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剣狼の願い  作者: クタクタニ
姫の願い
74/83

5-15 商人の解答

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカイ

新しい開拓には想定外は起こるものである。


「想定外、最悪の事態、そういったものを常に想定して動け。」

師匠にはそう言われて来た。


そうは言っても想定外を想定しろ。

完全なる矛盾である。

想定できないから想定外なのだと

最悪の事態を想定していたら何もできなくなる

そんな口答えをしたら師匠は笑って


「それはまだ商人の頭になっていないな」

とそう返された。

正直その言葉の意味はまだ理解出来ていない。

それなりに商会を束ねて大きくしているという自信もある。自分は商人だ、という自覚もある。

安全マージンを取りながら動けと言う事なのかと言う理解で動いてきたが

それでも師匠の言う意味はよくわからない。

まだまだなのだろうか…


イルナ、マーダンの2人を王都に送り出して4日目の朝、姫の元にモグラから連絡が届く


「馬の背に玉と花あり。」


玉は王。花はシルさんの事だろうか。少なくとも悪い事は書いていない。送り出した2人がうまくやってくれたのだろう。


「こっちも頑張った甲斐があったってものね、これなら計画通り進められそう、これは地盤だけでなく基礎工事にも入ってよさそうね!」


久方ぶりに姫の作り笑顔以外の笑みを見る。


成る程、作り笑顔のほうが綺麗ではあるが、この幼い笑みを見せられた部下達はこのためだけにでも動きそうではある。私にも出来るだろうか?いやこれは姫だから出来ることかもしれないな…


「ユウヒ、預けた七星剣の解析はどうなの?実は量産出来そう!みたいなことにはならない?」


「研究者達が目を輝かせて調べてはいますがね、そんな一、二週間ぐらいで解析出来るならもう世に。出回ってますよ。量産なんてとてもとても。」


「まぁそれは仕方ないわね…わかったことがあったら逐一報告あげてもらうようにお願いね。」


「わかりました。」


「さてとお父様を迎える準備をしなくちゃね。」


「この先の事を王に説明するのは姫様にお任せしますよ、必要が有れば同席しますがどうします?」


「うーんまずは私から1人で説明するわ、ただ話がとおったらお父様に改めて紹介するから近くで待機していてくれる?」


「わかりました。それにしてもこんなにすぐに王様を奪還して来るとは思いませんでしたよ、4日ですよ。行って帰って来ただけと言うか…」


「おそらく、そうなんでしょ。モグラがもともと動いていて丁度よいタイミングだったってことかしら。2人を送り出した私、さえてるぅ!」


「上機嫌ですね。」


「それはそうよ、目下1番の障害だと思ってた、谷に行ってみたら橋がかかってました。みたいな感じだもの。ただこれはこっちが忙しくなるわね。もっと時間がかかると思ってたから急ピッチで動かなきゃ。」


「そうですね、私はこれから王に見せる資料をまとめておきます」


「お願い。ユウヒ、スマート様にも王の事は伝えておいて、ただ、まだお母様には伏せておいて、怪我はしてないと思うんだけど無事をこの目で確認してからにするわ、そうじゃなきゃいつなの?いつなの?無事なの?ってうるさくなるもの。」


「かしこまりました。」


〜〜〜〜〜


昼過ぎになり王を乗せた馬車がこちらに着くそこで自分は師匠が言った言葉を少し理解する事になる


「想定外、最悪の事態、そういったものを常に想定して動け。」


自分は想定外や最悪の事態という言葉に重さを感じていた。が、それよりも重要だったのは「常に」だったというに気付かされたのはこの時だった。


「戻りました。姫」


「お疲れ様、良くやったわ。ちなみにそっちはどうだった?」


「それは後ほど…それよりも姫さま、先程王が目覚められたのですが…その…なんと言いますか…お耳を。」


イルナが姫さまに耳打ちする


「何ですって!?…わかったわ。私が直々に魔力を打ち込みます。直ぐに王を部屋に案内して、みんなも疲れてるところ悪いけど話を聞きたいから応接室に来てちょうだい。」


姫様の顔が険しくなる


「姫様、何が…」


「ユウヒ、メイド達を下がらせて、出来るだけ人払いを、カイ。見たほうが早いわ、あなたはイルナ達を手伝って」


人払い?…まさか!


慌てて馬車の荷台に飛び乗る


暴れる王をシルさんとモグラが抑えていた


「儂を誰と思っている!儂は城に戻らねば!セリスは!ファルは何処じゃ!ええぃお主らは何のつもりじゃ!」


「まだ操られている!?頭に魔力を打ち込んでいないんですか!?」


「カイくん!打ち込んだよ、打ち込んだけどダメなの、二回私が試したけどダメだった。どうなってるの?聞きたいのは私の方よ」


…仕方ない

王の前に跪く

「国王陛下、私は姫の側近の一人。カイにございます。」


「おお!ようやくまともなものが来たか!儂は城に戻らねばならない。直ぐに案内せい」


「かしこまりました、しかしながら王にこの様な粗末な馬車を使う訳には参りません。直ぐに準備を整えます。王にはその間フェルトのスマート様の御屋敷にておやすみ頂けますでしょうか?ルル姫様も王妃様もこちらで王をお待ちでございます。」


「うむ、わかった。直ぐに準備せよ」


「はい。ではこちらへどうぞ。」


(カイくんありがと、助かったわ)


耳打ちでシルさんにそう言われる

(あとは私に任せて少し休んでください)


王は操られている…のか?操られている割には王としての自覚はあるように見える。温厚な性格だったと記憶していたが駄々をこねる子供の様だ…違うのか?操りではなく…


「こちらでお待ちください、お茶をお持ちしますね。直ぐに姫がいらっしゃいます。しばしお休みください。」


静かに扉を閉める


ふぅ〜。自分もりんと共にメイド修行を受けた方が良いだろうか、接客と接待がごちゃごちゃになりそうだ。


「カイ君。お父様はどう?」


「城に帰るの一点張りですよ。とりあえず、馬車の準備するのでこちらで休む様にお願いしているという状況です。」


「そう…」


「暗示をかけられたとか操られているではなく洗脳されているという言葉の方があっているかもしれません。暗示などはショックで解けるけれど洗脳となると…」


「まずいわね…。いずれ私も魔力を打ち込んでみるわ、カイ君は馬車の準備をして、冗談抜きにここから直ぐ出て行かないといけなくなるかも…」


「…そうですね…わかりました。」


姫が部屋に入っていく


もし自分が言った通り洗脳となると一朝一夕で解けるものではなくなる、つまり王都に残るものからすれば王が誘拐されたという口実を与えることになる。


セリスさん達が軍隊を連れてここスマート社を取り囲む、王を出せと。王が自分の意思でここにいるとでも言えれば良いがそうでないならばスマート社も自社を守るため私たちを捉えて引き渡すことになるだろう。


どうする…もし王が元に戻らなければ…今までの下準備が全て無駄になる、またここの貴族達から信用を得るのも難しくなる。クソ


いずれ捕まるより先にフェルトを離れなければならない。どうするもう一か八かセリスさん達を暗殺…いや…あちらに着く…それは…クソクソクソ…


「カイ君!おじさまはどう?」


シルさんに呼び止められる


「今姫さまが対応してくださっています。ですが…洗脳は解けないかもしれません。」


「どうして?私の魔力が足りなかったのかも?」


「暗示では無く洗脳です、考え方を変えられてしまっている。どうやって洗脳を解くって言うんだ、私たちにはもう時間がない!どうにも…」


壁を殴るとシルさんが驚いた顔をする


「すいません、取り乱しました、予定が狂ってしまって気が動転してしまいました。本当にすいません。」


「うんん、私もごめんね。」


「いえ、シルさんは何も悪いことはしていない、すいません、やらなければならない事が有りますので失礼します。」


情けない、本当に情けない

師匠の言葉を思い出す


「想定外、最悪の事態、そういったものを常に想定して動け。」


まさに今が想定外の事態だ。王の頭に魔力を撃てば元に戻ると思っていた。想定外で最悪の…最悪の事態…?今は最悪なのか?


自分にとって最悪。自分が死ぬ事?ファイブアイズ商会の消滅?姫の敗北?

今一番近いのが姫の敗北で有るが…まだ確定したわけではない。ここで出てくる選択は姫の敗北を自分の敗北にするかどうか…

いいや、既に自分はフェルトの貴族達に姫の側近になる物と紹介されている、ここは天下のスマート社のお膝元。裏切れば命は助かっても信用は無くなる、こうなったら商人としての死がやってくるだろう。

腹をくくれ、もう姫に全てかけてしまったのだ逃げようとするな。


そうなれば姫の最悪を想定しよう


姫の敗北とは、王座に付けないこと。この混乱した事態だからこそ姫が王座に着くチャンスが出来ている。既に貴族達に根回しをしている。これができなかった場合噂は広がり、どんな形であれ姫はおしまいだ、政略的に使われるか、山奥でひっそりと過ごすか、死か…そんなところか…


約束は約束。ただし、まだ期限は決まっていない、いつまでに、と言うところの話はこれからだった。そうかまだ先んじて話をしておいたと言うことに出来るか。


とにかく婚約も改革も予定の為の根回しに来た、これから他の貴族達にも話を付けてくる、いつの話になるかはそれからすると言うことに…少々厳しいかもしれないがそれでまずはフェルトとの話は時間稼ぎができるであろう。


後はこれからどうするか…


セリスさんとファルさんをなんとかしないと行けない、小細工なしに正面から当たるしか無いのだろうか…


ユウヒ様、モグラ、マーダン、イルナ主要戦力となるのはこの4人。それに七星剣で有る剣狼様、ソフィー、ヴァルハラ、イカルガ、アブソリュート、ボスコミュール、アルテ。

ん?戦力としては申し分ないのでは?イカルガの力を使えばファルさんの魔術を無効化できるだろう、七星剣を持ったユウヒ様とモグラ2人がかりで勝てないならば誰が行っても勝てないだろう。


つまり最悪の事態で想定外の事態とは『ユウヒ様とモグラが2人がかりで勝てなかった』である。ならばそこまでは確実に2人をその場に連れて行く。それが自分のやらなければならない事ということだ。


何も解決してはいないがやるべきことが見えて少しスッキリする。


馬にブラッシングをしながら王のいる部屋を見上げる

「とんだ万馬券になってしまったな…」


ブルンブルルル


「そうだな、まだ悪あがき出来るだけましかもな。よし、やるか。」


そうだ賭けでここまで来たわけじゃない、天に任せる程自分は神様を信じていない。最後まで自分の力でつかみとるんだ。


師匠、答えになってますかね?



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