3-5 停滞の暗躍
ーーーーーーーーーーーーーーーーファル
「セリス。ただいま。」
「おかえりファル。どうだった?」
「村のみんなには大会で優勝して、王様のお眼鏡に叶いそうだからしばらく王都にいるって伝えてきたから大丈夫。」
「フーセとシルちゃんは?」
「見つからなかったわ。」
そう言うとセリスは苦笑いをする
「そうか…まぁ正直見つかって欲しいのが半分で見つからないで欲しいのも半分だったんだ…でも、これでフーセが行きそうな所はなくなった。やっぱり操られてるのかな…」
ごめんねセリス、でも私に任せて…
「わからないわ…それはそうとセリスの方はどうだった?何か変わった事は?」
「ああ、ファルがあっちに行ってる間に一番隊のアソーマ団長に鍛えてもらったよ、自分の未熟さを思い知ったよ。そいつを踏まえて今は鍛え直し中だ」
「アソーマ団長さんに?強かった?」
「強いってもんじゃないな、軽くあしらわれちまった。」
「そっか、また落ち込んじゃった?セリス」
「いいや、まだまだ俺は強くなれるって思えたよ。それに剣浪様にも誰よりも強くなるってお墨付きももらってるからね。足掻いて見るさ」
晴れやかな顔をするクリス。吹っ切れたようだ。良かった。
「ルルは?なんかしてこなかった?」
「いや?会ってもいないし見てもいないな、ファルが言ったんだろ、行かない、寄らない、近づかない。」
「はい。良くできました。」
本当よかった
「荷物持つよ、とりあえず今日は休むんだろ?」
「いいえ、先にマーリンと王様に報告に行ってくるわ。」
「そうか、それは行かないとな」
「終わったらご飯食べにいこ?」
「ああ!荷物は俺に任せて行ってこい。」
「お願いね」
アソーマ団長に鍛えてもらった…か、後で詳しく聞いてみよう。
そんな事を思いながらお城に歩いていると…
街中を背中に子供を数人乗せた銀色の毛をした狼が歩いていた。
…なんで????
しかも…町の人達にリンゴ貰ったりして受け入れられている…
…どうして????
ぎょっとして、その後、はっ!とした時には狼は私に気付かず行ってしまった。
これも後で聞いてみよう。
何をどうしたらこうなるのか…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「フーセ、シル、共に、私とセリスで考えられるトルダワ湖、タアキ村で調査を行いましたが、本人達、および手がかりも見つかりませんでした。」
「そうか…ファルよ他にフーセとやらが行きそうな場所、他には心当たりはないか?」
「フーセとはフーセが9歳の頃から約5、6年ぐらいの付き合いとなりますが基本村で過ごしておりましたので先日行ったトルダワ湖以外は私達にはもう心辺りはありません。」
「そう言って、隠してるんじゃないの?」
ルルが横から口を挟んでくる
「…ありません。」
「分かった。今後どうするかは他の者とも相談しよう、マーリンは引き続き捜索をおこなってくれ。遠征ご苦労であった今日は休むがよい。」
「失礼します。」
立ち上がり扉に向かって歩き出すと
「ファル!今日夕食一緒にいかが?」
ルルに呼び止められる
「ルル王女、私は今は王族ではありません、さらに身内に容疑をかけられている身です。恐れ多くも王女様と席を共にするなど私には身に余る行為でございます。
申し訳ございませんが潔白であると証明されるまで辞退させて頂きます。」
「あら?じゃぁセリスを誘おうかしら?」
っ!この女は…!
「姫様、お言葉ですがセリスも私と同じ立場でございます。のでどうかご配慮ください。」
すっと横に1番隊の人が立つ、殺気立ってしまったようだ
「そんなに気にしなくてもいいのに!私とあなたの仲なんだから」
「昔の話です。今の私は今は只の田舎娘でございます。では失礼します。」
分かってやってるのがわかるから本当に腹がたつ、完全に私を怒らせようとしてやっている。
このままではそろそろセリスに手を出しかねない、早急に手立てを考えなくては…
謁見の間から出て深呼吸をする…
よし、切り替えよう
「マーリン、収穫は無かったけれどありがとう。村に行けただけでも本当に助かったわ。」
「いーえ、仕事なんだからお礼しなくても大丈夫よ、それにしても、姫さまとは仲が悪いの?あんなに積極的に姫さまが話すのなんて初めてみたわ」
「小さい頃に私がでしゃばり過ぎて目をつけられちゃったんです。ほんと、事あるごとに…」
「ファルちゃん、気持ちは察するけど気をつけてね、さっきもドキドキしちゃったんだから、今のは聞かなかったことにするけど王族批判は罪になっちゃうからね」
「反省します…」
切り替えれてなかった…
「じゃぁ、私は戻るわ、2、3日はまだ王都にいると思うから何かあったら寄ってね」
「はい。お疲れ様でした。」
マーリンと別れる。
さてと…栄養補給しに早く帰ろ。
足早に宿舎に向かう
広場まで来ると人の輪が出来ている。
その真ん中には、またも銀色の狼が…
「…そこで儂は言ってやったんじゃ、パルよ、惚れた女も守れずに国を守ろうなどと片腹痛いわ!とな…」
どうなってるの?っとそれを見ているとぽんと肩を叩かれる
「驚いたろ?」
セリスだ
「どうしたのあれ?」
「いやーアソーマ団長に鍛えて貰うためにカイ君に頼んだら大ごとになっちゃってな、人がたくさん集まったもんだから、せっかくだからって剣狼様を街の人たちに紹介したら、この人気さ」
「剣狼の話、なんか前に話してた内容と違うわね…」
「ああ、かなり盛ってるな」
「孤高の狼とか言ってたけど、案外寂しがり屋さんだったのかしら?」
「そうかもな、話すのはだいぶ好きな様だから…あのまま話させておこう。まぁ町の人たちに色々食い物もらってるみたいだから魔力はともかく腹は満たされてるだろ、っと言うわけで、2人で晩餐と参りませんか?姫」
手を差し伸べられる
「うむ、くるしゅうない」
手を取って歩き出す
うん、回復、回復。
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王都に戻って数日過ぎた。
王様からの指令はまだない。
セリスは2番隊の訓練に混ざって体を鍛えている
マーダンさんとやり合うのが一番ためになると言っていた。
私の方はと言うと新術の完成の為という名目で王立図書館で本を読みあさっている。
実はもうマーズメルは完成しているし、やろうと思えば他の属性でだって出来るだろう。
ただ今の立場でそんなものを公表したところで私にはあまりメリットが無い。やるなら今の状況を片付けてからの方が効果的だろう。
何とか王と国政や軍事について話せる位置の立場にはなりたい。でもそのときにルルが居ては絶対にろくなことにならない。
ルル・ムスシタナ・ホルン
私と同い年の19歳。おじさまの血が濃いのか褐色に近い肌を持ち水色の長いストレートヘア。文武共に優秀。黙っていれば可愛いお姫様なんだけど…
本当に小さい頃は仲良くしていた。昔の私は立場というか人を立てるという事がよくわからなかった、学問においては常に1番をとり、ルルが2番、同じ歳という事もあり比べられる事も多かった、口には出さなかったがきっと根に持っていたのだろう。ある時ルルが1番を取った。私は悔しくて泣いた。そこから彼女は急変した。嫌がらせが始まったのだ。お気に入りのリボンは取られ、私の苦手なダンスや、護身術になるとやたらとイジワルをされる。そしてそんな私を見てニヤニヤと嘲笑った。極め付けには父というが無くなって落ち込んでる私をずーと見て恍惚した顔をして居た。
久々に会ってもやはりそれは変わらない、このままではセリスに害が及んでしまう。私のセリスを奪ってしまう。あいつは邪魔だ。その為には…どうするか…
彼女を排除して、セリスを勇者にしたい。一石二鳥にする方法…
ルルをさらって、居なくなって貰って、さらった者をセリスが倒して英雄になる。剣狼も何やら街で人気が出ている。1番隊には入らなくとも、マーダンが1番隊に上がるならば、うまくいけば2番隊の隊長までは考えられる。
それをどうやってやるか…
兵士名簿をペラペラとめくりため息をつく
アソーマ・セーフティ
団長、剛剣、と呼ばれる、3人のみで構成される王直属部隊1番隊の隊長。剣の腕は大陸一とも言われ、かつて行われた魔獣掃討戦では一人でハンドサイド平原の魔獣掃討したと言われる。
つまりは化け物より強いと…
ユウヒ・スマート
武具メーカー、スマート・ジーコ氏の次男
王直属部隊1番隊に所属する。
幼い頃より武具と共に生きてきたため、あらゆる武具に精通しており、自分自身でも制作可能。また、これは流通が少ないため高額で取引されている。
武器のスペシャリストね、今日睨んできた人はこの人かな?
シュウ・ショートガーデン
王直属部隊1番隊所属する。
諜報部員と言われているが詳細は不明、出世については極秘とされている。
王の側で護衛中もマスクをし、どんな顔をしているかも不明である。
つまり何にもわかんないと。名前も怪しいものね。
いずれにせよ、セリスの背後を気付かれずに取れる1番隊の面々、ルルの部屋は王の部屋の側、彼らに気付かれずにルルをさらえる人物。セリスなら戦わなくても良いのなら出来るかも知れないが…それでは意味がない。マーダンやマーリン…は出来るかもしれないが彼らを使う為には私の暗躍がバレるリスクを負う。
1番隊が厄介だ…魔獣達をまた呼び寄せたところで王やルルの側から彼らを引き剥がすのは無理だろう。
1番隊の誰かを…まず無理だろう、まず彼らに触れて命令を下す方法が思いつかない。
駒が足りない。
外を見ると街灯に明かりが灯っていく
本を片付けて図書館を後にする。
明日はセリスについて行って2番隊の訓練を見学してみよう。
誰か良い人が見つかれば良いのだけれど…




