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FILE.5

昼も少し過ぎ暖かい陽光が差し込む会議室、許されるものなら昼寝の一つと行きたいところであるがそんな願いも叶わず彼、伊東 久文総理大臣はまどろみの中から現実へと引き起こされる。


「・・・さて、丁度参加者も集まったようなので会議を始めよう・・・」


もう何度目かも忘れたセリフを言い参加者を見渡す総理、今回の参加者は少なめのようで所々空席がある。まぁ、ここの所全国各地を飛び回ることも多くなっていたので致し方ないだろう、そう考えていると環境省の十五夜 吉奈大臣が席を立ち報告を始める。


「環境省から日ノ出に関する報告です。向こうで湖が出来たらしいです・・・」

「そうか、日ノ出で湖が・・・、ん?湖?なんでそんなものが?」


環境省の報告に混乱を隠せない総理、いきなり湖が出来たと言われれば誰だってそうなる。言葉が足りなかったところを補足するように今度は防衛省の西郷大臣が立ち上がる。


「詳しいことは防衛省のほうから説明させてもらいます。事のおこりは3日前の3月1日・・・」


そう前置きを置き事情を話し始める。


3月1日 日ノ出


「うわぁ、本当に穴が開いているよ・・・」


その光景を見て葉山三尉はそう言葉を漏らす。目の前には深さ数mのクレーターのような窪みが出来ており、周辺にはもともとクレーター部分にあったと思われる岩石の残骸が散乱している。


「ほらね、小隊長、私の言ったとおりでしょ?」


茫然とする彼の後ろで部下の一人がそう話しかける。先ほど報告に来た3班の隊員だ、自分が言ったことが本当だと証明できて満足顔をしているのがムカついて小言の一つ言いそうになるが代わりにこれをやらかした張本人を連れて来るよう命令する。しばらくして遠くから二人の隊員が近づいてくるのを確認する。一人は先ほど命令を受けて離れていった隊員でもう片方が目の前の穴を作り出した人物だろう、その者はお互いの顔がはっきり確認できる距離まで近づくと隙の無い姿勢で葉山に敬礼をしてきたので葉山も敬礼をかえす。


「これは葉山小隊長殿、私に何か御用ですかな?」

「あー、タケミカさんでしたっけ?いや、あなたと一緒の班の隊員から少しばかり信じられない報告を受けたものでその事実確認をちょっとね」


そう説明する葉山小隊長、管理職についている都合上事実確認は重要な役目という考えが半分、やはりまだ信じ切れていない気持ちが半分での行動であった。そんな感じで葉山の話に相槌を打ちながら静かに聞いていたタケミカ隊員もといタケミカヅチ様だったが、何か思いついたのか両手を叩いて葉山に話しかける。


「確かに事実確認は重要ではあるな、だが言葉で説明しても恐らく混乱を深めるばかりであろう、百聞は一見に如かずとも言うしここは一度小隊長殿の目前で実践してみせようぞ」


そう言った後、タケミカヅチ様は周りに人がいない場所へと歩を進めその場で己の拳を地に着け気をためる。次の瞬間その拳を振り上げ“ドリャーーー!!”というような掛け声が聞えそうな勢いで再び地面に叩きつける。叩きつけた拳を起点に地面にヒビを入れ岩盤が盛り上がり周囲に吹き飛ぶ、タケミカヅチ様が居たところには大穴が開いていた。

“エェ・・・”

一連の様子を見ていた隊員全員が心の中で絶句する。そのあまりにも現実離れした行為に頭が追いついていないようだ、そんなことは気にもせずにタケミカヅチ様は軽快に笑いながら戻ってくる。


「ハッハッハッ!どうですかな、小隊長殿、これなら報告するのにも苦労しないであろう」

「いやいや、余計やりにくいわ!あんた本当に人間か?一体どういう原理でやったの!?」


思いっきりツッコミをいれる葉山小隊長、実際問題人間ではなく神様なので真意を突いているのがまた何とも、事情を知っている者がいたら恐らく苦笑せずにはいられないだろう。そんな彼のツッコミを華麗にスルーして近くに散乱した砕けた岩石(直径5メートル以上)を片手で持ち上げて移動させるタケミカヅチ様、それをみて更にツッコミを入れる小隊長・・・混乱を通り越してもはやカオスである。


「なんかもうツッコムの疲れた、タケミカ隊員、あなた他の掘削範囲もやっといてください、残骸の処理は私達でもできますから」

「適材適所というやつですな、任された。私にかかれば日入りまでには終わっているであろう、大船に乗ったつもりで待っていてくれたまえ」


肩をまわしながらそう言って別の掘削地へと歩むタケミカヅチ様、先ほどと同じように拳を地に着けて気合をためて拳を打ち落とす。本当ならさっきと同じように地面が割れるはずだったが今回は違った。バチッ、そんな音が聞えたと思った瞬間、物凄い爆発音と衝撃が周囲に広がる。その中心地に居たはずのタケミカヅチ様もその衝撃によって上空に高く吹き飛んだ。


「タケミカさーーーん!!!」


吹き飛ぶ彼を見て叫ぶ葉山、どんな屈強な人間でも上空100m以上から高速で落ちれば命は無い、現場に居合わせた隊員全員がこの後に来る最悪な結末を予想した。だが、その予想を裏切るように吹き飛び落下してきたその人物は体を回転させながら見事に着地する。これが漫画だったらシュタッ、みたいな文字がついていることだろう。

「「「無傷かよ!!」」」

爆発に巻き込まれ上空から落下したにも関わらず無事な彼を見て隊員全員がそうツッコム、一部の者は流石元Sと口走っていたがいくらSでもこれは無理である。おまけに爆発に巻き込まれた当人は「いきなり地面が爆発するとは驚いた、流石は異世界楽しませてくれる」という始末であった。


「にて小隊長殿、あれについてはいかがなされるつもりか?」


あわや死人が出そうな場面に出くわし惚けていた葉山にタケミカヅチ様が爆発したところを指さしながら話しかける。指差された場所は爆発の影響もあってか他の所よりもさらに大きな大穴が開いていた。そして、その大穴の中には・・・


「水?」


目を細めながらそう呟く、確かに大穴には水と思わしき液体がゆらゆらと波を立てていた。近づいて確かめたいところだが、付近はまだ先ほどではないにしろ小さな爆発が続いておりまだ危険な状況である。


「一先ず詳しい調査は上に報告してからの方がいいのか?その前にこの状況をどうやって報告しろと・・・」


余りにも非常識な出来事でどう報告したものかと頭を抱える葉山、そんな彼の悩みを気にも留めずにノリノリで次の掘削ポイントに向かうタケミカヅチ様であった。


「という訳です」

「「「いや、どういう訳だよ」」」


西郷大臣の報告に声をそろえて他の者たちがツッコミを入れる。今回の事件の経緯を端的に纏めると、現地で自衛隊が作業→タケミカヅチ様が協力→地面爆発→湖出現、うん、余計分からなくなってしまった。


「それでこの湖なのですが、どうしましょうか?」


十五夜大臣がそう総理に問う、経緯がどうであろうとあの赤く焼けた大地に違う色を持つものが現れたのだ、利用しない手はないだろうすでに現地から浄水施設の建設や水棲動植物の生息が可能かの調査の要望が来ているという。


「どうするといわれてもその湖の詳しい情報がない事にはどうしようもないのでは?」


榎本国交大臣にそう質問され思い出したかのように詳細を説明する十五夜大臣、報告によると件の湖は面積0.23平方km、最大水深8.7m、予測貯水量0.002立方kmとそこまで大きくはないようで未だに小爆発を起こしているという。ちなみにこの爆発だが恐らく水素爆発ではないかと報告書には書かれているが、原因・理由が分からず謎であるとも同時に記載されている。


「ふむ、まぁまだ爆発が続いているのなら急いで決めることではない気もするが少なくともライフラインなどに使える代物ではないだろう、研究や実験の類での利用を考えてみたらどうだ?」


話を聞きそう提案する伊東総理、十五夜大臣も「ではその方向で検討します」といって話は終了する。そのあとも来年度の予算や道州制についての話で会議は進んでいった。


「まぁ、そんな感じで地上ではハチの巣つついたような感じだそうですよ、姉上」

「ふーん、そうなんだ・・・ところでなんでそれを私に言うの?ツクヨミ」


高天原にて作業をしていたアマテラス様がそう傍にいる一柱の神に質問する。相手は己の弟でもある月読命であった。アマテラス様が忙しそうにしているのと比べこちらはお茶を淹れる程度にはくつろいでいる。


「最近、忙しいせいで地上の様子が分からないってこの前ぼやいていたじゃないですか、忘れましたか?それにタケミカヅチの働きも気になりだすころかとも思いまして」

「確かに地上の様子が気になっていたのは本当だけど、その前になんでタケミカヅチが地上で活動しているのよ?私知らなかったのだけれど」

「え?姉上が送り出したのではないのですか?」


姉の言葉に驚いたような声を出すツクヨミ様、どうやらタケミカヅチの行動はアマテラス様の差し金だと思っていたようだ。対するアマテラス様も作業していた手を止めてツクヨミ様が淹れたお茶を飲みながら彼の問いを否定する。


「私がタケミカヅチを送った?力が回復するまでみんなに安静にするように言っといたのにそんな危ない事させるわけないでしょう、誰から聞いたの?それ」


今度はアマテラス様がツクヨミ様に質問する。今の日本の神様事情は割と切羽詰まった感じであり異世界への転移によって力を浪費した影響で一部の神が消えかかるという事案まで発生したほどだ、幸いにも日本の神は今でも神社などで信仰されていることもありしばらくすれば力も取り戻すだろうと思いそれまでおとなしくしているよう言い渡されているようである。


「誰ってオモイカネから聞きましたけど・・・」

「オイ、ツクヨミ、ちょっとオモイカネを連れてこい話がある」


ツクヨミの言葉を聞きそう話すアマテラス様、若干声のトーンが下がったのは気のせいだと思いたい、姉の頼みを聞き慌ててその場を離れたツクヨミ様であった。

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