんて思いながら、心臓はドキドキと煩かった。
なぜかと言うと、かっこいい執事にエスコートされているからです。微笑んでるレイさんは本当格好良い。顔面イケメン度は隊長さんとかデビットさんとか、あの最初の部屋に居た人達の方が上なのに、レイさんは醸し出す雰囲気が凄いんだよねぇ。こういう人にめちゃめちゃ弱いな私。神様然り。
免疫無いからめちゃくちゃドキドキするしなぁ。はぁ。やっぱ慣れない。
私は日本人だもん!
「アイリーン、来たか。また寝込んでなくて何よりだ。とりあえず夕食にしよう。今は時間があるからゆっくり話が聞きたい。」
隊長さんがもうすでにテーブルに着いていて、隊長さんの正面の席に案内された。
出された朝食っぽいラインナップの夕食を頂いた後、とっておいたお土産を隊長にも出してもらった。
「ほぉ、このミヤゲはいいな、菓子は苦手なんだが、これは美味い。」
そう言いながらペロッと1個目を食べ終わって2個目に手をのばしている。
「気に入っていただけて良かったです。」
隊長にはお皿に5個のせてもらったけど、あの調子じゃ全部食べちゃうだろうな。
えーっと、庭で6個食べて、隊長が5個食べて、今2個私が食べたから…残りあと7個か。アンナさんとレイさんに3個ずつあげて残りは私が頂こう。へっへっへ。
「隊長さん、ちょっと嘘ついていたことがありまして、」
お土産でご機嫌なうちに色々懺悔しておこう。
「ん?嘘とはなんだ?」
「えーっと、まずは身元なんですが、私はこの世界の人間ではありません。」
まぁ神の友人な話からこれは伝わってるはず。
「その事はアリシアから聞いたから問題無いぞ。」
よしよし、せーふ。
「あと、私は子供ではありません。23歳で、食事処で働いていましたが、大した料理は作れません。すぐ辞めちゃったので。」
「23歳?!」
ぐふっ、サラッと流したかったけどやっぱり喰いつかれたか。隊長さんだけじゃなく、レイさんもアンナさんも使用人も、その場にいる全員が驚愕している。
「はい、すいません」
本当すいません。
「はぁー…異世界人っていうのは不老とかなんか、そういう力でもあるのか?」
「んと、私の国でも私はやや童顔な方ですが、珍しい程でもないです。寿命は80年位なので不老という事も無いです。老いますし、朽ちます。」
「ほぉ、なんとも信じがたいなぁ。しかし、アイリーンの風格が子供にも見えなかったから納得も出来る。」
あとなんか言うことあったっけなぁ。
「あとは、神様から魔法使えるようにしてもらったのと、色々便宜図ってもらったような事も前にアリシアさんに伝えましたし、えーっと色々勉強して鍛錬しろって言われました。魔法の勉強?」
魔法の勉強ってどうすればいいんだ。
「なるほど、魔法の勉強なら黒塔に行くか、幻塔が良いだろう。黒塔には魔術師が集い、幻塔にはすべての本が集まるといわれている。」
あぁー、レイさんが教えてくれた魔の黒塔と影の幻塔ってやつか。
「あー、あと…魔術なら…えーと、レイモンドも得意らしいぞ。」
ん?レイさんは魔術師なのかな?
「お嬢様、もしよろしければ、私がいくつか初歩的な魔術をお教え致しましょうか?」
「お、お願いできますか?」
「もちろんで御座います。」
やったー。
正直、あんまり他の公爵様の縄張りを荒らしたくない、というか、貴族に会いたくないから、お家の周りでレイさんに教えて貰ったほうが気が楽だ。
「はぁ、まぁ何か思い出したらレイモンドに言ってほしい。魔術の事はレイモンドに任せて良いんだな?他に何か言いたい事なんかあるか?不満とかは無いか?」
不満…?不満はあんまり無いよなぁ、ちょっとご飯に飽きたくらい?
「あー、もっと楽な服着て過ごしたいなーとか、自分で料理したいなーとか、買い物行きたいなーとかは思ってます。」
そのくらいかなぁ…。
「なるほどなぁ、確かにアイリーンが最初に着ていた服も騎士服の様な服だったな。騎士服ならすぐ用意出来るが、簡素な服というとメイド服位しかすぐには用意出来んな…。下町に買い物にでもいってくるか?それで服など、気に入った物を買ってくれば良いのではないか?」
買い物!!行っていいの??
「良いんですか!!下町行ってみたいです!」
「買い物位は行って良いぞ。ただし、護衛と側仕えを連れて行く事は忘れるなよ?単独行動は厳禁だ。早速明日行くか?」
「行きたいです!!」
「そうか。では明日、騎士服と護衛を手配しておくから碧塔に来てくれ。話は通しておく。」
やっほーぃ。話が早ーい。
流石隊長さん!偉いだけある!
隊長さんとのお話が終わり、ルンルン気分で部屋に戻ると、計算通りお土産7個余っていたので、日ごろのお礼にアンナさんとレイさんに3個ずつあげたら凄く喜ばれた。
アンナさんと、レイさんとも仲良くなれて良かった。
「お嬢様、お疲れでなければ、少し私ともお話致しませんか?」
レイさんがティーセットが乗ったワゴンを押してテーブルに用意し始めた。
レイさんの入れてくれる紅茶は、毎回違う茶葉で入れてくれるので、いつもどんな紅茶か、密かに楽しみにしている。
「大丈夫ですよ〜、何をお話しますか?」
レイさんが紅茶にミルクを入れて、はちみつを入れて混ぜながら、お酒を少し垂らして持ってきてくれた。
「お嬢様はお酒を嗜んだことはございますか?」
「あー、あります。」
お金がかかるから、毎日飲んだりはしなかったけど、酔っ払うのは結構好きなんだよね。
ただ、飲みに行く友達が居なかったからもっぱら家飲みだったけど。
「では、こちらをどうぞ。甘い紅茶に、少しブランデーが入っています。寝る前に飲むとよく寝られますよ。」
もらった紅茶を一口飲むと、甘い紅茶に微かにブランデーの芳醇な香りがした。
「はぁー美味しいー。私これ好きです。」
「それは良かった。」
やっぱりレイさんに淹れてもらう紅茶は美味しいなぁ。
「お嬢様、お嬢様のお好みになる事や、お厭いになる事。やりたい事や、やりたくない事など、お教え頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
紅茶美味しい、お土産との相性抜群だ。もぐもぐ。
「んえ?えーっと、お好み...?んと、クロテ大好きです。この紅茶も大好きです。煮豆は少し飽きました。えーっとあとは、今の所、この世界の人達も大好きですぅ。」
紅茶が空になっちゃったと思ったら、すかさずおかわりをくれるレイさんに乾杯。グビグビ
「ふむふむ、では、お厭いになる事はございますか?」
「ふぇーっと。おいとい…。喧嘩は嫌い。んー…ストーカーは大嫌い。狭い部屋は飽きる。んー…禁煙は無理…」
はぁー紅茶美味しい。甘くて美味しい上に、久しぶりのお酒、しかもかなり良いお酒っぽい。うまうま。
「お嬢様、すとーかーというのは何でしょうか?」
「ストーカーはぁ、同意なく付きまとったりぃ、追い回したりー、勝手に持ち物壊したりー、ずっと見張ったりして、相手を怖がらせたり、嫌がらせたりする事ですかね?男が女にやったり、女が男にやったり、大体が一方的な恋心とか伴った思い込みからぁー、独占欲とかが暴走する感じですかねぇー。」
はぁーちょっとふわふわしてきた。酔ってるなこれ。はー楽しい。
「きんえんと言うのはなんでしょうか?」
「あー、煙草が吸えない事です。」
持ってる煙草無くなっちゃったらどーしようかなぁ。
はぁ、どうにか作れるかなぁ。
「ふむふむ。お嬢様はこちらにいらしてから嫌なことはございましたか?」
おかわりの紅茶をくれるレイさん。レイさんも飲めばいいのに、仕事中だから駄目かな?
「んとぉ、嫌なことは無いかなぁまだ。明日の買い物楽しみですし、レイさんも明日の買い物一緒に行きましょうねぇ」
「フッ。ありがとうございます。是非ご一緒させてください。お嬢様、やりたくない事などは御座いますか?」
「やりたくない事…?喧嘩とぉ…痛い事とか、怖いことはやりたくないですねぇ」
あと何かあるかなぁ、思いつかない。
「ふむふむ、大体分かりました。では、お嬢様」
レイさんはワゴンカートの側を離れて、私の前に片膝をついて、ティーカップを持ってない方の手をとって唇を落とした。
「んえ?!れ、れ、れ、レイさん??!」
「お嬢様、さん付けは不要で御座います」
「ななな、なんですか今のは!?」
「お嬢様」
レイさんイケメン、目が綺麗。じゃ無くて!
顔が熱いのはお酒だけのせいじゃないぞ。
「お嬢様にとっての恋愛対象条件をお教えいただけますか?」
「恋愛対象?要は私の好みって事ですか?」
「左様でございます。」
手を離して欲しいんですけどねぇ。
まぁいいか、お酒のせいにしよう。
「えぇっと、何だろうなぁ。肌が綺麗でぇ、ちゃんとしててぇ…尊敬できてぇ…頼りになってぇ…一緒にいて安らぐ人?」
うーん、あんまり経験が無いから明確なタイプってもんが無いかも。
大学の時の彼氏も、飲み会の流れでなんとなく付き合えたって感じだったしなぁ。
「例えば、私は如何ですか?」
「は?!いやいやいや、レイさんほどの御方が私なんて相手しちゃ勿体ないですよー。もう!からかわないでください!まったく。」
心臓に悪いぞレイさん!
はぁー全くこのイケメンは!何考えてんだ!
「フッ、左様でございますか、残念です。では、お好みではない者は今の所特にはいらっしゃらないという事ですか?」
「はぁ…まぁそうですね。皆さん美男美女で、とってもいいと思います。」
恥ずかしいからこの手の話やめてくれないかな。
はぁーあっつい。
「お嬢様、隣に座ってもよろしいでしょうか?少し酔われている様子ですので。」
いや、酔わせたのレイさんだし。
何にも言ってないのに座ってるし!
やりたい放題か!
まったく。
「お嬢様、横になられると楽になりますよ?」
と言いながら、問答無用で膝枕に誘導するの辞めてもらえませんかね?
はぁー、これはやばい。
「お嬢様、ご不快な事が御座いましたら仰ってくださいね?」
あぁぁー頭撫でないでくれませんか?
もう私のHPはぜろです。
「レイさん…もうそのへんで、勘弁してくださいぃ。」
「さん付けは不要で御座います。お嬢様?」
あぁーぁぁーかっこいいなぁもう!やめて!
どーせこの執事サイコパスのくせに!
掌の上で転がしやがって!
「んぐぅ…。レイぃー」
これでもかと睨んでみたけど、どうせ私の顔は真っ赤だ。
完敗です。これで満足か!くそぅ。
「フッ。ではそろそろお休みくださいませ。寝室までお連れ致しますよ。」
はぁぁイケメンに年齢は関係ないな。まったく。
むしろ年上の方が好みかな私。自我がほうかいする。
レイさんの夜の紅茶は要注意だな。
また飲みたいけど。今度はアンナさんも一緒に居てもらおう…。
はぁー楽しかった。