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2話

揺れを感じ無くなる。触覚で感じた訳では無い。単なる情報として、理解する。


《お目覚めですか?城下町最寄りの村に着きました。ギュールいわく、ナード村、と言うそうです。》


相棒のおかげで、状況がすぐに分かる。相棒から身体の主導権を返還してもらい、体を起こす。


「アルテナ様、今から宿を取ってまいりますので、暫くお待ち下さい。」


「うん、分かった。」


待ち時間を使って、ギュールの話を聞きながらまつ。するとさほど待たずにギュールが戻ってくる。


「二日間の宿泊を取ってきました。馬車を、保管庫に仕舞った後、私は食料などを買いに行ってまいります。アルテナ様はどうなされますか?」


その質問に、宿屋に籠るか、特に何もなさそうではあるが、街をぶらつくか…。


《情報収集の為にもぶらつきませんか?お金はギュールから貰ってください。相場も確認したいです。》


相棒がそう言うならば僕に否は無い。ギュールに外をブラつきたいと伝え、お金を貰う。貰った硬貨は三種類あった。緑がかった四角形の銅貨と、十円玉のような円形の銅貨、四角形の銀貨であった。


それを受け取り、村を散策する。


その中で気付いたのは、小さな子ども達が、様々な場所で見かけられたということだった。相棒は


《マスターの記憶にあるような、教育機関の発達が無いのでしょう。》


と考察した。え?そうなの?僕が王家だったからなのか、教育は受けた。それでも言語を習得してからは、地下に籠ってしまったから、マナー講座等を受けなかった弊害をこうして受けている訳だが…。


《マスターの言語レベルはこの世界では上位であると考えられます。》


言語レベルがその程度なら、計算なんてもっての他だよね。


《その解答はギュールとの会話にありました。曰く、実用計算のみは広く普及している模様。これは親から子へと伝えられたものです。》


実用計算?


《足し算、引き算等の、日常生活に用いる計算です。》


そんな、相棒と話しながら歩いていると、ドンッと何かとぶつかった。急いで意識を戻し、辺りを確認すると、僕の前面が水浸しになっていた…。


僕の前には小さな少女が尻もちをついた状況でいた。その横には水が入っていたであろう、桶が転がっている。


僕は慌てて、少女に手を差し出す。


「大丈夫?ごめんね、気づかなかったよ…。」


「あ…、い…あ……。」


少女は手を取らずに、オドオドとしている。このまま離れるのは、心を苦しいしどうしようかと悩んでいると、少し離れたところから、少女の母親らしき人が走って来て、僕の前で平伏した。


「すみません!私をいかようにもして下さって構いませんので、娘だけは……!」


僕が意図することなく、勝手に話が進む。急展開には、これまでのコミユニケーション不足が祟り、ついていけない。相棒~。


《無欲では向こうが納得しないと推測します。換えの服を償いとしてもらい、家に案内してもらうことが一番有効と判断します。下手に離れると、この親子は日々を怯えながら過ごすでしょう。》


「そんなに怖がらないでください。換えの服が欲しいのですが、譲り願いませんか?そして着替えるために、家にお邪魔してもよろしいですか?」


僕の言葉に親子はにも無く、頷いた。


村民A

僕の服を濡らした少女とその母親に連れられて彼らの家を訪れる。そこは二階のない平屋であった。


「どうぞこちらでお待ちください。」


少女の母親が僕の通されたのは小さな小部屋であった。少女の母親は隣の部屋へと消えていった。僕は申し訳程度に置かれた、椅子に座りながら、替えの服を持ってきてもらうのを待つ事にした。


《上下水道未完備、電気及びガスなし。生活インフラと呼べるものは、水瓶と共用井戸…くらいでしょうか。》


そんなところだね。この部屋にも、廊下にも、蝋燭たてがあったし、主流はロウソクなんだろうね。てゆうか、そもそも水瓶って生活インフラに入るの?絶対入らないでしょ。


《……、誰か来ました。》


相棒には、上手いこと避けられたが、着替えが最優先で、入室を促した。


入ってきた母親から手渡されたものは、黒いハーフパンツに黒い半袖シャツ。あとは丈の長いポンチョであった。僕は母親に感謝を述べると、恐縮しながら母親は出て行った。僕は手早く着替える。ポンチョなんて初めて来たが、なかなかに気心地が良かった。


持ち物を移し終えると、部屋を出て元来た道を逆走する。するとテーブルの片側に少女と母親が座り、その向かいには一つだけ席が空いてあるのが、見えた。


素通りを試みたが、無理であり、大人しく座ることにした。


「この度は本当に申し訳ありませんでした。」


「本当にやめてください。僕の不注意だったのです。」


これ以上は本当にやめて欲しい。幼い少女とその若い母親に揃って頭を下げられるのは、僕のメンタルヘルスに問題が発生しそうなのです。


「そんなに謝らないで下さい。こんなに良い服も頂けましたし。僕としては、この服を買い取らせて頂きたいくらいです。」


「滅相もございません!」


なんか、会話成立してそうでしてないよね…。


《話題を逸らしましょう。》


例えば?そんな話題持ち合わせて無いよ?


《お金を稼ぐ方法……とか?》


……。オケ。


「一つお聞きしたいことがあるのです。ここで軽くお金を稼ぐ方法ってありませんか?」


「それなら、教会に行ってみてはいかかでしょうか。あそこでは、仕事の斡旋を行なっていた筈です。」


「そうなのですか!」


何処にあるのかと尋ねると、少女が案内してくれることになった。


母親に見送られ家を出た。


少女の名前はマノのと言うらしい。無言の重さが辛くて、必死に話題を探していると、少女の名前を知らないということが分かった。


名前を聞くと、「ま、マノ!」と答えてくれた。嫌われてるのかな…。再び沈黙が二人の間を支配する。逃げることも出来ず、ここに二体のマリオネットが完成した。


五分ほど歩くと、教会にらしき建物が見えてきた。その屋根には十字架が掛かっていなかった。代わりに、放射状に広がるオブジェ(?)が飾られている。


マノが、僕の横という地獄のポジションから逃げて、教会の扉をノックする。マノに僕が追いつくと同時に扉が開く。そこには金髪、碧眼の女性が立っていた。


「リュナ様~。」


「あら、マノちゃん。今日は何しに来たの?お母さんは?」


「お母さんは忙しいから来てないよ。アルテナを連れてきたの。ちょっとでもいいからお金を稼ぎたいって言うから。」


「アルテナ……?村にそんな者はいなかったでしょう?」


「旅をしているそうだよ?詳しくは教えてくれなかった。」


僕のことは、マノにはほとんど教えていない。言ったのはせいぜい二人で旅をしている事ぐらい。


マノにリュナと呼ばれた女性の目がが僕を捉える。


「どうも初めまして。アルテナと言うものです。マノの言う様に旅をしています。」


「ご丁寧にありがとうございます。私がこの教会の教母を務めているリュナと言います。」


互いに、軽く頭を下げる。コミユニケーションは取っていなくとも、王家の一人として礼儀はある程度身につけている。……多分だけど。


「マノとその母親にお金を稼ぐ方法を尋ねたところ、教会が仕事を斡旋していると教えて頂き、参ったのです。」


「そうなのですか。どうぞ中にお入りください。中で話を少ししましょう。」


「分かりました。」


マノはやることがあるからと言って帰って行った。僕はリュナに連れられて、小さな部屋に通され、席につく。棚と机と椅子程度しかない質素な部屋であった。


リュナは棚から幾つかの資料を僕の前に出す。そこには植物の絵が丁寧に描かれ、その下には生息地や効能、用途、買取価格が書かれてある。


「教会としては、ここに記述のある植物や、魔物の一部などを買い取らせて頂いています。」


「全部見せて貰えますか?」


「ええ。構いませんよ。」


僕の前に紙の束が置かれる。

え……、こんなにあるなんて聞いてないよ?十五センチ位有るんじゃないの?目を通すのにもかなりの時間がかかりそうである。


《十五枚で五ミリです。トータルで四百五十枚です。一枚八秒で、一時間です。四秒ですれば半時間です。二秒ですれば十五分です。情報はこちらで、全て処理します。アルテナは捲るだけで十分です。》


了解。


相棒という頼もしい後ろ盾を得て、僕はただひたすらに、一枚一枚紙を捲ることだけに専念した。


「ありがとうございました。」


資料の束をリュナに返す。


「あら、もういいの?」


「はい。一度にそんなに覚えられないのでこの付近のものだけにしました…。これから少しずつ覚えていこうかなと思います。」


「その方がいいわ。数が数だからね。収集を生業にしている人でも全ては覚えていないのが普通だし、必要なものを覚えていく方が効率的だもの。」


「集めた素材は何処の教会でも買い取ってもらえるのですか?」


「ええ。大抵の村や街にはあるから、心配は要りませんよ。新鮮じゃないとダメなものも幾つかあるけど、乾燥していても全然大丈夫の物もあるし、旅をしながらでも探すことをオススメするわ。」


そこから、集めた素材の納品方法や、買取価格はよく変動するから、時期にあったものを納品すると、高値で買い取ってもらえる等の説明を受け、僕は帰路に着いた。


《ソート完了。一度素材を探してみませんか?また地図があれば、分布の詳細を確認できます。》


さすが相棒。帰り道にでも、探しながら帰るとしよう。しかし、既に日は傾き、辺りはオレンジが満ちていた。


《マスター、視覚情報への干渉を行ってもよろしいですか?》


ん?何で?


《幾つか見つけるものの、マスターにどの様に伝えるのかを悩んでいるうちに通り過ぎて仕舞うのです。》


幾つかあったの?全然気付かなかった。あの資料をしっかりと見てない僕が見つけられる道理なんて何も無いけどね。


別に良いよ。損するわけでもなさそうだし。どんな感じになるのか試してくれない?


《視覚情報にアクセス………、完了。視覚情報の加工に着手…成功。》


相棒のその言葉で、僕の視界に映る世界が明らかな情報過多になる。全てのものに名前が表記される。しかし、相棒の知っているものが少ないのか大半が????になっている。


ねえ、これじゃ何もわからないのだけど?


《暫くお待ち下さい。最適化中です。》


僕は大人しく、地面に横になり待つことにする。視界が事物を捕えずに、相棒の加工映像だけだとまともに立っていられないのだ。目を閉じたまま片足立ちをしている感覚と言えば伝わるだろうか?




《マスター、処理が完了しました。起きて下さい。》


ん……。


目を開けると、僕がいる場所は何処かの部屋だった。


《道端で寝たマスターをギュールが見つけ、宿まで運んでくれました。》


そんなことよりも、相棒が体を使ってくれても良かったよね?


《調整に時間が…かかったような…?》


これで明日、出来が悲惨だったら(なじ)りまくってやるからな。


《その様な心配は無用です。》


何故か誇らしげに返す相棒の声を聞き、まだくらい外を一瞥してから、もう一度僕は寝た。


《動作確認はしないのですか?》


そこには画期的な世界が広がっていた!……いた?


相棒?何も変わってなくない?


《私が獲得した知識は植物系を主とした、素材です。こんなに加工品しかないような人間の生活圏ではあまり役には立ちません。……今から山奥サバイバルとかしませんか?》


却下です。普通に死んじゃいます。


《食料面はおまかせください。》


それ以外で死んじゃいます。


《ある程度の外敵の急所は分かります。魔核が心臓横に分布するようです。その情報が資料にありました。》


知識があっても、実行できなければ意味が無いのですよ?


《あれがあるじゃないですか?なぜ隠しているのです?》


別に隠しているつもりは無いよ。けど王城に製作機械を置いてきてしまったから補充が効かないしね。持ち腐れにならない内には使うつもりだけど。


《今日は何をしますか?》


ギュールと相談かな。早いうちにここを立つなら、おやつみたいな物が欲しいんだよ。かなりちっちゃいけど、市場もあったしそこには行きたいかな。


相棒と予定を立てていると、ドアがノックされる。


「誰ですか。」


「ギュールです。」


「どうぞ、入ってください。」


「失礼します。もう起きていらしたのですね。朝食の時間になりましたので、お呼びに来ました。」


「ありがとう。ここの一階で良いのかな?」


「はい。」


階段を降りると、宿屋の食事処は賑わっていた。空席を探して席に着くと、対面にギュールが座る。しかしその机には僕の常識にはあるものがなかった。


「メニュー表はないの?」


そう、メニュー表が無いのだ。一体どのようにして注文するというのか。


「メニュー表……?それはなんでしょうか?」


《マスター、常識がまた通用しないみたいですね。》


「いや気にするな。どうやって注文するんだ?」


「待っていれば、来ます。私におまかせください。」


なら任せるとしよう。


「宿泊のお客様ですね。朝食は何にされます?」


「何が出せるかね?」


「練り芋の揚げ物かキッシュを選んで。サラダとパンは付いてるから。」


「アルテナ様、どうなされますか?」


「うーん…。両方食べてみたいからさ、ギュールは練り芋の揚げ物をしてくれない?僕はキッシュにする。」


「かしこまりました。ではその様に。」


「わかったよ。少しの間待っててね。」


店員の女性は厨房に戻っていく。


「聞きたいことがあるんだけどいい?」


「はい、なんなりと。」


「メニューが少なくない?キッシュと練り芋の二種類しかなかったよね?」


「その通りです。この様な食事処でメニューが多くては、その分仕入れる品目が増えて、無駄が多くなるのです。そのため、メニュー数が減るのです。」


「なるほど……。」



宿屋は賑わっていた。この村のご飯と言えばここ!とのこと。各家庭で料理はしない風習らしい。その為に、必然として老若男女がここに集まるわけである。そして僕は今若男女、主に小学生から中学生位の子どもに囲まれていた。


ことの発端は僕が暇つぶしを探して食事処を見渡していたら、遊び道具入れを見つけ漁ってみるとオセロを見つけ、ギュールと遊んでいたことだった。


ギュールはオセロを知っていたから、パチパチと指していると子ども達が寄ってきたのだ。


「何それ~?」


「黒と白?」


そして子ども達にルールを教えていると料理が届いた。子ども達にオセロ盤ごと渡すと、子ども達は空いている席に集まって、オセロを指し始めた。


その光景を少し見たあと、僕とギュールは出された料理に手をつけた。


「アルテナ様はオセロをご存知だったのですね。驚きです。」


「娯楽が少ないから、少しでも面白そうなものはインプットしているだけだよ。遊んだことは無かったけどね。」


パサパサして、堅いパンを細かく千切ながら口に運ぶ。……顎が辛い…。


サラダにはドレッシングなんて洒落たものはかかっていないから、苦めの味が口に広がる。キッシュはキッシュで塩味が薄くて、美味しいとは言いにくい。


贅沢なのかもしれないけど、もうちょっとどうにかならないかな…。


《世界の変革を待つより、行動してみた方が早いと思います。マスター、早急に取り掛かりましょう。》


相棒?急にどうしたの?


《マスターの味覚情報は私の元にまで届けられます。これは拒否出来ないのです。》


料理が不味いくて辛いから、何とかしろよってこと?


《……端的に言うとそうなるのかも知れませんね。》


相棒がちょっと欲望に満ちてきている気が……。ま、僕も同意見だから全然良いんだけどね。


ギュールの練り芋の揚げ物は、緑色の中身を見て、食べるのを見送ったから解らずじまいだった。


「ギュール、もうここを立つ?」


「はい、そうしようと思っています。何か必要なものでもありましたか?」


「いやそういうのじゃなくて、ちょっと市場を見て来たいなと思ったんだけど…。」


「それなら楽しんでいらしてください。ここを立つのは明日でも良いのですから。お金は足りますか?」


「ありがと。お金は昨日の分があるから大丈夫。でもここを立つのは、今日中にしよう。」


「分かりました。私は馬車の用意が出来ましたら、村の出口で待っております。」


「わかった。それじゃ後で。」


「お気を付けて。」


恭しく頭を下げるギュールを背に、僕は再び村に出た。


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