3.本邸に迫る危機
密かに想い続けていた人物の幸せそうな様子を見ることが、こんなに苦痛を伴うことだとは思ってもみなかったと、リィネは誰にも気づかれないように小さく溜息を吐いた。
魔法騎士の見習い期間には、配属先の上官にお茶を淹れるのも仕事の一つだった為、元々器用なリィネは卒なく給仕をこなしている。だが、余裕があるからこそ、そこで交わされる会話も全て耳に入ってくる。
「産まれてくる子が、アレックスにそっくりならいいのに」
「いや。私はメウルに似た子がいい」
これまでリィネの中にあった、アレックスに対する『氷のように冷たい白銀の悪魔』のイメージが、音を立てて崩れていく。
冷静で非情な白銀の悪魔と呼ばれていたアレックスが、自分を助ける為に奮戦してくれた姿を見て、まるで自分が特別な存在のように思え、それがまだ幼かったリィネの恋心に火をつけたのだった。これまで、胸の内に秘めながらもずっと持ち続けていたその熱が、どんどん冷めていく。それと同時に、リィネの表情も次第に冷ややかなものになっていった。
「それにしても、女性の魔法騎士がいただなんて、初めて知ったわ」
師団長夫人の興味津々な視線を受けて、リィネは給仕をしていた手を一瞬停める。すぐに動作を再開したものの、続いた質問に動揺は隠しきれなかった。
「女性が魔法騎士になるなんて大変だったでしょうに。どうして魔法騎士になろうと思ったのかしら?」
リィネのポットを持つ手が震え、微かにカップと接触する音がする。聞こえるか聞こえないかぐらいの微かな音だったが、リィネにはまるでそれが部屋中に響いたように聞こえた。
「……他人には、聞かせたくない理由ですので」
動揺した頭を必死で働かせた挙句、出てきたのはそんなつっけんどんな言葉だけだった。
「ごめんなさい。急に不躾な質問をして」
恐縮して落ち込んだように表情を曇らせる師団長夫人を慰めるように、アレックスが優しく彼女の背を撫でる。
……ああ。もう見ていられない。
感情が焼き切れるのではないかと思うほど、リィネの胸の奥から熱い痛みが込み上げてきた時だった。
「リィネヴェリア。ここはもういいですから、さがっていいですよ」
横から不意にポットを取り上げられて、リィネはハッと我に返った。振り向けば、ヒューリットがいつの間にか傍に立っていて、労わるような目でリィネを見下ろしていた。
「……失礼します」
自分が感情のままに発した言葉のせいで、一気にこのサロンの空気が冷えたことに気付き、リィネは一礼すると、まるで逃げるようにサロンを後にした。
「彼女は、朝早くからこのサロンを整えてくれたり、調理師と一緒に菓子を焼いてくれたりと大忙しだったんです」
だから、疲れているだけなんですよ、とリィネを庇ってくれるヒューリットの声が、背後から聞こえてくる。
……違う。そうじゃない。
涙が込み上げそうになって、リィネは慌てて周囲を見回した。
一人泣く場所を求めて玄関扉から飛び出せば、サムエルやキースと顔を合わせてしまう。厨房に駆けこめば、そこにはまだ調理師がいる。裏口から外に出たら、きっと裏の井戸端で休憩している下働き夫婦と鉢合わせしてしまうだろう。
玄関ホールまで来て、階段の下から三番目の段に腰を下ろすと、リィネは天井を見上げて必死に涙を堪えた。
――あなたの御主人に恋をしたからです。
もし、そう言ってやったら、あの女はどういう反応をしただろうか、とリィネはぼんやりと思った。
好きになってどうしようもなくて、縁談を持ち込んだけれど断られて、常に側にいる為には同じ魔法騎士になるしかないと思った。側にいて懸命に尽くせば、氷のように凍てついた心を融かしてあげられるかもしれない。もしかしたら、妻にと望んで貰えるかもしれない。だから、死に物狂いでここまで頑張ってきたのだと。もし、はっきりとそう言っていたら。
その結果を想像して、リィネはまた衝動的に漏れそうになる嗚咽を飲み込んだ。
きっと、アレックスは、愛しい妻を守る為にリィネの前に立ち塞がっただろう。あの日、リィネを人質に取った反乱分子を撃ち殺した時と同じ殺意を、今度はリィネに向けただろう。
身体から力が抜けていき、急激な疲労感に襲われたのは、早朝から動き回った疲れだけではない。もし、仮に栄転してアレックスの配下に配置換えになったとしても、もう彼の心は決してリィネのものにはならない。今日、その事実を嫌というほど思い知らされたのだ。
……私、何やってるんだろう。
膝を抱え、床を見つめながら、リィネは言い知れない虚しさに襲われていた。
何とか気力を振り絞って平静を装いながら、リィネは貴族の模範例のように礼儀正しく先程の無礼を詫びると、帰っていくアレックスとその妻を見送った。
「ご苦労様でした。ゆっくり休んでください」
小道の手前まで客を見送ったヒューリットが、戻ってきて労いの言葉をかけてくれる。だが、彼の大切な客人に失礼をしたという罪悪感から、そのまぶしい笑顔がまともに見られず、リィネは目を伏せると力なく頷いた。
「はい。失礼します」
「リィネヴェリア」
踵を返して立ち去りかけたリィネは、ヒューリットに呼び止められて振り向いた。
「何でしょうか」
「さっきは、すみませんでした。メウルが、あなたの個人的な事情にまで踏み込んだ質問をしてしまって」
その言葉に、疲れ切っていた心を掴まれて思い切り揺すぶられたような気がして、リィネは息を大きく吸い込んだ。
「何故、殿下が謝るのですか?」
自分でも驚くような、暗くて攻撃的な言葉がリィネの口から漏れた。驚いて目を見張るヒューリットに、リィネは自分でも抑え切れない衝動をぶつけるように吐き出した。
「彼女が好きだからですか? 彼女を悪く思われたくないからですか? どうしてあなたが彼女を庇うのですか。……彼女は人妻なんですよ?」
言いたいことを全て吐き出し終えてから、リィネは愕然とした。例え、どんなに不満に思っていても、言っていい事と悪い事がある。
そして、リィネはヒューリットの顔を見上げて、彼の怒りに触れてしまったことに気付いた。
目の前に佇むヒューリットの表情から、いつもの微笑みが消えていた。まるでこの世の全てを排除するかのような近寄りがたい空気を纏って、ヒューリットは冷え冷えとした口調で言った。
「彼女は私にとって、かけがえのない存在なのです。誰と結ばれていようが関係ありません」
そう言い残すと、ヒューリットはリィネに背を向け、去っていった。
別棟に戻ったリィネは、労いの言葉を掛けてくるキースやドリーの前を素通りし、食事もとらずに自室に引き篭もった。
……何で。私はこんなに努力してきたのに、何の苦労も知らないような暢気な女が、どうしてあんなに愛されるのだろう。そして、何故私はこんなにどうしようもなく惨めな気分になっているんだろう。
これまで、魔法騎士になるには必要ないと心の奥に押し込めてきたリィネの女としての感情が、堰を切ったように溢れ出てきた。
リィネは、子供の頃から、将来は美人になると言われて育った。家族も侍女も親類も、リィネは可愛い、綺麗だと褒めてくれた。魔法学院に入ったばかりの頃は、恋文を貰ったこともあった。十四歳で社交界に出たばかりの頃は、ダンスを申し込んでくる相手が多過ぎてヘトヘトになることさえあった。
それが、いつからか潮が引いていくように、リィネの周囲から人が離れていった。気が強いリィネは、それに気付いても何でもない風を装っていたけれど、内心は動揺し傷ついていた。
――あいつ、生意気だから。
――女らしくない。
――高慢な女だ。
そんな囁き声を耳にしても、リィネは聞こえていない振りをしてきた。何故なら、そうでもしなければ、男共を打ち負かし、魔法騎士という狭き門を突破することはできなかったから。
でも、そこまでして掴んだ魔法騎士の称号は、リィネに幸せをもたらしてはくれなかった。現実は、まるで厄介払いのように西の離宮へ配属され、本来の魔法騎士とはかけ離れた生活を送っている。
……こんなはずじゃなかったのに。
アレックスの妻が憎い訳ではない。ただ、リィネは彼女よりも生まれも育ちも見た目も実力も全て勝っているのに、彼女に敵わなかった自分が惨めなだけだった。
嗚咽が漏れないように枕に顔を押し付け、リィネは静かに涙を流した。
夜半、リィネが目を覚ましたのは、空腹のせいだった。
思えば、午後の来客を迎える準備で早朝から碌に食事もとらずに走り回り、その後も何も食べずに泣きながら眠ってしまったのだから当然といえば当然だった。
サイドテーブルに置いてある携帯用の魔導灯を手に取り、取っ手についている魔石に魔力を注いで明かりを灯す。ベッドの端に脱ぎ捨てたままだった制服の上着をハンガーに掛け、そっと自室のドアを開いてみると、廊下は真っ暗だった。早朝から久しぶりに全力で働いたせいで、全員、疲れて眠っているようだ。
何か食べるものは無いか。もし無ければ水だけ飲んでまた寝ようと思い、リィネが廊下に足を踏み出そうとした時だった。一瞬、何かが視界の端で光ったような気がして、振り向いて自室の窓から外を見る。すると、不審な光が木立の方から本邸に向かって動いていくのが見えた。
……あれは?
リィネは咄嗟にベッドの横に立て掛けてある魔導剣を掴むと、部屋を飛び出した。
この時刻、決して少なくない数の灯火がこの西の離宮に現れることなど、有り得ないことだった。
玄関ドアを飛び出したリィネが本邸の玄関扉に辿り着く前に、それは始まっていた。
ガラスが割れて飛散する音、そして、荒々しい足音が邸内に踏み込む音。
リィネは急いで玄関扉に飛びついたものの、当然のように内側から施錠されていて開かなかった。夜間、調理人や下働き夫婦が仕事を終えて別棟に帰ると、ヒューリットは自分で本邸の戸締りをして、玄関扉にも施錠することになっていたから、開かないのは当然のことだった。
「……殿下!」
二階を見上げ、ヒューリットの部屋に明かりが灯っていないのを確認して、リィネは思わず悲鳴に似た声を上げた。
こんな夜更けに裏庭から窓を割って踏み込む輩の目的は、ただ一つしかない。
彼らを差し向けたのは、国王陛下か、それとも反乱分子か。革新派と呼ばれる新興貴族一派からの協力を得て王族であると認められたのに、ヒューリットはその革新派と手を切って、現王に近い穏健派に鞍替えし、今がある。だから、もしかしたら、勢力争いに負けた革新派の誰かが、彼の命を狙って差し向けたのかも知れない。
裏庭に回るまでに、様々な可能性がリィネの脳裏を過った。けれど、相手が誰でも構わない。リィネがすることはただ一つ、ヒューリットの命を守る事だ。
リィネがようやく本邸の裏に回り込んだ時だった。衝撃音と共に、ガラスが頭上から降り注いできた。咄嗟に飛びのいて、雨の様に降り注ぐ窓ガラスの破片と、それと共に落下してきた人間をかわす。
二階の窓から落ちてきた大柄な人物を、恐る恐る覗きこむ。すでに息絶えたその人物がヒューリットではないことを確認し、リィネはホッと息を吐いた。
開いたままになっている裏口が、まるで死の世界への入り口のようにぽっかりと口を開けている。そこから中に飛びこもうとして、リィネは反射的に仰け反り、寸でのところで突き出されてきた剣の切っ先をかわした。
切っ先から迸った魔力が、リィネの胸先を掠め、鎖骨と胸の間を一直線に切り裂く。シャツが焼き切れ、皮膚が焼けるピリッとした痛みが走った。
魔導剣を構えながら、リィネは息を飲む。真っ暗な裏口の向こうから、大柄な男が一人、薄青く光る魔導剣の切っ先をリィネに向けながら、ゆっくりと姿を現した。
踏み込んだ仲間の退路を確保する役割らしきその男は、黒い布を頭部に巻き付け、目の部分だけを外部に晒している。けれど、下部から魔導剣の放つ明かりに照らされているせいか、その目すら真っ暗な闇に見えた。
……何だ、こいつ。
全身から汗が噴き出す。相手の表情が分からないことが、余計にリィネの恐怖心を煽った。
相手は、同じ魔法学院の生徒でも、同じ騎士見習いでも、稽古をつけてくれる先輩の魔法騎士でもない。リィネの命など虫けらか何かの様にしか思っていない、暗殺者なのだ。
情けないことに、震えが止まらなかった。負ければ命を奪われる勝負など、リィネはこれまでしたことがない。けれど、もうその勝負は避けられないところまで迫っている。
魔法騎士として、殿下の命を守るという本来の役割を果たさなければと意気込んで駆けつけておきながら、向けられた殺意に呼吸困難になりそうなほど恐怖を感じている。そんな不甲斐ない自分を叱咤するように、リィネは魔導剣を強く握りしめた。
魔導剣の柄に埋め込まれている魔石に魔力が流れ込み、青白い光がリィネ自身を照らし出す。
「……女か」
舌なめずりをするような男の声が、布に覆われた口元から漏れた。
「しかも、上玉だ」
「……なっ」
投げかけられた言葉に含まれた劣情に、リィネは思わず動揺した。その隙を突くように、男は地面を蹴って襲い掛かってきた。
男の重い一撃を魔導剣で受け止めると、小さな爆発音と共に青白い火花がパッと周囲に飛び散る。
「なるほど。魔法騎士だけのことはある」
感心したようなことを言いながら、魔導剣の明かりで浮かび上がった男の目は、完全にリィネを見下していた。
男の魔導剣が一際明るさを増し、リィネの魔導剣との摩擦で白っぽい火花を上げる。これまで対峙してきた者とは違う圧倒的な力の差を前に、リィネはあっという間に魔導剣を跳ね飛ばされていた。
その時、男の背後から、床を踏み鳴らす足音が聞こえ、同じように黒い布で顔を覆った別の男が裏口から出てきた。
「撤収するぞ」
「情けないな。もうお手上げか」
リィネと対峙していた男は、仲間の男に対して呆れたように唸った。
「五人がかりでも敵わんのだぞ。それとも、今から二人で挑んでみるか?」
「いや。止めておこう」
そんな男達の会話の最中にも、隙あらば地面に転がった自分の魔導剣を拾い上げようと企むリィネだったが、そんな隙は与えては貰えなかった。
魔導剣の転がる方向へ身体を傾けようとした瞬間、男は剣の切っ先をリィネに向けて突き出した。その先端とリィネの身体とは腕一本分ほど離れているというのに、焼けるような痛みがリィネの左肩を襲った。剣先から放出された魔力が、灼熱の刃となって宙を走り、リィネの皮膚を切り裂いたのだ。
一瞬、痛みと衝撃に意識が飛ぶ。気が付いた時、リィネは地面に這いつくばって呻いていた。地面の小石が、痛みに身動ぎする度に、リィネの白く滑らかな頬を傷付ける。
そんなリィネを、覆面の隙間から覗く男の目が冷ややかに見下ろした。
「あの男には、仲間が随分殺られた。お前一人では、その代わりにもならんが」
恐怖がリィネの身体を突き抜けた。
「死んでもらう」
魔導剣が自分に振り下ろされ、最期の痛みが襲う瞬間を、リィネはぎゅっと目を閉じて待った。
だが、短い炸裂音が数回響くと同時に、リィネのすぐ近くに固くて重たいものが落ちる音がした。続いて、魔導剣が空気を裂く音と共に、断末魔の声が上がり、また誰かが地面に倒れる鈍い音がする。
「リィネヴェリア!」
名を呼ばれ、それの声は自分が護るべき警護対象者のものだと気付いた時には、リィネはヒューリットに抱き起こされていた。
「しっかりしてください。すぐに治癒しますから……」
これまで聞いたことのないほど緊迫感をはらんだヒューリットの声に、リィネは必死に閉じていた目をこじ開けた。
白に近いヒューリットの青い髪は、月明かりを浴びて闇に浮かび上がっている。けれど、顔の表情は影になっていてよく見えない。殿下こそ無事かどうか確認したいのに、これでは分からないじゃないの、とリィネは眉根を寄せた。
「痛みますか。当然ですよね。ああ、私は何を言っているのか……」
若干、狼狽えたように口走るヒューリットの声に、リィネはホッと溜息を吐いた。この様子では、彼に怪我はなさそうだ。
傷口がほんのりと温かくなり、痛みがほんの僅かずつ薄れていく。ヒューリットが魔石の手袋を填めて治癒をしてくれているのだ。
「いえ、それよりも、何故、あなたがここにいるのです? サムエルやキースから、何も聞いていないのですか?」
――夜間は、本邸に近づかない事。
ヒューリットの責めるような言葉で、リィネはキースからそう教えられていたことを今更のように思い出した。
確か、ヒューリットの邪魔になるからだとリィネは聞かされていた。てっきりあれは、ヒューリットと忍んで来る女との逢瀬の邪魔をしないように、という意味だとリィネは思い込んでいた。まさか、ヒューリットが暗殺者を撃退する足手まといにならないように、という意味だったとは思いもよらなかった。
いや。この西の離宮の異常さにもう少し踏み込んで考えていたら、リィネにも予測できていたことかも知れなかった。
割れた窓ガラスが庭に散乱していたということは、内側から割られたということだ。つまり、ヒューリットが本邸内で暗殺者と戦った際に割れたのだ。本邸内に余計なものどころか必要だと思われるものさえほとんどなかったのも、ヒューリットが屋内で戦いやすいように撤去されていたものだったのだ、と今更のように気付く。
それなのに、そんなことにも気づかず、ただ先輩魔法騎士達の腑抜けた様に反発して、彼らの言う事に素直に耳を傾けようとしなかった。挙句、取り決めに背いて突っ走った結果が、このザマだ。そうリィネが自嘲した時、別の足音が近づいてきた。
「殿下」
それは、キースの声だった。
夜間に本邸には近づいてはいけないことになっているんじゃないのか、と訝しげに眉を顰めるリィネを抱きかかえたまま、ヒューリットは顔を上げる。
「申し訳ございません、殿下。取り決めも守らず、魔法騎士が勝手な行動を取り、殿下のお手を煩わせてしまいました」
「いえ、そんなことはいいのですよ。サムエルは?」
「第三師団への連絡に向かっております。作戦を変更せざるを得なくなりましたので」
キースの言葉に、ヒューリットは苦笑した。
「それは、すみませんでした」
「とんでもございません。リィネヴェリアを助ける為だったのですから、致し方ございません」
キースは、これまでリィネが知っていた彼とは別人のようだった。落ち着き払った様子で近くに倒れている暗殺者の傍に屈みこむと、顔を覆っていた布を剥いで魔導灯の明かりを近づける。
「身元は解りそうですか」
「どうでしょうか。しかし、それは我々の任務ではありません、後のことは第三師団に任せるとしましょう」
アレックスが師団長を勤める第三師団は、現在、王宮防衛担当になっている。西の離宮と同様、各所に警備担当の魔法騎士は配属されているが、王宮内で何か事件が起きれば、第三師団所属の魔法騎士がすぐ駆けつけてくることになっている。
「その前に、リィネヴェリアを連れて帰ってもいいでしょうか」
そう言うと、キースは不意に制服の上着を脱ぎ、未だヒューリットの腕の中にいるリィネに着せかけたのだった。