温泉土産を皆で食べよう
ふぅー。
煙草〜珈琲〜おいしいぃー。
1人ベンチに座って煙草を吸う私の両脇に、美人侍女アンナさんと、サイコパス執事レイさん。もー気にしなーいもーん。
温泉で買ったお土産のうちの一個を適当に持ってきたら、人形焼みたいなやつだった。
これ珈琲にめっちゃ合うやつじゃーん。
さすが私。
中身は白あんで、形は丸。焼印で温泉マーク。ビジュアル最高!素朴で美味しい!
本当の所、大切にちびちび食べたいけど、どーせ賞味期限来ちゃうんだからお世話になてる人と分けてさっさと食べちゃう作戦だ。
毒味と称して、1番沢山食べるのは私だ!
「お二人にもおすそ分けさせてください。これ、私の地元のお菓子なんです。」
そういって強引に手に持たせて、2個目を口に頬張る私。
恐縮するアンナさんと対象的に、興味津々のレイさん。ひとしきり眺めたあと、レイさんが一口で食べて、アンナさんもこわごわ口に入れていた。
「ほぉ、これはなかなかの物ですね、お嬢様。」
そう言いながらペロッと口を舐めるレイさん。やっぱりかっこいいなこのサイコパス。神様並みの色気だ。
「もう一個食べますか?」
もう一個とって渡すと、お礼を言って受け取るレイさん。今度は少しずつ味わって食べていた。そんなに気に入ったのかな。
「アイリーン様、とても美味しかったです。ありがとうございます。」
アンナさんは口元をハンカチで拭いてお礼を言った。なるほど、淑女はそうするのか。
「あの、残りのは今日の夕食の時に隊長さん達にもあげたいんですけど、大丈夫ですかね?」
立場的に、偉い人ってこういう得体のしれないもの食べていいのか疑問だったので聞いてみたら、夕食の時にデザートとして出してくれる事になった。
煙草と珈琲でまったりしていると、レイさんが、まるでお礼の様にこの国の事を教えてくれた。
この王国には、王城から四方に伸びる壁のような建物の先に、それぞれ4つの塔が連なっているそうだ。
1つ目が神の白塔
2つ目が魔の黒塔
3つ目が剣の碧塔
4つ目が影の幻塔
そして、塔にはそれぞれ公爵様が治められている。
白塔の【ジャスティン•ブランチフォード公爵】は、美しい銀髪とその美貌から神の化身と呼ばれている。34歳になった今もなお衰え無い美貌は、王族を脅かすほどで、貴賤関係なく凄まじい人気が有り、神聖な魔法を司る場所なので、信仰や癒やしを求めて多くの民衆が集まるのがこの白塔だそうだ。
黒塔の【フランシス •フィンレイ公爵】は公爵最年長の53歳で、国王から全幅の信頼を預かり、最大貴族派閥を束ねる、国王の忠臣だ。
黒塔は魔術師が集い、魔術の研究や他国への攻防を担っている。国の主力であり、盾であり、頭脳だ。魔力が強く、知略にも長けた人が多く務める高貴な塔で、ココに務めるために貴族の子息やその家族はいかなる手段を用いてでも入りこもうとあの手この手で切磋琢磨するそうだ。賄賂も人脈も実力も、貴族には必要な物なのでズルくはないらしい。
碧塔の【トリスタン•エディソン公爵】は、一番最初に会った隊長さんだ。ここは貴賤問わず、超実力主義な肉体派が集う騎士団、傭兵部隊の中枢だ。
特に身分を問われる事はないが、入ったら厳しい規律の下で生活しなくてはならないらしい。それも、称号が得られればかなり自由が許されるため、平民に人気の夢の職場らしい。
幻塔の【ギャレス •カムデイン公爵】は最年少の20歳で、唯一血筋が不明な国王直々に、公爵に任命された謎の多い人物らしい。
幻の塔とはいえ、塔自体は他の塔同様にそびえ立っているものの、中に公爵やその他の務める人は居らず、本や紙束が所狭しと収められた棚がとにかくいっぱいある図書館のような場所なんだそうだ。
そして、全ての塔の中央にあるのがアーガント国の王城で、国王は【レイジィ• ブリッジ•アーガント陛下】と言うらしい。まぁ国王に会う事は無いだろうと高を括っていたのに、私の存在が国家機密とか言われて戦々恐々としている。神様のせいだ!
とにかく、私が会った事があるのは隊長さんだけなので、このままあまり貴族の方々とはお会いすることなく楽に暮らしたいなーと思う今日この頃の私だ。