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3月31日 総理公邸
朝日が昇り、鳥が囀り始める時間に久しぶりに熟睡することができ目のクマが取れた伊東総理が妻の入れてくれたコーヒー(妻の物忘れで棚の肥やしになっていた)を飲みながら今日の予定を確認している。
予定を確認し終えコーヒーのカップをテーブルにおこうとした時、ふと傍にあった新聞が目にとまった。新聞社は国内で主要な新聞の一つである明後日新聞だ、一面には昨日の道州制に関する記事でこう書いてあった。
【政府がわずか1日で道州制導入、国を照らす希望か更なる格差への種か!?】
先日の国会にて日本の国体に大転換を起こす法案が可決された。道州制の導入である。本法案により日本は都府県に加え十の道によって行政を統括することになる(詳しい内訳は下記にて記す)。
法案の可決を受けて田中官房長は「今回の可決によって各都道府県からの情報で飽和状態となっていた省庁が統合された情報によって可及かつ適切な手を打てるようになり逼迫している日本情勢への改善につながるだろう」と述べており、今後の政策の迅速化に期待を寄せている。確かに転移後の日本は類まれに見ない課題の波にさらされている。それに相対する政府もまた己の責務を果たすため日々尽くしているがその働きは正直言って後手に次ぐ後手で優秀とは言えずその遅れを挽回するための今回の道州制なのだろう、だがちょっと待ってほしい確かに逼迫している昨今の情勢では政策の迅速化は急がれるだろう、木を見て森を見ないわけにはいかないのだから政府には大局を見据えた働きに期待はする。だが彼らが相手しているのは何を言おう我々国民であり人間である。けっして物言わず動かない木ではないのだという事を忘れてはならない。
政府は道州制によって包括された政策を実施できると説明しているがそれはあくまで下のものが合わせ精査した情報を元に決定しているに過ぎない、そして下に行けば行くほどその情報とのズレが生じ実情とはかけ離れたものとなるだろうそれは新たな格差を生み出しいずれ大きな災いを引き起こしてしまうかもしれない。その危険性を政府は理解しているのか?恐らく理解はしているのだろうそれは国会答弁においても明らかである。しかしその対応は万全かと言えば稚拙としか受け止められない本法案の審議時間は合わせて24時間であり1日分の時間でこれほどの大きな事案を決めてしまったのである。同じく国家の行く末に多大な影響を与えるといわれていた安保法案ですら100時間にも達する期間を要したのだ、このことは野党側の幹部陣からも政府に批判が上がっている。
この様に今回の可決は政府が思っている以上の爆弾を抱える危険性を兼ね備えているかもしれない、せめて今を乗り越えるまでの間はそれが可能性に留まり爆発しない事を願うばかりである。
道州制における各都府県の所属
北洋道
千島県、樺太府
北海道
宗谷県、オホーツク県、釧路県、十勝県、上川県、空知県、胆振県、後志県、渡島県
海山道
青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県
東海道
東京都、茨城県、埼玉県、千葉県、神奈川県、山梨県、静岡県、愛知県、三重県
東洋道
万島県(伊豆諸島、小笠原諸島、海鳥列島を統合)
西洋道
新潟県、栃木県、群馬県、長野県、富山県、石川県、岐阜県、福井県
京央道
京都府、大阪府、滋賀県、奈良県、和歌山県、兵庫県
陰陽道
鳥取県、岡山県、島根県、広島県、山口県
南海道
香川県、徳島県、高知県、愛媛県
西海道
福岡県、大分県、長崎県、佐賀県、熊本県、宮崎県、鹿児島県
南洋道
沖縄県
・・・なんだろう、この言いたいことは分かるが言葉足らずで言いきれていない感を感じる記事だ。それよりこの記事に使われている採決後の野党議員がラップを歌っている写真、もっと他のものはなかったのだろうか?流石にこれは本人恥ずかしいだろ・・・
そう思いながら新聞を再びテーブルに置く、まぁ言っていることはあながち間違っていないのがそのことはこっちとしてもとうに認識済みでありそのまま放っておくつもりはないが果たして今の状況で手を打てるかどうか・・・野党からの協力が得られれば幾分かは余裕ができるがあの状況では難しいだろう。総理の頭に浮かんだのは昨日の与野党討論での出来事だ、討論とは言ったがまともな質問をしてきたのはどこの党にも属していない無所属議員ぐらいで党を組んでいるものからは質問の態をなしていないか見当はずれな質問ばかり、あれでは協力を持ち掛けるのも憚れる。
「やれやれ、頼れるものが少ないと本当に苦労させられる・・・」
丁度秘書官が迎えに来たので身支度をして車に乗り込む、今日の予定は北方での油田視察に復興省との会議、総務省と例の会談についての調整と盛りだくさんである。今度の休息はいつになることやら既に気が滅入りそうな総理である。
同時刻 未確定地点調査隊
「さっき補給に来た部隊の人から会談の件で報告が来ました。政府の方でもぜひお願いしたとのことですよ、アンティアさん」
陽の光のない地下室で葉山三尉が目の前で座り込んでいるホログラム体の女性にそう話しかける。相手のアンティアも葉山の話を聞いて嬉しそうに笑顔になる。あのチートロボットの後、まさか自衛隊の兵器が聞かなかったことを知った彼女はというとそれはもう大変慌てた様子で謝罪を繰り返していたのと同時にそんな中で一機とはいえ倒すことに成功した葉山に興味を持ったようでことあるごとに彼に交流を図ってきていた。そんな二人というより一方的なやり取りを見ていた者からある種の嫉妬の眼を向けられて気が気でない葉山であったがその交流が功を奏して今回の会談についての相談を持ち掛けられたので上層部のほうではよくやったと知らずのうちに株が上がっているのだとか、人生何がきっかけで変わるのか分かったものではない。
「葉山さんそれ本当ですか!ありがとうございます。それで会談の日程は?場所はどこでやるのですか、やはりこちらから出向いた方がよろしいでしょうか?あと相手方がどのようなお方なのかも・・・」
「落ち着いてください、詳細についてはこの書類にある程度載っているのでご確認ください。その他不明な点があればその都度問い合わせますので一先ずはそれでお願いします」
興奮気味な彼女を見て葉山が手に持っていた書類を渡して落ち着かせる。本当にこの方プログラムなのだろうか、あまりにも人間味があり過ぎるだが書類を受け取り落ち着いたのか今度は熱心に読み込んでいる。てか、物持てるのかと今更ながら驚くが今のうちに退散しようと葉山が外に出るのと同時に林三曹が現れる。
「あ、隊長ここに居ましたか探しましたよ、ちょっと報告が」
「うん?どうした、何か見つけたか」
そう聞く葉山だったが別に何か見つけた訳ではないと否定される。じゃあなんだと思ったらどうやらさっきの補給しに来た部隊から追加の連絡で新たな人員の追加が来るらしいというか多分こっちに向かっていると話を聞いたとのこと、確か葉山の隊は今回の会談の際に要人の護送と同時に休暇で本土に帰れることになっていたからそのことかなと考えていたがどうも話を聞いた限りそういう訳ではないらしいというか遠くから聞えてきた声を耳にした瞬間、葉山はその意味を理解した。
「葉山殿、久しぶりでありますな」
「げ、タケミカ隊員何故ここに!?駐屯地にいるはずでは」
その者をみて葉山が狼狽する。無理もない何しろ駐屯地で留守番をさせていた者が300kmも離れているこの場所にいるのだからしない方がおかしい。質問を受けたタケミカ隊員もといタケミカヅチ様はさも普通に走ってきたと答えるものだから相変わらずの人外っぷりに反応に困る。いや確かに人外ではあるがそのことを葉山達は知らないおまけに補給部隊から追加で報告が来たという事は恐らくまた勝手に駐屯地を抜け出してきたのだろう今頃向こうでも頭を痛めているだろう。
「ふむ、ここが今話題になっている所であるか、なかなか趣あるところではないか」
「はぁ、そうですか、それよりこっちはあなたの件でもう頭が痛いですよ・・・」
「葉山さん、少し質問したいのですがよろしいですか?」
「ドゥワッ、ヒャ?!?」
毎度のことながら我が道をゆくタケミカヅチ様に頭を痛ませている葉山の目の前にいきなりアンティアが姿を現して奇怪な声を上げる。お化け屋敷ではないのだからそういう登場の仕方はやめてくれ心臓に悪いわ!思わず文句を言ってしまったがアンティアもすまなさそうに軽く謝って話を続ける。どうやら会談予定の政府の役職で復興省というのが分からなかったようだ、葉山もよく知っているわけではないので大雑把に説明する。
「そういう訳で災害の発生が増加傾向であった日本でいちいち対策本部を立ち上げているのも面倒だからこの際それを担当するものを省として作ってしまおうという事でできたのがこれだな」
「は~なるほど日本という国は随分と国土が活発なのですね、なるほど分かりました。ありがとうございます・・・ん?」
「む?・・・葉山殿、どうやら立て込んでいるそうであるので私はいったんこれで失礼する」
不思議そうに見ていたアンティアの視線に気づいたのかそう言ってタケミカヅチ様がその場を後にする。いつもと違う振舞いで不思議に思っていた葉山にアンティアがあの者は人間か?と聞いてきたので色々常識外れな方だがそうだと答える。むしろ人以外の存在が自衛隊に入隊するなど考えられないのだが彼女はどうも納得していない様子、何が気になるのか疑問に思い今度は葉山が彼女に聞いてみる。
「ここに整備されているアサンセ・クパンの反応の仕方が変わっていたので疑問に思っただけですのでそこまで気にしないでください。あ、それより葉山さんそろそろ昼食の時間ではすよね、私もご一緒にしても?」
「アサなんだって?え、それより食事できるのですか?」
「まさか、ただ皆さんとも交流しといた方がいいかなと思いまして
いきなり訳の分からない単語が出てきて困惑する。おまけに食事を一緒にしても良いかまで聞いてくる。どう答えてよいか考えている間に葉山を置いて先に行こうとしているアンティアを慌てて追いかける。なんかここにきて悩みの種が二つに増えた気しかしないのだがどうしたものかと頭を悩ませる葉山であった。