1-5 突然の実戦
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーセリス
ファルは旅行と言った
たしかに一週間、合宿的にフーセとシルちゃんを指導するという名目ではある。まぁおじさんたちは、フーセを個別指導するというとバックレるからだなと、かってに理解してくれたようだが…
しかしながら今回の本当の目的は魔獣討伐である。
旅行?いやこれは…冒険だ!
実際のところ今日を準備日としていたが朝日が昇るどころか昨晩のうちに準備は完了していた。
「セリ兄!おはよう!」
この様子…俺でこうなのだ間違いなく…
「準備終わった!もう完璧だ!」
「だと思ったよ、俺もそうだよ…というか…よかったよ…」
男の子なんだ、しかたない!的なところが俺だけでないことがわかりホッとする。
「にいちゃんどうする?というかケンローのとこに行って特訓の仕上げしようぜ」
「そうだな、ファルにどやされないように荷物チェックしてからそうしようか、その前に朝飯食わせてくれ」
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「うぬ?ぬしら準備はどうした?」
「おわっーたぁー!!!」
「そっ…そうか…はやかったのぉ?」
「そうなんですよ、思ったより早く終わりまして、時間もありますし、仕上げに訓練するかと思いまして…」
「ん、儂は今日は寝る気でおったから何もせんぞ!勝手にせい、怪我をせんようにな、これ以上儂は待てんからな」
そういうと剣狼様は岩の上で日向ぼっこを始めた
「それじゃあ技抜きで組み稽古するか」
「おう!」
恐らくフーセは寝ていないんじゃないだろうか?異様にテンションが高い。今動いて力を使い果たせば朝まで眠りこけるだろう…ファル…そこまで計算済みか…
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昼過ぎになり一息つく
「閃刃は近接でも使えそうだけど一閃はどう組み合わせたらいいんだにいちゃん?」
「まぁ距離を取られた時の技だな、相手が長剣だったり槍だったり、距離を取られて近づけない時につかうんだ、離れていても攻撃手段があるってのはかなりのアドバンテージだぞ?」
「一閃から一気に近づく方法を考えたらいいのか…」
フーセは剣術に興味が増したのか最近自分でバリエーションを考えるようになってきた、一本取られる日も遠くないか…俺も更に上を目指さないとな…
「ぬしら、何かこちらに魔力を持ったものがくるぞ?
」
「ファルか、シルちゃんかな?」
「いや獣かの?足音が人ではない」
「あれかな?馬?魔獣の馬ってのは聞いたことがないな」
「にいちゃんあれはシルだよ、変身してるんだ!でも走り方がへんだな馬はあんな走り方じゃないよ、まだまだだなシル!」
「いや違うぞ、怪我をしておる」
「シルちゃん!」
「セリスさん、おねーちゃんがおねーちゃんが…」
「落ち着け変身を解け」
「痛くてうまく戻れない…それよりおねーちゃんが盗賊にさらわれた、隣村に向かう途中で私が馬になっておねーちゃんのせてたら矢が飛んできて、おねーちゃんがセリスさん呼んで来いって私を逃がしてくれて…」
「わかったシルちゃん、剣狼様お力をお貸しください
ファルを助けに行きます、フーセ!シルちゃんを頼む」
「背に捕まれ小僧、今回は特別じゃ!儂の物を掻っ攫おうなどと決して許さんわ!」
「にーちゃん、たのむってぃゎ……」
フーセが何かいいかけていたが聞き取れなかった、済まないが任せたぞフーセ、それより…は…速い!落とされないように捕まっているだけで精一杯だ。
シルちゃんの血の跡をさかのぼり街道に出る…
「ここでさらわれたのか、辺りに人影も見えないし、どうしましょう…」
「匂いを追う、恐らくそんなに遠くないはずじゃ」
「お願いします」
相手は馬車で移動したようだが剣狼様のスピードなら直ぐに追いつきそうだ…
「小僧、思ったより近いぞ、この先に魔力を感じる、恐らく姉のものじゃ」
「この先に山小屋があります、恐らくそこを拠点にしているのでしょう」
ここしばらくの間、盗賊がでたなどとは話に聞かない、ちょうどよく山小屋を見つけただけか?ともかく大きく離されていなかったのはありがたい。
「剣狼様、中の様子わかりますか…?」
「数は5人、1人は姉じゃろうな、魔力が高いのは姉じゃろうから魔術師はおらんな、さらに周りには人がおらんから見張りを立てている感じではないの。どうする小僧?儂が助けてやってもいいぞ?」
「どうしようも無くなったらお願いしようと思いますが、ファルを助けるのは自分でありたいと思います。まずは中の様子を伺って方法を考えたいかと…」
「うむ、よかろう」
静かに近づき中の様子を伺う
「兄者!本当に買い手見つかったんですかい?人さらいなんて王都に伝わったら俺らやばいですぜ!」
「大丈夫…」
「どこで誰に引き渡すんです?」
「お前らは知らなくていい」
「兄者も緊張してるんですか?ずっとそんな感じだと心配になりますよ」
「大丈夫だ…」
「しかし上玉が見つかったもんだ、良いもの持ってるじゃねぇかねぇちゃん!ちょっと俺に見せてくれよ」
子分らしき男がファルを手をかけようとする
いくか!と思った時
「それに触れるんじゃねぇ大事なもんに手出すな!」
リーダーらしき男が急に大声を上げる
「じょ…冗談ですよ…すんません兄者、そうですよね商品は綺麗に扱わないとなぁ…」
「兄者変だよな?どうしちまったんだ?」
なにやら内輪もめをしているようだ、今が好機か?
どうする…
正面突破→あいつらにやられることはないと思うがファルを人質に取られると厳しい
一閃による壁越しの攻撃で動きを止める→相手が見えない以上ファルに当たってしまう可能性
剣狼様にたのむ→恐らく先ほどの怒りようでは奴らを殺してしまう恐れがある…
奴らを外に出す方法…外には奴らの馬車…
「剣狼様、先ほどは自分がと申しましたが少しお願いがあります」
「儂が入って奴らを血祭りにするんじゃな?」
やっぱりか…
「馬たちを少し驚かしてやっていただけませんか?、それで奴らが馬を落ち着かせるために出てきたところを私が後ろから一閃で動けないようにします」
「儂を囮に使う気か?」
「あいつらを殺してしまうと色々面倒になって、旅への出立が延期になってしまいますよ?ここは穏便に済ますためになんとか…」
「色々面倒じゃの、まぁよかろう、おぬしのお手並み拝見と行こうか、エモノはその木の棒でええんじゃな?」
先ほどまでフーセと組み稽古で使っていた木刀を握りしめる
「はい、気絶させるならこれくらいがちょうど良いかと…」
「殺さぬようにか…よいか、殺さぬようにというのは殺すよりもはるかに難しい、正確な力の制御と正確な打撃が必要じゃ、ましてやおぬしはあの盗賊らの力を見極める力はまだなかろう。
そんなお主にアドバイスじゃ、気絶させるのは諦めろ、まず無理じゃ、奴らの動きを止めることを考えろ、一閃では貫いてしまうかもしれん初めてやったときの剣全体に魔力を込めた一閃か閃刃を足に向けて放て、生きておれば問題ないじゃろ?」
「なるほど…ありがとうございます。やってみます」
離れたところから剣狼様がこちらをみている
、手を上げて合図を送る…
「ウォーーーーーン」
わかっていたのにもかかわらず、その威圧感に身がすくんでしまう…
馬達が暴れ出す…こい!
「なんだ?狼か?馬達を落ち着かせてきます、お前も手伝え」
2人出てくるドアが開き馬に向かって走り出した
くそ、さすがに全員は出てこねぇか
でも行くしかない!
「一閃破打」
面で打つ一閃を足向かって放つ
もう一撃!
「ウギャー」
「どうした!!!?」
慌ててもう1人出てきた、チャンス
「一閃破打!!」
「ぐぁぁぁぁーーーー!」
3人…あと1人
「お客様か?」
「兄者!イテェよー、若いのが隠れてやがった」
トビラがまた開き…
「くそ…ファル!」
ファルが後ろで手を掴まれた状態で出てくる
「セリス!」
ファルが叫ぶ
「なるほど、どうやってここに来たかはわからんが…恋人か?」
「その手を離せ!」
「離す?お前がその手に持ったもんを離すのが先じゃねぇか?」
「兄者イテェよ足をやられた、折れてるぜ!きっと」
「やってくれたみたいだな、俺はこの娘を…娘をどうする…彼の方に…彼の方?俺は…」
なんだ?様子がおかしい、今が好機か?しかしファルが目の前にいて相手を狙えない
「閃刃!!!!」
!?
地面から土煙が起こる
フーセ?
「でかしたワッパ!」
驚きにより盗賊がファルを離した瞬間に剣狼様がファルをの襟を咥えて飛ぶ
「やれ小僧!」
敵の姿は見えない…が気にしてもいられない
「一閃ランダァーーーー」
見えない盗賊に向かい一閃破打を撃ちまくる
「ハァハァハァ」
息を整えて土煙が晴れるのを見守る
「にーちゃん、すげーけど…やりすぎじゃね?」
「セリス!」
「ファル!ぶじか!?」
ファルを抱きしめる
「大丈夫…大丈夫よ」
「ふむ、小僧良かったの、ボロボロじゃが息がある」
盗賊のそばで剣狼様がいう
「うわァ〜ボッコボコ」
「フーセ!シルちゃんは?それよりどうしてここに?」
「シル?は今村の人たち呼びに行ってる。ここにはさっきの雄叫びケンローの声だと思って来たら、にーちゃんピンチと思って」
「シルちゃんの怪我は!?」
「ぁあ治った?よ?」
「治ったって…」
「とにかくシルは全然無事、何にも問題ない」
「いやでも今回はフーセのファインプレーのおかげだよ」
「そうねフーセもありがとう」
「いやーごめんよにいちゃん、ファルねぇ!ほんとは盗賊をぶっ飛ばすつもりでねらったんだけど…ハズレチャッタ」
2人で手を握りしめた…
恐らくファルも思っただろう…
外れてよかったと…




