4-11 フージの試験
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フージが楽しそうに話している。マナーを教わって居たときは鬼の様だった人と同じ人だとはにわかには信じがたい。
私のこと、ルルちゃんのこと、そしてお姉ちゃんのこと。その話をリンが嬉しそうに聞くものだから、フージも嬉しくなったのか話は夜まで続いた。
今ならフージの事が好きになれそうである。
窓の外を見ると、チラチラ降って居た雪がモコモコと棉のようになってきている。
少し早めの冬の到来となりそうだ。
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次の朝、予想通り雪が積もる。
朝食の席はルルちゃんがちゃんがフージに全員で共に席を共にしたいと伝え、皆んなでの朝食となる。
ルルちゃんの事だからおそらく自分だけになるとフージの矛先が自分だけに向く可能性が高くなるからだとはおもうけど…
食事が終わる頃フージが皆んなに告げる。
「昨日、ルル王女にはお話しましたが、今日アルテを使えるものがいるかを試させてもらいます。この後アルテに魔力を通して頂いて弦と矢を作れるかどうかやってもらいます。それが出来たものは午後より矢を放ってもらい使いこなせるか見ます。よろしいですね?
あぁ、懐かしい胃の痛みを思い出す。試験を失敗するとその日から地獄が始まる、流石に今回はマナーの様に再講習はないだろうけれど…もういいんじゃない七星剣だからって7本なくても…
フージがアルテを持ってくる。
「アルテに魔力を通しまずは弦をイメージします。」
アルテに光の弦が通る。
「そして、ヒュンゼル。」
氷の矢を作成。
「まずはここまでは出来ないと話にもなりません。」
みんなが代わる代わるやった結果。
最初の試験をクリアできたのがルルちゃん、イルナ、私、そしてリンちゃんだった。男性陣はどうも弦を作るのが苦手の様だ。
午後からは実際に矢を放つ試験となる。実際に外に出て矢を放つ。問題は、一晩振り続けた雪は一面を銀世界へとかえていたことだ…
「雪が積ろうと矢を放つには何の問題もありません。参りましょう。」
そう言い放つフージ。やはり変わってはいなかった。誰だ好きになれそうとか言った人。
外に出ると当たり前だが寒い。そもそも私ができる必要は無い。イルナさんが出来れば別に私ができなくたっていいのだ。
始めににルルちゃんがアルテを持ち木を狙うが手元で落ちる。
「ダメだ、うまく弦の強さが調節できないわ。後はお願いイルナ!」
完全に私と同じ思考に至った様だ。まぁイルナさんがこの後出来れば私はやる必要も無くなる。イルナさんに手早く合格してもらいましょう。
しかし想定外の事が起きる。
「あれ?もう一度、あれ??」
イルナさんがあたふたし始める。
イルナさんがアルテに魔力を流し込み弦ができる。
ヒュンゼルを、唱え矢を作る。ここまではいい。
ただ矢を弦にかけた瞬間、弦も氷になってしまう。イルナさんは魔力の切断が苦手の様だ。魔力を放出は出来るが切り離す事が出来ない。その為に弦と矢を重ねるとイメージが重なり合い両方凍ってしまうと…
何度かやっていたがダメの様だ。
「申し訳ありません。シルさん何とかお願いします。」
私の後にはリンちゃんしかいない、何とか私がやるしかない。
弦と矢を作る。ここまでは問題ない。ここからだ、弦を弾く昔触ったことのある弦の力を思い出し引きつけ放つ。
矢は放物線状ではあるが真っ直ぐに飛び何とか目標の木に刺さる。 ふぅ何とか出来た。
「まぁいいでしょう、では次はリンさんね。」
私が出来たんだからやる必要ないじゃんとも思ったがそうだよねここまで寒い中待ってたのにやらなくてもいいって言われたらリンちゃんに悪いもんね。
「リンちゃん頑張って。」
「はい。」
リンちゃんも弦と矢を作り出し弓を射る。まっすぐと目標の木に刺さる
「出来ました!」
私よりもスムーズにやってみせる。弓矢を使ってたと言ってたしまぁその辺りの差なんだろう。ともあれ私もリンちゃんも合格した。文句はないだろう。
「二人合格ですね、では最後です。」
えぇ〜まだやるの?もういいじゃない
「最後は動くもの、実際に獲物を取ってきてもらいます。馬などを使っても良いですし歩いても構いません。アルテはもちろん一つしかないので2人で行動して良いでしょう。どちらが射止めても合格です。制限時間は夕刻までにしましょう。」
この雪降ったばかりで動物がいるとは思えないんだけど…しょうがないリンちゃんを一人で森にやるわけにもいかないし…二人掛かりでやれば何とかなるかな?あっそうだ!
「よし、リンちゃん。馬車に行くよ。」
「えっ馬に乗って弓を使った事ないんです。」
「良いから良いから」
二人で馬小屋に向かう。
「あれ?モグラさんとソフィーは?」
荷台で丸くなっている剣狼に聞く。
「モグラか?あいつはしれっと何処かに出て行った、寒いしな穴掘って入っとるんじゃないか?、小烏の奴は寒いからと言って人型になって嬢ちゃんの服を着て屋敷に入っていったぞ。」
「それはしょうがないかな、寒いもんね。剣狼は入んないの?」
「わしゃ別に寒くないからの、暑いよりはマシじゃ。なんじゃあいつらに用じゃったか?」
「うんん、剣狼にお願いがあって着たの、暇してるなら付き合ってよ。」
「面倒じゃのう。」
「剣狼様のオオカミとしての力が必要なんです。お願いします。」
私の意図を汲み取ってかリンちゃんも頭を下げる
「嬢ちゃんに頼まれては仕方ないの、ええじゃろ狼の力が必要という事は儂しか頼れんからな。」
なんだろう、剣狼ってロリコンなのかな?小さい子に弱い?まぁ手伝ってくれればこの試験もあっという間に終わるだろう。
剣狼に事情をはなす。やはりいくら弓の腕が良くても、そもそも獲物が見つからなければどうにもならない。前に村で特訓してた時も剣狼がウサギやら鹿やら取ってきていたし、剣狼の鼻の力が有れば百人力だ。
「試験をするとはまた面倒な事じゃな、姫が命令しとるんじゃから黙って差し出すもんじゃろ?」
森に向かい歩きながら剣狼が言う
「昔の先生だから口答えした時の恐怖があるのよ、私もルルちゃんも。言い返せるのはファル姉ぐらいのものよ。」
「トラウマじゃの。」
「本当によ、まぁ剣狼がパッと獲物を見つけてくれれば直ぐにリンちゃんが仕留めてくれるでしょ」
「主は何もせんのか?」
「一緒にいる事が大事なのよ。多分フージもアルテを渡したくないってわけじゃないんでしょ、条件を出す事で体裁を保つつもりだったけど。実際に試験してみたらまともに使えそうなのはリンちゃん。小さい子に武器を渡すのでは体裁が付かないから最後は2人で行って出来たら合格にしたってとこでしょ。私も居るなら何とか理由もつくからね」
「益々面倒じゃのう。」
「それが貴族ってものじゃない?」
「そう言う事だったんですか。お役に立てるなら何でもするのに…」
リンちゃんがうつむく
「リンちゃんが居なかったら、イルナさんがダメだった時点で不合格だったんだから。そんな顔はしないでそれよりも早く合格しちゃいましょ、寒くて死んじゃうわ。」
「はい!」
ホントこの子良い子だなぁ〜
「それで剣狼、獲物は?」
「それじゃがな、雪降ったせいか何も臭いがせん。もう少し奥に行くしかないの。」
「え゛ぇ〜そんなぁ〜」
白い息が溢れ出る
森の中を歩く。雪は夜ほどではないが降り続けている。




