4-21 動き出す時計
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーシル
沈黙…
馬が走る音だけが響く
お姉ちゃんは口を開かない
私も何を話すべきかわからない。
これからどうなるのか、
私も操りの核で操られるのか?
実は自我が残っていて私を守ろうとしてくれているのか?
ソフィーよりも私を連れて帰る事を優先した。
あの時は懇願してみたものの、お姉ちゃんが言った通り交渉にもなっていなかったはず。
単純に馬が一頭しかいなかったから?
わからない。
私はフーセの核を握る
「そのフーセの核。どんな力があるの?」
私が核を使おうとしたと思ったのかお姉ちゃんがようやく口を開く
「わからない、魔力を込めても何も起きないんだもの」
「どれ?貸してみて。」
お姉ちゃんがフーセの核に魔力を込める
「ほんと、何も起きた感じがしないわね。賢智の核で調べなかったの?」
「ルルちゃんは調べてたみたいだけど…わかんなかったみたい」
「どんなになってもフーセはフーセなのね、何が起きるかわからない。」
「ほんとよ、使えない」
核が赤くなる
「あらあら、もしかしてフーセ意識はあるのかしら」
色が変化したのに気づくと直ぐに答えに行き着く、お姉ちゃん、なら…でも…
「そうだと思う」
嘘をついても直ぐバレるのは知っている、答えを濁す事が私の精一杯、
「お姉ちゃん、自分が変わったって自覚はあるの?」
落ち着いている今なら答えてくれるだろうか
「そうね、無いと言ったら嘘になるかな?」
「セリスさんが好きなんだよね?でも今セリスさんはネルって人なんでしょ?」
「セリスはセリスよ?ネルは私、私をセリスが受け入れたの。だからセリスと私は1つになっているの」
「???、意味がわからないよ?」
「そうね、わからないでしょうね。わからなくてもいいの私とセリスが分かっていれば…」
ルルちゃんはお姉ちゃんは操られているのではなく洗脳されてるって言ってたけど…この辺りのことたんだろうか。
「お姉ちゃん、村の人達から私とフーセの記憶を奪ったんでしょ?なんで?」
「あら?記憶を奪ったわけじゃ無いわよ、皆んなには気にするなって言っただけ。記憶がないわけじゃ無いわよ」
「でも!」
「心配かけたいわけじゃ無いでしょ?それとも心配して欲しかった?そんなことしたらおじ様はともかく叔母様は倒れてしまうわよ?」
「そうなんだけど…」
「それよりシル、貴方ちょっと臭いわよ?お風呂入って無いでしょ?王都に着いたらまずはお風呂ね」
そのあと…王都に着くまで私が口を開くことはなかった。
〜〜〜〜〜〜
王都に着くと、言っていた通り直ぐにお風呂に連れて行かれる。着替えも用意するからと私の持っていたものを全て持っていく、フーセの核だけは取られる事を拒絶した。
なんの能力かわからないと告げたのを信じた訳では無いのだろうが、お姉ちゃんは無理に取り上げるような事はしなかった。
フーセの核をタオルでグルグル巻きにしてお風呂に入る
正直5、6日入れなかったので嬉しいといえば嬉しい
体を洗っていると鏡に映った自分の二の腕に何ががある
「これは…」
リンちゃんがルルちゃんに付けていたマーカーと同じもの
最後腕にしがみついた時にリンちゃんが付けたんだ。
マーカーに魔力を込める
(リンちゃん!聞こえる?)
念話を送る
(あぁシルさん!無事ですか?)
(うん、大丈夫、今王都に着いてお風呂に入れられてる。そしたらマーカーがついてるんだものビックリしちゃった。そっちは大丈夫?)
(こっちはモグラさんと剣狼さんと合流しました、マーカーをとっさにとは言えシルさんに付けてしまったので姫様と連絡が取れなくなったので合流地点のフージさんの所に向かっています。)
(そう、良かった、ルルちゃんには私は大丈夫だから気にしないでって伝えて)
(ダメです!だって私のせいでシルさんが…)
(うんん、リンちゃんのせいじゃない、皆んなそう言ってるんじゃない?リンちゃんは何も悪くないよ、ちょっと運が悪かったってだけよ。こっちはまだ着いたばかりだからそんな話せる事も無いんだ、何かわかったら連絡するね、)
(ハイ…わかりました)
元気が無いな…
(リンちゃん、ありがとうね)
(何がですか?)
(このマーカー見つけた時ほんと嬉しかったんだ、心強かった。ありがとう。)
(そんなの当然です!)
(ごめん、誰か来た、また隙をみて連絡する)
「シル、着替えここに置くわよ。」
「うん、ありがとう」
「あら少し元気になったのかしら?」
「5、6日ぶりのお風呂だもの、スッキリもするよ」
「そう、あまり長く浸かってのぼせないようにね」
「はーい」
お姉ちゃんが脱衣所から出ていくのを見計らって直ぐにお風呂から上がり着替える、マーカーが見つからないようにしなきゃ。
グルグル巻きにしたフーセの核を取り出す
ピンク色?
「グルグル巻きにしても見えるとか無いわよね?」
フーセが赤くなる、どっちだ!?
「もうわかんないわよ、まぁもういいわ、それよりフーセ、いざという時は頼むわよ」
核の色が目まぐるしく変わる、任せとけって事かな?
「ホント、お願いなんだから…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーモグラ
今回の失敗は完全なる自分のミスである。
トルダワでは連れて行っての失敗、大きい娘を怪我させてしまったのは私の落ち度である。
今回のタアキ村にいたってはその反省を生かし、彼女らを置いてアブソリュートを確保することに成功するも、戻ってみると大きい娘が連れて行かれてしまう。
なぜフクロウと小さい娘を置いて行ったかは不明、単純に大きい娘に用があったと考えられるがその理由はわからない。
小さな娘はずっとごめんなさいと言い続けている。
私にはかける言葉が見つからない
私のせいだから気にするなと言ったところで意味はないだろう。
とにかくここに居続けるわけには行かない、監視の目は私が見る限り無さそうでわあるが狼と私のスピードについてこれるものは早々いないであろう。何のために回り道をしてアストレア家に向かう。
おそらくあちらにも手が回っている可能性が高い、近辺まで行ったら様子を見る必要があるだろう。
移動して1日経ったあたりだろうか、大きい娘から小さい娘に連絡が入る。相手にわからぬように通信手段を持つあたりは賛辞を送る、その小さき体でその判断力。仕込めばかなりの隠密になるであろう。
わかったのは大きい娘は王都にいて、無事。不当な扱いは受けていないという事だ。また様子を見て連絡をくれるとの事だがこの先はわからない。しかし、連絡が取れた事で落ち込んだ小さい娘が顔を上げるようになった。余計な事は言うまい。
それより3日、小さな娘も気を張っていた事に便乗し、ほぼ休みなくアストレア家近辺まで来る。
流石に限界だったようで娘を休ませて、狼とフクロウに任せて近辺調査に入る。
見たところ代わりは無いように見える。
姫さま達も見当たらない。
私は本丸であるフージに直接接触をし、安全性を確かめる。緊急事態とも言えるので少し手荒な接触となったが安全なようだ。
私は小さな娘を連れてフージに預ける。フクロウとオオカミもここに残し、私は姫達の足取りを探す事にする。
探して見ると既に近辺で調査に入っら事に気づく
姫達に安全性を伝えて無事合流となった。
姫はイライラしておいでだった
「事象はわかったわ、それで?七星剣は確保したのね?」
「はい。ここに。」
アブソリュートとボスコミュールを出す
「一応聞くわね、何か言いたい事はある?」
「有りません。」
「それはモグラとして?シュウとして?どっち?」
「気づいておいでだったのですか!?」
マーダンとイルナがギョッとして姿勢を正す。カイ殿は変わらないところをみると気づいていたのだろう、成る程、それで他人行儀に…
「もう貴方のプライドに付き合ってあげる余裕は無いわ、それはわかるわね?」
「死んでお詫びを」
「はぁ?死んで許されると思ってるの?貴方を私が怒ってる理由を理解してる?」
「それはこの度の失態を…」
「それが1つ目、他は?」
「姫様に偽りを…」
「それはまぁわかっていたけど…そこも含めて…」
姫は真っ直ぐに私の瞳を見つめ
「貴方は私の期待に裏切ったわ。」
「はい。」
「隠密なのも知ってる、基本単独なのも知ってる。それでも私は貴方は優秀な人間だという事も知っている」
「いえ、私は優秀ではありません。」
「ダメよ、それこそ許さない、貴方は優秀でなければいけない。我が国の一番隊シュウ・ショートガーデン、今より貴方のその名は私が預かります。この失態を消すまでその名を名乗る事を禁止します。これから貴方は私にあの時はこれで良かったと思わせるように動きなさい、わかった?それまではモグラよ。良いわね。」
「はっ!」
「説教はここまでよ、貴方が知っている事全て話しなさい。」
私は話す事件当日の事を
王の指示により警護はアソーマに任せ、私とユウヒは王妃様を連れてユウヒの実家であるスマートジーコ社に行き、私は王妃様をユウヒに任せて、王都の状況調査、及び姫様の捜索をしていたところ合流した事を告げる。
「そう…お母様は無事だっのね。良かった。」
話のくぎりを感じたのかフクロウが口をはさむ
「ファルちゃんから剣狼とルルちゃんに伝言を預かったわ、貴方たちの願いを叶えるにはもう時間はない。早くいらっしゃい。ですって。」
「私の願い…王都奪還。お父様…を殺す?いえ、それでは…国が無くなる?まずいわね、戦争が起きる。」
フクロウが首をかしげる
「戦争?なんで?」
「どの国でしょうか?」
理解したのかカイ殿が身を乗り出す
ムスシタナ王国は北のザビア王国、東のベルキア王国、そして南のホリック諸島連合国がある
「目的を考えると連合国では少々弱い。北は正直攻めにくいのを考えるとベルキアが一番臭いわね、マーリンから情報を引っ張っている可能性もある。」
「姫、なぜ我がベルキアと戦争に!?」
マーダンが身を乗り出す
「私の目的、王都奪還、正確には私が王になること。これはムスシタナ王国の王という意味ね。私の目的が叶えられなくなる。つまりムスシタナ王国の消滅。もちろん綺麗さっぱり無くなるという意味ではないわ、おそらく新しい国に作り変えるという意味じゃないかしら。」
「国を作るのは民です。」
「そうね、本来そうあるべきよ、でも裏技もある。周りの国にそう認識させるという手よ」
「それがまさか…」
「戦争よ。隣国を襲い、それは新しい旗デンゼル王国とうたうの、ムスシタナ王国より現れるデンゼル王国の旗。デンゼル王国を止められない ムスシタナ王国。もはやその時点で隣国からムスシタナ王国が死んだのだという認識となる。強制的にムスシタナ王国国民はデンゼル王国国民にされるということよ。」
「そんな…」
イルナが口を抑える
「時間が無い、私達はこれより南のスマートジーコ社に向かい七星剣を交渉のカードにし、戦力の増強を図ります。」
「はい」
「モグラ、貴方は直ぐに王都に向かい現状の把握、優先順位は、アソーマの安否、相手の戦力、シルちゃんの安否、ファイブアイズ商会のパイプの状況、情報は細かくこまめにお願い。手段は任せる。」
「御意」
「ソフィー悪いんだけど貴方はここにリンちゃんと残ってくれる?リンちゃんを心配してるのもあるんだけど、シルちゃんがいつ操られるかわからない、もしかしたら既に操られている可能性もある。マーカーを使ってこちらの場所を特定する可能性もある、けれども、もしかしたらそれが希望になる可能性も捨てきれない。わかったことがあったらフージに伝えて、フージから私に連絡させる。」
「リンには…」
「後で私から説明するわ。その時は同席して」
「わかった」
「私達は明朝出立します、それまでに準備するように、解散」
私は直ぐにアストレア家を出る
私はモグラ、名を失ったモグラ、どこにでも現れ何処にでも行ける。名前に執着があるわけでは無いが、拾ってくれた王にアソーマに泥を塗るわけには行かない。
姫さまは私にモグラとして生きるチャンスを下さった
彼の方に、大きい娘に、小さな娘に報いるため
姿見えぬ闇、その真髄を今こそ発揮しよう




