3-6 二度目の襲撃
ーーーーーーーーーーーーーーーーーセリス
「今日は嫁を連れて訓練か?セリス」
マーダンに声をかけられる
「新術の開発に行き詰まってるらしくて気分転換らしいです。」
「剣浪様は?」
自分の腰にはカイ君からもらった剣だけがぶら下がっている。
「アソーマ隊長との件の後から人気者で、それにカイ君が目を付けて今日は武具店の前で講演会するらしいです。儂に頼らず身を鍛えてみよ!とか言ってましたけど、話したいだけじゃ無いですかね」
「そうか残念だ、是非こちらにも来ていただくようお願いして見てくれないか?」
「わかりました。」
「今日は、対戦形式で部隊ごとの連携訓練をする、お前はヒルロッテの部隊に入ってやってくれ。」
2番隊の訓練に混ざって数日経つが、一人で戦うのと連携して戦うのではやはり勝手が違う、相手の動き、味方の動き、流れを読むという事。勉強になる。
ファルは演習場の隅でずっと訓練の様子を見て居たがその顔は優れない、少しくらいいいとこ見せたいんだけどな、部隊の流れを崩す訳にも行かないし…
「よう、色男。女の前でカッコつけたいって顔に書いてるぜ」
ヒルロッテがニヤニヤしながら声をかけて来る
「すいません出すぎてましたか?」
自分は2番隊に混ぜてもらってる身なので1番下っ端として扱われている
「そうだな、そんなお前に朗報だ、俺とお前で左右同時に奇襲を掛ける、行けるようならそのまま大将やっても良いがまぁ左右に部隊が分かれたところを中央を残りの部隊で一気に破るって作戦だ、引きつけるだけで良い、できるか?」
「喜んで」
「魔術隊、中央に爆炎、目くらましをしろ。セリス行くぞ!お前が左、俺が右だ。」
「了解」
大会でやりあった自称疾風のヒルロッテ
だいぶ調子に乗った奴というイメージだったが部隊を任されるだけあって隊員とのコミニケーションを取るのが上手いのか信頼は厚い、自分が先陣を切って先を走る戦い方が多く、部下が付いて行きたくなるのだろうか。
訓練は夕刻まで続いた
ファルは訓練が終わる頃にはだいぶ晴れやかな顔になっていた。
「気分転換なったかい?」
「ええ、収穫はあったわ。先に進めそうな気はしてきた。」
「そうか、それは良かった。この後、今日一緒に組んだ隊の人達と親睦会する事になったんだけど、一緒にどうだ?」
ファルは「うーん」と考えると
「ごめんなさい、今日はやめとく、思いついたことをまとめたいの。また誘ってくれる?」
「わかった、俺はこのまま剣狼様を迎えに行ってそのまま行くよ」
「楽しんで来てね」
そういうとファルは立ち上がり宿舎に戻って行った
「なんだよ、嫁さんこないのか?」
ヒルロッテが肩を叩く
「まだ結婚してませんよ、今日の演習見て何か思いついたようです、早く考えをまとめたいという事で…」
「そいつはお前に悪いことしたな、俺の凄さに天才魔術師に火をつけちまったか!しかたねぇ今日は俺が慰めてやろう」
「落ち込んでませんよ、嫁があなたの毒牙にかからずに済んでホッとしてますよ」
「おっ?そうだな、俺の隣じゃお前が霞んじまうもんな!」
「うちの嫁に手を出したらタダじゃ済ましませんよ」
「へっ、やっぱ嫁じゃねーか、じゃあその辺詳しく聞こうか、いくぞ!」
「あっ先に行ってて下さい、剣狼様を迎えに行ってから行きます。」
「おっ!いいね!…って剣だけど…酒飲めるのか?」
「ウワバミですよ、ヒルロッテ部隊長!今日はご馳走になります。」
大きめの声で敬礼すると
「ご馳走になります!」
隊の他の面々も身を正して敬礼する
「おいおい待て待て、今日は割り勘だろ〜」
あたふたするヒルロッテに背を向けその場を後にする
「セリス!こら!まてお前!!!お前の方が金もってんだろうが!!」
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ファイブアイズ武具店に着く
どうやら剣狼様の講演会は終わっているようだ
後片付けが始まっている
店の中にはいるとカイ君と剣浪様が話している
「あっセリスさん!剣狼様のお陰で客入りが最高でしたよ、ありがとうございます。」
「いや。俺は何も…」
「そうじゃ、こやつは何もしておらん!さぁ!報酬をよこせ!」
「そうですね、またぜひお願いしたいので色をつけて12000ジダでいかがでしょう?」
「儂に金を持たせてなんとする?」
「???では何がよろしいので?是非、剣狼様にはまたお願いしたいと思っていますのでご希望には答えたいのですが…」
「あーカイ君、魔力を持った食べれる物とかないかな?多分剣狼様にはそれが1番だから。」
「魔力…食べ物ですか…マジックポーションは有りますが希少なんで流石に…」
「隠しても無駄じゃ、儂の鼻は既にわかっておる、有るんじゃろ?親方どの?」
「なっ?何のことですかな?」
カイ君の後ろで剣を磨いていた親方さんが手を止める
「お主が今座っている木箱の中身の話じゃ、今日の報酬はそれが良い」
「こっ…これは椅子、椅子です。ないも有りませんよ!」
親方が噛んだ…
「そうかじゃあその椅子をよこせ」
…なるほど、と言った感じでカイ君が手を打つ
「なんと、剣狼様、報酬はあんな汚い木箱でよろしいのですか?あんなものでいいのであれば、ええ、もう是非お持ちください」
「まて、カイ、この椅子が無くなっては仕事がな、やりにくく…」
「ちゃんとした椅子を買ってあげるよ。」
「あのな、慣れ親しんだ感覚ってのがな…」
「往生際の悪い、おやじ!良いからよこせ!」
親方から木箱を奪い取ると中から酒が出てくる
「おお!やはり魔王降誕!!」
「飲みかけは失礼なのでこちらの未開封の方をどうぞ」
「まて、カイそれは…」
「あれ?おやじ?たまたま木箱に入って忘れられていた酒がなんなのか?わかるのかい?たまたま木箱にに入っていたのをおやじが気付かずに椅子にしていたんだろ?まさか店の中で飲むとか無いよな?」
親方が、うつむく
「と言うわけでどうぞ。」
この世の終わりの様な顔をする親方
「うむ、セリス、お前持ってくれ。絶対に落とすなよ。」
「あっ、ハイ」
「剣狼様またお願いしますね!」
店を出て扉を閉めるとカイ君の怒号が聞こえてきた。
しっかりしてるなー
「剣狼様、この後、今日共に演習をした人達と親睦会があるのですがどうですか?」
「うむ、よかろう、しかしその酒は誰にもやらんぞ」
「ええ、わかっております。では参りましょう。」
「お主、酒は飲まんのか?」
この国では15を過ぎると成人と認められるが…
「どうも、お酒の良さと言うものがわからないのですよ、お酒は臭いが苦手ですし、エールは苦いですし」
「わかった今日はお主に酒を教えてやろう、一流の剣客は酒も強くなければならん」
「剣、関係ないですよね?」
「心構えの話じゃ!」
「酒を飲んで刃物を持つのはダメじゃ無いですか?」
「心に一本の刃をもつ、如何なる時も曲げない信念を持つのじゃ」
「良いこと言ってる風ですが…関係ないですよね?」
「良いから今日は付き合え、舐めるだけで良いから付き合え」
誘ったのはこっちなのだが…まぁいざとなったらこの酒瓶を口の中に突っ込んだら黙るだろう。
宴会は剣狼様の参加により大いに盛り上がり
飲まされる事も覚悟していたが本当に舐める程度で許してくれた
「酒の方もわからんやつにこいつを味あわせる訳にわいかん!」
とかなんとか…誰も飲みたいなんて言ってはいないのだが…
夜も更けて御開きとなる。
酔っ払ってへべれけになる狼には剣になっていただき丁重に運ぶ。ちなみに持ってきた酒瓶はもちろん空である。
宿舎に向かって歩いていると無人で馬が走っていく、
逃げたか…あの馬…どっかで見たような…
とりあえず今は酔っ払いの狼を抱えている身、馬をちゃんと管理できない人など、ろくな人では無いだろう。こいつは、自己責任でなんとかするべきだ、そして反省しろ。
そんな事を考えながら歩いていくとまた馬の足音が聞こえる、どうやら馬を逃した張本人か、行った方向ぐらいは教えてやるか。
「セリス!ちょうど良いところに!」
「イルナさん!?」
「私のシルバーが誰かに奪われました!」
「あぁさっきのシルバーでしたか。奪われた?誰も乗ってませんでしたよ?」
「見かけたのですか!誰も乗ってない?そんな、私が見たときは乗ってたのに!」
「酔っ払いが乗って振り落とされたんじゃ?」
「大変、パニック起こして怪我なんかしたら…セリスあなた手伝って!とりあえず後ろ乗って」
「へ?イルナさんの後ろにですか?」
「良いから早く。」
イルナさんの後ろに飛び乗る、イルナさんが小さいせいか子供に馬を教えている時の様だ…良い香りがする…
「東門の方です。」
「この時間なら城門は閉まってます、パニックでぶつかったりしなければ良いのですが…」
「あの子は頭の良い子でしたから、それは無いと思いますけどね。」
東門の前にシルバーが見えてくる、
「良かった止まってる。」
イルナさんが安心して肩を下ろしたその時
突然に誰も居なかったはずのシルバーにまたがった人間が姿を現した
いや、正確には人間達。誰かが抱き抱えられている。
「ヴァインヴォルドゥ!!!!!」
城門に向けて放たれたそれは…城門を破壊し周りを燃やす
それを見てイルナさんが叫ぶ
「ひ…姫…ルル姫様!!!!」
そしてそれを抱えるのは
「フーセ?」
酔っているのか俺は?まぁ舐めるぐらいはしたけど…
目をこする、シルバーは再び駆け出す。
城の方から警鐘が聞こえてくる
「イルナさん、このまま追いかけます!」
「当然です。姫様を攫ったものを消して逃しはしません」
それはそうだ一国の姫を攫ったのだ
「良いですかセリス、とにかく姫の安全が第一です、姫に危害が及ぶようなら犯人は始末します」
始末?殺す?誰を…フーセを?俺が?
「セリス何をしてるのです、手綱を緩めて、速度を上げないと見失いってしまいます」
「乗っていたのはのはフーセです。」
「本当ですか!?」
「はい。俺には、フーセを殺すなんて…」
「あっあなたは!!」
「いっ!いて!」
太ももをつねられる
「本当なら全力で殴ってるところですがそんなことしてる時間はありません、良いですか、貴方は仮ながらにも王国騎士です。王国騎士は国と王を守るのが仕事です。犯人が身内と言うならば、止めるのは貴方でなくては行けません。できないと言うならばすぐに馬から降りなさい。私が姫をお助けします。」
「いえ、行きます。」
馬を走らせる
月明かりがあるとはいえ暗い中をフーセを乗せた馬は御構い無しに進んでいく。
フーセの父の配達の仕事を手伝っていたフーセにとって、夜の街を走るのは問題ないのだろうがこちらはそうもいかず失速する
「くそ、離される」
「落ち着きなさいセリス、最悪足跡を追うことが出来ます。貴方が焦ると馬に伝わって遅くなってしまう。」
「すっすいません」
既にフーセ達の影は視界から消えてしまっている
「ゴーズメル」
イルナさんが前を照らす。
「私達が追って行ったのは門番が見ていたから後続も来るでしょう、いいですか?貴方の身内、殺されたく無いならば貴方が今日必ず捕まえなければ行けません、他の兵士たちは間違いなく姫を助ける為なら犯人を殺すでしょう。貴方が尽力するならば私も貴方の力になりましょう。私達で捕まえますよ」
「はい。」
これでフーセが操られていると言うことは間違い無くなった。
ソフィーさん…何が狙いなんだ…
闇の中、馬を走らせる
自分の腰の鞘の中で眠る剣がイビキを立てていた。
カイ君を見習って後でガツンと言ってやろう。




