クロテと一緒に
「...ーーアイリーン様...。」
優しい声が聞こえる。
「ーアイリーン様ー。」
いい匂いがする...
。
「アイリーン様、お約束通り、焼たてのクロテを用意いたしましたよ。」
...くろて...っなに?...
「アイリーン様、お目覚めくださいませ。焼たてクロテが冷めてしまいますよ?」
焼たて...あーお腹空いたぁー
「んーふはぁぁー...よく寝たぁ。良い匂いがするぅ」
伸びをした拍子にお腹がぐぅぅと鳴った。
「ふふ。おはようございますアイリーン様。焼たてのクロテがご用意出来ていますので、ご支度が整いましたらお召し上がりくださいね。」
アンナさんがそう言うって目配せした先を見ると、サイドテーブルの上に、あのスコーンみたいなやつが小皿に2個乗っていて、横にティーポットとカップが用意されていた。
よだれが...。
「アンナさんっ‼ありがとうございます」
約束通り起こしてくれて、あのスコーンみたいなやつまで焼たてをわざわざ持ってきてくれたアンナさんに感動して思わず抱きついてしまった。
「あらあら、淑女がその様な振る舞いをしてはいけませんよ。」
咎めるような口調とは裏腹に頭を撫でる手がとてもやさしい。あーアンナさん優しい。
孤独な心が癒やされる。
服を着替えて、顔を拭いて口をすすぐ。
いそいそとサイドテーブルに向かい用意された椅子に座って、出された紅茶を一口飲む。
「はぁー。美味しい。このお菓子の名前ってクロテっていうんですか?」
ピンクっぽい色をした方をまずは一口。さくっとふんわりで、ピンクのはちょっと酸味があるが甘みも強い。要はとても美味しい。
「左様でございます。混ぜる物によって風味が変わるので、庶民の間で最近人気のお菓子のようです。厨房の者に作らせてみたのですが、如何でしたでしょうか?」
「私、このクロテ大好きです。どの色のやつも物凄く美味しいです!!!!」
何でクロテはさくっとふんわりして美味しいのに、ご飯のときのパンは、もさっとパサパサなんだろう。全部クロテでいいじゃないか。
「ふふ。お口に合って何よりです。まだ御夕食まで少々時間がございますが、如何なさいますか?」
はぁ〜。お願い叶ってよかった。やっと時間にゆとりのある生活が送れてる気がする。
神様の欠片さんのお陰さまだ。
「煙草が吸いたいです!」
ビシっと右手を上げ宣言する。
「かしこまりました。では庭へ行かれてはどうでしょうか?ベンチも御座いますのでお試しになってはいかがかと。」
庭ー!
そういえば、自由にしていいって言ってもらったんだ!やっといろんなとこ行ける〜!
後で厨房も見てみたいな〜。
「庭行きたいです!」
やったーやったー。外で煙草〜。
じゃぁ珈琲も持っていこう。
「ではご案内いたします。」
アンナさんの後ろに付いて部屋を出ると、扉の横にレイさんが立って待機していた。
「レ...レイさん!?いつから居たんですか??」
「お嬢様、さん付けは不要で御座います。」
レイさんが立ちふさがっています眼光鋭く見下されてもう、怖すぎ。なんなのこの執事。まじで殺人鬼なんじゃないのか。ほんと怖い。
「レイ...。あの、庭に行きたいんです」
だからそこ通してください。と消えそうな声でお願いしてみた。
「かしこまりました。お嬢様、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
レイさんは人殺しみたいな目が嘘だったみたいに、優しくニコニコと、人当たりの良い笑顔で言った。
めちゃくちゃ胡散臭いこの人もうやだ。
多重人格なの?
「あ、はい。では一緒に行きましょう」
私はただ煙草が吸いたいだけだ。
ついでに温泉のお土産も持っていこっと。