2-4 武術祭
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーセリス
「第二近衛兵団所属 疾風のヒルロッテだ」
「タアキ村から来ました、セリスです。」
「お前初参戦だな?よく準決勝まで来たもんだ、しかし残念だったな、ここまでだ。俺と戦ったことを村に帰って自慢していいぞ!」
「お手柔らかにお願いします。」
大会は準決勝。応援席には誰の姿も見えていない。
と言う事はみんな勝ち残ってる。
「流石に兄貴分として先に負けるわけにはいかないわな」
「はじめ!」
この大会では基本的に攻撃呪文は禁止されている。
「おまえにはワンステップで十分かな?ライトスピード!」
しかし防御力や攻撃力、速度アップなどの補助呪文は容認されている。
「いくぞ!」
「こい!」
疾風を名乗るだけあって速度に自信がある様だ。
細かくフェイントを使い間合いを詰めてくる。
しかし
「フーセの方がはやいな」
剣先を常に相手の方に向け威嚇する
「ほう、見えているか、どうやらおまえには俺の二段階目を見せなければならない様だ、ウィンドフット!」
少し空中に浮き上がる
「飛べるのか!」
「空高くとはいかないがな地面との抵抗を減らせば速度は倍以上だ!」
「そうか手の届かないとこまで飛ばれたらどうしようかと思ったよ」
「そこは安心しろよ、早すぎて手が届かないさ」
速度的にはソフィーさんを使ったフーセといったところか…やれやれまさかフーセとの戦いが思わぬ予習となったものだ。
「はっはっは!今更素振りか?俺の姿を捉えられない様だな」
「いや、準備出来たよ。さぁどこからでも来な、面白いものを見せてやるよ」
「そうか、いくぞ!このヒルロッテと戦えた事を自慢させてやるぞ」
ヒルロッテが自分の周りを高速で回り出す
「いくぞまずは右肩!もら……ぐはっ!」
「自分から剣撃に突っ込んで来てくれてありがとう。自慢していいよ俺と戦ったったこと」
「ま…まだ3段階目が…」
喉元に剣先を当てる
「じゃあ今度は最初から使う事だ」
「セリス選手決勝進出!」
先の一ヶ月で特訓した術を止めるの応用で剣撃を止める技が役に立ってくれた。
「ワッパの方が強いんじゃないか?」
「そうですね、でもまぁ彼も言ってましたが私を見くびって本気を出さなかったと言うのもあるでしょう、フーセの場合俺にはいつでも全力ですからね」
「相手の実力を測れんというだけでまだまだなんじゃがな」
「セリスさーん!」
「シルちゃん!」
「決勝進出おめでとうございます!」
「フーセは?」
「準決勝でやられちゃいました、ちょっと凹んでくるそうです。」
「相手はカイ君か?」
「ええ、実力というかなんというか説明難しいんですけどね、しょうがないんじゃないかな?反則じゃないけどどうにもならなかったというか…」
「どういうことだ?」
「相手が悪かったみたいな感じかな?」
さっぱり意味がわからん、後でソフィーさんに聞いてみよう。
「この後お姉の決勝の応援行くんですけど、セリスさんはどうします?」
「俺は大トリだからな時間もある、一緒にいくよ」
術者の試合は武術とは違い避けるという概念が無い
術者は直径2mのサークルの中から出られない、自分から15m離れたところに相手がおり、術を使い相手をサークルから出す事で勝敗を競う。
「残るとは思っていたけどまさかファルも決勝まで来るとはなぁ」
「フーセ以外みんな決勝ですね。」
「フーセの前で言ってやるなよシルちゃん、一人で大丈夫か?相当凹んでるんじゃないのか?」
「ソフィーがついてくれてますよ。でもまぁあれはしょうがないんじゃないかな、多分本人もそう思ってますよ。相手は剣士ではなく商人だったみたいな、正直一緒にいても私しょうがないよとしか言えないですもの」
「それはいったい…」
「あっおねーちゃんいた!おねーちゃん!!!!」
ファルがこちらを見て手を振る
「セリスさんも決勝のこったよー!がんばってーー」
嬉しそうに笑うと力こぶを作ってみせる
がんばるわ!って事だろう
「うわ、相手の術者ゴツゴツ筋肉の男じゃん!武術の方じゃないの!?」
「まぁ取っ組み合いするわけじゃないから、あんま筋肉は関係ないんじゃないか?でもまぁ決勝残る相手なんだからすごい術を使うんだろうな」
「これより、術者、大人の部決勝を行います。」
すごい声援が起こる、地鳴りの様だ
「選手の紹介です。東方サークルにおりますは王都第3兵団所属、クー・マーリン選手。昨年度優勝により今年は連覇がかかっております。なおこの後剣術の部の決勝にはお兄さんのクー・マーダン選手も出場されるとのこと、兄弟揃っての優勝となるか!」
「クーマーって見た目通りね」
「兄貴もあんなかんじなのかな、だとしたら重い剣になるな」
「西側サークルにおりますはタアキ村より来た、可憐な華ファル・ファリーゼ選手、今年度初参加で決勝進出のダークホース。しかし観客の男性陣には残念なお知らせ、ファル選手には婚約者がいらっしゃるそうです。しかもお相手は同じく剣術の部で決勝進出のセリス選手との事!残念だったな!」
「なっ!」
「ちょっと!セリスさん!聞いてないですよ!」
「お…俺だって聞いて…なくなくはない…」
「婚約っていつのまに!」
「それはまだ優勝したらというか…」
「はじめ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーファル
応援席でセリスがシルにブンブン振られている
まさか待合室で友達の様に話してきた女性が決勝の実況の人とは思わなかったわ…身内に言う前にまさかのカミングアウトになっちゃったわね…
「2人で優勝してステキな結婚式にするつもりなのね」
「ええ、そうしたいですわ」
オネェ言葉が写ってしまった
「いいわねー、あそこでブンブン振り回されてるのが相手かしら?あら?いい男ね、羨ましいわ、あら他の女に振り回されてるけどいいの?」
「妹だからご心配なく」
「あら?あなたの妹は何人いるのかしら?モテモテね」
「えっ?」
セリスの方を見ると相変わらずシルにいい詰められている、
「ヒュンゼル」
「しまっ…!」
無数の氷の刃が飛んでくる
「ご挨拶よ、よそ見は良くないわ、嫁入り前の子の綺麗な姿をみんなに見てもらうってのはどうかしら?」
わざと服だけねらってきた…
「いえいえあなたこそそのむきむきな体をみんなに見てもらったら?ゴーズメルフォーハンズ!」
無数の火球を相手に向けて飛ばす
「これだけの火球、すべてさばけるかしら」
「ファル選手のゴーズメルフォーハンズだ!これを防ぎきれるか!おっ、おっと、クーマーリン選手動かない!回避も防御呪文も使わない!!!
直撃!あれだけの数の火球をノーガードで全て受けた!!!!大丈夫か!?中かトラブルか?ファル選手に動きを止められていたのか!?こんなあっけなく終わってしまうのか!!!」
「ヒュンゼルフォーハンズ」
クーマーリンを囲んだ煙の中から無数の氷刃がとんでくる
「うそ!?ゴーズウォール!」
とっさに炎の壁を作るが
「おーっと!!クーマーリン選手あれだけの火球を直撃してほぼ無傷!服は焼けておちたが、まさか!?あの筋肉で全て受け切ったのか、もともと黒い肌なので火傷してるかわからない!すごいぞ筋肉!魔法もはじくのか!?」
「あーらマッチ棒みたいな足じゃない?私のステキな足とは大違い」
「服だけ狙ってくるとかいい趣味の方のようですね」
おそらく生身で受けたのではなく体の周りに薄くマジックウォールを使っているのだろう。服の上からかければいいのに…見せたがりか…
「あら?みんなにかわいい体をみてもらったら?興奮するわよ〜さぁみんな私の体をみてェーーー」
「そんな趣味は有りませんから遠慮します。」
「ヒュンゼルフォーハンズ」
「ゴーズウォール」
「あらウエスト思ったより細いのね、大丈夫!怖がらなくてもすぐ快感になるわ、それにしてもフォーハンズね、いいわ!この響きはステキよ」
まさかフォーハンズも即座に対応してくるあたり精神的に追い込むつもりか…むしろ…自分を強く見せようとしてる?自分には何も効かないとアピール…なんでも試す…魔力の消費…魔力量が少ない?でもそこまで罠だったら?
「色々できるようですね第3兵団、魔術部隊…こんなのは耐えられますかね?」
「やってみなさい!またゴーズ?それともヒュンゼル?私は王立図書館にあるような魔術なら全て防いで見せるわよ」
「クーマーリンさん、例えばゴーズメル、どんなに詠唱…あっ詠唱しますね。
集まれ、大気の熱よ、風をまとい、汝の存在を示せ。ゴーズメル。」
留めたゴーズメルが自分の目の前でふわふわと浮く
「どんなに優れた魔術使いでもしっかり詠唱してどんなに魔力を込めてもゴーズメルはせいぜい人の頭ぐらいの大きさが限界ですよね?」
「そうね、それぐらいなら私も手ではらっちゃうかしらね?」
「そうなんです、多分これを仮に何個も作っても多分貴方には通用しないでしょう。多分それはこれを氷にしても土にしても同じことですよね?」
「そうね…試してみる?」
「いえいえ私きっと貴方は研究熱心な方と見ましてきっとこれからやる事も興味を持っていただけると思うんです。これからこのゴーズメルを進化させます。」
「進化?威力を上げるの?無理よ、それに重ねがけしたって相殺して消滅しちゃうのよ、できるものならやってみなさい、待ってて上げるわ」
思った通りのってきてくれた、約束は守ってくれるかはわからないが多分この人は魔力量が多くない、だからわざと体で受けたふりをして通用しないと思わせたり、人の術をまねてアレンジを加えたりして相手を焦らせ魔力を減らす戦いかたをしているのではないかと推測する。私も防御の術の勉強をしたものの攻撃呪文のレパートリーは増えていない、しっかり詠唱したヴァインヴォルドゥならば聞くだろうがそんな時間はくれないだろう、本で読んだ理論が正しければできるはず…成功すれば勝ち、失敗したら負けを認めるしかないかな?
「火の玉をぶつけ合えば消滅する、じゃあどうするか、純粋に魔力だけを火にくべる、要は風船のようなもの勢いが弱ければ逆流するし強ければやっぱり破裂する」
ゴーズメルが大きくなる
「なるほどね確かに大きくなってきたわね、それで?風船は縛って塞がるけど、貴方と火球をつないだ魔力のパイプはどう切り離すのかしら?はなしたらそこから一気に炎が吹き出してしぼんじゃうんじゃない?」
「これくらいでいいかな?」
ゴーズメルは5倍ほどの大きさに膨れ上がる
「成功したら降参していただけます?」
「失敗したら貴方黒焦げよ?今なら降参したら助けて上げるわよ?」
「成立ですね、いきますよ、どうやるかは企業秘密ですから解説しません。」
火球との魔力のパイプを縮めて手を火球に当てる
「貴方、あつくないの?」
「その質問答えるとだいぶ企業秘密が割れちゃうんですけど熱くないですよ。出来ました。」
大きくなった火球をまた空中に浮かせる
「私の勝ちでもいいですか?これを当てるのはちょっとどれくらいの威力が試してないのでさけたいのですが…」
「フフフっ、ふぁはっはっは!ひっへっ…くふふふっ、ごめんなさい嬉しくて、これ今まさに新しい術が出来た瞬間じゃない?でもこうなったらだめよ、威力もわからないんじゃ完成とはいえないじゃない?ここからは大会抜きで同じ術者としてそれを受け切りたいと思っちゃってるのよ私、だからギブアップはしないわ」
「本気ですか…私としても、実は負けを認めて貰えたらこれの処理の協力を仰ぐところだったんですが…ふつうに消せないのが難点なんですよね。」
「あら?爪は甘かったのね、今度は私の方を待ってもらっていい?最大級の防御をさせてもらうわ」
クーマーリンが深く深呼吸をする
「まずわ、ジュールメル」
水球をつくり頭の上で割る
「念のため水は被らなきゃね、水も滴るいい体」
女と言わなかった…ある程度自覚はあるのか…
「聖なる水、畏怖の炎、戒めの風、回帰せよ全ては大地の源に生まれしものなり、重ね、集め、我を守れ、マジックウォール」
先ほどとは違い目視で確認できるほどの魔力の壁が出来る
「さぁ!こいや!」
野太い声でマッスルポーズをとる
「いきますよ」
「あっやっぱ待って」
「やっぱりやめときます?」
「いえ、それ、その術に名前はあるの?」
「いえ、まぁ言っちゃえばただ大きいゴーズメルですから…」
「だめよ!やっぱり新呪文なんだから無言でぶつけられても気合がならないわ…そうねーダイナマイトビックゴーズメルとか!」
「ピンと来ませんね…初めて受ける貴方から名をもらってクー・マーズメルというのはどうですか?」
「点で技を区切るの好きじゃないわマーズメルでいいんじゃない?」
「わかりましたそうします。行きますよ!」
「よしこいや!」
なぜかまた違うポーズをとる。もしやさっきのポーズが納得いかなかっただけか?
クーマーリンが心配というのもあったが自分の中に試したい、という心があって…ワクワクしている自分が勝ってしまった。私こんな子だったかな?
「マーズメル!!!」
火球はクーマーリンめがけて一直線に飛んでいく。




