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異世界でなぜこんな事に  作者: 笹薙
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私の部屋はアパート2階


「あったかいわー」


自宅のベランダでくわえタバコをしながら一人語散る。

昨日までの肌寒さがまるで夢だったかのような、澄み渡る青空と降りそそぐ太陽についついベランダに出て一服してしまった。

私インドア派なのに。


ふぅーっとタバコの煙をはき、灰皿にタバコを押し付けていると、部屋のテーブルの上で携帯が着信をお知らせしていた。とてもけたたましく。


「やばっ」


この着信音は母だ。

そして母からの電話は大体愚痴だからいつも憂鬱だ。

だからといって電話に出ないと、次に待っているのは対面式愚痴パーティに発展してしまうので電話に出ないという選択はできないのである。

なので、急いで電話に出る。


「もしもし?」

「もしもし愛ちゃん?今大丈夫?さっき吉澤さんの奥さんとばったり会っちゃってね!」


母のお話は、こちらの意見など聞いていないくせに、自分の話を聞いていないとものすごく面倒くさくなるので、程々に相打ちを打ちながら話を聞かなくてはいけない。吉澤さんと言うのは確かお向いさんだったか。



「しょうがないから当たり障り無いようにお話聞いてあげてたのよ。近所付合いも大切じゃない?早く帰ってお料理つくりたかったけど!」



母はそんなにストレスを溜め込むタイプでは無い。

いつも何かあると喋って発散するからだ。

喋れば後でまたグチグチ言うことは無いのが母の良い所だ。


そして母は料理が趣味だ。

作りたい料理が思いついたら、いてもたってもいられないタイプだ。

和洋中なんでもできるし、母の気分で提供される我が家の食卓は帰省の楽しみという程には素晴らしい腕前だ。

ちなみにお菓子作りも例外では無い。

だから帰省のたびに太るは当然のだ。私は悪くない。



「吉澤さんお家引っ越すんですって!だからお手紙くださいねってお引越のご挨拶だったんだけど。あー今思い出しても腹が立つわー!マンション買ったんですって!仕事の都合でしょうがなく今の家に住んでたけど、やっと希望のマンションが買えたから都会に行くらしいわよ!こんな所あなたも早く引っ越しなさいって言ったのよ!こんな所って何よ!確かに駅からちょっと遠いし、コンビニも駅前にしかないし、スーパーもドラックストアもちょっと遠いけど!いいじゃない!車通り少ないからうるさくないし!空気美味しいし!」



母の興奮冷めやらぬ。

触らぬ母に祟りなし。

とにかく落ち着いてほしいなぁ。

インスタントコーヒーを入れながら再びベランダ戻り煙草に火をつける。


ふぅーっ

あー珈琲美味い。


「私のビーフシチューの時間を奪っておいて、吉澤さんの奥さんのお話は、新しいマンションの自慢話と、今の家の悪口よ。その繰り返しよ!?」



あービーフシチュー食べたい。



「そっかー。お母さんも大変だったんだねぇ。」

「ご近所付き合いも大変だねぇ。」

「私も久しぶりにお母さんのビーフシチュー食べたいなー。」


合間合間に相打ちを打っていたら段々勢いが収まって来た。

発散出来たようだ。良かった良かった。


ふぅーっ。はぁー煙草と珈琲最高。

珈琲と煙草の唯一の欠点は口が臭くなる所だ。

後でブレスケアしなければ…。


「愛ちゃんもたまには帰って来てね?お仕事忙しいでしょうけど、いつでも来てね?待ってるわよー。そしたらビーフシチュー作るから、一緒に食べましょう!」


「また時間ができたら連絡するね。ビーフシチュー楽しみ。約束ね」



ふぅーっ




...。

嘘をついた。


今の私には常に時間があるので行こうと思えば今すぐ実家に帰れる。


なぜなら仕事を辞めたからだ。

なぜ辞めたかというとただのセクハラだ。パワハラでもあったか。

バイトで働いていたレストランで、就職しないかと誘われたので、そのまま流されて就職した結果がこれだ。

考え無し良くない。

もっとよく考えればよかったが後悔先に立たず。


思い入れも無い仕事だったので、サラッと辞めて今に至るのだが...。



「また居るし、まだ居るし。バレてないと思ってるのかなぁ」


いつもタバコを吸いにベランダに出ると電柱の影に身を隠してる人が居る。

隠れているつもりの様だがバレバレだ。

仕事を辞めて1ヶ月位経った頃だったか、ベランダから見える電信柱に人影が見えるのに気づいたのは。


最初はお化けかと思ってものすごくビックリしたけど、挙動不審で道行く老若男女がジロジロ見ていたので、お化けじゃなくて生きている人だとすぐに分かった。


双眼鏡でこちらの様子を伺っている不審者は、私が仕事を辞めた原因のセクハラパワハラ野郎だった。因みに23歳。先輩だけど同い年だ。


暗くなると現れるセクハラパワハラ野郎だったはずが、最近日中も出るので気楽に外出が出来なくなってしまった。

ベランダに出るのも憂鬱でタバコの減りが減ったのはいい事だったのか?

ストレスは半端ではないが...。


まさかアイツも仕事辞めたのか...?

ヤバさが1段階上がった気がする。


部屋に戻りながら警察に電話すると、暫くして自転車に乗ったお巡りさんが現れた。電柱裏のセクハラパワハラ野郎に職務質問をしてくれている。

さすが安全大国日本。やるじゃん警察の人!


お巡りさんの職務質問から逃げるように走りだしたので、お巡りさんとの追いかけっこが始まったようだ。

自転車対走りじゃぁすぐ捕まると思うけど。

家の周りから引き離してくれれば買い物に行けるので、その場しのぎでもありがたい。


さっさと身支度を整えて、バイクに乗るときにいつも背負っている防水リュックを掴んで急いで部屋を出る。


駐輪場に置いているバイクに向かうと、自分のバイクの様子がおかしい。

バイクのシートがズタズタだ...。

シートを切り刻んだと思われるペティナイフがタイヤに刺さっている。


あーのーやーろーう!!!



絶対にあいつだ。証拠はないけど絶対あのセクハラウンコ虫野郎だ!!



たいしたバイクじゃ無いけど初任給で買った私のズーマー...。



涙が滲んできたが、ここでボケっとしていると時間の無駄だし、虫野郎が戻ってくるかも知れないので、とりあえずバイクはそのまま置いておいて駅に向かう事にした。



「このままどっか行っちゃおうかなぁ」


電車に揺られながらついついこのまま旅行にでも行っちゃおうかと、ふと携帯で旅行のプランなんかを検索してみた。


「お、箱根で温泉かぁ。いいかも」


このままダラダラと貯金を切り崩して時間を潰すより、ちゃちゃっとリフレッシュして、ちょっと実家に寄生してどっかに再就職でもしたほうが健康的じゃないかという気持ちになってきた。


もう虫見たくないし。


よし!とりあえず2泊しよう。

そしてリフレッシュしたら実家に帰ろう!

そんで、その後のことは後で考えよう。



一人で部屋に戻りたくないし。



「今日から2泊、大人女性一人、朝夕付き、喫煙部屋、予約、っと。」


あー楽しい。久しぶりにワクワクしてきた。


しかし、冷蔵庫の補充をするつもりでからっぽのリュックで来ちゃったか着替えも何も持ってこなかった。


せっかくだし、新しいの買っちゃおう。


とりあえず百均に行って圧縮袋と、トラベルグッズを買って、デパートで着替え買って、煙草も買って、お菓子と飲み物は隙間があったら買おう。


小学生の時は遠足って楽しかったなー。あの時の気持ち忘れてたなぁ。



大きな駅で一旦降りて、遠足の準備を始める。


遠足の持ち物リストを思い出しながら、百均でくだらない物と、必要な物を買って、服屋で買い物をして、ついでに雑貨屋を覗いてフレームが美しいアンティーク調の手鏡を衝動買いした。

その後はコンビニに行ったり、駅前の喫茶店に入って煙草と珈琲で一息ついた。ついでに、ドラックストアでブレスケアと頭痛薬と総合風邪薬も買った。

なぜなら私は出先で寝ると必ずと言っていいほど風邪をひくからだ。

ついでにポケットティッシュと、マスクと、あと何が必要かなぁ。

小さなものでも買い物は良いなぁ。

最近部屋に籠りっぱなしだったからなぁ。

思いついたら即買って、そしてこの後は温泉旅館に泊まるんだ!


久しぶりの休日のような日を満喫してリュックをパンパンにして予約した宿に向かった。



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