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FILE.6

総理達が湖だ、爆発だと会議している頃、谷経産大臣はJAXAの所有する施設の一つにいた。急な呼び出しを受けて何かあったのかと思ったがそういうわけではないらしく今は応接室にて担当の者が来るのを待っていた。


「お待たせしてすみません谷大臣、自分はJAXAで研究をさせてもらっている宮野と申します。それでこっちが助手をしてもらっている田所です」


応接室に二人の男性が入ってきてそう谷に挨拶する。宮野と名乗った男は60いくかそこらの見た目で対する田所という宮野の助手はまだ20代の後半あたりだろう。


「いえ、お気になさらず、とは言え私もそこまで余裕があるわけでもないので早速ですみませんが今回の要件を伺ってもよろしいですか?」


挨拶も手短に済ませ早速本題に入る三人、谷と向かい合うように宮野たちがソファに座り田所がいくつかの資料、というよりかは写真を机の上に広げる。谷にはさっぱりわからないがどの写真も天体が映っていた。不思議そうに写真を眺めている谷大臣に説明するように宮野が話し始める。


「実は田所君、趣味が天体観測でしてその写真も田所君が撮ったものなんです。なにせ、日本がこんな状況で我々もほとんど開店休業状態で時間だけはあるものでして・・・」


そう話す宮野に“はあ・・・”と返す谷大臣、日本が異世界へ転移してから今までも様々な問題にぶち当たってきていたがそれは研究や技術開発などに携わっている者たちも同様であった。なんせ先端技術の開発や研究には複数国が協力して行っているものもあり、それが異世界転移により他国とのつながりが遮断されたことにより研究そのものが成り立たなくなる事例が後を絶たないのだ。日本単独で行っているものに関しても研究に使う材料が輸入に頼り手に入らないと今の日本では先端技術の維持すらも困難な状況になってしまっている。このことは政府としても放っておくわけにはいかず、日本国内に存在する都市鉱山を活用したりして得たレアアースなどの希少金属を優先してまわしたりなど対策をとっている。とはいえ、それでも国内に存在する無数の研究内容に関してはお手上げ状態ではあるのには変わりないが・・・


「技術開発や研究の停滞については政府の方でも危惧しており、対策をとっている所です。お気持ちは分かりますがもう少し耐えていただきたい、それでですが私を呼んだ理由というのはこの写真が関係しているのでしょうか?」


確かめる谷大臣、確かに研究などの活動の停止に対する抗議が理由ならこのような周りくどいことをしなくても直に抗議すればいい、わざわざ写真を見せる必要もないので何か別理由があると思って然るべきである。どうやらその通りだったらしく宮野が更に詳しく説明をし始める。


「はい、その通りです。詳しいことは改めて書類で報告させてもらいますがここにある全ての写真はこの世界に来てから確認されたものです。それで話というのはこれらの星を含めた今私達がいるこの星、ひいては星系についての扱いについてです」


話によるとこの世界に来てからJAXAをはじめとした宇宙関連に関わっている者によって天文学的観点からこの世界について独自に調査していたようで、この世界も前いた世界同様宇宙が存在し様々な天体が発見されているという、日本があるこの星を含む星系には確定しているだけで12個の惑星(日本がある星は恒星から数えて4番目)が確認されている。

それだけでも驚くことであるが谷大臣が一番驚いたことは


「月が二つ?」

「正確にはこの星の衛星が二つであって月が二つあるわけではありませんので少し違うのですが」

「どう違うのかが私にはさっぱり分からないのだが・・・」


宮野の助手に訂正されるがどうも意味が分からない様子の谷大臣、まさにこの状況が今回の話の本質であった。私たちが普段気にせず読んでいる太陽・地球・月なるものは太陽系という星系に存在する恒星・惑星・衛星の名称である。そのため異世界転移してきたこの星やその衛星、属している星系の恒星のことも前の世界と一緒の呼び方をするのは少々問題が生じるという考えが宇宙業界内で出ているようである。また、この名称に関する問題は歴史学者間でも混乱を招いている。今回の歴史的な出来事を表そうとすると「西暦2040年、日本は前の世界の地球から今の世界の地球へと突然転移した」という要領を得ない内容になってしまうようでどうにかしてくれというのが今回の話である。


「まぁ、確かにそういわれると結構厄介な問題ですねぇ・・・わかりました。政府の方でも今後の取り扱いについて早急に検討させてもらいます」


さほど重要な問題ではないとは思いながらも一応持ち帰ることを決めた谷大臣、確かに月が二つあるだけでも混乱を招きそうなので早めに対応して置いても問題はないだろう、そんなことを考えて車に乗り込んだがふと思った。


「これうちじゃなくて文科の問題じゃないのか?」


そう考えた次の時には携帯を取り出してある人物に電話をかけていた谷大臣であった。


「あ?そんなこと知るかよ・・・・・・いや、こっちもそれどころじゃねえんだよ、そっちで何とかなんねーの?・・・・・・だーもう、わーたよこっちで片付ける。それじゃ」


そういって荒っぽく携帯の通話終了ボタンを押す林文科大臣、相手は経産省の谷大臣だ。彼とは大学の同期であったこともあり、普段の議員生活以外でもたびたび交流していた。そんな彼からの電話で何事かと思ったがどうやらこっちに余計な仕事を持ってきたようだ。


「大臣、そろそろよろしいでしょうか?」

「おう、悪いな、ところでなんの話をしていたんだっけか?」


事務次官に話しかけられてそう答える林大臣、今現在文部科学省では今後の教育方針について話し合っていたところである。


「それで結局、英語教育をはじめとした外国語の扱いはどうすることになったんだ?」


そう聞き返す林大臣、今回の議題で一番問題になったのは外国語の扱いである。グローバル化の波が来ていた前の世界で日本が取り残されないように英語をはじめとした外国語の教育に力を入れていた政府であったが異世界へ転移したことにより使う相手がいなくなったことで今後の教育方針で扱うか否かを審議していた最中だった。実際の所外国語の教育に力を入れていた時も効果は微々たるものだったのでなくしても問題はないのだが・・・


「そうなると航空管制や論文の扱いのルールも考え直さないとならないか・・・」


林大臣がそう指摘する。現在の日本というより前の世界では航空機の管制を始め国際的な論文の発表などは全て英語が公用語として使われている。今後日本が英語を扱わないとなると英語が基盤となっているこれらのやり取りも日本語に直す必要性があるわけで、これがまたかなりの手間である。なにしろものよっては日本語より英語の方が簡潔で便利という事例もあるといえばあるかもしれないので一概に全て日本語にするというのも考え物だ。関係者にのみ英語を教えるという考えもあるが英語が公用語としての地位を得たのはそれを使える人の多さが要因でもあるわけで、この前提が崩れている以上わざわざそんな手間をかける必要があるかと聞かれるとこれもまた説明が難しい。


「もうこれ俺たちだけの問題じゃなくね?他の所にもまわしとこうぜ、そういう事だから今日の会議はこれで終了な」


考えるのが面倒になったのか林大臣がそう言って会議を終了させる。それでいいのかと他の者たちが視線を送るがどの道いい案が出ないので素直に従い会議室を後にする。林大臣も電話を掛けながら他の者と一緒に退室していった。


「それで何故私の所に聞きに来るのかね?」

「いやー田中さんなら何とかならないかなぁと思いまして、ハハハ」


少し高級そうな飲食店でそう言いながら笑う林大臣とその彼にため息をつく田中官房長、ちょっと相談があるといわれて何事かと思い来てみたらこれである。はっきり言ってそんなことを聞かれても専門外だから困るのだがそのことは理解しているのだろうか?


「まぁいい、話は理解した。それでだが外国語の扱いについては次の会議で議論するからいいとしてその谷大臣に押し付けられたという宇宙関連の問題だったか?私に意見を聞きたいというのは」

「ええ、その通りです。何かいい案は有りませんかね?出来ることなら会議を通さずに片付けておきたいのですが・・・」


再び田中官房長に意見を聞く林大臣、どうせ聞くなら会議の時に聞けばいいではないかといいたいところだが、実を言うと会議で取り扱う内容があまりにも多すぎることもあり重要と思われるもの以外は取り扱われることはほぼないため、こういう些細な問題は各省などが独自に片付けることがほとんどである。だが中には単独で対処するのが難しいものも一定数存在するため、その時は今回のように立場・出自関係なく非公式で相談するのが今の日本政府では増えてきている。


「うーむ、正直言って私はその手のことは専門外だからなぁ、餅は餅屋と言うし丁度それに関係が深い存在を知っているからこちらで相談をしておこう、それで構わないか?」

「はい、もうそれでいいです。田中さんに任せます」


田中官房長の提案を受け入れることにした林大臣、折角だし食事の一つでも摂っていきたいが残念ながらこの後も予定が詰まっているようで早々に店を出ていった。その彼を見送った後、田中官房長はスマフォの画面をスクロールして目的の番号をタップして電話を掛けるのであった。

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