4-3 空白の日
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーリン
姫様に嘘をついてしまいました。
飛ぶのが怖いと言うのは嘘です。
むしろまた飛んでみたいと思ったほどです。
ですがフーセさんともっとお話がしたいと思いました。
このまま帰ってしまったらお話ができないような気がしたからです。
お家も変わらない、シーバード山も変わらない。でもフーセさん達が来ただけで、見える風景は一緒なのにワクワクしてドキドキして…それが楽しくて嬉しくて…心地よくて…もっと知りたいって思ったんです。
山小屋には非常食も、毛布も有ります。使ったら新しいものをここに戻しに来るのがルールです。山のものを取って来て調理しても良いのですが、今日は使います。時間がもったい有りません。
私はフーセさんが薪の準備をしている間に小屋の掃除と非常食の準備をでかします。毛布を一枚だけにしてしまいましょうか……2人で一枚の毛布に…
「寒くないかい、フーセさんも体が冷えてしまいます」
「いや寒くねーぞ?むしろ暑いくらいだ!」
「ワーワーワー!!!」
「どうした?」
「ななななんてでもありましぇん!」
「薪の準備はオッケーだ、暖炉に火を起こすぜ。」
「はっはい!おねがいします。」
どうやら気に留めていないようです。よかった。
あっと言う間に日が暮れて真っ暗になりました。
非常食を食べながら私は満を持してフーセさんに聞きます
「フーセさんはどうしてこんなに不思議なことを出来るんですか?」
「不思議?」
「ほら、空を飛んだり、すごく早く走ったり、岩を粉々にしたり。」
「俺の力って訳じゃ無いんだけどな、そうだなぁーーー」
フーセさんはこれまでの事をお話ししてくれました。
オオカミさんとの出会い、セリスさん、ファルさん、ソフィさん。ガジュさん。そしてシルさんのこと。
話を聞いていて気になった事を聞いてみる。
「ガジュさんの事で剣狼さんを怒っていたんですよね。今もですか?」
「うーん、仕方ない。で割り切りたく無いっては思ってる。オオカミだから仕方ない。そうは思いたく無いんだよね。」
「なんじゃまだ根に持っておったんか。」
「ケンローは話すだけでなく俺の事とかも考えているだろ?だったらなんでそんな事するんだみたいな気持ちはあるんだ、それと一緒にあの時自分が怒ったのは…自分のせいじゃ無いって思いたかったからじゃないかなとも思う。なんかごちゃごちゃなっちゃって、許す許さないってのは、正直考えるのをやめちゃってるんだよな。シルが死にそうになってまたやっちまったって思った時絶対にもう繰り返したく無いって思った、今それを繰り返さない為には剣狼の力は必要で…」
「かっかっか、足りない頭でもなかなか考えておったんじゃの?ええじゃろ、力は貸してやる。」
「なんか腹立つな〜」
「剣狼さんはエディル?さんの記憶を取り戻したんですよね?」
「そうじゃな、思い出したくはなかったがの。しかしまぁワシは既にこんな姿じゃ、エディルの記憶を知っているという感じじゃな。」
「他人事みたいだな」
「そんな事は無いがの、儂をエディルとするなら1000歳超えとるんじゃよ?それの19歳のときにやった事を言われてもそんな事もあったのぉ〜ぐらいの気持ちにしかならんのじゃよ。しかもじゃよ儂の名前ばっか残っておるが正確にはやったのは儂じゃなくてコルムじゃ。」
「でも、ネルはエディルのオヤジなんだろ?」
「そうじゃ、しかしこの姿を生み出したのはコルムじゃ、エディルの記憶を持った剣狼と言う存在じゃ。儂の親はコルムということになる。」
「責任のがれじゃね?」
「百歩譲って儂はネルの息子エディルと認めたとしてじゃ、じゃぁこの間会ったお前のオヤジが貰った金で悪さをしたらお前責任持つのか?」
「もたねえ!」
「じゃろ?」
「剣狼は悪くねぇ…のか?」
いろいろ言い合っていますが、フーセさんと剣狼さんは仲良しのようです。
そして私は聞きます、勇気を出して聞きます。
「フーセさんは、シルさんが好きなんですか?」
「なんかソフィーにでも聞いたのか?」
「いえ、そういうわけでは無いのですが…」
「好きか嫌いかで言えば好きだけど、そういうことじゃなくてってことだよな?」
「はい」
「なんていうのかな、結婚したいか?って言われたらあいつとだと大変そうだなぁって思うし、キスしたいか?って言われたらんー別にしてもいいけど、しなくてもいいって思うし、一緒にいたいか?って言われたらそもそもほとんど一緒にいるし。まぁあいつがいなくなるっていうのがイマイチ想像できないな。それだとさ、俺が仮にシルに好きだ!って言ったところでなんも変わんなく無いか?だからよくわかんないんだよね。」
「……そっそうですか…むず、難しいんですね」
どうしましょう、入り込む余地がありそうでなさそうな…
「まぁわかったところであいつとどうこうなる事は絶対にないんだけどね。」
「なんでですか?」
フーセさんが答えます。
私は沢山伝えたい思いがあるのにうまく言葉にできず、なにも言うことが出来ませんでした。
ただわかったのは私に入り込む余地はないと言う事です。
〜〜〜〜〜〜
何があっても朝は来ます。
昨日はしゃぎすぎたせいなのか、それとも夜の事のせいなのかわかりませんが体が重くてふらふらしているため。
フーセさんに初めからおんぶしてもらい山を下ります。
行きは1日がかりでしたが、帰りはちゃんと道を進んだのでお昼には麓に降りることが出来ました。
レッド君とピーちゃんを迎えに行き街へ帰ります。
もうすぐ街というところでフーセさんが止まります
「待ってリンちゃん。様子がおかしい」
街を見ると煙がモコモコと上がっているのが見えます。
胸騒ぎがします。私はピーちゃんに目一杯走ってもらいます。
街に入り右に左にまっす…お店が燃えていました。
追いかけて来たフーセさんに止められます。
「ママ!パパ!」
「待って待つんだリンちゃん。お店の前に出て来てる」
お店の前を見るとパパもママもいました。
「良かった。」
フーセさんに言われピーちゃんから降ります。フーセさんに手綱を預けて駆け寄ります。
「パパ!ママ!」
「リン!来ちゃダメ!」
そう言いながらママがこちらに向かって走りました、すると近くにいた兵士の人がママに剣を振り上げます、パパが兵士をママ止めに入ります。そして…
なんなのでしょうか?何が起こっているのですか?
私は立ち尽くします、その横をフーセさんが通り越して行きました、パパを踏みつけていた人を一振りで吹っ飛ばしました。私はパパとママに駆け寄ります。
ママを守るように覆いかぶさるパパは赤く染まりママはピクリとも動きません。
何が?なんで?違います、間違っています。私が駆け寄ったから?私が声をかけたから?私がわがままを言ったから?
えっ?どうして?どうして?
「イヤァァァァァァー」
私は叫びました。息ができなくなるほど叫びました。
この日は日記を書けませんでした。
いえ書きませんでした。
この日を私が忘れる事が無いとわかっていたからです。
私のこの日の記憶はここまでです。
この後何があったのか私はわかりません。
私が目覚めた時わかったのは昨日食べた非常食はもう返しに行かなくていいということでした。
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