5-8 脅しと交渉
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーシル
「剣狼さん!」
リンちゃんが地下に潜って来た剣狼に抱きつく
「いやいやすまんかったな、余りにも的確に飛んで来るから敵の攻撃かと思って切り払ってしもうたわ。」
「あわわ、すっすいません、私なんで受け取ってくれないの?って思ってムキになってしまって…」
「いやいや見事じゃよ、王都の兵士たちが触れることもできんかった儂に一撃当てたんじゃ大したもんじゃ」
「えっと…その…ごめんなさい。」
「なぜ謝る?そのおかげでここまで来れたんじゃ、よくやったぞ、りん。」
頭を撫でられて嬉しそうだ。
「さてと、もうええじゃろ」
そう言うとぶちぶちとボタンを飛ばして上着をぬぐ
「なっ何してんの!?」
剣狼が狼の姿に戻る
「やっと楽になったわい」
「あぁ、元に戻っちゃったんですかー剣狼さん」
「もう窮屈でしょうがなかったんじゃ、この開放感たまらんのぉ。」
「もうダメですよ、ボタン飛ばしちゃ、借り物なんですから、後で直しておきます。」
「ええじゃろ、同じのいっぱいあったし」
「ダメですよ、ほら公式の物だとか言ってたじゃないですか」
「それな、何処の奴も同じじゃと思っとったわ」
「はぁー本当にダメね。何処の奴も同じよ、カマかけられたのお分り?」
ソフィーが剣狼の背に留まる
「なんと!まんまとやられたのぉ、となるとあのうるさいばーさんがやばいかの?」
「大丈夫じゃないかな、操られてるって言ってもお姉ちゃんの記憶を持ってるんでしょ、フージが直接何かしてない限りお姉ちゃんは近づかないと思うよ、私でもそう思うもの」
「フージさんは優しい人ですよ!キビシイですけど…」
「私とお姉ちゃんとルルちゃんはそれがトラウマレベルなの本当あれで相当丸くなったんだからね」
「でもでも、心配です。」
「まぁどうにか連絡はしましょう、あそこに今戻るのは迷惑がかかっちゃうから戻れないけどね。」
「戻るって約束したのに…」
「直ぐに戻れないってだけよ、落ち着いたら戻れるから。」
「はい。」
「じゃあ剣狼、アソーマさんのとこまで行きましょう」
「あやつか、無事だったんじゃな」
「無事ってわけでもないんだけどね…」
〜〜〜〜〜〜
「これは剣狼殿。」
「なんじゃ隊長、利き手を奪われたか」
「いやはやお恥ずかしい」
「ネルを一人で相手して腕一本で済んだならば大したもんじゃよ。」
「ネルと言うのはあの世界を束ねたと言うネルであってるのでしょうか?」
「そうじゃ。そのネルで間違いないのぉ。」
「となればこんなチャンスはない、再び剣を交えたいですね、次はなんとか一太刀浴びせたい」
腕切られてなんでもう一回戦おうとするんだろ、理解できない。
「さてと、剣狼様たちは王都から出た後どうするおつもりで?」
「アストレアに戻るつもりじゃったがそうもいかなくなってな、これから相談じゃ。お主はレジスタンスといったところかの。」
「そうなりますかね、私の目的はムスシタナ王の奪還。その為にお力をお貸しくださいませんか?」
「いーやーじゃ。」
「そんな事言わないで助けてもらったんだし。」
「それはそれ、これはこれじゃ、儂らを助けたのはたまたまじゃろ?礼は言うが恩を感じるほどのものではないな、ましてや王奪還と言えば聞こえはいいが側から見れば国王の誘拐じゃ、さらってもし洗脳が解けなければ。超の付く犯罪者じゃぞ。」
「いまさら犯罪とか言うんだ剣狼」
「わかった、言い方を変えよう、メリットが無い。それをする事で儂には何か良いことがあるか?姫が王都を取り戻した暁にはとか言うなよ、それはすでにもらうことになっておるのだからな」
「ふむ、ではこちらが出来る交渉のカードはシル殿ですかね。」
「私?」
「おそらくですがシル殿を奪い返すのあちらはそんなに本気で無かったのでは?」
「どう言うことじゃ?」
「多分追ってはついたでしょうが無理をしてでも取り返そうとはしなかったはずです。お心当たり…ありますよね」
確かにお姉ちゃんやセリスさんは話はしたけど何もしてこなかった…
「単純にこの国の兵士がヘボいだけじゃろ?」
「では率直に言いますとおそらくシル殿には何処にいるか特定の出来る術のようなものを掛けられているでしょう。」
「なるほど、では何故ここに兵士はこんのかな?」
「1つはここがまだ王都の中だから、もう1つはここが地下だからと推測されます。」
「推測で交渉か?」
「いえ、出来る限り検証は行いました、但し確証はありませんので推測ですね。」
「して、むろんそれを解くすべをお主はわかっておると言う事で良いか?」
「ええ、勿論。王都からの脱出方法は無償でお教えしましょう、追尾を逃れる方法はこちらに協力していただければお教えします。」
「もはや脅しでは無いか?」
「いえ、交渉ですよ。」
「儂に何をさせたい?」
「明日の朝にはシュウが戻ります。私達は王の奪還を試みます。剣狼殿には明日もう一度街で騒ぎを起こしてあの2人の目をそちらに向けさせて頂きたい。」
「オトリになれと言うことじゃの。」
剣狼が目をつむる
「りん済まんがやはりボタンをつけ直してくれ。」
「はい。」
「では?」
「ええじゃろう、やってやる。しかし、シルの追尾を解くのと王都脱出方法を教えるのが先じゃ。お主らが死んでしまうたら骨折り損になるからの。」
「ありがとうございます。後でこの地下の地図をお渡ししましょう。それに町の外への街も載っています。明日一時的な休憩として地下を使うのもいいでしょう。活用してください。最悪の場合、地下道には所々オレンジ色の紐がぶら下がっています、それを引けば道を塞ぐことが出来ますのでもしもの時はお使いください。まぁ出来れば地下はバレない方が良いのですけどね。」
「わかった、それは良いだろう、シルの方は」
「それについては申し訳ないのですが…」
「なんじゃ嘘か!」
「いえ、実は既に解いて有ります。どうやら虫の特性を使った追尾のようでなんらかの形で体内に寄生させるようです、おそらく食べ物にでも入れているのでしょうか、その虫に寄生されると体臭が変わり雄の虫を呼び寄せるようなんですそれを使った追尾のようですね、後で剣狼殿も念のためその寄生虫を殺すハーブの入った特性シチューをお食べください。」
「あっ!さっきのあれそう言うことだったんだ。」
「すまない、まさか体に寄生虫がいるかもなんて君達に伝えるのは不快な思いと思ってね、黙って食べてもらった」
「そうだったんですか。気を使っていただいていたんですね、こちらこそありがとうございます。」
「かっかっか、確かにこれは交渉じゃ。明日は儂が王都を騒がせてやろう、コガラス手伝えよ。」
「私も何か手伝えないでしょうか?」
「りんは会話の核で通信。シルには儂の補給を手伝ってもらうからな」
「オッケー」
「よし、それではまず。シチューを持ってこい。そしてリン、干し肉夜の分じゃ。それを食ったら晩飯にしよう。」
「どんだけ食うの剣狼」
「儂ここ数日運動のしすぎじゃ、りん腕をふるえよ!儂が全部食ってやる。」
「はい、喜んで!」
リンちゃんもほんとに喜んでるし、尽くすなぁ〜
王都脱出の予定が王さま奪還へと変わる
剣狼が珍しくやる気だし、アソーマ隊長もモグラ君もいるし。なんとかなるのかな。
心配なのはここの食料の方かな?
リンちゃんが張り切って大量のご飯を作っているのを見て苦笑いしてしまった。




