5-17 冷たい凱旋
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空模様が怪しいとは思っていたがポタポタと降ってきた雨は少しずつ勢いを増して馬車のホロを打ちつけてきた。
「ひどい雨…大丈夫ですか?雨具もだしますか?」
冬コートを着ていたマーダンさんとイルナさんもこれはたまったものではないだろうと声をかける
「いや…残念だがそうも行かなそうだ、直ぐに動ける用にしておかないと行けなさそうだ。」
「直ぐに?どうしたんですか?」
「あれが見えるか?」
馬車の進む街道の両側に兵士が立っている、いや、兵士達が…
「これって…」
「お出迎えだな」
「待ってください、まだ王都まではかなりの距離があるんですよ?」
兵士達は剣をや杖を胸元に両手でもちながら整列し、その列はその先どこまでも続くように見えた
「修練生もいるようだな、この全てが我らの敵になっても良いのか?という警告と言ったところか?」
「大丈夫なんですか?」
そう尋ねると同時ぐらいに会話の核での念話が来る。
『このまま街道を進むわよ。堂々としてれば大丈夫だとは思うけど念のため後方も警戒してちょうだい、配置はマーダンに任せるわ』
「分かりました。馬車の距離を詰めます。カイ殿すみませんが手綱をお願い出来ますか?イルナ、君は後方警戒、私は御者台で直ぐにでも前の馬車に駆けつけることができるようにする。シル様とソフィー殿は極力馬車の前の方に来てください。それと荷物を積んで後方から矢が飛んできても大丈夫なようにしてください」
「分かりました」「はっ!」「はい!」
其々返事をすると直ぐに配置に着く
「もう逃さないって感じですかね。」
カイ君が手綱を受け取ってそう言う
「そのようだね、済まないね、君たちはもっと早く下ろすべきだったよ。」
「いえ、商談を天に祈るつもりはありませんよ、自ら席に着いてないと後悔しますからね。」
土砂降りになった雨の中、兵士たちの列は続き
通り過ぎた後の兵士たちは馬車の後ろにつき着いてくる。
「これみんな操られてるの?」
「いや、どうだろうな、命令が下れば兵士たちはこれぐらいやるさ。でもまぁここまで生気なく立ってるってのは…そうなのかもしれないな」
「大丈夫なの?これ?」
「姫さまを信じるしか無い、信じてくれ。」
南門が見えてくる
『マーダン、どうやら貴方のお出迎えよ』
念話が届くと馬車が止まる
「マーリン…」
「おかえりなさいませ。ムスシタナ王。ルル姫様。城でセリス様がお待ちです。このままお進みください、ですが申しわけございませんが、我が兄マーダンはこの後至急2番隊引き継ぎがございますのでここまでとなります。」
マーダンが前の馬車に走る
「だそうよ、マーダン。2番隊引き継ぎって事ならイルナも必要ね。貴方達はここまでで良いわ。」
「姫!」
「マーダン、私との約束は覚えてる?」
「無論です。」
カイ君が馬車から降りてマーダンさんに向かい歩いていく。
「となると其方の馬車にシルさんたちも移動してもらいましょう。」
「カイ君。」
「まだ一介の商人である私が同車するわけにもいきませんしね」
「いや、カイ君も一緒に行きたまえ」
「いえ、今ここで貴方とイルナさんを失うわけにはいきません。あっ姫様、イカルガこのまま借りておきますよ。」
「かっこつけるじゃない。カイ」
「商人であると同時に男ですからね、この先を考えると僕がここで降りるのが良いと思っただけです。」
「分かったわ、3人とも城で待ってるわ。」
私は前の馬車に移動する。
「シルさん、姫をお願いしますね。」
イルナさんにポンと肩を叩かれる
「イルナさん…」
「隊長と副隊長、なんですよ私たち、ここにいる兵士達よりつよいんです。」
「でも!」
「大丈夫、別に全部倒せって訳じゃ無いんですから。任せておいて、直ぐに追いつくからね」
「はい…」
「姫こそ無茶しないでくださいね、行ってください。」
「何言ってんの、無茶しまくるわよ!早く来ないととんでもないことになるからねぇ〜」
ルルちゃんはそう言うと馬車を進ませる
私達が通り過ぎると南門が閉まっていく、3人が手を振っていた。
「さてと、こう来たか、じゃあ次はユウヒとモグラ君かなぁ。相手は十中八九アソーマね…2人で勝てる?右手が無いらしいけど。」
「大丈夫です。お任せ下さい。」
「リンちゃん、そのまま王に着いていて、こうなった以上そこが1番安全地帯よ。シルちゃん、フーセ君は出れそう?」
『どう?フーセ?』
『ってかもう出せよ、お前俺のこと忘れてただろ?』
「早く出せって言ってます」
「ギリギリまで待ってねフーセ君、貴方が最終手段になるんだから。シルちゃんリンちゃん、ありったけ魔力あげといて」
「わかりました」
城の入り口まで来ると姫の言う通りアソーマさんとレジスタンスの皆さんが待っている。
「おかえりなさいませ。ムスシタナ王。どうぞ城にお入りください。ですがシュウ、ユウヒ。お前達はここで止まれ」
「さっ行きましょう。お父様」
「おお、そうだな」
そう言うとおじさまの手を取り馬車を降りてそのまま城に入っていく
「ねっ、ねぇルルちゃんユウヒさんやモグラさんに何か…」
「大丈夫、ってあいつら言ったでしょ?だから大丈夫なのよ。」
「えっでも?」
「じゃあなんか声かけてあげたら?」
そう言われるとリンちゃんが振り返り声をあげる
「お二人ともアソーマさんは怪我してるので無理させないでくださいねぇー!」
「ぷっ」
ルルちゃんが吹き出す
「いいねぇリンちゃん。そっちの心配するの忘れてたわ、あっしまった、今のマーダン達にも言っとかないとダメだったわね」
閉まる扉の向こうで2人が笑っていた。
正面階段を登り謁見の間に進む途中
「おかえりなさいませ。ムスシタナ王、お疲れでしょうまずはおくつろぎくださいませ、こちらへ」
「フージ…さん…」
「姫、シル。貴方達はこのまま謁見の間へ、リン貴方はこちらを手伝ってくれるかしら」
「姫様…」
「リンちゃん、大丈夫。フージを手伝ってあげて、ある意味こっちより大変かもよ?」
「リンちゃん、いい。教わったこと思い出して貴方なら生き残れるわ。」
「えっ?えっ?」
2人でリンちゃんの肩をポンポン叩く
「何をしてるのですかリン、早く来なさい。」
「はっはいー」
リンちゃんが走って王様とフージを追いかけていく
「良かった、フージも引っ張られてるのは予想外だったけどこれでリンちゃんに何かあるってことはないでしょ」
「まさかまさかの私達2人でご対面か…」
「私もいるわよ。それにフーセもね」
『早く出せー!』
『うっさい』
「いい、基本的には話し合いするつもりだけど、いざって時はフーセ君に任せて私達は逃げるわよ」
「えっ逃げちゃうの?」
「殺されはしないと信じたいけどね、生きてればチャンスはあるわ。むしろシルちゃんより私の方がやばいんだけどね絶対。」
「わかった。」
「じゃあ行くわよ」
私達は最後の扉を開ける。




