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FILE.16

葉山が帰国した翌日、彼は早朝から少し経った時間帯に官邸へと連れていかれていた。理由は勿論首脳陣と会談相手との仲介だ。官邸に入って待合室で待たされている間にブレスレットをいじって今回の主役であるアンティアを呼び出す。今思えば使い方も知らないまま来ていたことに気付いてあぶねぇと冷や汗をかいた。

時間になったのか会談の部屋へ案内するために担当の者が部屋に入ってくる。いつの間にか部屋にいた彼女に一瞬驚いたがすぐに状況を理解して簡単なあいさつの後彼女を案内する。葉山に関してはアンティアがやってきた時点で役目は終わったに等しいがついでなので国賓の護衛ということにして一緒に連れていかれた。


「ここが葉山さん達の国の議会ですか・・・議会というものはどの国でも厳かですね」


アンティアがそう言葉を漏らす。正確には議会ではないのだが今回は重要ではないので放っておく、葉山自身も政治は疎いので余計な事は言わないに限る。

会談の部屋に通されるアンティア、葉山は外で待とうとしたがデヴァイスの関係上近い方がいいという事で彼女と一緒に入室させられる。部屋の中には伊東総理を始めに各省庁の長とアンティア一人に対して随分と大所帯だがこれは彼女が要請したことで今後の交渉などを考えると初めの頃に面識を持っていた方が好都合らしい、とはいえここに来るまでの緊張感で精神をすり減らしていた葉山にとってはその顔触れにとどめを刺されそうになるが辛うじて耐える。


「初めましてアンティア代表(会談の際の敬称をどうすればいいかと事前協議の際に代表で落ち着いた)、日本国内閣総理大臣を任されている伊東 久文です。ようこそ日本へいらっしゃいました。日本国代表として歓迎させてもらいます」

「ありがとうございます。伊東総理、この度の会談を受け入れてもらい深く感謝します」


お互いに言葉を交わし握手をする。もしメディアがこの場に居たらフラッシュの嵐だろうなと思ったり思わなかったり、完全な異世界人的な風貌をしている彼女が完璧な日本語で伊東総理に挨拶している奇妙な光景を葉山は少し離れた所でみていた。

挨拶もそこそこにして会談を始めようと参加者が着席し始める。アンティア側は一人だが日本側は数が多いから総理と官房長官を中心に他に3人ほど大臣が彼女に接し他は後ろで控える形をとっている。どうやらそれぞれが関係する案件ごとに交代するみたいだな。

全員が着席し終わりまずは一番重要視されていたアンティアの事をはじめとした諸々の説明のために彼女が話し始める。



目の前に座っている日本の方々を見て私は気を引き締めた。余りにも長い時を経てやっと訪れたチャンスなのだから失敗する訳にはいかない、今回伝えることは全て母機であるシステムに記録されているから何も難しい事ではないはずだ。


「それでは初めに向こうでも聞かれていた私に関しての情報と私の国家であったものについて話させてもらいます」


始めにそう言って話を切り出す。今回私がこの会談で話す事を大まかに纏めてみたら・・・

一、生体管制機構及びその付属施設について

二、上記を作り出した私の故国について

三、故国が属する文明圏の説明と当時の世界に関する情報

四、今後の交流を見据えた諸々の相談

と言ったところかな?

そう言う訳で早速説明を始めましょうか、まずは一の事についてですけどこれは確か最初に葉山さん達と出会った時から散々聞かれていたことだったはず、今回の会談で再び上がったという事はまだ不明なところでもあるのだろうことは明白、ここは自分自身の事を交えて説明した方がいいだろう。

そもそも生体管制機構と大げさな事を言っているけど単純に対象から測定した脳波の数値をもとに演算処理しているだけなんだけどなぁ・・・ただ測定された対象の肉体が死ぬうえに精神年齢が測定時に固定されるというデメリットがあるけどね。他文明圏の種族によると魂の移植とかなんとか言っていたけど魂という物質の有無なんてこっちの文明圏では見つけてないからこれは別に話さなくてもいいか。

そう言う訳で私も16の時にその対象として選定されて測定処置を受けた事を話すと日本側が驚いていた。理由を聞くとどうやら日本の法では16歳というのは未成年に入るかららしいけどこっちだと肉体年齢で成人が決められているのか、ちょっとこれは後々問題になりそうね。

私がつくられる切っ掛けとなった施設については以前言ったこととあまり変わらなかった。少し詳しく情報の類に建設当時の環境・生物情報も含まれていることとある程度の再現技術も内包されていることを付け加えといた。

そのまま二について話したいけどさてどうしたものか、正直国名がミト・カテル国という事以外はあまり言うことは無いのだけれど・・・あ、国家領域が主に海洋という事は言っておくべきかしら?見たところ日本人の方は陸棲種族のようだし・・・


「話を遮るようで申し訳ないのですが出来れば種族についても教えてもらえませんか?」


他に何を話すべきか悩んでいると総理の隣に座っている人からお願いされる。確か大臣の一人だったっけ?それより種族か~三の内容にも掛かるから丁度いいかもしれない。


「わかりました。ただ伝説や伝承などの話も交えますから長くなるのでそこはご理解くださいね?まず私たちミーホウ族も属するカテル・ルルオ文明圏の起こりは・・・」


そのまま今では崩壊した己の種族と文明圏の事を話し始める。



遥か昔、光の恩恵を受けし地では既に数多の命の中から学持つ者が生まれ、地の者として歴史を紡いでいた頃、海はまだ闇と学持たぬ者しかおられなかった。

地の者たち思う、未だ闇に覆われし海に光を与えん、だがしかし海は地より広くそして深すぎた。長き時を掛け地の者は光を送り届けるが共に地のことわりを持ち込む。

海は“地には地、海には海のことわり有り、両者は共にあるが互いに犯すべからずものぞ”と激しく怒り狂いて地の者を追い出し、次の時には生無き所へと流し落としていた。

それでも海の怒りは収まらず、しまいには地と共に消えようとした。

地の者たちはある者はその命を散らし、又ある者は光の導きにより地を去り、更に他の者は地と海の狭間の揺らぎの中へと消えていった。

それでも残りし者の中に一人、海へと許しを請う者あって問いた。何すれば我らを許し給うか、海は答えず荒れ狂うばかりだったがそれでもひたすら問い続ける。ようやくその声が届き海より“海の理に服する学持つ者を育て、その命を捧げよ”と答えを送られる。

問いし者はその言葉を信じて泳ぎ司る物、深き闇司る者や底に在りし者を育て上げる。そしてそれぞれが流・圧・氣を海の理の下で造り直し怒りを鎮める。

こうして再び地と海に平穏が戻った後、問いし者は約束を果たすために海の学持つ者の後を追いて少しばかりの光と共に海へと消える。問いし者は広き海を流れ続け海の者に尽くし続けいつしか流浪の王となる。

流浪の王は己の持っていた光を海の者に預けて海の理の下で光を広げることに成功する。

これを称えし海の者は己らの光に「海照らす流浪の王」と名付ける。これすなわち後の海に在りし文明圏「カテル・ルルオ」となり以後我らの領域となった。

今でははるか昔の出来事である。



「とまぁこれが私の故国が属するカテル・ルルオ文明圏の成り立ちです。そしてこの話に出てきた泳ぎ司る者であり流を造りし者の末裔が我々ミーホウ族であるわけです。一先ず種族の説明としてはこれで以上ですが何か質問ありますか?」

「はぁ・・・」


彼女の話が終わり問われるが話を聞いていた日本の者はそのあまりにも壮大すぎる話に言葉を失っていた。まぁそりゃそうなるわなとアンティアは考えながら向こう側の反応を待って数分、一人の大臣からようやく言葉を返される。


「それはどのくらい昔の事柄なのでしょうか?」

「そうですね・・・私がこの姿になった時を基準にしてざっと十億年ほど昔でしょうか?今から数えると六兆と四千六百三十億・・・になるのかなぁ?」


微妙に自信無さげに答える。それでも想像を絶する時間の長さに再び言葉を失う、話自体は伝説の域を出ないがそれを差し引いてもそういう類の伝説が出来るくらい程の国だという事は確かである。

もうなんというか格の違いを実感させられる。


「それでですがアンティア代表、先ほどの神話・・・ではなかった伝説の話の中にあなたの種族とは違う者たちの存在が聞き受けられましたがその末裔となりますのかな?それに準ずる種族も当時のこの世界にはいたのですか?いたとしてその種族もあなたの国のように何か残している可能性はあるのでしょうか」


さっきから思案顔になっていた総理がそう問いかける。何が言いたいのかというと今後活動するにあたって目標の一つに古代文明遺跡の探索を追加するかどうかの判断をしたいのだろう、すでにアンティアがいた施設のみを見ても日本にとってはある意味宝の山であるため、もし他にもそういうものが存在するなら今後の事を考えても可能な限り手札として取っておきたいという事だろう。

やっていることは墓荒し紛いであることはこの際眼をつぶる。


「確かに伊東総理のおっしゃる通りカテル・ルルオ文明圏にはほかに二種族が属しており当時も健在でした。ですが我々がやっていたことその二種族がやっているとは断言できませんし、それにたとえやっていたとしてもそれがどこにあるのかはわかりません。蛇足となりますが私たちの文明圏の領域はこの星だけでもおおよそ7割に達していましたので簡単には見つからないというのが私の意見ですわ」


総理の質問に丁寧に答える。この時ある事実を言ったのだが日本陣営は気づかなかったためそれはまたあとの話となる。

さて文明圏の説明も粗方終えたので三のもう片方の当時の世界の事について移ることにしましょう。

当時の事なんか知ってどうしたいのかは分からないけど今後の活動のために必要とのことなので初めにこの星の大雑把な地理から話始める。

陸と海の比率はおおよそ4:6と海が多くそれが4つの海洋に分かれていた。陸も5つの大陸と大小さまざまな島嶼群によって構成され陸を活動域とする種族は大陸を生活圏にしており海と島嶼群を海の種族が領域としていた他は空に生活圏を持つ種族も存在していてそれぞれが独自の文明発達を果たしていた。

そして数ある文明の内とりわけ突出した三つが文明圏として成り立ちました。それぞれが全く違う文明体系を持っておりお互い多少の交流はあったものの基本的に相互不干渉を貫いていました。


「たまにいざこざはありましたがそれでも安定した世界情勢でしたよ?まぁお互いの文明の科学技術が相容れなかったことも理由ですが・・・」

「科学技術が相容れないというのがよくわからないのですがそこまでお互いの実力がかけ離れていたのですか?」

「いえ、そういう訳ではないのですけど、どういえばいいのか分からないのですけどどうも世界観に差異があるというかそんな感じです」


そんな感じで言葉を濁す。実際問題マジで住んでいる世界が違うんじゃないのかってくらい双方の思想や学問が異なり過ぎて距離を置いていたというのが本当の所で正直なところどう説明すればいいのかが分からない。

色々考えていて気付かなかったけどよく見たら日本の方でもないやら話し合っているみたい、何を話しているのかな?



アンティアがどう説明したものかと考えている間、彼女の話を聞いていた日本陣営は伊東総理の呼びかけで今彼の傍に集まり小声で何やら話し合っていた。


「それでこれまで色々と話をしてもらった訳であるが率直に言ってどう思うかね?」


伊東総理の問いかけに閣僚たちが互いに顔を見合わせ口々に話す。

それぞれ思うところがあるのか小声にもかかわらずかなりのざわつきとなっている中で総理は皆の意見がまとまるまで静かに待っている。最初に総理の問いかけに答えたのは文科省の林大臣であった。


「一先ず彼女が話したしんわ・・・んん、伝説がどこまで本当かが気になりますね、話を聞いた感じではどうもこの世界過去に一度滅亡寸前までの何かが起きたという事になります。そこはあまり重要ではありませんが問題はそんな状況下である種の人種の創生を行えるほどの技術力を持っていたという事になりますからこの辺りは事実関係の精査が必要でしょう」

「伝説の検証が必要なほどのものか?確かに技術の解析という点なら必要かもしれないがあくまでその対象は彼女の時代の物で伝説の時代の物ではないと思うが」


林大臣の言葉に懐疑的な反応を示したのは杉本 義正財務大臣であった。

彼の疑問に答えるように林大臣が自分の考えを話し始める。まず彼が目につけたのはカテル・ルルオ文明圏に属する種族が誕生する切掛けとなった災いの原因である。彼女の話を信じるのなら地の理を海にそのまま持ってきたことが原因だという結論に行きつく。

彼はこれを何らかの環境問題を表していると思っているようで地の者と呼ばれる存在が海洋へと進出した結果引き起こされたものでそれを修復するために彼女の祖先が創られたという解釈をしているようだ。


「それに文明の起こりを示す言葉もありましたがそれと同時に文明の分岐と隔絶の説明とも考えられます。これは先ほどアンティア代表が仰っていましたが他の文明圏との乖離の理由付けとも考えられるでしょう。どうもこの話、自分はどちらかというと伝説より歴史的記録の面が強く感じられます」


そう言って林大臣は話を締めくくる。そう言われれば確かにやけにリアリティーがあるのに加え、現に目の前に伝説の出来事を可能にしそうな技術力を持っていた種族の証人がいる事からも一考してみる価値はあるかもしれない。


「しかしそうなるとその災いの原因となった地の理というのは何なのでしょうねぇ、陸と海という違いはあるとはいえ同じ惑星下でそこまで変わるとは思えませんが・・・」


山田法務大臣が言葉を漏らすがそれに反応して白田農林大臣が答える。


「そこは理というよりもどちらかというと人の理解の範疇外で引き起こされた弊害みたいなものじゃねえか?転移する前の世界でもそんな事はしょっちゅうあったろ」


地球温暖化とかシェールガス採掘による地盤の脆弱化とかと白田大臣が指を折りながら例に挙げる。

彼が例に挙げたのはどれもはじめから分かっていた問題ではなくどれも人が長い時を重ねながら知識を高めていった結果によって分かったものばかりである。


「あのう・・・一つよろしいでしょうか?」


白田大臣の言葉を聞きあり得るかもしれないという者と異を唱える者で再び議論が沸き起こる最中、厚生労働省の遠崎 久子大臣がそっと手を上げて話を遮る。


「どうかしたかね?遠崎大臣」

「いや先ほどからアンティア代表が何か言いたそうにこちらを見つめているのですけど、お話はいったん終了してそろそろ会談に戻った方が・・・」

「・・・あ」


彼女の言葉で今が会談の途中だったことをようやく思い出す。アンティア代表の方を向いてみると彼女は差し出されていた水を飲みながらニコニコしてこちらを待っていた。てか、待ってなんか普通に飲食しているのですがどうなっているの?


「失礼しました。アンティア代表、我々には色々と刺激の強い話ばっかりで少しばかり混乱していたものでして」

「いえいえ、お気になさらなくても結構ですよ、実を言うとこういう反応は一回あったことがあるのでたいしたことはありません」


そう言いながら彼女の後ろで待機していた葉山三尉を見る。見られている彼は心当たりがあるのだろう若干目を逸らしながら黙っている。

そう言う訳で会談を再開して最後の話題に移る。


「事前の協議によると何やらこちらに頼みたいことがあるそうですがその内容という事でよろしいですかな?」

「その通りですわ、伊東総理、この話は私がつくられた理由に直結する重要なものですのでできることなら了承してほしいものです」


そう前置きを言った後に一度言葉を切り彼女は日本の参加者を見わたす。


「私はミト・カテル国、ミーホウ族代表として貴国に我が種族の血統復活のための支援を要請させてもらいます」


伊東総理をまっすぐ見つめながら彼女は一字一句はっきりとそう宣言した。

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