5-5 逃げの選択
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー剣狼
正直なところ見通しが甘かった
監視が付いているのは予想していたが直ぐに巻く事が出来ると思っていた、こんなに直ぐに大きな手を使ってくるとも思わなかった、更に言えばまた規模での洗脳ができているとも思っていなかった。
甘かったのぉ…
シルとりん、2人にはまだいけるとはゆうたがちょっと厳しいのぉ、2人を乗せて屋根づたいに逃げるぐらいしか思いつかん、流石にそれはあやつらも想定してるだろうしな…まぁ出たとこ勝負かの。直ぐに流れるように元の姿に戻っておくか?いや、初めて見せるこの姿であれば警戒してくれるかもしれんの、時間稼ぎぐらいにはなるやもしれん。
城門前の階段が見えてくる
セリスとファルがそこで待ち構えていた。
「シル、お客さんが来たら教えてくれないと、ちゃんとご挨拶しなきゃいけないんだから。」
「お姉ちゃん!」
「はじめまして、王の側近をしておりますセリス・ガルデニアです。そちらはどちらの使いの方でしょう?」
「私は…」
っと一歩出ようとしたりんの肩に手を置いて止める
「これはこれはご丁寧に、それにこの大通りを開けてまでのお出迎え有難うございます。私はロウ。訳あって主人の名は明かせませんが、王都の道にはうとくてですな、こちらのお嬢さんに道案内してもらっておりました。」
「その忠義は立派なものですが、でしたら公務用の正装で無い方がよろしいのでは?それは北のアストレア家のものですよね?一目でわかってしまいますよ?」
そういうものなのか?知らんかった
「いえいえ、アストレア家ですか?似た服を着ているだけで、そちらの人間とは限りませんよ。私がそうだと言わない限りにはね。」
「はっはっはっ面白いことをおっしゃる、では服ドロボウという事かな?」
「いやいや、ドロボウとはまた手厳しい」
「盗人かも知れない人間をこの街で歩き回らせる訳には参りません素性を明かさないので有れば捕まえなければならなくなります。」
「それも困りますなぁ、では直ぐにここを出て行くので見逃して頂けませんか?」
「ええ構いませんよ、シルこちらにいらっしゃい、そちらの方たちはお帰りになるそうよ。」
まぁそうなるわな
「お姉ちゃん、街の人たちを洗脳したの?」
「洗脳?ああ、王様の勅令でこの道を通るなって通達したのよ、知らなかった?そしたら道の真ん中を貴方達が歩いてくるじゃない?誰かと思ったわ。」
まだ言うか
「そうでしたか、ではこの道を戻るわけには行きませんな、私達は先程ここに着たばかり道はわかりませんのでシルさん街の外までの道の案内をお願いしますよ。」
「いえいえそれには…」
「もういい!」
ファルの声を遮りシルが叫ぶ
「お姉ちゃん!私をどうするつもりなの?何がしたいの?全然わからない!このままでもいいかって思ったけどやっぱり2人ともおかしいよ!勅令?そんなわけないじゃない!」
「もう、シルったら。毎日ぶらぶらしてると思えばそんなこと言って」
(化かし合いをしていても何も得られそうには無いな…逃げるか、儂を剣狼だと気付いているかどうかわ分からんが2人の前で見せるのは得策ではないかの…シル、コガラスの力で屋根づたいに走って流れるか?)
(屋根の間を飛び越えるのは多分大丈夫だけど、ここから屋根の上までは飛べないよ)
(上までは儂が連れて行く、リンは儂が抱える。よいな)
「ところでお二方に1つ訪ねてもよろしいか?」
「なんです?」
「いや、化かし合いにも疲れましたし、1つ種明かしをして頂けたらとね、まぁここまで誘導された訳ですが、人の誘導はあの城から上がっている狼煙でやっていたのですかな?」
「狼煙?」
2人が視線をそらした瞬間
シルとリンを抱えて屋根の上まで飛び上がる
「おや、厨房の煙突でしたか、勘違いでしたな。古典的な手で申し訳ない。」
2人はこちらを見て
「そのようですね。またお会いしましょう。」
そう言って黙ってこちらを見送った
くそ、余裕じゃな。まぁ想定内じゃろうからな。
「このまましばらくは儂が抱える、コガラス、上から見て街を囲んだ壁に飛びうつれそうな場所を見つけて案内せい」
「はいはい。」
「リン、使えるかはわからんがマント出しておけ」
「はい」
(はーい、良いかしら?東と北はやめた方が良さそうね壁の上にも兵士がいっぱい。西はこちらにおいでと言わんばかりにガラガラ、北西辺りの屋根からは壁の上に移動できそう。南はそれなりにいるけど広い公園を挟むから飛びうつれる場所はなさそうね、どうする?)
(城の南を通って西に抜けると見せて、南をマントを使って壁まで飛ぶ、そこで元の姿に戻っておさらばという段取りで行く、コガラスそのまま案内せい。)
「私、自分で走ろうか?」
「追ってに捕まりそうになるまではこのまま行く、痛くても我慢せいよ2人とも」
2人を小脇に抱えたまま、屋根を飛び回る、下では兵士達が追いかけて来てはいるが、今のところ屋根の上までは上がってくる様子がない。
どうぞご自由にって感じじゃな、まずいかも知れんのぉ
どこに行こうと壁さえ超えられなければ良いという事かな。
(コガラス、こちらはしばらくよい、壁の向こう側見て来てくれ)
(はーい、高度を上げて確認するからそちらも見てるわよーーって、兄さん、残念ながら正解みたい。西と南は壁の向こうに騎馬隊が待機中ね)
「やはりかー参ったのー行きは良い良いじゃな。」
「どうするの?」
「強行突破かの?」
「私が残るわ。」
「いや、あちらには逃すつもりはないじゃろ、シルを置いて言ったところで儂らを逃すメリットなど何もないからの」
「あっあれは?ルルちゃんの部屋にある、緊急避難通路」
「更に中に侵入か…ファル嬢も知っておるのじゃろうが…強行突破よりは可能性があるかの。」
(コガラス、城内に侵入する、とりあえず戻ってこい)
下から見えにくいところで止まり2人を下ろす。
「良いか、マントを閉じれば姿を消せる、しかし流石に3人も入れん、2人でも完全に消えたままで移動はできんじゃろう、お主ら2人とコガラスはここで姿を消して夜を待て、夜になったら、コガラスのやつの力を使いながら城の北側の壁付近に移動せい、その辺りに肉屋がある、そこの建物の裏手から儂が昔出入り用に作った抜け道がある。そこで待ってろ。10時の鐘が鳴っても儂がこんようならコガラスと相談せい。よいな?」
「剣狼はどうするの?」
「少々街を撹乱してくる。」
「剣狼さん!」
リンが抱きついてくる、
「待ってますから、絶対待ってますから。」
ぽんと頭に手を乗せ
「心配するな儂を誰じゃと思っとる。」
「はい!絶対ですよ!そうだこれ非常食です。」
リンがカバンから干し肉をだす。
「夜の分はまたもらいに来てください。」
「かっかっか、そうじゃな、絶対もらいに戻ってこよう。コガラス頼んだぞ。」
「任せて」
コガラスの声を聞いて一人で飛び出す
追っ手は…儂について来ているな、よし。
貰った干し肉にかぶりつく
やはり肉は元の姿で食った方が美味いな
しかし力は湧くのぉ
せっかくじゃし久々に少し暴れてもいいかも知れん。
以前自分が講演会を開いた広場が見える
「あそこにするか。」
広場に降り立つと同時に手頃な兵士から剣を奪う
次々に兵士達が広場に集まってくる
「かっかっか、今日は傍聴人が多いのぅ、嬉しい限りじゃ。今日の講演は剣の正しい使い方じゃ。」
広場の時計で今2時を過ぎた辺り…
「儂の講演量は命となるから覚悟して聞けよ」
日が落ちるまで少し長めの講演になりそうだ。




