4-18 クー兄弟
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーマーダン
私はムスシタナ国の隣ベルキアに生を受ける
マーリンは私が生まれて一年後に生まれた
父はベルキア王国の近衛隊長
母は主婦として家や私達の面倒をよく見てくれた
父は私達の自慢だった
そんな父を追いかける様に私とマーリンは木刀を交わし、父の隣で鍛錬をするのが日課となっていた。
幼少期、私とマーリンは年相応といった身長だったがある時、弟は私の身長に追いついた、突然大きくなり始めた、
追いつかれたと思ったその年の暮れにはすでに私を越えていた。それに伴い足は速くなり、力も増していく。
私は兄として弟より強くありたいと思った。
兄弟なのだ、いずれ私も…とも思ったが
身長が伸びるのを待っていられなかった、父が私には教えていない剣術を弟に教え始めたからだ。
私は弟より早く起き、走り、そして剣を振った。
早く大きくなる様にたくさん食べ
兵士達の訓練を見て、特訓をした。
弟は大きくなった体を褒められたのが嬉しかったのと私がそうやって特訓しているのを知ってか、更に体を大きくする事に専念していた、弟も私に負けたくなかったのだろう。
その折ムスシタナ王国との和平交渉の更新が行われる
過去に結ばれた和平交渉、ベルキア王国から出した条件の一つとしてムスシタナ王国に我が国からの兵士を置くと言うものがあった。
ムスシタナ王国はそれを快諾する、戦力を公開する事で戦う意思がない事を示したのだ。
先人が歳をとり代わりが必要となる、そこで白羽の矢が立ったのが近衛隊長だった父だった。
私達はそこでムスシタナ王国へ移住する事となる。
10歳になり王国武術祭に参加する
マーリンとの身長の差は顔一つ違うものとなっていた、
体格に大きく差ができ、初参加のこの大会では弟に決勝で敗退する、この決勝で複雑な表情で私を見るマーリンを今でも覚えている。
私は弟に哀れみの表情を感じ、奮起した。
その後の大会は私が優勝を繰り返す
スピードのマーダンと力のマーリンそんな風に周りからは言われるようになる。その影で私はチビと呼ばれマーリンは脳筋とも呼ばれていた。
気の弱いマーリンはその事を気にしたのか魔術の勉強を始める。腕立てをしながら本を読んで、腹筋をしながら詠唱を練習し、逆立ちをしながら瞑想していた。
その後弟は脳筋と呼ばれなくなったが筋肉バカと呼ばれる様になる。どちらもそんなに変わらないと思うのだが弟はそれには満足している様だった。
弟がそうしている中、私は技に磨きをかけることにする、父から教わるベルキア王国の剣術はどちらかと言うと剛の剣。力の剣だった。体の小さい私には正直合わない。私は本を読み漁り、ムスシタナ王国の剣術と出会う。足りない力を魔力で補填する。剣術と魔術の融合。これだと思った。
弟が魔術の鍛錬をしているのを見ていたので魔力を鍛える方法はわかっていた、別に魔術を使いたい訳ではないので詠唱や魔法陣などを覚える必要はなく、魔力を高める訓練だけを日々の日課にプラスした。
そうして15になった頃、私達はムスシタナ王国の兵士となる。
同時にベルキア王国からも呼び出しを受ける
国王直々に私達の力を見てもらい
父の後を継ぎ、ムスシタナ王国への監視を言い渡される。
同時に父に本国への帰還が決まる。
父がいる事で国を裏切らず、相手国に力を鼓舞する事が出来るのはお前達しかいない!それがベルキア王の言葉だった。
父の代わりに兵士になり父の影響ももちろんあったのだろうがクー兄弟として名は広がり17になる頃には中隊を任せられる様になる。
この頃になると弟は身体が大きさから怖がられ、多くの者にさけられていた。話し方を優しくしてみたりと工夫してはいた様だが今度は気持ち悪がられてしまい、部屋で筋トレをしながら術学を勉強してる時間が増え、あまり外に出歩かなくなっていた。それにより知識は格段に向上する。
だが瞑想時もじっとしていられないため魔力の量はあまり増えなかった様だ。
私はと言うと王国剣術を私より使えるものには出会うことは無くなり落胆していた。これならばベルキア王国の方が父の様に強い人間が多くいるはずだ。
唯一希望があるとすれば、この国で強いと言われる一番隊。しかしその強さは秘匿されていた。恐らくこの国の防衛の最期の砦なのだろう。
そう考えていたが、後日私も一番隊に入れるという事で、この国の王は何を考えているのかと思った、
更に今回、新たな王になると宣言した姫様まで私を頼る状態だ、私はベルキアの息のかかった人間だとも改めて伝えたが
「わかってるわよ、だからこそ貴方が必要なんじゃない、私が王になってもベルキアとはいい関係を続けたいのよ。
その証明となって貰うのは貴方しかいないわ。」
そう返される
政治の事はよく分からないが、私に寝首を狩られるとも分からずになぜ平然としていられるのだろうか?
それとも私ごときはなんとでも出来ると言う事だろうか?
分からない。
話をもどす。
弟はこの国に落胆した私を慰めてくれた
もっと強くなってこの国の王にそばにいられたのでは困ると思って貰おう。ベルキアに帰った時に胸を張れるようにと。
私の為に体を張り特訓に付き合い、力だけではなく戦術を学ぼうと私の代わりに勉強し、私に教えてくれた。
弟に負けないように、父が私を見てくれるようにと頑張っていたつもりだったが、そんな私の事をずっと支えてくれていたのは弟だった。
弟に追い抜かれないように、と言う意識から弟の期待に応えるようにと意識が切り替わる。強い自慢の兄となる様に。
〜〜〜〜〜〜
姫から弟の事を教えられた
操られただけでなく体が腐っていたと
何を言っているのかわからない
恐らく死んでいるとも言われる
死んで操り人形にされていると
そう言われていたが、今こうして遠目から見る限りマーリンは何も変わらない。
死んでいる?
ああして馬にまたがって胸を張っているじゃないか
生きているじゃないか。
私は何かの間違いだと信じている。
「あれ、イカルガですかね?」
「たぶんね、完全に私達を誘ってるもの。」
ゆっくりと進む一団、その中央でマーリンは馬にまたがりこれ見よがしに槍を携えている。
「どうします?イカルガを諦めると言う手も有ります。」
「そうね、でもマーリンを撃破するチャンスでもある。マーダン?出来る?」
「やらせてください。出来れば正面から。イルナ、姫様とカイ殿を頼めるか?」
「お任せください。」
「正面からね…一人でやる気?」
「弟を止めるのは兄の役目です。」
「私との約束覚えてる?」
「はい、死ぬつもりも負けるつもりもありません。」
「よろしい、最悪周りの兵士はこっちに降ってもいいわ。貴方のもう一人の腹心が代わりにがんばるから。」
「お任せください。」
「ありがとうございます。では、行きます。」
私は馬を走らせ一団に近づく
歩きの兵士達がこちらに警戒する
「あ〜らお兄様じゃないですか?こんな所で会うなんて奇遇ですね?」
「マーリン。王に反旗を翻すとはなにごとか!」
「あら?兄さん今の王はネル様よ?翻しているのはどちらかしら?」
「いいや、我らの王はネルでもムスシタナ王でも無くベルキア王だ。任されているのはこの国の戦力の監視。謀反を起こすことではないぞ!」
「これだから兄さんは堅物なのよ。強いのが王。世界を統べるのが王。この平和ボケした国に戦力の監視?誰でもいいでしょそんなの、丁度よくお父様の子供がいたってだけじゃない、私達がここにいる理由なんて」
「貴様、父を侮辱するのか!」
「あら?兄さんも平和ボケしてるんじゃない?」
「お前の本音か知らんがその性根叩き直してやる。」
剣を抜く
「いいでしょう、貴方達、その辺りに姫様もいるはずよ探して捕らえて来なさい、この男は私が始末します。」
「一刀…」「ヒュンゼル」
技を出そうとした瞬間、私の顔に向かい氷の刃が飛んでくる
技を止め剣で払う
「はい、ためが長い。それに必ず一番先にそれを使う。バレバレ、ワンパターン。」
流水の動きで間合いを詰める
「それも私相手ではもう意味がない、ヒュンゼルフォーハンズ」
無数の刃が私の動きを制限する
「次は何かしら?閃刃乱舞?一閃?兄さんは剣術相手を想定した戦いしかしてないのよ、だからその程度なの」
「ふっそう言うお前もたいした魔力量でも無いだろう、すぐにバテる。」
「あら?どうかしら?私強くなったのよ?見てこの身体」
マーリンが鎧を外す、黒く腐った体からはウネウネとした何かが生えている
「お前その体」
「どう美しいでしょ?大気から魔力を集めてくれるの、痛みもない、力が溢れる、そうこれが力!」
死んでいる
そう人として死んでいた
長く鍛えた自慢だった筋肉は見る影もなく
そこにいたのは弟の記憶を持った、何かだった。
「ウァアアアアーーーーーー」
私が叫びを上げると沈黙が走る
「そんなに取り乱すなんて兄さんらしくない。」
「はは、そうだな、そうかもしれない。マーリン」
「何兄さん?」
「いや、そうだなぁ、ありがとう。今までホントに…」
「いいえ、こちらこそ」
「いくぞ」
私は間合いを詰める。ただ一直線にマーリンに詰め寄る
「ヒュンゼル」
氷の刃を弾き
「ゴーズメルフォーハンズ」
無数の火の玉を切り裂き
「マーズメル!」
巨大な火の玉を突き抜けた
技でも何でもない、ただ一直線に剣を胸に突き刺す
「流石兄さんね、でもそれじゃぁ私は死なないわ」
「わかってる」
剣を横に引き裂く
「我が国の技で逝け。」
「羅刹豪翔」
回転による遠心力と自重、不足している力は魔力で補填した一撃で
右肩から左腹までを切り抜く
2つに割れた弟だったものが地面に落ちる
「済まないな、姫を救出後墓を作る。待っていろ」
その手に握られていたイカルガを取り姫の元へ走る
「残念兄さん…それじゃ全然足りないの。」
驚きゆっくりと振り返る
マーリンの黒くなった体から出ている何かが分けた2つを繋ぎ合せている。
「なんか私を乗り越えて俺は進む、みたいな感じだったけど。残念ながらそうもいかないのよ。」
怒りがこみ上げる、弟を…何度切らねばならないのか…
「兄さん悲しまなくてもいいわ、私がその重みを背負ってあげる、兄さんはここで死んでちょうだい。」
マーリンの頭上に再び大きな火の玉が現れる
「兄さんは何個がいいかしら?3つ?」
その両隣にさらに2つの火の玉
「念の為5つかしら?」
現れた5つの大きな火の玉は自分の頭上を周り始める
「じゃぁ兄さんお別れね。そのうち私も逝くからその間にもっと強くなっていて頂戴。」
逃げようが無い
「マーズメルペンタグラム!」
5つのマーズメルが私を襲った。




