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FILE.33

 モノート古代遺跡に作られた大広間にてミーホウ族のアンティアは一人そのただっぴろいだけで何もない空間ポツンと浮かぶように存在しているやけに透明感のあるモノート族と思わしき姿をした男性の言葉を何度も何度も聞き返していた。

 なぜそのような事をしているのかと聞かれても自分でも分からない。ただ、自分自身とは違う別の力が目の前に浮かび上がっている映像から何らかの情報を得ようとしている。そんな感覚をずっと感じていた。


「――ティア、アンティア!!」

「ハ、ハイ!?ナンデヒョウカ?」


 考え事に意識が集中していて呼ばれていることに気付いてなかった彼女は声をうわずらせながら返事を返す。


「ナンデヒョウカ、じゃないって、十束さん達も戻っていったし、そろそろ出発したいのだが、まだ用事は終わらないのか?」


 驚き慌てている彼女を見て葉山三尉が呆れた表情を言いながら要件を伝える。そういえばここには人員の確認の為に来たことをすっかり失念していた。


「あ、はい。もう大丈夫です。わざわざ付き合ってもらって有難うございます」


 まだ少し引っかかっているような感覚はあるが、そこまでの事ではないのでそう答える。


「それなら別にいいが、何か気づいたことでもあったのか?」

「いいえ。発見当時と何ら変わっていませんでしたよ。けど、うまくは言えないのですけれど、なーんか気になるのですよねぇ」


 地上へと戻る帰りの最中、そのような会話を交わす二人、葉山の質問にアンティアが歯切れ悪く答えて沈黙が訪れる。

 結局そのまま言葉を交わすことなく先に集合していた者たちと合流する二人、葉山は帰還用のヘリのパイロットに出発準備が終わった旨を伝えて部下たちに搭乗の指示を出す。


「全員乗ったな?アンティアそろそろ出発するからお前も早く乗れ」


 心此処に在らずと言った感じで突っ立っているアンティアに気付いて葉山が声を掛ける。

 わりかし付き合いが長い故、普段見せない彼女の姿に心配になるが、ミーホウ古代遺跡に戻ればいつもの調子に戻るのでそこまで深刻には捉えていなかった。


「あ、ごめんなさい。少し考え事を――。葉山、私先に向こうに戻っていますのでこのあたりで失礼しますね」

「それは別に構わないが、いつもみたく乗って帰らないのか?」


 その突然な要望に葉山が怪訝な顔を浮かべながら問い返す。

 プログラムの集合体のような存在であるアンティアは本来であればわざわざ乗り物に乗って移動しなくとも形成している姿を一度分解して任意の場所で再度形成し直せばいいように出来ている。本来であればこちらの手段を取るのが普通なのだが、彼女も元は人間、と言っていいかは分からないがそれに近い存在である。最近は肉体を失う前と近い生活を送っていた。そのためすっかりそれに慣れていた葉山が疑問に思っても変ではなかった。

 そんな葉山の問いかけを答える事なく姿を霧散させるアンティア、聞こえていなかったのか、もしくは敢えて無視したのかはわからないがいつもと違う彼女の行動により一層不思議に思う。

 その後、残された葉山は帰還用のヘリに乗り込みモノート古代遺跡をあとにするのであった。



『私はマガミヤ文明圏103の氏族を束ねる長が一人、アメージス・ポルタ・エンペラッサというもの。我らが後より現れし存在がいる事を願い、今ここに我らの軌跡を残そうと思う。我が文明圏、いやこの星の生物全てが滅びの危機に晒されたのは本当に突然の事だった。惑星の至る所で―――――始め、その歪みからこの世のものとは思えぬ奴らが攻め入り、次々と星の生物たちを――――――めたのだ。この侵攻を受け我々はカテル・ルルオ、アム・ルー・スン両文明圏と協力し抵抗を続けた。だが、それぞれが独自に発展し技術体系が隔絶してしまった我らはその協力すらも満足に出来ずに奴ら、――――――によって各個に滅びの運命を迎えることとなった。それでも我らは何とかして未来に希望を繋げるためにあらゆる手段を取り我らの持つ技術や情報を残すためにこの巨大な地下空間を築き上げた。これを見ているものたちよ。忘れる事なかれ。そして備えよ。奴らは我らよりも遥かに古くより君臨していた存在であり、また、己の運命に終止符を打てぬ哀れな者たちだ。彼らの生あるものに向ける憎悪は消えることが無い。たとえ今そなた達の世のこの星に居なかったとしても必ずや戻ってくるだろう。叶う事ならば我々が残した遺産を受け継ぎ、いつか来る脅威に対抗する手段として活用してほしいと願うばかりである』



 モノート古代遺跡にて発見された記録の内容である。正確にはモノート族の言語を日本語に翻訳した内容ではあるが今は置いておく。


「何度思い出しても普通の演説よねぇ?なんでこうも気になっているのかな?」


 ミーホウ古代遺跡の地下室でシステム中枢に記録されたメモリーを再生しながらアンティアが自問自答を繰り返している。

 モノート古代遺跡から帰って来てからというもののずっとこんな調子でかれこれもう30分は経とうとしていた。


「あーもう。モヤモヤするなぁ。気分転換に上に行こうっと」


 納得出来る答えを思いつかなかったのか。そう言って自分の身体を一旦消滅させて地上で再び再生するアンティア、システムのプログラムの一種故にこういう移動は楽である。


『ひゃあ!?』

「あ、エメルさん帰っていらっしゃったのですか?驚かしてしまったようでごめんなさいね」


 身体を再生するやなや聞こえてきた短い悲鳴に気付き謝る。そのまま未だに腰を抜かしてへたり込んでいるモノート族のエメルに向けて手を差し出してそのまま立ち上げさせる。


『もうアンティアさん!いきなり目の前に現れないでくださいな。心臓が止まるかと思いましたわ』

「ごめんごめん。ついいつもの調子で移動したらうっかりね。それよりエメルさん日之出から帰っていたのね。てっきり今日は向こうに泊まるものと思っていたわ」


 驚かされたことに怒ったエメルにアンティアが両手を合わせてゴメンネのポーズをとる。いつもの調子と言うのはおそらく葉山に対しての事だろうがそれはおいとき、露骨に話題を逸らしにかかる。


『えぇ、向こうが少し混みあっていましたので少し早めに戻って来ましたわ。って、流されませんわよ!?』

「ちっ、失敗したか。けど、私とエメルの仲だし少しぐらいいいじゃない?といってもその辺の記憶はないから関係ないか」


「あら?アンティアさんにエメルさん、そんなところで突っ立ってどうかしましたか?」


 ワチャワチャといった感じで言い合っていた二人に対して割って入るように白衣を身に着けた八洲調査員が声を掛けて来た。目に隈が出来ていて若干やつれ気味のようだが本人的には元気なつもりのようだ。


『あら?八洲様、会談はもう終わりになりまして?』

「まだいくつか話が残っているようだけど私に関しては終わりかな。それよりエメルさん、よければお茶しない?丁度お祖父ちゃんから融通してもらったのがあるのだけれど」

『まぁ本当ですか。それならお言葉に甘えてそうさせてもらいますわ。アンティアさんもご一緒にどうですか?』

「え?それなんのイジメよ!?」


 唐突に話を振られたアンティアが驚きの声をあげる。そもそもプログラム体であり飲食の必要がない自分が誘われることに何らかの意図を感じたが、そんな彼女の両腕をガッチリと拘束するエメルと八洲の二人、そのままアンティアは急に決定した女子会?になすすべもないまま連行されていった。



「それでさーお祖父ちゃんったら『お前はもう少し慎ましさというものを覚えた方が良い』とか言い始めて他の人が居るってーのに説教を始めたのよ?本当に恥ずかしかったわー」


 古代遺跡に設けられた文部科学省の施設の一室で八洲調査員がお茶を片手につい先ほど行っていた会談での出来事を語る。


『それは自業自得と言う言葉以外に言いようがない気がするは気のせいかしら?』

「あー確かにそれには私も同感ですね。それより八州さんが田中官房長官と親戚だったという事実に驚きを隠せないのですが……」


 八洲の話を聞いて見解を共有する二人、いったい今まで何をやらかして来たのか説明を求めたいところではあるがどうせろくでもない事には変わりないだろう。


「あんたたち一体私の事を何だと思っているのよ……それよりアンティアさん、前々から気になってはいたことがあるのだけれどいいかしら?」


 二人の言い様に遺憾の意を唱える八洲が思い出したかのように真顔になってアンティアに話しかける。


「何ですか?スリーサイズなら教えませんよ?」

「そんなものは最初に会った時に既に触知済みよ。それでだけど、あなた、ラドンさんみたいに肉体の再生はしないのかしら?システムに組み込まれているとはいっても出来ない訳ではないのでしょう?」


 冗談を交えながら八洲が彼女に問いかける。

 肉体再生――ミーホウ古代遺跡に納められている技術の一種であり遥か昔に滅んでしまったミーホウ族がいつか来る復活の日に備えて残されたものだ。

 実際の使用例は今のところはラドンのみであるが、本来なら他の保存されているミーホウ族の人々の人格も早々に肉体を再生して植え込む予定であった。だが、それはある理由によって一旦保留となっていた。


「それなら前に本格的な肉体再生事業は日本の状況、特に食料関係が安定してからという形で説明があったと思いますけど?まぁ、私の場合はシステムエラーで再生そのものが出来ないのですけどね」

「再生が出来ない?」


 彼女の返した言葉に八洲が眉を顰める。

 より詳しく話を聞いてみた所、どうやらミーホウ族が肉体再生を行う際に決められている制約の一つに引っかかっていてシステムから拒否をくらってしまっているという事らしい。

 肉体再生とSFチックな事を言ってはいるが、やっている事は遺伝子組み換えにクローン生成、記憶の移植という名の洗脳である。生命倫理を思いっきり捻じ曲げるその行為を行うには当然ながら多くの制限を必要とし、今回アンティアが引っかかったのは『一定領域内での同遺伝子体の複数存在の回避』という条件であり、要約するとクローンの量産を認めないという事らしい。


「複数存在の回避って、あなた肉体再生していないじゃない。なんで引っかかるのよ……」

「知りませんよ。そんなの、ただエラー判定を受けている事は確かですから私と同じ遺伝子を持った生物がこの星のどこかにいる事は確かなのでしょうけど」


 八洲の言葉にアンティアが肩をすくめながら自分の見解を伝える。最もそんな事があるはずがない事は彼女自身が判っているはずだがこの時は言葉に出さなかった。


「ま、そういう訳ですので私が肉体を取り戻すのは当分ないですね。さてと、私はこの後予定がありますのでここで失礼しますわ」


 話を切り上げてアンティアがそのまま姿を消す。

 日は傾きそろそろ地平線の下へと隠れようとしていた時の事であった。



 夢という物がある。一説によると己の記憶の整理によって作り出されたものと言われるがそのメカニズムはまだ完全にはっきりしているわけではないらしい。

 もっとも肉体を失いシステムとして組み込まれている私にはもう関係ないことだと思っていた。


――――――システムのバックアップを開始、メモリーの抽出と照合を行います。


 日もすっかり沈み、自分の精神を遺跡の機械の中に戻した私に声ですらない何かでそんな内容が流れ込んでくる。


――――メモリーにモノート族より残された軌跡を確認、第一秘匿情報の開示条件を満たしました。保存されている秘匿情報をダウンロードしますか?また、この情報は以前ダウンロードを拒否されています。


 私の記憶の中を調べたのだろうか、そんな情報が提示されてきた。

 そこで私はこのやりとりが初めてモノート古代遺跡で調査した後にもやっていた事を思い出す。確かあの時は突然のこと過ぎて思わず拒否してしまったのだ。

 今の今まで忘れていた事実に苦い思いをしながらダウンロードの許可を出す。

 許可を受けてメインシステムから解放された膨大な量の情報がまるで波の様に自分の中に流れ込む。いや、寧ろ押し流されているような感じになってきた。


――ダウンロードが完了しました。プログラム適応の為、情報の再生を開始いたします。


 濁流とも激流とも言えぬ情報の波に揉まれる自分に向かって伝えられる言葉、その時点で自分の意識ははるか昔に残された情報の中へと引き込まれるように消えていった。

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