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FILE.7

3月8日 日ノ出


自衛隊の働きもあって一先ずあらかたの施設が出来上がった日ノ出駐屯地では今、本土からやってきた神職についている者によって地鎮祭を行っていた。無論これには自衛隊など多数の関係者も参列しており、葉山小隊長もその一人として参加していた。


「小隊長、なんでいきなり地鎮祭なんか執り行ったのですか?その前に順番逆転していますよね?」


式が終わり作業に戻る途中で隊員の一人が葉山に質問する。確かに地鎮祭というのはその土地に居る神に許しを得る儀式なので、既に多数の施設を立ててしまっているこの状況では色々と遅い事は確かである。そもそもこの土地の神様がどんなのかも分からないのだから許しを得る得ない以前の問題である気もする。


“言えない、例の爆発事故の報告が原因で政府が慌てて神職の人を送ってきただけでなく、勧請まで手配してきたなんてこと、絶対に言えない”


内心どう説明したものかと悩んでいる葉山小隊長、本人は爆発事故が原因だと思っているようだが実際は彼の下で活動しているタケミカヅチ様が原因だったりする。今回の事件でいくら身分を隠したとしても当の本人が関係なしに動かれては意味がない上に変な誤解を生む可能性が出てきたためやはり神様はちゃんとした場所に居てもらった方がよいと政治的判断が下されたため今回の式が決定された。そのため勧請を頼んだ相手が鹿島神宮だったりする。今はまだ小さな祠しか置かれていないものの時が来ればこの場所にも立派な社が建てられる事だろう。


「ところで小隊長殿、先ほどから気になっているのだが、あの者たちは一体なにをしているのだろうか?見たところなにか大事なものでもなさそうだが」


今回の事件の元凶であるタケミカ隊員、もといタケミカヅチ様がある場所を指さしながら葉山小隊長に話しかけて来る。彼が指さす方には日本が保有する輸送機のC-2が滑走路に4機並んでおり、その機体の後ろの貨物庫から次々と何かが詰め込まれた大きな白い袋が運びだされている。


「あ~たぶん、うちらが掘った穴に詰め込むための土壌じゃないかなぁ、たしかあの辺の土地は環境省と農林省が実験用に使うはずだったし」


答える葉山、よく見ると輸送機の傍に自衛隊員ではない服装の人間が輸送機から降ろされたそれを確認している。恐らく別の省の者だろう中には中身を見ている者もいて、その拍子に入っていた土がボロボロと滑走路に落ちる。日本の食料事情が逼迫している今、日ノ出でも食料生産が求められているが岩盤が剥き出しの地盤では流石にコンクリートで農業をしろと言っているに等しいので、まずは土壌を改良するのが課題ではあるがそんな余裕も時間もあるはずがなく、賭けではあるが日本国内からすぐ使える土壌を移植する手段が取られた。とはいえ、ぶっつけ本番で農産物を栽培するのも危ないのでまずは試験的に植物が根付くかどうかの試験を環境省が行う予定となっているのでそれに使われるのだろうというのが葉山の見解だ。


「あー、あの穴ってその為だったのですか、てっきりゴミ捨て場にでも使うのかと・・・それで小隊長、次の私たちの任務って決まっているのですか?」


隊員の一人が質問する。よくよく考えたら最初に言い渡されていた任務はタケミカヅチ様のチート的な力のおかげで終わっていたので作業に戻ってもやるべきことがなかった。他の部隊は付近の探索に行ったり、施設を建てたりと忙しいそうであったが人手は足りているようなので手伝いも必要なさそうだ。


「それについてはこれから聞きに行ってくるけど、一先ず今日はうちらの業務はこれで終わりだから点呼した後は自由にしてもかまわないがくれぐれも馬鹿なことは起こすなよ?特にタケミカ隊員は走り込みで勝手に駐屯地を出ない事、始末書書くのに苦労したのですから勘弁してくださいよ」


今後の予定について説明する葉山、実はいうとタケミカヅチ様あの爆発事故の報告を葉山小隊長がしている間に勝手に駐屯地を出て走りに行っていたのだ、それに気づいたのが外の探索を終え帰還中の部隊が車ほどの大きさの岩を抱えながら物凄い速さで駐屯地に走っていたタケミカヅチ様を見つけたからというのがまた笑えない、もし防衛大臣直々の頼み事という名の命令と持っていた岩が巨大な鉄鉱石の塊でなければ今頃葉山の首は飛んでいたことだろう、そういうこともあり皮肉を込めて言った葉山であったが当の本人が「では今度は匍匐前進の鍛練でとどめておこう」と割とシャレにならない事を言っており、もう縛り付けておこうかコイツ、と思わずにはられない葉山隊員であった。


「という訳で調査隊を送り込んだのですが、調査の結果正真正銘の鉄鉱山であると判明しました。今回の結果を受けて経産省としては関連企業を本地に送りたいのですがどういたしますか?」


日ノ出の地鎮祭から4日後の内閣会議で谷経産大臣が報告する。今回は白田農林大臣と榎本国交大臣は欠席していたが二人を除いた参加者全員が頭を抱える姿勢をとっている。理由は恐らく・・・


「なぁ、西郷君今更言うのもなんだがあのお方を向こうに送ったのは失敗ではないのか?」


半ばあきれたように話す伊東総理、それもそのはずで例の爆発事故の時点で常識外れ過ぎて頭を悩ませていたのに今回の鉱山発見である。鉱山を発見できたのはありがたいが理由が理由だ、どう扱えばいいのか分からないのだ。


「まぁ、もうこの際素直に資源が見つかったことを喜んでおくか、それでだがその見つけた鉱山の規模というのはどのくらいのものなのかね?谷君」


考えることを放棄した総理がそう質問する。報告によると鉱山の場所は日ノ出駐屯地から南へ200kmの地点で埋蔵量は日本が一年で生産する鉄鋼量のおよそ3年分であり、日本単独で利用するならもう十分すぎるぐらいの規模である。


「民間企業を送るにも距離が問題だな、何もないところに国民を単身で送るわけにはいかないからな」


問題を指摘する田中官房長、今回の鉱山の場所は日本から見れば日ノ出駐屯地よりも近い場所にあるのだが日本からのアクセスが空路に限定されている以上日の出から向かうことになる。だがそうなると往復400kmの陸路を進むことになり時間も労力もかかってしまう、特に燃料が問題であり既に政府が備蓄していた燃料は底を尽き今は民間が備蓄したものを優先的に向こうにまわしている状況だ、その影響で国内での移動手段はバスや電車などの公共機関や自転車が主流となり電力にまわす余裕もないため病院などの重要施設を除いて夜の9時以降は計画停電を実施、石油を原料とする化学製品の流通は当の昔に0となっている始末、現在は日本各地にある油田跡をはじめとした場所で何とかして手に入らないか奮闘しているがどれもいい結果は出ていない。


「早いとこ何とかしないとこのままでは致命傷を受けてしまうぞ、いや、もう一歩手前と言うべきか・・・」


刻一刻と追い詰められていく日本の惨状に焦る閣僚たち、あと一体どれほどの時間が残されているのかという不安を胸に抱きながら今打てる最善の手を考えるのであった。


「ほう、ここが例の奴の最初の施設か・・・外から見た感じでは普通のコンビニだな」


率直な感想を言ったのは農林水産省の白田 清継だった、彼は今農水省とコンビニエンスストアを経営している主要企業と提携して行っていたある計画の視察に来ていた。


「外は手を加えていませんのでコンビニにしか見えませんが中はもう別物ですよ」


担当者と思われる男性に促されて中に踏み入れる白田大臣、中は商品が陳列されている棚の代わりにプランターのような形をした棚が何段にも重ねられ各段を煌々とLEDの光がそれぞれ照らしていた。棚には何やら作物のような苗が綺麗に並べられている。説明するまでもないがこの施設はコンビニを改装したいわゆる野菜工場に分類されるものである。転移により海外からの輸入が全て止まった日本では各物資の価格の高騰は勿論だが、配給制をとっていることもありコンビニや百均などのサービス業は軒並みその業績を悪化させてしまっている。今は店舗数を減らし規模縮小を進めながら、配給の拠点として協力したりとして経営を保たせているが流石にそれだけでは閉鎖した店舗がもったいないのでいっその事野菜工場として再利用させてもらおうという意見が農林水産省から出た。その計画の1号施設の稼働が今日始まったため白田大臣がその視察に来たという訳である。


「これはジャガイモか?キャベツやレタスなどの葉菜の工場は何度か見たことはあるが根菜というのは初めてだな」

「流石に葉物野菜ばかり量産しても仕方がないので他のジャンルの生産が可能かどうかの実験を兼ねてここではジャガイモを栽培しております。まぁ、野菜工場というよりかは家庭菜園の拡大版のようになってしまいましたが」


担当者の男性がそう白田大臣に説明する。元がコンビニをはじめとした小規模施設を改装したものである為、正規の野菜工場と比べれば質・量ともに劣るがそれを補えるだけの店舗数が確保できるのがこの計画のメリットだろう、また電力に関しても数年前から自家発電設備設置の義務化によって普及している太陽光発電である程度自給できるのでそこのところも当分問題はない。


「それでだがこれらの収穫が出来るのは大体いつぐらいになるのかね?」

「そうですねぇ早くて3か月後、遅くて半年と言ったところですね、ただ収穫できてもこの施設だけでは数世帯に数週間分を供給するのが限度でしょう、今後も研究・改良が必要となります」


その説明に暫し黙ってしまう白田大臣、やはりそう上手く事は運んでくれないようである。だが、今の日本にはこんなものでも希望の一つとなってくるだろう、まだまだやらねばならない事が多いがこれでようやく問題への解決に一歩踏み出せた、そのことに安堵しつつも次なる手を模索し始める白田大臣であった。

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