4-17 嵐の後と嵐の前と
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーシル
「イッタ」
足の痛みで目が覚める、なんとも嫌な目覚めだ
「シルさん!目が覚めましたか?私がわかりますか?大丈夫ですか?」
「なんか身体中痛いわ、足が特に。」
「トレントに地面に打ち付けられていたのでかなりの衝撃だったと思います。痛いところ申し訳ないのですがもうすぐ夜になります、トルダワから出ないといけないので痛むと思うのですが頑張って下さい。」
「そうだトレントに捕まって…どうなったの?」
「ひとまず滝の裏に避難しました、恐らく夜はトレントは動かないのではないかという事で夜までここにいたのですが、すいませんもうその夜になってしまいまして…」
「そう言うことね、オッケー大丈夫、これぐら…イッタ」
「シルちゃん、無理しないで、ほらチャチャ出番よ」
「チャチャ言うな、ほれ儂に乗れ」
「あんまり揺らさないでね?」
「むちゃ言うでない」
「トレントの動きが止まった、いくぞ。」
モグラさんが出口を開ける。
湖は月明かりが照らさられ見えるがその周りは真っ暗だ
その中を剣狼達がゆっくりと進む
どうやら私の体を気遣ってくれているようだ
「剣狼さん、一度試してみて良いですか?」
「やってみぃ」
剣狼が足を止めリンちゃんが降りる
アルテに取り付けられた会話の核が淡く光る
「ヒュンゼル」
氷の矢を出し木を狙ってそれを打ち込む
普通にヒュンゼルを放つより、早く、威力の高いそれは木を貫いた。
「出来ました!フーセさんの言った通りでした」
「フーセ???」
「あっ後で説明します。とにかくこれならさっきのスピードの剣狼さんになら、乗りながらでも出来そうです。」
「そうか、じゃぁそうしてくれ、出来れば早くこの森を出たい」
モグラさんがそう言う
しばらく進むと暗闇の元凶が目の前にずっと見えていたことに気づく。巨大な壁だ
「なにこれ?」
「ほんとこれどうすんのよ!」
「あまりやりたくないが、あやつの尻拭いをしてやるかの」
「すまぬが2人とも一度降りてくれ」
リンちゃんに支えられて剣狼から降りる
「モグラ、根元を少々削ってくれ、儂が蹴り倒す」
「わかった」
そう言うとモグラさんが壁のの元を走り抜ける
「いいぞ」
「儂のスペシャルキックじゃぁー!」
剣狼が助走をつけ近くの木を足場にしながら壁のてっぺんの辺りにキック?と言うよりは体当たりをする、
壁が倒れる
ズゴォーン
と辺り一面に大きな音が響く
「全く迷惑な奴じゃ。」
「これってもしかして…」
「そっ。そのもしかして」
私の肩に乗ったソフィが続ける
「フーセよ。」
「あいつは?」
「そこ。」
ソフィーが羽で首から掛かった核を指す
「一時的に元の姿に戻ったみたい。あっフーセからの伝言、魔力もっとよこせ!ですって。」
「他には?」
「無いわよ、ほんとその辺だと思うわよ、フーセ」
「何よそれ。ほんともっとなんかあるでしょ、あんた。」
核を手に取り見つめる
核が紫色になっている、どう言う感情よそれ。
「フーセさんのお陰で皆んな助かったんです。シルさんがピンチの時に現れるなんて王子様みたいでした。」
「王子様ぁー?それなら私がこんなんになる前に出てこいっての!」
核が赤くなる
「これはわかる、助けてやったのに何言ってやがんだ!でしょ?」
核が紫色になる、今度はわかった
「何困惑してんのよ、はいはいわかった、フーセありがとね」
核がオレンジ色になる
「でもこいつこんなにパワーあったの?」
「魔力の塊になったとか具現化したとか言ってたわね、フーセ本来の肉体じゃなくて皆んなが込めた魔力で形を作ったってところかしら?」
「んで、使いすぎて直ぐに元どおりと…相変わらずバカね」
「魔力いっぱいになれば、その、具現化?できるでしょうか?」
「どれやってみる?」
核に魔力を込める
「どうなのよ、フーセ」
核は黄色
「ダメってことかな?試す感じでも無いからあんたは条件分かってるのよね?」
「核が青くなる」
「やっぱり」
「条件なんなんでしょうね、やっぱりシルさんがピンチの時に出て来たからピンチにならないとだめとか?」
「だとしたら、使えないわね、ピンチになる前に出てこいっての」
核が赤くなる
「わかった、わかった、ピンチの時はよろしくね。」
核がオレンジになる
トルダワの森を出た。ここまでの道中リンちゃんは通りかかったところにいたトレントのコアを壊していた、それだけでも数は15。通っていないところにはまだいることだろう。
モグラさんの話では動物達が逃げ出した様子は無いとの話なので人だけを襲うようだ
それを聞いてソフィーが安心していた
以前始めてトルダワに向かう時に使った場所まで移動し腰を下ろす。
皆んなが私の体を気遣ってくれたのと、予定よりも早くトルダワ湖を抜けたことから、1日ここで休養をとることになる。
もうすぐタアキ村に帰る
私の知っている故郷
私を知らない故郷に…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーマーダン
先日の襲撃をうけ農場にて手頃な馬を調達し荷車を破棄する。
モグラ達と別れて5日目の朝、あちらから連絡が入る
ボスコミュールの確保
トルダワ湖の状況
シル殿の怪我
1日休息をとって再度動き出すことにしたそうだ。
どうにもあのモグラという激しく猫背な男は信用ならない、姫さまやカイ殿は信用なされているようだが、情報屋の類はいつ裏切るともしれない、見たところかなり腕は立つ、手合わせしたわけでは無いが恐らく私に近いところには有るのでは無いだろうか。
もしや、今回二手に分かれたのは信用に足るか試しているのか?なるほどそれならば合点がいく。
「ねぇマーダン、トレントって強いの?」
「そうですね、一体ぐらいならば私ならば倒す事はできるでしょうが、複数体、ましてや守るものがあるとなるとかなり厳しいかと。」
「ふーん、まぁフーセ君が一時的に元に戻ったって言うし剣狼とソフィーもいるしうまいことやったのね。しかしシルちゃん大丈夫かな?捻挫と打撲だけって言ってたけど…」
「私やイルナで有ればそれしきのことで動けなくなる事はありませんが、シル殿では1日休んだぐらいでは回復は望めないでしょうな。」
「そういう言い方、女の子には嫌われるわよ」
「いや、私はシル殿を案じて…」
「ほんとその辺なのよ。」
姫さまがため息をつく、
「まぁ今更言っても治らないかな、でも女性の気持ちを考える事を忘れない良いわね、わかった?」
「はい。」
「返事は良いんだけどね…イルナ、早めになんとかしないとあなたが苦労するわよ。」
「ひっ姫さま!」
「さてと、こちらもまもなくメディア半島。とりあえずオーガの町に入る前に情報収集かな。いきなり行ってイカルガちょうだいって言ってくれるわけでもあるまいし。」
「近くの漁村に知り合いがいます。そこを一旦拠点にさせてもらいましょう。」
「大丈夫なの?そこ」
「私の支店とかでは無いですし取引先でも無いので足がつく心配はないでしょう。」
「じゃぁどんな知り合いよ?」
「私の先生ですかね、商売の。」
「ふーん、商売の先生が田舎の漁村で何してるのやら」
「商売は飽きたみたいです、金は腐るほどあるからあとは冒険だとかなんとか言ってましたね。」
「あぁ、そういう部類の人か。理屈やのくせに理屈が通じない人ね」
「得意ですよね?姫さま」
「夢だの、ロマンだの自分独自の常識を持った人に得意も苦手も無いわよ、こちらの話なんて聞かないんだから。」
「そうですか、まぁそうかもしれません。」
オーガの町。もちろん鬼の化身が住んでいるわけではない
ただ鬼の子孫と言う伝承が色濃く残っており、男は屈強な戦士でなければならない。と言う決まりがあるようだ。町長も戦いに寄って決まるとか、しかしそれは住民以外には公開されずどれほどのものがいるか不明だ。王都に来るにもかなり距離があるため武術祭に参加するものはほとんどいない。オーガ出身の部下いわくは出るからには優勝しなければ二度と町には戻れなくなるとか。部下はちなみにそれのためにそのまま王都に残ったそうだ。
いずれ男に対するしきたりが厳しく、女性は入り込む余地もないと言う統治らしい。
恐らく自分が強さを見せて納得させる、そんな方法になるだろう。楽しみだ。
そんな事を考えていると林を抜けた街道を移動する一団が見えてくる
「止まってください、兵士です。」
街道をゆっくりと隊列を組んで進んでいる
「あらあら、色々考えてたのに全部無駄になっちゃったわね。」
兵士を率いる小隊の中に一際大きい男
我が弟マーリン
そしてその手には見慣れぬ槍が握られていた。




