FILE.28
一部作画ならぬ作風崩壊を起こしております。一応ご注意ください。
「本当にあの時は林のせいで面倒な目にあった――いや、いまも面倒な状況だけどさ」
最初にエルフと接触した日から4日経った8月17日、エルフたちを水那富駐屯地まで輸送するためのヘリを待っている葉山が今までの事を思い起こしてそんな愚痴を言う。
あの騒動の後、他の所も形は違うが似たり寄ったりの状況に陥っており、最終的には13名ものエルフを保護するに至っていた。これでもまだ少なく抑えた方で2日間にわたって行われた調査ではおよそ5000体にも及ぶ石像を見つけることになったのだから本当に笑えない。
「それも迎えが来るまでの辛抱だからいいとして――って、その迎えが来ないのだが一体何をしているのだが」
「さぁ?距離も結構ありますから色々あるのではないでしょうか?気長に待ちましょうよ、葉山」
迎えを送ると言い渡されてから2日経ってもなお、来る気配のない状況に痺れを切らしかけている葉山をアンティアが宥める様に言葉を掛ける。
葉山達はこの時はまだ知る由もなかったのだが、何しろ彼らが居る所は一番近い水那富駐屯地からでもゆうに2000kmは離れているためすぐに送れる航空機で往復出来る機種が無いため、急ピッチで一時的な中間地点の場所を構築していたのであった。
「このまま何もしないでいるのもなんかあれだし、十束さん達の調査の様子でも見に行った方がいいかな?」
「この場は林さんが取り仕切っていますし、別に構わないと思いますよ」
特にすることもないので地下の古代遺跡の調査を続けている探査省の様子を確認しにいくか考えを巡らす。
探査省の方でもいくつかの成果を上げており、特に地上との連絡通路を見つけられた事が幸いして今ではそこまで苦労することなく降りることが可能となっていた。
ためらう理由もないため、十束探査員の方に行くことにした葉山は着くまでの間にアンティアに水那富への報告に言った際の話を聞きながら目的地へと向かって行った。
日本・官邸
五階に設けられた專用の執務室で伊東総理は先日の閣僚会議で提案された復拓領域での開発関連の資料を確認しながら頭を悩ませていた。
特に彼が頭を痛めていたのが環境省による現地での緑化計画案であった。食料増産の目的で農地開発に邁進している農林省とは違い、土壌改良の面から作られたこの計画だが出されたいくつかの案が若干賛否の分かれそうなものだったのだ。国内から移植するというオードソックスなものから向こうの環境に合わせた遺伝子改良品種の開発を提唱しているものなど、細かい違いを挙げれば数十に達しそうな計画案の中から選抜しないといけないのだ。正直言って担当者同士で決めてほしいものだがその担当者たちの意見が纏まらないのだから仕方がない。
(だからと言って何故私が決める羽目になっているのだ?いや、最終決定権を有している都合上、やむを得ない事だとは分かってはいるのだが……)
完全に自分の専門外の事柄に関しての決定を迫られていることに一種の不満を持ちながらもどうしたものかと熟考する。とは言っても分からないものは分からないのが世の常だ。結局、よい答えが思いつかずに時間だけが過ぎていく。
そんな時、不意に執務室の扉がノックされ田中官房長が室内に入ってくる。
「総理、少しばかり時間をいいでしょうか?日之出の視察の件などでお話ししたい事が」
部屋に入った官房長が早々に話を切り出す。前々から話題には上がっていた日之出地方の視察に関しての話がようやく纏まったようだ。
「別に構いませんよ。こちらも丁度行き詰っていた所でしてな」
「環境省の緑化計画についてですか?大変ですな、それでですが視察の件、2か月後の10月に執り行う事になりました。メンバーに関してですが総理は勿論ですがアマテラス様の要望に応えてツクヨミ様も同行することとなっておりますが問題ないですよね?」
一通りの決定事項を述べた後に確認するようにこちらに意見を伺う官房長、聞いた感じでは当初の話からそこまで変わっていない風に感じられた。
特に問題もないのでそのままの方針で進ませるように言い渡す。
「ではこの件はこのまま準備させます。――それで話は変わるのですが先ほど水那富駐屯地から例の保護対象の受け入れ態勢が整ったとの旨の報告が防衛省を通してされてきました。次いでという事で伝えておきます」
「保護対象というと確かモノート族とか言ったな。思ったより受け入れに時間が掛かったようだが何かあったのか?」
官房長の話を聞いた総理がそんな感じで質問する。
受け入れに時間が掛かったのは単純に調査目的で作られた水那富駐屯地にそのような能力が無かったためその構築などなどを行っていたからだが、そんな実情を総理とは言っても専門外の人間が知っているわけもないのでその辺の疑問は持ってしかるべきであろう。
防衛省もそのことは予測していたのか、官房長に受け入れまでの活動内容を事細やかに記した報告書を提出しており、それを通して総理への説明を行う形になっていた。
そして話はそのまま新たな古代遺跡とそこで保護した種族の話題へと移っていく。
今回の騒動、実を言うと内閣の方でもすったもんだのあーだ、こーだ、という感じにかなり論争を引き起こした。
なぜそうなったかというと話すと長くなりそうなのだが、第一報を受けた2日前の事である。
「マガミヤ文明圏とモノート族、ですか……」
「ええ、その通りです」
深刻そうな表情で話す伊東総理にアンティアが相槌を打ちながら肯定する。2人の他にも会議室には伊東内閣の面々が揃っていてアンティアの言葉を待っている。
彼女の話によるとマガミヤ文明圏というのは滅亡前に存在していた3大文明圏の1つであり、主に大陸を支配領域にしていたのだそうだ。その文明形態はカテル・ルルオ文明圏と違い自然を中心とした生活様式を取っていて存在していた種族も僅かな差を含めれば数百種にも達するという。モノート族も単一の種族ではなく複数の民族を纏めた総称であるらしい。
「多種多様な種族を有していたと言いましてもそのほとんどが人口10000人にも満たない希少種族が大半で独立した種とは言えませんでしたね、それに種族という概念も希薄でしたし――」
そこでアンティアが言葉を切る。
補足するとマガミヤ文明圏に属している種族たちの名前は全て交流していたミーホウ族が己らの都合によって付けているだけで当の本人たちはそこまで明確な区別をしていなかったようだ。ある意味中途半端に出来上がった多文化共生の集合体とも言える。
そんな特異的な文明圏だが、その有している技術もかなり特徴的のようで一部の技術はカテル・ルルオ文明圏をも凌駕しているとのことだ。
「特にモノート族が利用する自己展開型使役技術なんか未だに原理が理解できないほどです。どうやれば手から炎や氷を出したり、身体能力を引き上げると言った離れ業が出来るのか未だに謎です」
それはもう魔法というべきではないだろうか……話を聞いていた伊東総理を含む内閣の面々が心の中で呟く。
そういう系の分野というか文化に一通りの知識がある地球人側としてはそういった考えに行きつくのだが、どうやらミーホウ族では違ったようだ。
そんなカルチャーショック、この場合はギャップなのだろうか?に感心しながらも話題は次第に今後の扱いについてと移っていく。
「一先ず水那富駐屯地で受け入れるのがいいですかな?」
「別にそれでも良さそうですが国民にはどう説明します?いろんな意味で混乱は確実ですよ?」
「そもそも生命体として扱っても平気なのですか?アマテラス様の説明と矛盾が生じますが――」
対応に関して各々の意見を述べていくがどうにも纏まらない。むしろ生命体が否かと言う所まで話が後退する状況、そんな中で議論を聞いたアンティアまで自身の扱いについて説明を求めて介入してくるのだからもはや会議にもならない。
この時はどうにか伊東総理が上手い事調整して駐屯地で受け入れる事だけは取り決めたがここにきて新たに面倒事が増えた事に関係者の誰もが胃を痛めることになったのは想像に難くない事だろう。ついでに言うとこの件で割りを食ったところがもう一箇所あった。
高天原
なんか久しぶりに出てきたこの場所で特にやることもなくくつろいでいるアマテラス様とツクヨミ様の2柱の神様、本来なら人間界の方で人々の援護なりなんなりとしていてもおかしくはないのだが、その肝心の人間たちが殆どの問題を自己解決してしまうので随分と暇な様子。
「の、ノルマンディー」
「い、漁火――ところで姉上、最近下の方でまた面白い事があったそうですよ。なにしろ新しい種族を見つけたとか何とか」
「へーそうなんだ」
暇つぶしにしていたしりとりが3000周を超えたあたりで唐突に自分の姉に話を振るツクヨミ様、話を振られたアマテラス様はそこまで興味が無いのか一言返してそのまま終了。では面白くないのでツクヨミ様が追撃を掛ける。
「何しろ今回はエルフ似の種族らしくて下もてんやわんやとの事です」
「ふーん」
「おまけに石像からいきなりポン、という感じで現れたようですから向こうもかなり混乱したでしょうね」
「へぇ」
「……その、姉上、この世界って確か滅びて生命体は存在しなかったのではないですか?バッチリいましたけど……」
「…………」
ツクヨミ様の言葉攻めに次第にアマテラス様の反応が小さくなり最後には沈黙する。
「あの、あねう「知るかーーー!!!」」
ブチ切れました。しかも唐突にです。
神様が荒れると大抵よくない事が起きそうですが今回は神力がそこまで無かったこともあり付近にいた神様が1柱だけ被害を受けるだけに留まりました。
「はぁ!?何よ、あれ?人を石にするとか常識外れにも程があるわよ!?なに?錬金術なの?メデューサなの?」
「せめて日本らしい物で例えてください」
依然、怒りが収まらないのか叫び続けるアマテラス様とよくわからないツッコミを入れるツクヨミ様、なんかコントと化していますが仕様です。気にしないでください。
「そもそも生物を物にするとかズルすぎるでしょうが!その前に6兆年もの間よく無事だったわね!?ちょっと都合よすぎるわよ!」
「そんな事作者に文句言ってくださいよ」
「メタいわよ!?」
ツクヨミ様の世界線を軽く超えた発言に驚きを隠せないアマテラス様、神様ですし世界線の一つや二つ超えたところでそこまで問題はありません(作風的には問題ですが……)。
そもそも本編も今回の投稿で予定話数の半分を消費してしまうのでまかないと間に合わないのですよ。
「やれやれ、久方ぶりに様子を見に来てはみたが、随分と騒がしい事になっとるのう、アマテラス?」
「あ、ククリ」
「おや、ククリヒメ様、お久しぶりです。今までどちらにいらっしゃったのですか?」
段々と混沌になっていく状況の中でいきなり新たな神が現れる。正直言って今回の話にしか出さないのに新たな神を出す必要があるのかどうか疑問ですが他に適任がいなかった。
「まぁ、雑音は放っておいて、少しばかりこの世界の境界を調べていたのじゃが、気になることが出来たのでそこの太陽神に聞きに来ただけじゃ、用が済めばすぐに帰る」
「へ?私に用?」
菊理媛神の突然の登場でアマテラス様も落ち着きを取り戻したようで自分に用があると言われて少し話に乗ってくる。
「そうじゃ、確かおぬしこの世界に転移した際にこの世界の崩壊に巻き込まれたと説明していたようじゃが、それは真か?」
「確かに言ったわね、気になるのならその説明をしている話を確認してみればどう?」
「おぬしも十分メタいのう……まぁよい。そうなると幾つか腑に落ちぬことがあるのじゃが」
アマテラス様の渾身のボケをスルーしたククリヒメ様が含みのある言い方をして一度そこで会話を切る。
「腑に落ちない事?星系が残っているとかなら聞かないでね。私も分からないから」
「それもあるが一番疑問なことは転移した場所じゃ、おぬし今の日ノ本がどこにあるのか把握しておるのか?」
何か面倒そうな空気を感じたのかアマテラス様が予防線を張るがそんな事は関係なしにククリヒメ様が疑問をぶつける。
しかし、転移した場所とだけ言われても質問の意図が今一つ理解出来ない。
「それは惑星内での場所?それとも世界的な位置の事かしら?」
「後者の方じゃのう」
「それなら崩壊に巻き込まれての転移なのだから世界の最果てに近い所じゃないのかしら?」
「――ど真ん中じゃ」
「へ?」
ククリヒメ様の言葉にアマテラス様の思考が一時停止する。
ど真ん中というのは世界の中心という事だろう。完全に肥大化しきった世界の中心に移動するとか一体どれほどの移動距離になるだろうか?少なくとも人間の持つ単位では表しきれない。
「うな、アホな」
「本当じゃ、おかげでこの世界の境界に行くのに苦労したのじゃぞ、ついでに伝えておくがここ以外にも残っていた星系などはあった。ここにしか移れなかったという事は無いじゃろう、この世界やはりおかしいぞ」
世界の崩壊、この場合は宇宙の終焉と言った方が良いだろう、その終焉の形は学術的にもいくつかの説があるが、そんな難しい事は考えずに物質の消滅と今は考えていてくれてよい。
そうなるとこの世界は星系という巨大な物質が残っている時点でまだ滅亡してはおらず、崩壊など起こるわけが無いのだからこれが余計アマテラス様を混乱させていく。
「ただでさえ星系が残っている謎が解けないのにまた余計な物が来た……」
「なんじゃおぬし、そのような事で悩んでおったのか、その様子だとアマノナカミツの所には行ってそうには見えぬな」
「アマノナカミツ?」
聞き慣れない単語が出てきて困惑するアマテラス様、アマノナカミツというのはJAXAや文部科学省など諸々の機関によって定められた本星系の恒星名である。
ツクヨミ様の助言の後に林大臣の指示によって急ピッチで組織の形を作り上げて今現在も手当たり次第に天体名の制定をしている。
現時点で名前が与えられている天体はアマノナカミツと日本が存在するソウテン、そしてその衛星であるヒコノツキとオリノツキの4つだけだが時が経てば調査も進み、増えていくことになるだろう。
「そういう訳じゃ、サボうとる暇があるのなら見に行ってはどうじゃ?それでは妾はこれにて失礼する」
そう一言言い残してククリヒメ様がその場から姿を消す。
「ツクヨミ、引きこもってもいい?」
「そんな易々と引きこもらせると思いますか?姉上、ボサッとしていないで例のアマノナカミツというものを確認しに行きますよ」
「うへぇ、面倒くさいなぁ……」
公然と職務放棄をしようとしてツクヨミ様に引きずられて行くアマテラス様、神々の方では謎が深まっていく一方であった。
 




