Help each other !
都会って所があってな…
人がうじゃうじゃいるんだ。
俺の中じゃ、世界で2番目に素敵なところなんだ。
1番目は、この家。
何故かというと、
父さんはここで大事な事に気づいたんだよ。
…いや、気づかされたんだよ。
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短編小説:Help each other!
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犬をひき連れて、午後5時、町内を散歩して周る。
それと仕事以外、することは何も無い。
俺もそろそろ38歳、そのうちおっさんになる。
そして、人生の後半戦が始まる。
結婚したかったし、
家庭も持ちたかった。
しかし、諦めなければならない歳になるのだ。
そんな俺の唯一の楽しみは、都会に繰り出すこと。
仕事で『半』都会まで行くので、ついでに行ける。
ただビルのそばを歩くことや
ただ自動車を見ることが楽しい。
そう、若い頃からずっと住みたかった都会…
しかし、いつの間にか田舎に住んでいた。
…はあ、せめてニュータウンに住みたかった。
さて、ここからはいつものパターン。
俺は、一応安定している収入を思い出して、
少し誇りを取り戻す。しかし、
やはり都会に住みたかったなー!の繰り返し。
別に情けなくはない。
そして、そんなことを考えていたら、
犬の散歩が終わる。
で、今日は珍しく酒が飲みたかったので、
数キロ先のコンビニに行くことにした。
自転車で。
…
俺の人生は、一体なんなんだろう。
誰にとって、何の意味がある?
今日ついに、そんなことを考えた。
気が病んでいるのだ。
酒が飲みたいのも、恐らく同じ原因だろう。
こういう時は、酒よりコーヒーの方がいいんだが…
今日はやけに酒が飲みたい。
そして、コンビニに着いた。
明るい。
都会の色がする。
ピロリロピロリロ…
「いらっしゃいませー」
蛍光灯だかLEDだか知らないが、
この白色は、とても落ち着く。
…やはり、都会の方が俺にあってるんだ。
そして、呟く。
「なんでこんなことになったのかな…」
そう、呟く。
ということは、声が出てるのだ。
「え?」
と、品を棚に詰めていた隣の若い女性の店員が、
こちらを見るのも仕方ない。
聞かれた。心の声を。
さあ、目があった。
どうする?
どうする?
変な人と思われない為には、どうすれば正解?
…良し。わかった。正解はこうだ。
「あ、いえ、なんでも無いです」
これなら心の声だとわかってもらえるだろう…
さあ、少しだけ哀れんで、俺のことは忘れろ。
俺も、雑誌の世界に行って今の失言は忘れる。
それで万事解決…の、はずだった。
わなわなわなわなわなわなわなわなわな…
隣の女性店員が、わなわなしてる。
あれ?俺今、わなわなさせるようなこと言った?
なんか怒らせた?
「あの…大丈夫ですか?」
女性店員はこう答える。
「…」
「あたしだって…あたしだって…」
「こんな所でバイトしたくないわあああああああああああああああああああああああああああ‼︎」
「ああああああああああああ!」
そして、持っていた商品、
メロンパン(120円)を地面に叩きつけた。
…だ、大丈夫なのか?この人…
普通の人間は、人の呟きに感化されて叫ばないけど…
そして、どんだけ溜まってたとしても、
メロンパンは投げないけど…
「ねえ、この先にBARがあるんですよ」
「どうせクビだし、この後話聞いてくれません⁉︎」
「…お、おう…」
な、なんだこの人は…
ちょっとおじさんを信用しすぎじゃない?
頭がおかしいの?
ーーーーーーーーーーーーーーーーBARにて
「あたし、デザイナーになりたかったんです」
「で、結局夢は叶わず23歳になって…」
「父親に勘当されて独り暮らししてるんです…」
「うわあああああああああああああん」
…おうおう、なんか大変な人生送ってるな…
メロンパン投げたのは間違った選択だったって事が、
ひしひし伝わってくるな。
「…食費は厳しいし、ガスは止まるし…」
「一体この後の人生、どうすればいいんだろ…」
…かわいそうになってきた。
こう考えると、俺の人生は、まだましかもしれない。
俺は、励ますことにした。
「でも、まだ23歳だし、」
「諦めるのはまだ早いんじゃないか?」
「どんどんコンテストとかに出品すればいい」
「いつか努力は報われるさ」
しかし、彼女はこう答える。
「…もう絵は描けないんです」
「勘当されて以来、スランプで…」
スランプ。そうか、デザイナーにはそんな悩みが。
俺みたいな会社員には、わからない悩みだな。
こればっかりは、解決してやれないな。
…ん?
…寝てる?
なんだ、人が話聞いてやってるのに…
…寝てるなら、俺はこれ飲んだら帰るかな。
ごく
…あれ?あんなに酒が飲みたかったのに…
不味い…
…
…ああそうか、俺の方のストレスを、
この人が緩和してくれたんだ…
じゃあ、何かお礼しないとな…
…ガスが止まった…か…
【数時間後】
「…起きたー!」
「お客様、お連れの方はお帰りになられました」
「…ああ、そうですか…」
「…なら、あらしも帰ろ…」
「お待ち下さい」
「お連れの方からです」
ウェイターは、封筒をさし出した。
「…これは…?」
「‼︎」
「ご、50,000円っ⁉︎」
ふふ…今頃驚いているだろう。
そう、俺は50,000円を封筒に入れて置いてきた。
深い意味は無い。
ただ、俺の様に腐って欲しくないだけ…
少しでも、もう2度と会わないだろうあの子の助けになれればそれでいい…あの子は、まだまだ若いから。
『大人は、与える』
「うおっと‼︎」
ガッシャーン‼︎
…もう2度と酒飲んだ後は自転車乗らない…
38さいの夏に、そんな事があった。
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俺の名前は…まだ秘密だ
ともかく39歳になった俺は、出世していた。
なんと、勤める会社の『副社長』に就任した。
しかし、副社長になっても仕事量はあまり増えず、
やはり暇で退屈な日常が続いていた。
テレビで、こんなニュースが流れている。
日本の結婚率が低下し、深刻な状態になっている。
そこで、政府はある政策を実行しブチッ
…この時間帯はニュースしかやってない…
「…はぁ…」「…なーつか〜…」
「なーんもすることね〜…」
祖母ならこう言うだろう、『婚活』しろ。
…まあ確かに、ばあちゃん先も長く無いだろうし、
孫の顔を見せてやりたい気持ちもあるし、
日本の結婚率に貢献したい気持ちもある。でも、
wantとcan't じゃ、can't の方が強い。
…そういえば
1年前、23歳デザイナー志望の女の子に50,000円あげたことがあったな…彼女、どうなったんだろう?
「…BARに行けば会えるかな?」
ストーカーだって?それは違う。
暇だから行くだけだ。
…そういえば、あの時以来酒を飲んでなかったな…
仕事以外、自転車も使ってなかった…
そんなに家にこもってたのか。
俺はちょっと錆びた自転車を走らせ、BARへ向かう。
しかし…
「…あれ??」
BARは、閉店してしまっていた。
意外だ…1年前に来た時は、活気があったのに…
…ん?貼り紙?
BAR【ブラックキャット】は、カフェ【ネルウァ】と合併いたしました。場所はこちら↓
…おお、やはり潰れてはいなかったんだな。
場所って…あれ?
うちの近所?
再び錆びた自転車を走らせ、町へ戻る。
あった。
仕事へ向かう道の途中にオープンしていたのだ。
では、早速入ってみよう。
…多分、50,000円の彼女はいないだろうが。
がららら…
「いらっしゃいませー!」
「えっと…」
おお、これは美味しそうだ!
「この、マンゴーシェイクとミルクレープ下さい」
「はい!こちら2点で50,000円になります!」
「…はあ?そんなわけ…」
「‼︎」
見上げた先には。
「あんたは…」
「…また会えましたね!」
「少しお話しましょうか」
俺が来た時間帯はちょうど休み時間だったらしい。
その後の1年間のことを、お互い言い合った。
「で、今もこうしてバイトはしてるんですが…」
「どうやらデザイナーで食っていけそうなんです!」
「それもこれも、貴方のお陰です!」
「ありがとうございます!」
「いやいや…俺はそんな」
「良かったね、夢が叶って」
「そのまま頑張りな若いの」
「はい!」
いいな、やはり…
いや、彼女がじゃなくて…
夢を追う人というのは、目が輝いている。
やはり人生は、山あり谷ありがいい。
切磋琢磨の中で磨かれていく人の輝きというのは、
宝石より美しい…
彼女は今、昔の俺が目指してた理想そのものだ。
「で、これなんですが…」
彼女は封筒を出した。
俺は、なんとなくその中身はわかっていたが、
そこにあるということが信じられなかった。
「きちんと50,000円、用意出来ました」
「あの日から、貯金してたんです」
「今日やっと、借りを返せます」
「受け取って下さい」
…やはり。無理して貯金したんだな。でも…
これは、受け取れないな。
生活が安定してる状態で50,000円をなくすのと、
安定してない状態で50,000円なくすのでは、
その後の生活への影響が全然違う。
しかし、彼女の誠実さに応えたいのも事実…
さあ、どうするかな。
「…これは、君が持っておくんだ」
「いきなりこんなに無くなったら、困るだろう」
「いいえ、大丈夫です」
「これを返すことは、私の義務なんです」
「…うーん…」
夢に投資して、それで報われて、
それでいい気分で終わりのはずだったんだが…
返してもらうために渡したのでは無いのに…
どうするかな…
…そうだ!
いいこと思いついた!
「じゃあ、こうしよう」
「1時間の時給を1000円だとして…」
「50,000円稼ぐ為には50時間かかるから…」
「君が2日くらいかけて考えた、」
「最高傑作のデザインをプレゼントしてくれよ!」
「!」
「それで、借りを返してくれ」
「お金は貰えない」
「そうだな…俺の好みは…」
「ちょっと、待って下さい!」
「そんな、それじゃ私の気がすみません!」
「受け取って下さい!」
「いいや駄目だ」
「どうしても受け取れない」
「そんなぁ…」
「…」
「デザインするのはなんでもいい」
「それこそ、50,000円もある」
「…わかりました」
「どんなのがいいですか?」
「…そうだな…」
「都会っぽい感じが…」
「人が賑やかで…灯りが絶えなくて…」
…おお、メモを取っている…
そしてあれはまさしく『熱い』目だ。
これだけの気合いがあれば、デザイナーになれるな。
「…なるほど」
「わかりました」
「任せて下さい!」
「私史上、最高傑作を作ってみせます!」
こうして休憩時間は終わり、俺は帰る。
彼女は、早速ブツブツ言っていた。
お会計を済ませ、店を出て、
自転車の鍵を開けた。そこで下を向いていた俺は、
あることに気づく。
「…動かねえ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー自宅・半年後
こんなニュースがテレビから流れる。
17:43から、豪雪警報が〇〇地方各地にブチッ
「関係ねえ」
どうせ、今日も家を出る用事はない。
何故なら、うちは完璧だから。
食料は、いくらでもある。
副社長になっても暇なのは変わらなかったが、
収入は増えた。よって…冷蔵庫に余裕が無くなった。
でも、今日のような日にはそれぐらいでよかった。
「残っていたピーマンを千切りに…」
「そして、タケノコも千切りに…」
「生姜は…半分だけ使おう…微塵切り」
「豚肉に『酒』『醤油』『片栗粉』『ゴマ油』」
「全部混ぜ、焼く」
ッジャああああああああああ‼︎
「青椒肉絲の出来上がり…」
「あっ‼︎」
米が無い…
結局、街にいくことになるのか。
豪雪とは無縁のはずだったのにな…
とか思いつつ、玄関のドアを開けビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「もうほんとやだ…」
街への道は歩けば遠い。だが車で行くには近い。
だが今日は、自転車は使えない。
車の出番だ。寒い。
俺の車は、雪の積もった田舎の道を走る。
車の中は快適である。暖房もあるし…
(家の方がいいが…というかコタツの方がいいが…)
コタツ車とかって、開発されないかな…
そして、街が見えてきた。
『半』都会。ここにはデパートだのがある。
そこで米を買う。…ちなみに、会社もこの辺だ。
だから、うっかり部下に会うこともある。
「…あ、副社長じゃないですか」
「こんばんはっス」
「ああ、こんばんは」
…どうやら今日はその日だったようだ。
「すみません、5秒だけいっスか?」
「いいぞ、ごー、よーん、」
「ちょ、ちょっと待って下さいっスよ」
「これ、大事な話なんす」
「大事な話?」
「そうっス」
「今度の〇〇社との取引で、お土産何がいいかと…」
「…ああ、〇〇か」
「あそこの社長さん、やたらマカロン好きだから、」
「マカロン渡しとけばいいぞ」
「マカロン…マカロンってどこっスかねぇ〜?」
「確かあっちに…」
「…う〜んわからないっス」
「俺、東西南北派じゃないんすよね…」
「…はい?」
「案内してもらえますか?」
「その前に東西南北以外に何があるのか知りたい」
「いいからいいから…」
「えあ、ちょっと…」
今の部下…彼は新入社員だ。
つい二ヶ月ほど前にうちに来た。
チャラ男っぽいが、仕事の成績は実に優秀だ。
その彼が、なんで俺の背中を押して、
マカロンへと足を運ばせるんだ?
…ていうか…
「君、『営業部』じゃないよな?なんで取引ー」
「副社長、つけられてるっスよ」
「…え?」
「副社長は決して、振り向いてはいけません」
「特徴をいいます」
「茶髪に裸眼、二十代前半の女、」
「手にA3サイズの封筒を握りしめてます」
「赤ジャージを着て、じっと副社長を見てます」
「…こころあたり、ありますか?」
「…まさか…」
「っはは!なるほど、ストーカーな!」
「確かに目つきが悪いっちゃ悪い…」
「そう見えなくもないな!」
俺は、そういって高笑いした。
新人君は、「?????」ってなっている。
俺はこう答える。
「安心してくれ、知り合いだ」
さて、君の実力見せてもらおうか。
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「【藍澤 試練】24歳、デザイナー志望です」
「【時村 徹】39歳、ある会社の副社長をやってる」
「今日は、50,000円分以上の成果を持って来ました」
「うん、では早速…」
「何にデザインを施したの?」
「あ、そ、その前に…」
「通路に突っ立ってるのもなんですし…」
「ああ、じゃあ、あそこのベンチで」
「車!車がちょうどいいですねー!」
「暖房もあるし!」
「わー!あったかーい!わー!」
「…?」と、
俺は一瞬彼女が何を言ってるのかわからなかったが、
次の瞬間、したいことがわかった!
暖房にあたりたいのだ。
きっとあれからガスが止まったままだったのだ。
「…仕方ない」
車に入り、エンジンと暖房をつける。
「では、今度こそ…」
「ここじゃあ、店の音がうるさいですよね〜」
「…」
俺は一瞬彼女が何を言ってるのかわからなかったが、
次の瞬間、したいことがわかった!
きっと、車に乗るのが久しぶりなのだ。
気持ちは分からなくもない。
俺が都会に行きたがるのと同じことだ。
「仕方ない…」
ブロロロロロロ
「…この辺でいいか?」
「いや、まだ声が聞こえます」
ブロロロロロロロ
…どうしよう。
このまま彼女の地獄耳(嘘)が発動し続ければ…
そのうち俺んちについてしまう。
5分後
「おじゃましまーす…」
…なんでこうなるの?
いや別に俺はいいけどさ。
「…じゃあ、50,000円以上の物をお見せしましょう」
「!」
ついに…きた。
てっきり青椒肉絲をたいらげるかと思っていたが。
さあ、2日まるまる考えた成果を見せてくれ!
「これです!」
彼女は、A3サイズ封筒から、1枚の紙を取り出した!
そして、机に叩きつける!
バン‼︎
「…これは…」
婚姻届?
「結婚、しましょう‼︎」
「…はあ⁉︎」
「あたし!」
「自分と貴方が似てるってずっと思ってたんです!」
「『何故か』!」
「そして、この『宿題』を出された時!」
「貴方がリクエストで『都会』と答えた事で!」
「やっとわかったんです!」
貴方、寂しいんですよね⁉︎
「寂しい?俺が?」
「いやいや、それは違う」
「俺はただ、都会に住みたいだけで…」
「『都会』の何が好きなんですか?」
「…人がたくさんいて…」
「…人が、いて…」
「…人が…」
「…それを、『寂しい』というんです」
「…」
「あたしがデザインするのは貴方自身!」
「貴方自身の心!」
「みてください」
藍澤 試練は、部屋の中央に立ってみせた。
「これが貴方の欲しかったものなんです!」
「‼︎…」
「どうです?早く答えを出さないと…」
「あたし、帰っちゃいますよ!」
…
俺は…
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これが、数年前の出来事。
父さんと母さんの馴れ初めだぞ〜?
まあ、赤ん坊だし言葉はわからんだろうけど。
…こうして、50,000円はご円満に…
え?ダジャレが寒い?
いやいや、これぐらいがいいんだよ。
俺の隣にいる人は、
これからどんどん熱くなって、
世界一のデザイナーになるんだから…
Help each other ! /終わり
読了ありがとうございます!