6-3 欲しい物と必要な物
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーサリナ
シルを泣かせるだけ喜ばせておいてうちの兄貴はやっぱり使えない男だった。
「それじゃあまずは願い玉を割って中身を出すために、必要なものを集めよう。ツクモ石、神鳥オールムの卵の殻、トルダワクラブの甲羅、ツノダチ貝のツノ。が今足りないものだね。」
「はぁー兄貴…なんだそれ、今ある研究予算じゃ1つも買えねぇじゃねぇか、いくらすると思ってんだ!あのわけかんねぇ剣もう一本作るつもりか!?」
「王に、剣で願い玉の中身を取り出すから貸してと言うよりは確実だよ、サリナ」
「ダメ元でも言った方がはぇーよ!言えばいいじゃねぇかよ!」
「いやいや、サリナ。元々願い玉は王が罪人たちを罰するために発案したものだ、それを元に戻せるなんて証明してみろ?どうなると思う?間違いなく僕ら全員新たな願い玉として王の役に立つことだろうよ」
「……じゃあこの城建てるだけの金をどうやってあつめろってんだよ」
「城が建つの!?」
「サリナ、それは言い過ぎだよ、領主の家が4軒建つぐらいだよ。」
「そんな大差ねぇよ!」
「簡単さ自分で取りに行けばいい!」
「取りに…行けるものなの?」
「無理に決まってんだろ!すんげー高い山の頂上まで登って、何処にいるかわかんねぇトリ探して、魔獣の巣窟になってる深い湖の底に潜って、大型魔獣と戦えって言ってんだよこの兄貴は。」
「…それは…だれが?」
シルを指差す
「ムリムリムリムリ!城に忍び込んでディバイスターをちょっとの間借りてくるっていうのは?」
「成る程、3時間ほど借りて元に戻せれば問題ないな…」
「寝ずの番をしている兵士たちをすり抜けて、気配を読み取る王に熟睡してもらい、身の丈もある剣を借りてくるとしかもバレずにそれを戻してくると…すげーなシル!そんな事が出来んのかよ!」
「無理無理無理無理!」
「って事だシル…諦めよう。」
「なんとか出来ないんですか?コルムさん!」
「そうかー無理かー。ふむ。何か考えてみよう。」
「お願いします、コルムさん。」
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ってな事があった。
国宝級オンパレードを集めるか世界で一番警備が厳しい王の寝室に忍び込むか…
ははっそれだけでおとぎ話が二本できらーな。
街での仕事が終わって門兵に声をかけて城門をくぐると
「ついに見つかっちまったか…」
洗濯物を取り込むシルに男が話しかけている
「すっすいませんエディル様!こいつまだ雇ったばかりの新人で何か粗相をしてしまいましたか?」
「やぁ、サリナ!今日もとっても可愛いね!そのメイド服気に入ってくれたかい?いやーコルムから相談を受けてねぇ、サリナに似合う服はなんだろうって、僕は神鳥の着ぐるみが良いって言ったんだけどね、コラムがそこは譲らないって言うからさーじゃぁなんで俺に聞いたって話さ!どっちがキュートか着てもらおうってね、高かったんだよーアイズに頼んだらめちゃくちゃふんだくられた。」
こいつか…兄貴に余計な事吹き込んだ元凶は…
「そっ…それはありがとうご…ございます。」
蹴りたい…話がいい加減なのもイラつく…
「感想を聞こうと思ってね、コルムを訪ねて来たら、やや!見知らぬ美少女がいるじゃ無いか!これは何事だとおもってね。」
「貴方が…エディル?」
「様!シル、こんな…こちらにいるのは王子エディル様ですのよ、言葉におき…気をつけてくださいまし。」
「ちょっとサリナ、サリナの方が言葉づかいが変でございますわよ、エディルさんはそんな小さい男なわけ無いわ!器が大きい人ですもの、そうですよね?エディルさん」
「あっ…ああ!もちろんだとも、シル君と言うんだね、気兼ねなくエディルと呼び捨てに…」
「ありがとうエディルさん!そうさせてもらうわね!」
マジかよ、やっぱりエディルの事知ったんだな、なんかシルのペースっぽい
「シル!流石に平民が呼び捨てにしてるの聞かれると他の兵士たちが黙っていねぇんだよ。ほんとそれはやめとけ」
「そうね、でも周りがいないときはいいでしょ?エディルさん?」
「あ…あぁ勿論さ」
シルってこんな積極的な奴だったのか?ウジウジしてる奴だと思ってたけど…
そんな事を思っているとシルが俺にヘタクソなウインクしてくる
なんのつもりだこの女…
「ねぇねぇ、エディルさんは凄くお強いんでしょ?」
「いやいや普通だよ」
「でもそこいらの魔獣なんて虫を払うようなものなんでしょう?」
まさかシル…エディルを使おうって腹か?イヤイヤイヤ、王都からこいつを連れ出そうってのに無理があるだろ?王子様だぜ?
「まっまぁそうだな、軽い軽い」
「凄い!エディルさんが戦うところ見ていたいなぁ〜」
エディルの目が泳いでいる…困っている、レアなもの見たぜ…このまま話が進んで面倒ごとになるのもごめんだし助けてやるか…
「ところでエディル様。兄に用があったのでは?」
「おっおお!そうだった!コルムは中にいるよな?コルムー!」
エディルが逃げる様に家に入っていく
「ちょっとサリナ!なんで邪魔するのよ!」
「邪魔もなにもお前バカか?エディルを使って剣取らせるなり、素材集めさせようとしてたろ?」
「そう!おだてたら調子に乗ってくれないかなぁって」
「はぁー、やめとけ。あいつに期待するのだけはやめとけ、ただのボンボンだぜ?あいつ」
「だって強いんでしょ?」
「エディルが強い?ぷっ、笑わせる。ホントにそう思ってたのか?あいつが剣握ってるとかなんて見た事ねぇぜ」
「え゛?そうなの?だって剣狼はホント強かったのに…」
「まぁ俺は兄貴の様にお前の未来話は眉唾物って思ってるけどな、それを差し引いたとして、それ強かったの一千年後なんだろ?そりゃ一千年もありゃ強くもなるんじゃねぇのか?」
「言われてみれば…調子乗ってたし…狼だし…」
「まぁ悪い事は言わねぇ。やめとけやめとけ」
「なに!?それは本当なのか!コルム!」
家の中からエディルの興奮した声が聞こえる
「なんだ?」
シルと顔を見合わせる
「とりあえず、入ってみよ?」
家の中に入るとエディルが兄貴を振り回している
「コルム!流石だホントお前は天才だ。俺は間違いなくこの生涯を終える時こう残すだろう、我が親友、いや盟友、偉大なる発明家コルムと!」
うわぁ前にも見たぞこれ、ゼッテーろくでも無い事考えてる奴だ
「エディル様…あの…」
「ハハハ、サリナ、君は親友の妹だ、様なんてつけなくて良いんだぞ?」
「じゃぁエディル、兄貴が死んじまうから離してやれよ」
「おっ…ああ!すまんすまんコルム」
ドサっと兄貴が落とされる
「大丈夫ですか?コルムさん」
「あっああ大丈夫、大丈夫」
「それでコルム!それはいつ出来る?」
「ああ、作れるのは間違いないんだけどな素材が足りないんだ。ツクモ石、神鳥オールムの卵の殻、トルダワクラブの甲羅、ツノダチ貝のツノが必要だ」
それって…
「それはまた厳しいな…」
「無理か?エディー?それとな僕は発明家ではなくてー」
「いや、俺の夢が叶う方法がわかったんだ、やらん手は無い。わかった手を回してみよう。明日また来る!準備しておけ!」
そういうとエディルは慌ただしく家を出て行く、話聞かねーなホント
「兄貴までエディルを使うつもりか?」
「使うなんて人聞きが悪い、たまたま欲しいものが重なっただけさ」
「エディルもディヴァイスターを?」
「いいや、違うんだけどな。まぁ素材がかぶるとこもあるからついでに頑張って貰うってだけさ、手間賃みたいなもんだよ」
「ディヴァイスターぐらいの高価な素材な必要なものってなに作る気なんだ?」
「ああ、ちょっと高級なマントをね…」
「エディルのマント!」
シルが声をあげる
「シ…シル君…知っている…のかね?」
「ええ!それも必要です!作ってください」
「なんだよ、エディルのマントって」
「あっ、それ作る目的も知ってますからね、もちろん対処法も、コルムさんはくれぐれも使わない方が身の為ですよ。」
「何だよ、マント使った目的って」
「それはね…」
「シル君シル君シル君!誤解だそれは目的じゃなくて過程であってだな、そうだ必要なんだろ?だからな、ほらーあのーわかるだろ?なっ!なっ!」
「おいおいおい、ホント何作る気だ兄貴」
「空飛ぶマントだよ、空が飛べるの。それでね壁を飛び越えるんですって」
「ヘェ〜飛べんのか!それはすげーけど何でマントなんだ?ダサくねぇか?嗚呼エディルがつけてるぶんには普通か」
空飛ぶマントで何を慌ててんだ?ああ、城下町にお忍びするって事だな、それはまぁ城下町の女達には迷惑かもな…
「まぁシルが作れってんならまぁ大丈夫だろう、とりあえずは良かったじゃねぇか、素材が城の宝物庫とかにあるんだとしたらうまくいけば明日には物が揃うんじゃねぇか?」
「うん!」
シルが嬉しそうに笑う
「だとしたら兄貴、今のうちに寝とけよーしばらく忙しくなるんだろ?」
「サリナが添い寝してくれたら…」
「それは無いから諦めろ」
このクソ兄貴を何とかする物も俺に作ってもらいたいものだ。




