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FILE.15

4月7日


高度10000m近くを飛行しているC-2の貨物室内で葉山三等陸尉は自身が率いていた林三曹含む1班の者たちと一緒に揺られながら日本に向かっていた。2班と3班は当機に後ろにいる別の2機にそれぞれ乗り合わせている。

長い事揺られっぱなしで手持無沙汰だった葉山は体を起こし自分の左袖を捲りその下に隠れていたものを見つめる。ブレスレットのような形の装飾品で色は灰色、水晶のようなものがつけられているのが特徴的だ。明らかに彼が身につけるにはおかしなものだがこれはわけあってアンティアからほぼ強制的に渡され着けられたものだ。

その時の事を思い出し何とも言えぬ気持ちで再びそれを袖の下に隠して横になる。あれは丁度日本に帰る日が来て未確定地点から離れる時のことだ。



「各員、個人装備は持ったか?そろそろ迎えのヘリが来るから急げよ」


未確定地点の調査にやってきて3週間近く滞在した葉山達だったがようやくその任も一定の成果を得て一時的な帰国を許可された今日、彼らの活動拠点では撤退に向けての準備で大忙しであった。個人装備の点検は勿論のこと後を引き継ぐ部隊の足として残す車輌の整備に各種報告書の整理と年末の大掃除かとツッコミが来そうな慌ただしさだ。

そんな大忙しの隊を指揮している葉山に話しかけて来るものが一人、瑠璃色の瞳、透明な髪に白肌と特徴的なひらひら衣装姿、生体管制機構であるアンティアであった。

彼女は葉山に少し話が出来ないかと聞いてくる。どうやら日本に渡る前にやっておきたいことがあるそうで葉山の袖を引っ張る。彼女が日本に渡るまでの相手は葉山に一任されているため林三曹に後を任せて彼女に連れていかれていく、彼女に連れられて着いたところは最初に彼女と出会った地下室で整備したのか最初は濁っていた水槽群は中身が入れ替えられ今では綺麗な液体で満たされており機械関係も稼働音を響かせている。

最初の時とは見違える光景だが未だにこの部屋が何なのかは分からずにいた。アンティアに聞いてもいずれ説明しますとそれ以上のことは教えてくれず依然謎に包まれている部屋で葉山は姿を消した彼女を一人待たされていた。少し待っていてといわれて既に10分ぐらい過ぎている気がするが彼女は戻ってくる気配がない。

どうしたものかと考えていると“カチャリ”という音と共に左手首に何やら冷たいものを感じる。慌てて手首を見るとそこには灰色のブレスレットがつけられていた。


「ここのシステムに直接繋げたデヴァイスのようなものです。呼んでくれればそれを通して私が行きますので会談の時はお願いします。一応惑星内であればどこにいても問題ないはずなので安心してください」


どうにかしてブレスレットを外そうとしている葉山に対してアンティアが説明する。ついでにシステムからの許可がないと取り外せない事教えるとなんじゃそりゃとツッコミを入れてしまう。


「え?直接行くわけではないのですか・・・いや、それよりなぜそんなものを自分に?」

「そりゃそうでしょ、この姿だってここにいる分には維持も簡単ですけど距離が離れると大変ですし・・・葉山さんを選んだのはまぁ・・・たまたまです」


あっけからんと答える彼女になんか色々悟りそうになる。たまたまって普通こんな重要なものをたまたまで選ぶかなぁ、それにせめて一言言ってからやってほしかった。

その事を話すと話したところで了承してくれるか疑問だったのでと言われる始末、もうこれそろそろ怒っていいかな?異世界に来てからというものの次から次へと問題が起こりすぎて限界なのですよ、そう思ったけど今この人一応国賓になるし不味いかと思わなくもない。

色々考えていた葉山だったが気が付くとアンティアの姿が再び消えていることに気付くどうやら用事が終わって地上に戻ったようだ、自分で呼んでおいて置いて行くか普通・・・ここに居ても仕方ないので地上に戻ると上の方も準備が終わったのか整列して待っている部下たちが見えたのでそのまま合流する。人によってはここで訓示の一つでも言うのだろうが面倒なのでこの後の予定を再度確認して解散させる。

もう少ししたらヘリが来るはずだなと考えていると遠くからローター音が聞えてきた。噂をすればなんとやらと着陸を始める2機のチヌーク(空自仕様)を見ながら思う。

着陸したチヌークの後部ハッチが開き引き継ぎの隊員たちに続いて隊員達とは違う格好をした人物が三人降りてきたと思ったら更に続いてブリキ缶のようなロボットが幾つか出て来た。

なんじゃありゃ、と葉山が疑問に思っている傍ら対象の一人である八洲 日御子はサポート用のロボットに荷物を運び出させながら長時間のフライトで固まった身体をほぐしていた。隣では助手である久方 修が目の前に広がる赤い風景を見わたしているが興奮しているのか正直なところうざい。


「お~、日御子ちゃん異世界だよ、異世界!いや~生きている間にこんな経験が出来るなんて感動だな~」

「はいはい、それ駐屯地でも聞いたわよ、修君、それより暇をしているなら荷物の運び出しやってくれないかしら?あの子たちだけだと日が暮れるわ」


興奮している久方助手に対して八洲博士は随分と冷めているようだ、淡白な言い方で久方助手に命令している。対する彼もそんな言い方にいやな顔もせず後ろで作業しているロボットたちの手伝いをしに彼女の下を離れる。真逆な性格の二人だが仲は悪くないようだなと未だ誰かも分からぬ二人を遠目で見ていた葉山が思う。

そんな彼の下にいつの間にか林三曹がやってきており葉山に報告を兼ねて説明をする。説明を聞いて文部から専門家が派遣されてくることを思い出し色々と合点が行った。そういう事なら挨拶の一つぐらいしておかないと失礼かなと思い林三曹を連れて歩いていく。


「初めまして今回の調査を担当していた葉山三等陸尉です。こちらは副隊長兼班長の林三曹です」

「ん?あー今回の本格調査で派遣された文部科学省緊急特務調査課の八洲 日御子です。それでこっちが・・・」

「同じく文部科学省緊急特務調査課の久方 修です。ひみこちゃ・・・じゃなく八洲博士の助手をさせてもらっています」


お互い名乗り合って握手を交わす。八洲博士もその助手も見た目結構若く恐らくまだ20代程度だろうと30を少し過ぎた葉山が考察する。それで彼がずっと気になっていた二人が乗ってきたヘリの近くで働いているロボットについても紹介された。八洲博士はどうやら機械工学も修めているようで自作の自律機械であるそうだ、ちなみに数は7台でそれぞれの名前はペイントされている色にちなんでつけられているとのこと。

そして後に続くように自己紹介をするものがもう一人いた。


「お初にお目にかかる。文部科学省緊急特務調査課の臨時顧問として参りました八意やごころ 智金としかねと申します」


そう己の偽名を名乗ったオモイカネ様がスーツを着た初老のお爺さん姿でお辞儀をする。

文部の役人がつくったこの偽名だがオモイカネ様も意外に気に入っているようである。オモイカネ様の別名である八意思金神から取って「思」の部分を智慧の「智」に入れ替えたのが大きいだろう、特に疑問を抱かず挨拶を済ませる葉山達であったがそこに突然アンティアが姿を現す。また自分の目の前に現れられた葉山は声を出して驚くが次の瞬間にはアンティア自身が悲鳴を上げることになっていた。理由は八洲博士が彼女を見たとたん彼女の双肩をガシッと掴み己の知的好奇心に従いその体を撫で繰り回したからだ。


「これが例の生体管制機構ね、おじいちゃんから説明は受けていたけど思ったより質感があるわね、これは原子・・・とは違うわね、たぶんそれとは違うもの・・・光子の類かしら?けどここまで実体化させるのにどんな凝集技術を・・・」

「ちょ!?あなた一体誰ですか!?わわ、どこを触って・・・ヒャ!!」


突如繰り広げられる容赦ない八洲博士の追求にアンティアが声を震わせる。もし八洲博士が女性でなくアンティアが肉体を持っていたらセクハラで訴えられているだろうとこの状況を見たもの全員が思うはずである。

目のやり場に困る光景に思わず視線を逸らす周囲の男性陣、だが視覚を誤魔化しても聴覚までは誤魔化せないようでアンティアの悲鳴が耳に入り続ける。正直彼女の声だけでも精神衛生上結構来るものがあり林三曹に至っては適当に理由をつけて早々に退避、葉山はというと感覚も備わっているのだなとしょうもない事を考えていた。

さすがにこのままだとアンティアが可哀そうなので助手である久方に止めろと視線で訴えるが訴えられた本人は肩をすくめるだけで何もしない。こうなった彼女は止められないと暗に言っているようである。

なら仕方ないと放っておくことを即決して出発のための準備で場を離れる。そのあとも八洲博士の追求は続いていて出発のためにヘリに乗り込むときにはもはや声も出せずにぐったりしてなすがままにされているアンティアを見て大丈夫なのか?と心配すると同時に疲労というものもあるのかと生体管制機構というハイテクノロジーにまたまた驚くのであった。



そんなこともあり駐屯地に着いた後そのままC-2に乗り込んで2時間立とうとした時、目的地に着いたのだろう機体はその高度を下げ始める。雲の潜り抜け眼下には赤い大地ではなく日本の風景が広がっていた。そして葉山達が乗っている三機のC-2は自分たちの基地である入間基地の地にその巨体を着陸させ停止する。

機から降りた葉山はそのあと向かえというか伝令に来た上官の言葉を部下たちと聞いた後一人上官に連れられて行く、向かう先にはスーツを身に着けたいかにも役人風情の人たちが構えていた。どうやら外務省(実際は外務庁だが葉山はこの時点では知らなかった)の者のようで国賓を迎えに来たようであるがその肝心な人物は諸々の理由の為残念ながらいない。そのことは日ノ出駐屯地に着いた時に報告していたはずだがどうやら現場までは届かなかったようである。

葉山がそのことを説明すると状況を理解した役人たちはいったん集まって話し合った後、葉山の肩をポンと叩いて「お前会談に出席な」と無駄にいい笑顔で告げて来る。確かに会談相手を仲介するデヴァイスが葉山に取り付けられている以上会談への出席は必然だが一自衛官でしかない葉山にとっては自国の首脳陣が居る場に赴くなど恐れ多いものである。色々異議を唱えたいところであるが自身の置かれた状況を考えると唱えるだけ無駄だろうと悟る。

既に出席の方針で話を進めていく役人たち見ながら葉山は自分の左腕につけられたブレスレットを改めて恨めしく思う、結局彼が自由になったのはそれから2時間後でその間に翌日の会談についての説明を受けさせられることになり疲れはてていた。

会談当日は駐屯地まで迎えに来てくれるという事でそれまでは自由という事だがさてどうしたものかと考える。一応忘れてはならないのが葉山達はただ日本に戻ったわけでなく休暇を与えられて戻ってきた訳である。このまま駐屯地に戻って留まるというのももったいないと思い駐屯地で官品を返して自宅に戻ることにした。

葉山は独身ではあるが寮住まいではなく駐屯地から少し離れた安いアパートを借りていた。理由は色々あるが敢えて言うなら寮の建て替えが影響して部屋の数が足りなくなって追い出されたからだ、特に比較的経済的余裕の有る奴や家庭を持っているか持つ予定が分かっている者が優先的に締め出され葉山は前者に当たる。

自宅で動きやすい服に着替え再び外へと出かける。気分転換目的で散歩しようと思ったが数分後には後悔し始めた。いつもなら平日でも人混みであふれていた街は今ではその人数も数えられる程度しかおらず店も全くと言っていいほど開いてない。長い事日本を離れていて気付かなかったが日本の状況は相当悪化しているようだと道端で破壊されて中身を根こそぎ盗まれた自動販売機を見ながら考える。

2か月、たったの2か月で国はこうも変わるのかと思うのと同時に改めて日ノ出で活動している自分たちの重要さを認識したのであった。



「もう何なのよ!この星は!!」


高天原でアマテラス様の声が響き渡る。日本が転移してから少しでも人間のために役に立てそうなことを考えた結果、この惑星の簡単な捜査を命じていたのであったが今ではその調査報告の内容に頭を抱えていた。

惑星の大きさと質量はほぼ地球と同じであり衛生の数は2つ確認した他、更にその周囲を公転している天体を確認している。そこまではまだいい恒星との距離が2auと前の世界の2倍というのも恒星の大きさがでかいからまだ良いとする。けど惑星の元素組成が酸素と水素合わせて6割、ケイ素3割というのはどう意味なの?他の資源は?それよりあの爆発事故ってこの元素組成が原因じゃないかしら?

休みなくツッコミを続けているアマテラス様、遠くから見ると勉強のし過ぎで頭がパンクした受験生のようだ。


「随分と荒れていますねぇ・・・姉上、少し落ち着かれたらどうですか?」

「あ、ツクヨミ、いやこれをみて落ち着ければ苦労しないわよ」


姉の乱心に見かねたツクヨミ様が話しかける。かくいう自分も己の司る物が増えたのでその下見に行ったらそこで面白いものを見つけて戻ってきたがこの様子だと話すのはもう少し後にした方がいいだろうと判断する。

そのまま立っているのも疲れるので腰を下ろして姉の話を聞き続ける。その間にも何柱かの神がアマテラス様の下にやってきたが不機嫌な彼女を見てそそくさとその場を後にしていった。


「まぁこの際姉上の気持ちは置いておいてどうするのですか?確か最初は政府の方に渡すつもりだったのですよね?」

「そうそれなのよ、問題は・・・資源を欲している所にこんな情報渡したらどうなることやら、けど推定とは言えほとんど間違いないから隠すわけにもいかないし」


アマテラス様がそう答える。惑星全体としては1割だけでも日本だけならかなりの資源量となり得るが問題は国の活動領域が合わせて500万km2と惑星全体の1%の範囲でしか動けないという事だ。この範囲内に資源が無ければはっきり言って詰みである。そのこともあって迷っているのだ。


「まぁ最悪資源が近くになかったとしても姉上は太陽を司っているのですから核融合とかなんなりして工面してあげればよろしいではないですか」

「私に隕石の雨を降らせろと?そんなことしたら本気で滅ぶわよ」


ツクヨミ様の提案にまたまたツッコム、確かに恒星というのは水素を融合してヘリウムに変え、ヘリウムから更に重い元素を作り出しているわけで不可能ではないだろう、生まれたばかりの宇宙は水素しかなくそれがどんどん融合して様々な元素を作り出しているほど宇宙では核融合というのはそう珍しいものではないがそれでも隕石の雨は勘弁である。

転移して2か月、人神共に様々な事があった時間だったがようやく新たな動きが各方面でありそうな気配がしてきた日本だった。

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