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2月13日 午前8:00 沖ノ鳥島付近
「なにかあったか?鹿江二尉、佐々木二尉」
「いいえ、あるとすれば青い海だけですね、あと報告にあった沖ノ鳥島の噴火でしょうか」
「こっちも同じですね、しかし、いったいなんなのでしょうね、噴火の様子を見に行くだけならまだしも領域外の調査をして来いって色々謎すぎませんか?」
機長である山中一尉の質問に同乗していた二人が答える。佐々木二尉に関しては今回の任務について疑問を持っているようだがそれも仕方ない事だろう、何しろ本来噴火しないはずの沖ノ鳥島の周辺捜査のみならず、日本国外への哨戒である。おまけにここだけでなく全方位に向けて中には戦闘機を駆り出している所もあると噂されているらしく、本当なら何か普通ではないことが起こっているのではと誰でも思う。
「謎と言えば一昨日の皆既日食も謎だな、おっと、そろそろEEZを抜けるぞ。二人とも何かあったら報告してくれ、疑問に思うのも最もだが今は任務を果たすのが優先だ」
「了解です。しかし、空が夕焼けみたいに赤いですねさっきまで普通だったのに、佐々木そっちはどうだ?」
「いや、こっちもそこまで変わったことは・・・!?なんだ、ありゃ!!?」
モニターを見ていた佐々木が何かを見つけたのか驚きの声を上げる。声を聴いた二人も慌てて外に目を凝らす。
「どうした?何かあったのか・・、ってうお!?」
「おい、佐々木すぐに基地に連絡だ!急げ!」
「了解、こちらシーハンター1、那覇基地応答せよ、こちらシーハンター1・・」
機長の命令で那覇基地へと連絡を入れる佐々木二尉、すぐに那覇基地から応答が返ってくる。
「こちら那覇基地管制塔、シーハンター1どうした?」
「こちらシーハンター1、現在本機は沖ノ鳥島からEEZ外へと飛行中、そこでえぇとなんて言えばいいのか・・、EEZから外の海が終わっている!」
「は?どういう意味だ?もう少し詳しく報告してくれ、陸地があるのか?」
「ああもう、これをみろ!!」
そう言って佐々木が機載しているカメラの映像を基地へと送る。“なっ!”映像を見たのか向こうの息をのむ様子が分かる。それもそのはずでカメラの映像にはそれまで青い海が広がっている所にEEZの境界を境にぴったりと海の青色から赤く焼けた大地が広がっていたのだ。いや、正確には海底というべきだろうか?その光景は物理法則を無視してまるで水の壁みたいに日本領域内は形を保っており、少しでも外に出れば乾ききった海底の大地が広がっている。
「機体の高度を下げてあの水の壁周辺を飛んでみるぞ、佐々木二尉記録を頼む」
「了解です。しかし、どうなっているんだ、ありゃ?常識外れにも程がある」
もう少し詳しく見ようと高度を下げ水の壁の隣を飛ぶ哨戒機、真横で見てもその異質さは変わらずますますどういう原理で成り立っているのかが分からなくなる。どうやら水の中は普通の海と変わらないようで時々魚が泳いでいるのが確認できる。
「おっ、あれダイオウイカじゃないですか?機長、しかし空を飛ぶ哨戒機が海中の生物を捉えるって俺たち歴史に名前残しますかね?」
「落ち着け佐々木二尉、鹿江二尉現在の高度はいくつだ?」
「えーと、現在高度、なんていえばいいのですかね?-1640フィート?大体深度500m程度です」
「もう少し高度を下げてみるか・・・!? うおっと、なんだ!?」
高度をもう500m下げたところ、いきなり機体が大きく揺れ出し制御が難しくなる。慌てて高度を上げたところ揺れが収まり安堵する一同。
「ふぅ、驚いたな、原因はなんだ?」
「断定はできませんがエンジンの温度が急激に上がっています。酸素の過供給かと」
山中一尉の質問に答える鹿江二尉、酸素の過供給ということなら下は酸素が濃いということだろうか?疑問が残ったままであったが帰投命令が来たのでその場を後にした三人であった。
「一体どうなっているのだ、この世界は!!」
開幕早々伊東総理の声が会議室に響く、彼の視線は机の上に広げられた資料に向けられていた。
「その資料は領域外へと偵察に行った自衛隊から出されたものです。それでこちらがつい先ほどJAXAから送られてきた観測衛星による惑星画像です」
そう話しながら経済産業省の谷 久本大臣が机にいくつかの写真を広げた。そこには赤い大地にポツンと小さな青い海と一緒に写っている日本列島があった。
「見たところ日本列島だけでなく、千島列島と樺太も一緒にあるな、向こうに人は住んでいるのか?」
「自衛隊が調査に行った所多分に漏れず人っ子一人いませんでした。ほか竹島にも向かわせたのですが存在を確認できず代わりに少し大きめの群島を発見しました」
「それは吉報?と言っていいのか?しかし、こうしてみるとますます訳が分からないな、せいぜい我々が異世界へと来てしまったというくらいか?何故このようなところに来てしまったのやら・・・」
「教えてあげましょうか?」
突如会議室に若い女性の声が響く、その場に居た者全員が声の主を探すために辺りを見渡す。いつの間にか総理と向かい合うように白装束をきて頭に何かを模した冠をのせた中高生ぐらいの少女が座っていた。
“誰だ、お前・・”
その少女を除いた参加者全員が心の中でそう呟いた。当の本人はまるで心の中を読んだのか不機嫌になりながら話し始める。
「自国の主神が分からないって随分と失礼ね、天照大神といえばわかるでしょ?」
「「「???」」」
彼女の発言で余計混乱する内閣一同、暫くして厚生労働大臣の遠崎 久子大臣が口を開いた。
「天照大神ってあの日本の太陽神の天照大神ですか?けどあれって神話上の存在では・・」
「そう、その天照大神よ、ほかに誰がいるっていうのよ?」
誰がいるのよって言われましてもいきなり神話上の存在の名を名乗られても信じられないのが人でもありますので一先ず神様ということを証明できるか聞いたところ、面倒くさそうではあるものの頭に乗せた冠の丸くなっている所に手で隠した。次の瞬間外が暗闇に覆われ一同騒然となる。そのあとも手を離したり隠したりを繰り返すと今度は太陽が点滅を繰り返す。今になって思えばあの冠が太陽の象徴みたいな役割を果たしていたのだろう、一連の現象ですっかり信じた内閣一同はそのまま話を続ける。
「まさか本当に神様という存在がおられるとは・・失礼しました。して、先ほど教えてあげましょうかとおっしゃっておられましたがアマテラス様は今回の件について何かご存知なのでしょうか?」
「んー、まぁね、話長くなるけど構わないかしら?」
伊東総理の質問に対して答えるアマテラス様がそのまま話を続ける。
「まず、何から言おうかしら?ここの世界についてだけどこの世界はおよそ6兆年前に生命が存在しなくなった世界でね、絶滅したり違う世界に行ったりと理由は様々だけどそれは置いといて、本来なら生命を持つ存在が居なくなった世界は弾け飛ぶか押しつぶされるかして消えるはずだったのだけれど予想外なことに世界を形作る殻ともいえるものが化石化していてね、そのまま残っちゃったわけよ、ここまでは理解できる?」
「世界の仕組みについては理解できませんが生命が存在しないことは分かりました」
「うん、まぁ、それが分かれば十分かな。それでその世界を覆っていた殻の一部が崩壊してね、運が悪いことにたまたま相対的に近くに存在していた世界の中にあったここ、日本がそれに巻き込まれてこっちに移っちゃったわけ、正直言って日本が受ける影響を減らすために私たちも苦労したわ、その写真の水の壁がその一例ね」
大雑把な説明を終え小休止を挟むアマテラス様、大臣の一人が神様の力で元の世界に戻れないのかと質問をするが苦笑いながら否定される。
「ここに転移する前の処置にみんな力を使いすぎてね、悪いけど諦めて、それに元の世界もあいた穴を埋めるように修正力が働いてしまっているから残念だけどどうしようもないわ」
ほかにも移転後少しでも楽になるように千島列島と樺太も一緒に転移できるように配慮してくれたこと、可能な限り被害を減らすために在日外国人を故郷の国に強制帰国させたこと、竹島も本来一緒に転移するはずだったがかの国の先祖様に子孫の唯一の自尊心を奪わないでやってくれと土下座されたため、諦めて代わりに群島を生成したことなど話してくれた。
あの国のご先祖様も苦労しているなと思いながら今後についてどうすればいいか聞く伊東総理にアマテラス様が答える。
「はっきり言ってそれは私たちの管轄外だからあなたたちが思うように歩みなさい、忠告しておきますがこの世界にいるのはあなたたちだけよ、よくあるファンタジー小説のように隣国を探したりしても無駄だから、まぁ、こんなこと滅多にないだろうし私たちも手が及ぶ範囲内であれば手を貸してあげることもやぶさかではないけれど・・・」
「そうですか、それは真に恐れ多いですが助かります。その機会に恵まれれば是非とも御手をお貸しいただきたい」
伊東総理の感謝の言葉を述べた後、“まぁ、頑張りなさい。私達はいつもあなたたちを見守っておりますよ”とアマテラス様が言葉を残しその姿を消す。しばらく沈黙がその場の空気を支配していたが、総理が再度話し始める。
「さて、状況はよ~く理解した。それでだ、これからどうするべきだろか、私達は」
「まずは国民に真実を伝えるべきかと、すでにネットを通して様々な憶測が飛び交っておりこのまま放っておけば混乱が大きくなる可能性が・・・」
「国内で消費する資源の確保も急務です。備蓄してあるものを節約しながらでも3か月で底をついてしまいます」
「食料の確保も問題です。昔と違い多少は自給できるようになってはいますがやはり低い事には変わりありません」
「お前ら少し落ち着け!一度に話すな、俺は聖徳太子じゃねぇ!!」
次々に課題が出てくるため、伊東総理が一度その場を抑える。出てきた内容はやはり予測できた物が大半であったものの、どれも日本の今後に関わってくるものばかりである。
「それで国民に事態の真相を知らせるのはすぐやるとして資源の確保と食料の確保はどうしたものか、その辺について考えがあるものはいないか?」
「資源の確保については経産省のほうでいくつか案がありますので任せてもらえませんか?ただ、外務省と法務省、防衛省の方にも協力をしてもらいますが」
「食料についてもしばらくの間は配給制にした方がよいかとその間に農水省のほうで対策をとっておきます」
「今後について復興省のほうで環境省とともに提案があるのですがよろしいでしょうか?」
その後会議は夜が明けるまで続き今ようやく今後の方針が決まったもののまだそれは始まりに過ぎなかった。