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FILE.25

「それでだが、一体何があったのかね?巣立駐屯地方面から緊急連絡が入ったとしか聞いていないのだが」


 予算委員会を休会してそのまま閣議室に移った伊東総理は各省の大臣が揃ったところを見計らって西郷防衛大臣に問いかける。

 議会中に緊急招集要請を出すくらいだ。当然、それ相応のことが起こったという事は察しが付くのだがそれが果たして朗報なのかはたまた悲報なのかまでは分からない為、心中は不安の気持ちで一杯である。


「巣立駐屯地に一時的に派遣していた空自の飛行隊から当駐屯地より東方1300km付近にて超高層型古代遺跡と思われる人工物を発見したという報告が入りまして、発見した部隊は燃料の関係からすでに撤退したのですが今後の対応について検討を願うとの内容が伝えられております」


 質問を受けて西郷大臣が簡潔に現場で起こった出来事を報告する。

 今回発見した古代遺跡だが、まだ航空機とARMによる目視調査しか行っていない為、そこまで多くの事は分かってはいないがそれでも高さ1200m、直径400mの円柱状の構造物で表面には幾何学的な紋様が隙間なく彫り込まれていることが分かっている。


「構造的な情報以外には分かっていないという事か?」

「はい、これ以上の詳細なデータは実際に現地に行って調べるしかないでしょう」

「失礼します。総理、水那富駐屯地からアンティアさんが転移してきました」

「了解した。すぐにこちらに通してくれ」


 飛行隊、ARMによって取られた画像や映像を確認しながら情報を整理して考察している内閣一同に向けて官僚の1人がそんな話を持ってくる。すぐに連れて来るように総理が命令して官僚が戻った数分後、前に執り行った会談後に送られてきた設置型のデバイスが起動して閣議室の中で光の粒子が集まりながら形を造り1人の女性、アンティアが姿を現す。


「突然のお呼びたてに応じてもらいありがとうございます。アンティア殿」

「お気になさらないでください、伊東総理。我が種族の復活は貴国に掛かっているのです。このぐらいの事、どうという事はありませんわ。それにこちらも少々ご報告したいことがありますので……それでですがご相談したいことというのは何でしょうか?」


 両者ともに挨拶を済ませてアンティアが話を振る。総理もそれに応えるように席を勧めて西郷大臣に資料の提示と説明を指示する。

 西郷大臣が最初に伊東総理らに言ったことと同じことを話しなおすこと数分、説明を聞き終えてかぶりを振りながら沈黙する彼女に伊東総理が再び話しかける。


「――という訳なのですが何か知っていることはありませんか?」

「お話は分かりました。一応確認させてもらいますがその構造物はこの地図に示された赤い丸の所で間違いないのでしょうか?」


 総理の問いかけにアンティアが手渡された資料を元に問い直す。彼女の持っている地図は日本が衛星から赤外線によって調査して制作された地形図であった。


「ええ、そこで間違いないです。地形の形的に専門家からは構造物は大陸と思われる場所にあると言われていましたがそれがどうかしましたか?」

「そうですね……このあたりの地域はシェルカー族、依然お話しした伝説で底に在りし者の一族が支配していたのですが、かの種族はこのような構造物をつくる文化……いや、技術すらも持ち合わせておりませんでしたし、だからと言って他の種族の構造物とは意匠が違い過ぎますのでこれが何なのかというのは残念ながら私も存じ上げません」


 最終的にアンティアはそのような結論を出す。


「そうなるとミーホウ族の方達が滅びた後に残った種族か新たに生まれた種族が作ったという線も考えた方が良いかもしれないな?」

「いえ、それは無いと思います」


 話を聞き林文部大臣がそのような事をいうとアンティアがきっぱりと否定する。

 聞くところによるとミーホウ族が滅び、彼女が残された時にはすでに他の種族は絶滅していたのだという。また、そのころのこの惑星の環境はただ海とミーホウ族が残っていただけで状況は今とほとんど変わらなかったという事からミーホウ族が滅びた後に新たな種族が生まれた事可能性も低い。


「前々から気にはなっていたのですが、一体あなたたちがいた時代に何があったのですか?惑星に居る生物が全て滅びるなど相当な事が起きたとは思うのですが」


 彼女の説明を聞き田中官房長がある1つの疑問を口にする。

 実は生物の滅亡の理由を聞くのはこれが初めてある。なぜ今までも聞く機会があったのにもかかわらず話題が出なかったのかというといわばある種の配慮のようなものである。

 自身が滅びた理由など大抵は気分の良くない話だし、好き好んで話したいことでもないだろう。そんな考えがあって今の今まで口に出せなかったことなのだが、このままでは話が進まないという判断してやむなく質問することになったわけだ。

 だが、そんな田中官房長の質問に返したアンティアの答えは予想外なものであった。


「それが、まことに恥ずかしい事なのですけど、私自身も分からないのですよ。確かにその旨を記す情報は存在しているのですが情報規制が掛かっているのかアクセスが出来ないのです。どうやら何かしらのプロセスを踏まないといけないらしいのですがそれも分からずじまいでして」


 分からないなら仕方ないかと思った者、情報規制を牽かれるなんて何があったのだかと懸念した者と彼女の言葉を聞いて考えたことは様々だが1つだけ一致していたことがある。


「あれ?アンティアさんって確か古代遺跡を管理しているメインシステムとして残されたのですよね?なんでシステムがブロックされているのですか」


 谷経産大臣がだれもが思っていた疑問を口に出す。そう古代遺跡の全面的な統括・保全を存在意義として残されたのが彼女のはずなのにその彼女自身が手の出せない情報がある矛盾についてだ。

 管理できていないじゃん、谷大臣の言葉は要約するとそういう事になる。


「お願いですからそれを言わないでください。私自身困惑しているのですから」


 返す言葉もないのか彼女が困り顔で嘆願する。しかし、メインシステムにさえ隠される滅亡の理由、一体どんなことが記されているのだろうか。十中八九、ろくでもない事が残されているのだけは確かである。


「谷、一先ずそれは置いておけ、ここで話し合ってもどうにもならん。ところでアンティアさん、差支えが無ければで良いのですが先ほど話に出てきたシェルカー族――この種族について教えてもらえませんか?よくよく考えると貴殿の種族以外の種について我々は全くと言っていいほど知りません」


 谷大臣を窘めるように林大臣が話に割り込み話題を変える。

 今更他種族の事を知って意味があるのかという疑問もあるかもしれないが、割と重要な事である。少なくとも当時の時代で活動していた大まかな領域さえ分かれば今後の古代遺跡探索などに参考に出来るし、どんな文化や産業を有していたかまで分かれば資源や地政学的情報など推測情報に使えるのだから今後の日本を支えるためにもたとえ僅かな情報であっても欲しいと思うのは何も林大臣に限らずの各省庁の官僚たちも同じ思いであった。


「そうですね、どこまでお役に立てるのかは分かりませんけど私が知っていることで良ければ話させてもらいますね、まず、シェルカー族は私たちのような人型の種族ではありません」

「え゛……」


 思いもよらぬ言葉に聞いた誰もが言葉を濁らす。流石異世界、格が違った。

 聞くところによると件のシェルカー族はその身を水圧から守るために固い殻を身に着けて生活していた種族らしく日本の知識で表すならヤドカリに近い造形をしているのだそうだ。

 ただ、言語による意志疎通は出来ていたようで滅亡前は主に海底鉱山などで資源採掘を中心とした産業で生計を立てていたという。


「他に彼らの主食でもあるニイーカァの養殖も行っていまして、これがまた美味しいのですよ。ミーホウ族の方でも高級品として愛されていたくらいです。あ、ニイーカァというのは日本で言う蟹のような生き物の事です」

「……ちょっとまて」


 懐かしそうに話す彼女の言葉を聞き誰かが話を止める。

 何かサラッととんでもない事を話していた気がするが恐らく気のせいではないだろう。一先ずこれまでの話で分かったことを纏めてみよう。だいたい以下のようになる。


1、シェルカー族はカテル・ルルオ文明圏に属する種族の1種である。

2、件の種族は非人型であり、その造形はヤドカリに類似している。

3、主に鉱物産業を中心とした産業形態を有していた。

4、主食はニイーカァと呼ばれる蟹のような養殖し好んで食していた。


 簡単なまとめだがこれだけでもかなり特徴的な種族であることが分かる。なんか最後のだけ共食い疑惑がぬぐえないがそれを解明する手段はもうないため放っておいても支障はないだろう。


「鉱物産業、海底鉱山……鉱物、鉱脈……資源、……アンティアさん、そのシェルカー族の領域で日本に一番近い所はどこなのでしょうか?」


 何やらぶつくさ言いながらもの思いに耽っていた谷大臣が弾かれたように顔を挙げてアンティアに問いかける。


「領域分布ですか?そうですねぇ、日本に近いとは少し違いますが今皆さんが開発を進めている日之出の南方にある鉱脈、あそこはカテル・ルルオ文明圏の中でも屈指の鉱山地帯でしたよ?一番近いと言えばその辺でしょうか」


 質問を受けて少し考えた後に彼女がそのように答える。

 なんとも幸運な事に日本が既に見つけていた鉱山地帯、当時の時代でも巨大な資源地帯であったようだ。ただ、距離や環境の問題があって思うように開発が進んでいない現状を鑑みるとそこまで幸運とは言えないのかもしれない。


「総理、日之出南方の開発速度、もう少し加速できないでしょうか?」

「谷君、残念だがそれに関しては復興省と防衛省の問題だ。私からは何とも言えん。そこのところはどうなのだ?」

「あそこの開発の促進ですか?うーん……」

「難しいとしか言えないでしょうなぁ」


 総理に問われて安部復興大臣と西郷防衛大臣が顔をしかめながら唸る。この反応からしてあまりいい答えは期待できなさそうだ。

 そもそも現在の日之出南方の活動内容は駐屯地と鉱山地帯を繋ぐ道を整備する以外は何一つとして進めていない。これは資源開発を行える民間企業を復拓領域に入れていないのだからなのだが、入れようにも現地は何もない唯の荒野、そんなところに民間人などを向かわせて何か事が起これば国会の炎上案件であるし国民の不安を煽る可能性も否めないためなかなか踏ん切りをつけられない事に起因していた。このことは前々から対策を話し合ってきていたものの今なお有効な案が出ないでいた。


「早いところ輸送能力を強化しないと八方塞がりだな、これは」

「確かにそうですが強化しようにもその手段が限られている以上急ぐこともできませんね」


 バックアップさえ完璧に築き上げられれば多少の無理や無茶は押し通せる。だが、そのバックアップを築く能力が不足気味である以上どうしても先に進めない。

 結局のところ今の日本の状況はこの一点の事柄の影響で思うように動けない雁字搦めの状況に陥ってしまっていると言ってもいい。今回の閣議はそのことを今一度認識し直す切っ掛けとなった。


「話を締めようとしているところ悪いのですが総理、当初の目的である新たに発見した古代遺跡の対応がまだ未決定です」


 総理と官房長が話を締めそうな雰囲気を感じ取ったのか西郷大臣が引きつった笑みを浮かびながら口を開く。話が連続して脱線していたせいで忘れていたが本来の目的は東方で見つけた超高層型古代遺跡に対する対策会議だったことを思い出す。


「対応と言ってもなぁ、海鳥列島から1300km、日本列島からなら3000kmはゆうに超える遠距離にある古代遺跡なんかに手を掛けている余裕があるのか?放っておくしかあるまい。残念な事だがな」


 腕を組みながら唸るように言い放つ。

 3000kmと言えば日本列島が余裕で収まる距離である。元の世界でなら東京からパラオの間が多分そのくらいだろう。そんな長距離にかまける余裕など日本には残念ながらもうない。総理の言葉はその現実を冷静に受け止めての言葉であった。


「では、これに関しては当分の間は保留という事にします。流石に二方面戦なんてこちらとしても悪夢ものですからね」

「うむ、すまないがそうしてくれ」


 なんともあっけない事でこの件については現状維持――いわば何もしないという事で意見がまとまった。恐らく次にこれに触れることがあるとすればそれは日之出か水那富どちらかが都市としての機能を有した時になるだろう。なんとも気の長くなりそうな話だ。


「ところでアンティアさんの方でも何か話があったのではないですかな?」


 不意にそんな言葉が閣議室に響く。声の主は探査省大臣の井上 重信であった。


「あ、すっかり忘れていましたわ。けど、もうかなり時間が経っていますし私が言わなくてもそろそろ日ノ出から連絡が――」

「失礼します。日ノ出駐屯地より緊急連絡が入りました。いかがなさいますか?」


アンティアの言葉を遮るように部屋の扉が派手に開き、官僚の1人がそう報告を持ってくる。緊急連絡とかもう嫌な感じしかしないが無視することなど出来ないので覚悟を決める。


「はぁ、そのまま報告してくれ」

「は、『本日1600(ヒトロクマルマル)にて水那富から東北方面へと向かわせた探査隊より大陸跡地と思われる場所において地下都市型の古代遺跡発見の報あり、本報告を受け我が駐屯地は政府に今後の対応の指示を願う。なお、現地で幾つか問題が発生した模様、詳しくは訪問しているアンティア氏より聞かれたし、以上日ノ出駐屯地司令、葉山 幸三郎。』――以上です」

「………………」


 報告を聞き沈黙する伊東総理以下内閣一同、表情が皆真顔なので色々と怖い。


「えーと、そういう訳なのですが、説明いりますか?」

「はぁぁ」


 沈黙に耐えきれなくなり恐る恐る聞くアンティア、その声を皮切りに深いため息が総理たちから漏れ出る。

 一難去ってまた一難、誰かがそんな事を呟いたが頭を抱えている総理達の耳にはすでに届いていなかった。

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