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剣狼の願い  作者: クタクタニ
姫の願い
68/83

5-9 フルベット

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカイ

ムスシタナ王国南の都市フェルト。スマートジーコ社の本社がある事により、王都と変わらない、もしかするとこちらの方が発展しているかもしれない規模の都市である。


こちらには頻繁に取引で来ているが本社まで入るのは実は自分も初めてである。この国ではファイブアイズは規模としては一番大きいのだろうがどちらかというと輸出の方が大きい仕事なのだろう、うちはそれなりの相手しかされていないそれがうちの評価、ここでなんとか名を売っておきたい。拳に力がこもる。


本社入り口にてユウヒ・スマート氏が出迎えてくれた。


「姫さま、お待ちしておりました。お疲れでしょう、まずは中でお休みください。」


「ありがとう、出来れば社長、お父様に面会をお願いするわ。手配をお願いできるかしら?」


「ええ、もちろんです。その前に王妃様にお会いください、とても心配されておりましたので。」


「案内して。」


本社隣にある屋敷というか、豪邸というか、そもそもこれは家なのか?城?に案内される。


「お母様!」


「あぁルル!無事ですか?怪我などは有りませんか?良かった、しっかり顔を見せて」


親子の感動の対面…なんだろうがルル王女のこれまでのことを考えるとなんとも演技の様に見えてならないがそこは何か言うところでもないのでスルーしよう。とりあえず部外者である自分が一緒にいても仕方ないので部屋を出る。

部屋の入り口でマーダン隊長とイルナさんが両サイドに立っている。


「流石にここにいるのは違う雰囲気です。」


「まぁそうでしょうね、あちらが応接室らしいですが…」


「いやいや、応接室とは言え流石に勝手に入るわけにもいきませんでしょう?」


「カイ殿にここで立ってまてというのも違いますね、私が事情を話して部屋を開けてもらいましょう」


そういうとイルナさんが走って行ってしまう。


「スマート社といえどこの辺りの配慮が無いようですね。」


イルナさんが居なくなった場所に私が立つとマーダン隊長がそう言う。


「いや、多分わかっていると思いますよ。今私は鑑定されているのでしょう、姫が連れてきたこの国の商人はどれほどのものかとね。他の国の商人と違って大きなマーケットは持ってませんからね、そうですね、王に謁見しにした小隊長といったところと言えばわかりますかね、多分それが私の今の評価です。」


「カイ殿が小隊長?それは余りにも低すぎませんか」


「いえ、他の国の商人と比べればこの国のマーケットはとても小さい。こう言う評価になるのは仕方ないでしょう、ですが。それでも私が今ここまで入ることが出来た事に大きな意味が出てきます。」


「意味ですか…」


「ビックチャンスという事ですよ。」


「なるほど、そういう事ですか、ならば隊長である私からカイ殿に1つ忠告と言うかアドバイスを差し上げましょう。」


「それは是非頂きたい。」


「私が見たところ、既にカイ殿は構えてしまっている。力がこもり目を見開いて殺気を放って居ます。商人の事は分かりませんがそういったものを私は感じます。いつも通りでいいんですよ、力が入ると周りが見えなくなりますから。張り切らなくてもいつものカイ殿であればチャンスを逃しませんから。」


「そうですか、殺気立ってましたか。ははっ、なかなかに自分ではわからないものですね。」


「お待たせしました、まもなくこちらにいらっしゃるそうです。応接室でお待ちくださいとの事でした。」


「ありがとうございます、そうきましたか…マーダン隊長。ご助言ありがとうございます。私らしくやってみます。」


そう言って、目の前の姫様がいる扉をノックする。


「姫さま、相手方がまもなく応接室にいらっしゃるとの事です。」


「カイ様!流石に今2人の邪魔は…」


ガチャっと扉が開き、姫がイルナさんを止める


「いえ、良いのよ。カイ、頼りにして良い?」


「何なりと、私の全ては姫と共にあります。」


「オッケー、ここでは小細工は通じない。スタートからフルベットで行くから覚悟して」


「良いですね、時は金なりと申します、一気に行きましょう。」


「ここからは一蓮托生よ!」


姫が手を差し伸べる、その手を取りがっちり握手する


「契約成立ね。」


「はい。運命共同体ですよ。」



応接室に移動し、姫の隣に座る。

今日は攻める


しばらくして部屋の戸がなりユウヒ氏が入ってくる


「お待たせしました姫、父をお連れしました。」


立ち上がり出迎える


スマート・ジーコ、初めて目にするその人は……親父にそっくりだった、というかオヤジ?いや、違う。似ているけど違う…まて、動揺するな。そんな事はどうでも良い、ここは商談の場、隙を見せるな


「あれ?親方さん?」


ダメだーー姫が崩れたぁー


「驚いたか?驚いたろ?なぁカイ?大きくなったな」


!?この流れはそういう事か?まて落ち着け違う、親父に兄弟はいない!


「なんだーカイ君の親戚なんだーだったら早く言ってよ!」


姫がバンと肩パンをしてくる。痛い。


じゃなくて、そうじゃないこれはこの場の流れを取りに来てる。


「だったら話が早いわ!」


「まって!姫さま!俺の親父に兄弟は…」


「ユウヒ。貴方、私と結婚しなさい。」


ボン、と親父の姿に化けていたジーコさんが元の姿に戻ってしまう。


「え゛ぇぇ!!?」


〜〜〜〜〜〜


「なによ?なんでカイ君まで驚くわけ?」


「確かにフルベットすると聞いてましたけど七星剣の事だとばかり…」


「あんなもんおまけにしかならないでしょうよ、欲しいなら多分この人なら自分で集めにかかってるでしょ、そうしてないのはさほど重要じゃないのよ、剣狼がいて解説してくれるならまだ意味もあったでしょうけどね。」


確かに、これほどの財力、集めようと思えば…


「ところでジーコ氏?客人の前で姿を変えるとはどういう事かしら?挨拶まだでしたけど、私を知らないって事は流石にないと思うのだけれども。」


「姫様いや、これはですね。」


ユウヒ氏が慌てる


「いえ、良いのよ、一応言ってみただけよ。私はそんな事は全然気にしていないわ、ユウヒ。」


姫がこれでもかと言うぐらい笑顔で笑う。うん。笑顔で笑っている。僕らの世界(商売人の世界)で言うアブソリュートスマイルだ。完全なる笑顔。その前には何も言えなくなる。


「ユウヒ、貴方はただうなづけばいいの、私と結婚しましょう。ねっ?」


「いや、あの?姫、それには色々と…」


「いや!まて!姫様。そう言った事はだな事前に…」


「あら?今私はユウヒにプロポーズしてるのよ、スマート・ジーコ社の男は女のプロポーズも一人で答えられないほど頼りないのかしら?そんな事ないわよね?ユウヒ?」


「あの!その!…」


「フフフっ、もうユウヒったら恥ずかしがっちゃって!」


完全にこの場は姫様の場となる、乗っかるか、いや自分の場に持ち込まなくては。


「ルル姫様、あまり意中の殿方を困らせるものではありませんよ」


そう言うと姫様が返してくる


「ええーこう言う時にしかユウヒ君の困った顔見れないんだもん!」


いやいやあんたそんなキャラと違うだろ?いや?そうでもないのか?


「姫様、そう言った話は段取りがございますので後ほどゆっくりと聞かせて頂きたいと思います。」


落ち着いたユウヒ氏がまじめに返してくる


「そうも、いかないのよユウヒ。ここで結論を出してもらうわ。」


姫様がまじめな顔に戻り真っ直ぐにユウヒを見る。


「私がこの国の王となる、そのためには貴方がいるわ。スマートジーコの力が有れば可能だと思っている。貴方私のものになりなさい」


「私の利益を聞きましょう。」


ユウヒ氏が姫に返す


もう完全に姫の場だ、私が付け入る隙は無い


「ユウヒの利益?そんなもの私の体を自由にできるしか無いわよ。不満ならこの話は無しよ」


待てよ、ユウヒ氏と結婚して

スマートジーコと強いパイプを持つと考えていたけど…

そんな事をしなくとも元々ユウヒは一番隊の騎士、それと結婚したと言うぐらいでは元々あった橋にメッキをかけるぐらいの効果しかない、それでも結婚する意味?


ユウヒではなくスマートジーコ社を手に入れる…

まさか!


「姫様、もうはっきりと言われた方がよろしいかと申し上げます。」


「さすがカイ君!言ってなかったのにもうわかっちゃったの?さすが!頼りになるぅ!」


「どういう事ですか!」


「ユウヒ、姫と結婚せい。」


ため息混じりにジーコ氏がそう言う


「私が王になったら国の武具を国有化するわ、元々少ない需要となった武具をスマートジーコ社のもの一本にする。武具に関税を設けてさらに登録制にするわ。」


ん?思ってたのと違う。

ジーコ氏も…どうやら自分と同じだったようだ、目を見開いている


「その場合国の問屋や販売店が騒ぐでしょう、そこでカイ君貴方を財務大臣として私の下についてもらうわ、ファイブアイズは元々潰れそうになった武具店を救いながら大きくなってる、それをまるごと買うわ。」


「はっ?財務大臣?」


「ええ、もう約束したものね、一蓮托生。運命共同体。」


やられた!この人最初からそのつもりか!


「それともカイ君も私が欲しかったりする?その場合、一妻多夫になっちゃうけどね。」


「姫様その発言は流石にいけませんよ。」


こうなれば行くしかない、この姫に全てを賭けてみよう。今が勝負の時だ後を押さずしてなんとするか


「財務大臣と姫の不祥事は流石に世間が許しません。」


ニコッと姫が笑う


「さすがカイ君。大好きよ。」


そしてふたたびユウヒ氏を見る

「さっユウヒ覚悟を決めなさい。ここからちょっと忙しくなるわよ。」


そう言う姫を見て悔しいと感じてしまった自分がそこに居た。




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