3-2 足掻く者と画策する者
時は少しさかのぼる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーセリス
「ファル、気をつけてな!マーリンさん、ファルをよろしくお願いがいします。」
「任せておいてぇ、フーセ君とシルちゃんもきっと見つけて来るわ」
「セリスも頑張って。イルナさん、よろしくお願いがいします。」
「頼まれました、道中お気をつけて。」
朝一番でファルとマーリンさんを含めた一個部隊がタアキ村とトルダワ湖に向かって旅立った。
正直なところ、見つかって欲しいのが半分見つからないで欲しいのも半分、見つかったとき王国がフーセがどのようにするかわからない。それでも無事を確かめたい…
どちらにせよ、今俺にできる事、やらなければならない事。思いつく限りのことをしてみるしかないな。
ファル達を見送り、宿舎へと足を向ける。
そう言ってもやらなければいけないこと…操られているかもしれないフーセを捕らえる実力をつける…できれば自分だけの力で…剣狼さまの記憶をたどってもヒントになるようなものは見つからない…となれば新しい技術、少なくともあのスピードに対抗できる手段が欲しい
「セリス、考え事をしながら歩くと危ないですよ」
隣からイルナさんに声をかけられる
「あっそうですね、気をつけます。」
「何か、困りごとでも?」
「えぇまぁ…そうだ!イルナさん、1番隊の方と話をさせてもらう方法とかありませんかね?」
「それは今回の件に関することか?」
「関係あるといえばあるのですがどちらかと言うと個人的なことです。自分はフーセを止めることができませんでした。強くならなきゃいけないのです。その為に一番隊の方に相談というか教えを乞いたいと言いますか…」
「なるほどな、ヨシ合わせてやろう!…っと言いたいところだが、それをするには時間がかかる。1番隊は王直属な為に緊急の案件以外だと時間をとってもらうには色々手続きが必要なんだ。まともに依頼を出せば1ヶ月はかかるだろう。」
「そうなんですか…すんなりとは行きませんね」
「1番隊は王の警護だ、それが一人いないとわかった時に狙われるかもしれないからな。」
「流石に王に面会を求めて王様ではなく1番隊の人と話したいと言うわけにもいきませんしね」
「だが良かったな、今だからこそのチャンスはある。」
「チャンス?」
「あぁ、武術祭少年の部。優勝者に与えられるものを知っているか?」
「賞金?50万もらえるんじゃなかったでしたっけ?」
「それとともに王国戦士長より指導を受けられる権利が貰える。」
「つまり、それに同行させてもらえれば1番隊隊長に会えると言うことですね。」
「そういうことだ、後は優勝者に頼めれば…」
「武器屋に行ってきます。」
すぐさま走り出す
「こら、私を置いていくな!」
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「戦士長に会うのに同行したい?」
「あぁ訳あって勝たないといけない相手が出来たんだ。何か隊長さんならヒントをくれるんじゃないかと思ってね、頼むよ」
「なるほど…セリスさんが勝てない相手となるとそれこそ1番隊ぐらいしか思いつきませんが…!?そうか!?武術祭優勝者と1番隊隊長!うん…これは…いける気がする!父さ…じゃなかった親方ー!」
「どうした?カイ、またなんか儲け話でもきたか?」
「ある意味武術祭よりも盛り上がるかもしれない商売チャンスだ、ゴニョゴニョゴニョ」
コソコソとカイ君と親方さんが話している
「いいと思うがカイはいいのか?」
「いいさ!正直売り込むにも去年と大差ないからどうしようかとおもってたんだ」
「??どういうことだ??」
「セリスさん!オーケーです。同行してください。と言うか思う存分指導を受けてもらってください。」
「いや俺は少し話をさせてもらえれば…」
「いや!何を言っているんです貴方は剣士ですよ、剣を交わさねばわからない事もたくさんあるでしょう。」
そういうと、棚をあさり
「それはそうだけどカイくん?…カイくん?…まって?それは?」
「僕の代わりにこれを着て、これを付けて…」
ポンポンと色々と投げられる物を受け止める
「えっと…カイ君?これは?」
「新作の武器と防具です。」
「いや、そうじゃなくて…」
「安心してください、セリスさんは剣はいらないかもしれませんが…使わなくてもいいので身につけてください。条件です。今回のことが終わったらそれはまぁ…あげちゃいますから!」
「えっ!?いいの!じゃあなくて…どう言う…」
「僕の1番隊隊長に受ける稽古の権利、まるごとあげちゃいます、思う存分指導してもらってください。」
「それじゃカイ君は…」
「良いんですよ、私は強くなりたい訳では有りませんから。それに今年はあまり部隊に売り込む物も少ないですし、去年の感じだとだいぶアソーマ団長も断り方を覚えてきてしまったんで、今年は宣伝の方で行きたいと思います。」
「つまり…」
「権利は譲りますが、観客有りです。下手したらコロシアム埋まってしまうかも…大会優勝者対1番隊隊長アソーマ!…やばい…儲かる気しかしない…いや、欲張っては…いやいや行ける時に…」
ポンと肩を親方さんに叩かれる
「親バカかもしれんが、こいつとは仲良くしとけ、間違い無くでかくなるぞ。」
「親方さん…たぶんそれは違います。もう…仲良くするしか…選択肢はないのではないでしょうか?」
そう言う自分らの前でカイ君は大きな紙に文字を書いている
「今年度大会優勝者セリスVSムスシタナ王国戦士長アソーマ!前売り券発売中!問い合わせはファイブアイズ武具店まで!」
「セリス!私は…はぁはぁ…まだ…骨折中…はぁ…なので全…力…で走れ…はぁ…ないので置いていかないで…くだサイ…」
ようやくイルナさんが到着する!
「これはこれは!2番隊副隊長!イルナ様!丁度良いところに!」
「あっ!ハイ!イルナです。」
2番隊副隊長という言葉に反応してかイルナさんが身を正す
「私は今年度少年の部で優勝させていただいたカイ・アウトフェザーです。2番隊副隊長様に頼みごととは大変失礼と思いますが、これも何かの縁と思いまして…」
カイ君が手紙を一通差し出す
「これは?」
「今年度の大会褒賞の訓練に着きましてのお話を一番隊アソーマ隊長さまへお伝え願えないでしょうか?出来れば本日中に…」
「わかりました。これをアソーマ隊長に渡せば良いのですね?」
「お願いします。」
「イルナさん、私からもお願いします。」
「うまく行った様ですね、至急渡してきましょう」
それを聞くと敬礼をしてすぐさまイルナさんが出て行く。
「はい、これで明日の正午に城から.東の空に閃刃が飛べばセリスさんは10月5日に今渡した装備で隊長さんと戦えます。閃刃西に向かって飛べば、あちらからの断りなので残念ながら諦めてください。よろしいですか?」
「カイ君ありがとう。」
硬く握手をして店を出る。
「まぁ、8割がた大丈夫と思ってもらって構いませんよ」
ニコニコしたカイ君がそう言って見送ってくれる
ずいぶんと自信ありげだったので恐らく大丈夫なのまろう。と、思いながら一度装備を置きに宿舎にもどると、そこにいた兵士に声をかけられる。
「お前アソーマ団長と戦うのか!?」
「なんでもう知ってるんですか?今その話をしてきたばかりなのに!?」
兵士が自分が歩いて着た方を指差す
バルーンが飛び垂れ幕がさがっている
《緊急告知!大会優勝者セリスVSムスシタナ王国戦士長アソーマ団長!10月5日正午よりコロシアムにて開催!》
「えっまだ返事もらってないのに!?」
「あれは本当なのか!?羨ましいな、団長と手合わせなんて凄い事だ、これは直ぐにチケット買いに行かねば…いや休みを貰いに…」
兵士が走って行ってしまう
「これは…もう決定したのか?」
「ヒントが得られるかはわからんが、これはいい経験になるな、どこまでやれるか、まぁ胸を借りてこい」
翌日の正午。東の空に閃刃が飛ぶ
それを見て街全体がどよめくのが聞こえてきた
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「しかし、カイよ、強引だったな?」
アソーマ団長がコロシアムに顔をだし開口一番にそう話す
「これはこれはアソーマ団長!この度は突然の提案にお答えいただきありがとうございます。強引だったのは認めます。しかしながら駆け引きには強引さも時には必要と幼き私に教えてくださったのはアソーマ団長ですよ?」
「あっはっは、そうだな、確かに言った、あれでは断るに断れんからな」
バルーンを指差して笑う
「さてと、改めて挨拶だな、セリス、ムスシタナ王国兵士長アソーマだ、みんなからは団長と呼ばれてる」
「アソーマ団長、ありがとうございます。」
握手を交わす
「さてとあの垂れ幕通りの話なら俺と戦いたいということで良いのか?」
「いえ、本当は相談したかっただけなのですが…」
「カイに上手いこと使われたという事だな…んで?相談とは?」
アソーマ団長にフーセにやられた時の事を話す
「一瞬で姿を見失う相手への対策、そんな相手を捕らえる方法が知りたいという事でいいか?」
「はい!」
アソーマ団長は少し考え込むと
「まずはお前の実力を見てやる、それにこうなったからには戦わなければ皆、満足せんだろうしな。」
周りを見渡すとコロシアムが人で埋まっている。
「おおごとになってしまいましたね…」
剣狼様を握りふと思い出す
宿に、帰るたびに窮屈だと愚痴をこぼす剣狼…
「カイ君拡声装置貸してくれないか?」
「いいですとも、まず私から皆様に紹介します。」
そういうと魔術を施した拡声装置を出すとカイ君が話し始める
「皆さま大変長らくお待たせしました。本日はファイブアイズ商店主催のイベントにお集まりいただき誠にありがとうございます。」
一礼するカイ君に合わせて自分も一礼する
「本日は本来、私の先日行われた大会報酬である、アソーマ隊長より剣術指導が頂ける権利を伝説の剣を持つ戦士、セリス・ガルデニア氏に譲るという形で行われる事となりました。セリス・ガルデニア氏から皆様に挨拶があるそうです、紹介致します!セリス・ガルデニア!」
会場から拍手と声援が起こる
「あっ!えーと。本日はお集まりいただいてありがとうございます。セリスです。」
再度歓声がわく
「本日はカイ君にお願いして、あっ、アソーマ隊長に鍛えてもらいたいというお願いをして…この場をいただくことになりました。恐らく皆様はこの剣を見に来たものと思うのですが…」
そう言って剣狼様を抜くとどよめきが起こる
「これだけ多くの人がいる機会なので、皆様にお願いが有ります。実はこの剣は、この姿は真のお姿では有りません。剣狼様…」
小声で剣狼様が言う
「なんのつもりじゃセリス?」
「せっかくの機会なので剣狼様を知ってもらえれば街でも剣になっていなくてもいいじゃないですか」
「なるほどの…」
そう言うと狼の姿に変わる
会場からどよめきが増す
「このお姿が剣狼様の真のお姿です。剣狼様は人の言葉をはなし、知性に溢れたお方です。決して人を襲ったり致しません。かねてよりこのお姿が故に恐れられると言う心配から剣のお姿で窮屈な思いをしておりました、町をこの姿で歩く許可を皆様に頂きたく、この場をお借りさせてもらいました。剣狼様からもお願いします。」
「人は襲わん、パルとの約束じゃからな」
歓声が起こる、その歓声を聞いてカイ君が拡声機を受け取る
「この歓声を持って皆様よりご承認貰えたと考えさせて貰ってもよろしいでしょうか?」
再度歓声が起こる
「ありがとうございます、このコロシアムに来てない人達にもこの事を伝えて頂けたらと思います。せっかくなので剣狼様、皆様により知って頂ける様にアソーマ隊長とセリス様の戦いを解説していただけないでしょうか?」
「うむ、よかろう」
いきなりの事なのに動揺を見せないカイ君がある意味恐ろしく感じてしまう。
「なんだ、剣狼と戦えるかと思ってたんだがな。」
アソーマ団長が少し残念そうな顔をする
「まずは自分だけの実力を見てください、いずれ、剣狼様を持って戦わないとこれだけ多くの人は満足しないでしょう。」
「ずいぶん弱気だな、やはり剣に頼っている自覚はあるのか?」
「そうですね、いきなり、どの武具店でも置いていない剣を持ってしまったので、どれほど差が出るのか予想できませんね」
「うむ。セリス・ガルデニア。遠慮なく全力でこい!すぐに剣狼を持たせてやる」
「行きます。」
この国で一般強いと言われる男との戦いに、
いつもと違う剣を持つ手に力がこもった。




