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剣狼の願い  作者: クタクタニ
第2章 王都
14/83

2-3 2週間の答え

ーーーーーーーーーーーーーーーーーソフィー


この村の風は気分屋で読みにくい

山からの風と思っていると川下の方からの風に急に変わり、トルダワ湖がいかに穏やかだったんだろうと懐かしく思わせる。でも嫌いというわけではない、自分ではなく文字通り風に身を任せてみれば面白いところに連れて行ってくれる。


丘を息を切らしながら駆け上がっていく少年が見えてくる、課題を出されて2週間。ひたすら森を掛け向け、川を越え、山を越え、村を通り抜け、この丘の上で素振りをする。初めはまともにこなせなかっが、ようやく息も絶え絶えだがなんとかこなせるようになって来たようだ。丘の上で素振りを始めたフーセが私に気づき手を振っている。


「ソフィー!今日は昼飯に間に合いそうだって伝えてくれー」


「わかったわ〜頑張ってねぇ〜」


くるっと丘を一周して村に進路をかえる、森を抜けた辺りで道をひっくり返った大イノシシが猛スピードで移動している、セリスとにーさんだ。

セリスだけではなく一緒に走らなくてはならなくなった兄さん…イノシシの上に留まり声をかける


「今日は間に合いそう?」


「まにあわせるーーー!!!」


「狼の姿の儂を此処まで使うとは…」



セリスとにーさんが必死に声を上げる、

こうなってしまったのは初日の晩の事になる


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

晩御飯の食材集めをする事になった兄さんは晩に4匹のウサギを持って来た。この村には魔力を持った獣はいない、となるとファルに魔力のこもった食事を作ってもらうしかない。


ご苦労様と調理されたウサギはお皿にちょっとだけ…


「ファル嬢、これでは足りんぞ」


「そうですね私もそう思います。なにぶんこの家には今剣浪様も入れると7人いますので…もしかしたらフーセも来るかもしれないから8人分の量が必要です、人数を伝え忘れてしまいましたね…申し訳ございません、偉大な狼の剣浪様ともなればそれぐらいの量、容易いですわよね?」


「む…むろんだ!」


そして次の日、鹿を一頭仕留めて来た兄さん…


しかし…


「ファル嬢?今日はやけに味が…いや…魔力が薄くないか?あまり食った気がせんぞ?」


「嫌なら食べなくてもいいのよケンロー」


シルちゃんが不機嫌そうに顔を出す


「剣浪様、昨日はやり方を教えるために私が魔力を込めましたが、今日からはシルがやります。私は剣狼様の代わりにセリスを指導するので手が離せませんから家の家事をシルに任せる事になったんですよ」


「なに?しかしこれでは魔力がたりんぞ?」


「ハイハイ、もっと込めますよ」


シルちゃんが鹿肉に魔力を込める


「ボン!」


「ぁぁあ゛ー」


鹿肉が破裂する


「あらあら最後のお肉が…剣狼さま?シルは魔力制御が苦手なの成功しないと、この通り…美味しいご飯のためにはたくさん練習しなくちゃいけないわ、多めに用意していただけたら成長も早いと思いますよ」


「しかしな…儂、くわえて来るしかないからこれ以上の大物は…」


「あぁそうですね!」


ポンと手を叩き考え込み…


「そういえばセリスに運動もさせなければいけませんね、セリスに運ばせましょう。森まで私が歩いて20分…セリスなら運ぶ事も考えて40分で行って帰ってこれるわね、剣浪様に小物ばかり狙わせてしまったのはとても申し訳なかったわ、大物を仕留めたらセリスを呼びに来てください。」


そしてその日の晩

「15分遅刻よ、セリス!」


「ほら、運動としてはもう少し動かしとかないとなまっちゃうよ」


「これ以上遅れが出たら2週間には間に合わないわ…寝る時間を減らすしかなくなっちゃう!運動したいなら40分で全力をだしてね。剣狼様、セリスが全力出すように見張っていただけますか?1分縮めるごとに一品増やしちゃいますよ?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



こうして食事と睡眠を人質に取られた2人は

全力で走り回る事になった…


「先に行ってるわね〜」

2人に声をかけまた空に戻る


それにしても毎回これをやらなくても兄さんが多めに何回かに分けて取って来れば慌てる必要も無いと思うのだけれども…考えが追いついてないようね…


道をたどり、家が見えて来る、庭では「シルちゃんが洗濯物を干している


「今森を出たところだったわよ〜」


「え!ホント?早い!!ソフィー干すの手伝って」


家事を任されたシルちゃん…セリスのお世話…四六時中一緒セリスが一緒にいるため、文句も言えず、できる姿を見せる為かせっせと仕事をしている。


「フーセもお昼間に合いそうだって」


「おお!あいつもだいぶ早くなったわね、午後は対決するんでしょ?私もお昼気合い入れなきゃいけないわね!そうかーようやくこの生活ともお別れできるのか〜」


「そんなこと言わないでこれからも手伝ってねシル?」


後ろから野菜をもったファルちゃんに声をかけられる


「ホントおねぇちゃん、今までありがとうございます」


「えっへん!」


胸を張ったファルちゃんを見て3人で笑っていると、

家の前からゼイゼイハーハーと聞こえて来る

どうやら食材が届いたようだ…


「ソフィーさん?フーセはいけそう?」


「まぁ大丈夫かな?面白くなるとは思うわ」


「セリスちゃんはできるようになったの?」


「まぁ大丈夫かな?面白いものは見せてくれるんじゃないかしら」


またクスクスと3人で笑う。

今日の午後、フーセの武術祭参加の是非が決まる。

2週間走りっぱなしで出した答えがセリスちゃんに通用するのか…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ワッパ、条件は2週間前と同じ、小僧に一撃を与えられたら合格じゃ、あー体力はついただろうから時間は30分以内にするかの?良いか?」


「おう!」


「戦う前に、フーセなりに戦い方は考えて来たんだろ?その重い剣のままでいいのか?」


「?なんで?この剣じゃだめなの?」


「これは時間の心配は、いらんかったかもしれんな」


2週間あの剣を持ったまま走り素振りさせたのは筋力アップの目的もあったが、フーセにあった剣に持ち替えてくれる、ショートソードなりダガーなり、使いやすいものが一番だと気付いて欲しかったからだ


「どうやらちゃんと言わなきゃ分からなかったようですね。でもまぁ2週間頑張っていましたし、他の答えもあるかもしれません」


「バカじゃからな」


クスッと笑ってしまう…


「どうしたのソフィー?」


「いえなんでもないわ、シルちゃん!出だしに注目よ」


「??」


「じゃあ2人とも準備はいい?」


ファルちゃんが声を上げる


「はじめ!」



「行くぞにいちゃん!我山城切!」


「なに!?」


ガジュの技、森にいた時から教わっていたものの、うまくできなかったがここ数日の筋力アップによりガジュほどの厚みのある壁にはならないが目隠しをする事には成功していた


フーセは一気に壁の前まで移動し飛び上がる


壁の左右に気を取られたセリスが反応を鈍らせる


「閃刃!」


上から斬りかかるフーセの剣を寸前のところで剣で受け止める。


「おお、びっくりしたぞ、フーセ!でもなこれじゃ合格点はやらないぞ!」


「まだまだ!」


片手でも振れるようになり、体力もついたフーセの剣撃が嵐のように続く、四方八方から…襲いかかる攻撃に防ぐのに必死かと思われたが…


「攻撃は足でもできるんだぞ?」


フーセに激しい蹴りを与え吹っ飛ばす


再度間合いを測る


「さっ振り出しに戻ったぞフーセ」


「クソーやっぱりダメかー」


「どうする?降参か?」


「剣狼!武器はなに使っても良いっていったよね?」


「おお言ったぞ、やっと、その剣を手放す気になったか…うむ」


「そうじゃないよ?」


フーセが首をかしげる。


「ソフィーさん!やっぱり頼むよ」


「だからいったでしょ?でもまぁさっきのは悪くなかったわ、さて一泡吹かせてあげましょう」


私も剣…夜刀小鴉丸。私の形はダガー


私を左手に持ったフーセは言う


「兄ちゃん、行くよ?」


「まずい!セリスかまえ…」


硬度を変える兄さんに対して私の力は


「早い」


フーセの大剣をかろうじて防いだ瞬間、フーセの左手の私をセリスの胴に押し当てる


「これで大会出てもいいよね?」


「まさか小鴉が、力を貸すとは思わんかった」


「ソフィーさん…の力?」


姿を元に戻しフーセの頭に乗る


「そう、私の核は言うなら速度の核、使用者のスピードをあげたりできるのよ。まぁ私だけでも行けたと思うんだけど、フーセその燕鬼にかなりこだわりを持ってるみたいでね〜」


「ほんとは大会まで秘密にしたかったんだけど、出れなきゃしょうがないし…仕方ないか!」


「はっはっは!奥の手出されたな、参った参った。でもまぁ、見れといて良かった、本場じゃあ同じ手は喰らわないからな。」


「よっしゃー!」


フーセの大会出場が決まった


喜ぶフーセを見つめ、みんなが手を叩いて喜んでいた。ただ1人を除いて…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2週間の頑張りをたたえて今日はファルちゃんがご馳走を作ってくれる事になった、私とシルちゃんもお手伝いする事になったのだが…


「どうしたのおねぇちゃん?浮かない顔で…」


「えっそっそう?そんな事ないわよ?」


「さっきフーセがセリスさんを追い詰めたのがショックだった?」


「そうじゃないわ、フーセ、とっても頑張ったもの」


「そうよね、ソフィーの力を借りたとはいえ2週間とっても頑張ってたもの、あれくらいやってくれなきゃ!…じゃぁなんで?」


「…シル!お願いがあるの!力を貸して!」


「えっ?家事は手伝うわよ、まさかまた1人で!?」


「違うのそうじゃないの…これ見て…」


ポケットから紙を取り出す


「これは…武術祭のチラシじゃない、これがどうかしたの?」


「この間のチラシは武術祭の告知…これは参加の詳しい内容が書かれたチラシ、応募の仕方を確認しようと思って調べてたら…」


ムスシタナ王国 主催 王都武術祭


参加要項

剣士

少年の部 9歳〜15歳

大人の部 16歳〜


「アチャー…これは…フーセ少年は凹むわね」


フーセ現在14歳

セリス現在18歳


大会がちょっと遅くても15歳なので結果は変わらない


「どうしようシル!フーセやる気無くしちゃわないかな!?」


「無くしそうね〜さっき決勝で戦おうとかセリスさんに言ってたわよ。あっそうよ!賞金とかは?」


「もちろん出るんだけど…王国騎士長よりの指導の権利と50万ジダ…」


「ちょっとなにそれ大人の部と差がありすぎじゃない?王様に謁見と500万ジダ…」


「子供には50万でも大きいって考え方もあるわ…」


「それなら…私を使えばフーセ間違いなく優勝できそうね、50万は確定したも同然ね、いいホテルに泊まれるんじゃない?」


私の言葉に2人の目が輝く


「そうね!そうよ!セリスと私は大会に出るの初めてだから…もちろん優勝するつもりだけど…フーセは伝説の剣を持って出場。しかも上は15歳まで…優勝するわ!」


「任せておねぇちゃん!私がフーセをなんとかする、おねぇちゃんは50万で泊まれるいいホテルを手配して!」


「もちろんよ!美味しい料理と素敵なお風呂が付いているところを探してみるわ」


大会まであと2週間。


ここからは女の子の戦いが始まるようだ。




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