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FILE.10

葉山達は未確定地点もといXポイントの調査を始めて早くも数日が経過しようとしていた。その間に発見したものに関する情報は事細かに向こうに報告して本土でも解析などが始まるころだろう、とは言え文書や写真だけでは得られるものは少ないだろうし専門家の派遣も行われることになるだろうがそれも国内の事情により当分先になる。それで今葉山達が何をしているかというと依然彼の部下が見つけた地下室の調査をしていた。ドーム内の街の探索がひと段落ついたのでようやくという感じだがそれでも地下から感じる他とは違う空気を考えればそれも仕方ないだろう、そういう訳で暗闇に包まれ明かりがないのにはっきりと内部の状況が分かる現象を未だに不思議に思いながら葉山三等陸尉は林三曹、1班の隊員達と共に小銃を構えながら地下室の奥へと進んでいく、2班は地下への入り口、3班は野営地で待機中だ。


「止まれ」


葉山が短く他の隊員に命令する。どうやら行き止まりに当たったようだ、目の前には切れ目のない滑らかな壁が立ち塞いでいる。ここに来るまでにいくつか部屋があったもののそこにあるものと言えばよくわからない小物がいくつか転がっていただけで資料などは見つからなかった。とはいえ小物一つでもある意味貴重なサンプルなので回収はしといたが・・・


「行き止まりのようですねぇ、構造的にもう少し奥があると思っていましたがどういたしますか?隊長」


葉山の背後から覗き込んだ林三曹がそう問いかける。彼らが今立っている場所は一番近い部屋の扉があるところから大体50mほど進んだ所で奥に何かあってもおかしくない構造なのだが行き止まりになっている。

このまま戻るべきかどうか葉山三尉が考えていると林三曹がおもむろに隣で壁をペタペタ触ったり叩いたりしている。何をしているのか聞くと隠し扉があるか確かめていたらしい、そんな忍者屋敷でもあるまいし、あるわけないだろと笑いながら壁に背を預けようとした時、床が脆くなっていたらしくそのまま踏み抜いて落ちそうになる。慌てて傍の隊員に支えてもらい難を逃れる葉山三尉、自分が落ちそうになった穴を覗き込んでみるとそこには更に地下に続く階段があった。流石異世界、隠し扉は無かったようだが隠し階段はあったようだ。

葉山三尉の手柄?によって出てきた道を進む一行、気分はRPGの勇者御一行と言ったところか、持っているのは剣や盾ではなく銃火器だが・・・、階段を下り終わると今度は少し大きめのホールとでも言うべき場所に出る。そこには高さが3mはあろう水槽のようなものが並んでいた。だが液体のせいか中は澱み濁っており様子が分からない。


「今度は何だ?工場かなんかか?」


並ぶ水槽群を見て葉山三尉がそんな事を話す。水槽のほかにも何に使うのかは見当も付かない謎の機械や薬品っぽい空き瓶と怪しさ満点である。他にも何かないか周りを見わたす葉山だったが自分が何かを踏んでいることに気付く、長方形の板チョコぐらいの大きさのプレートのようなものだった、拾い上げてみるとたぶんこの部屋の看板だろうか何やら文字が刻み込まれている。

〈stii-tubuise:sindei:nkho:tusi〉・・・ダメだ、全く読めないし意味が分からない。近くにいた隊員にも見せてみるが首をかしげるだけだった、どうしたものかと悩んでいるといきなり部屋に叫び声が響く声からして林三曹だろう、今気づいたがいつの間にかそばを離れていたようだ、慌てて一緒にいた隊員たちと声のしたところまで駆けていく丁度部屋の一番奥に林三曹と他数名の姿を確認する。

何があった!と葉山三尉が林たちに声を掛ける。聞かれたうちの一人が前を震える指で指し示す。そこには何といえばいいのだろうか白い靄のようなものが漂っていた。いや靄というのは少し語弊があるかもしれない、強いて言えばよく心霊番組で出て来るオーブのようなものと言った方が近いだろう、それは少しずつ光を増していき何かの形を作り始めていく。そしてやがてそれは人のような形になっていき光の輝きも強くなっていく、これには静かに事態を見守っていた葉山達も顔をしかめて光を遮るように手で目を隠す。そして光が弱くなってもう一度見るとそこには少女と思わしき発光体が居た。思わしきと言ったのはそれが半透明のホログラムのようなものだったからだ、それはひらひらの多い服を纏い、髪は水のように透き通っており肌は陶磁器のように滑らかで白かった。やがてそれの閉じられていた瞼が開かれ二つの綺麗な瑠璃色の瞳が現れる。それは葉山たちを少し観察するように葉山達の周囲を動き周りやがて元いた位置で深くお辞儀をした後に口を開いた。


“tesimameziha/ sitwa han itaise:isenka:ukki non AnthiA /kusiroyo oigne sumsi/”


・・・日本語でおk、その場に居た者全員が思わず心の中で呟く、雰囲気的には挨拶をしてくれているのかもしれないが全く言葉が分からない、今も何か説明らしき話をしているのがしゃべり続けているがやはり理解できない。後ろにいる奴らも何を言っているかの会議が始まる始末だ。


「隊長、これどういたしますか?一先ず報告は確定ですけど・・・」

「いやいや、流石にこれは想定外すぎるっつーの・・・何とかして意思疎通が出来れば幾分かは楽になるのだけれどねぇ・・・」


目の前の少女のようなものの扱いについて質問する林三曹と予想だにしない事が起きて悩む葉山三尉、そりゃ古代文明の遺跡の一つや二つぐらいならまだそういうものもあるわなという感じで済ますことが出来るがそこに人のような何かが出てきておまけにこちらと会話を試みようとしているとなれば状況はがらりと変わる。流石に無視して帰るという訳にもいかないのでなんかしらの交流はしておきたいところではあるがそれも言葉が通じていればの事であり今の状態では挨拶もままならない為そのことも踏まえて対応を話し合う二人、その対象はというとどうやら言葉が通じていない事を悟ったらしく先ほどまで身振り手振りを含めて話をしていたのとは対照的に今はこちらの方を凝視している。そして何かを思いついたのか両手をポンと叩いて一旦その姿を消す。そしてすぐ再びその姿を見せた次の時には・・・


「初めまして私は生体管制機構のアンティア、よろしくお願いします」


話されたのは日本語でした。とまぁそんなバカな事を言っている場合ではなく、唐突に出てきた日本語に驚きを隠せない葉山達一行、それもまだになれない外国人が使うような日本語ではなく普通の日本人と変わりないほどの流暢さである。一体どんな魔法を使ったのやらと疑問に思ったが説明によると葉山達が活動中に話した今までの会話を基に統計学をはじめといたあらゆる学術を駆使して導き出したらしい、何を言っているのかは全く理解できないが・・・

他にもこの施設というよりこの街についても説明してくれた。ここはミト・カテル国という国が持つ街の一つで彼女、アンティアも当時は国民の一人だったらしい、それでこの施設だが簡単にいえばあらゆる情報を保存した図書館と博物館ついでに工場を合わせたようなものでいつか復活の時を夢見て太古の人類が残したものの一つだそうだ。


「そしてそれらの情報を後世の者たちが有効に使用できるように用意されたのが生命体をシステム化して生き証人兼指導役として残された私という訳です。それにしてもヒェン・ジー族がこんな海中にまで来るなんて驚きました。使用言語も随分変化しているようですし一体どれほど時がたったのでしょうか?」

「えっと、どう説明したものかなぁ・・・」


頭を掻きながら言葉を考える葉山、どうやら自分たちの事を他の種族と勘違いしているらしい、一先ず誤解を解くべく自分たちの事をはじめ日本の事、そして自分たちが別の世界のから転移してきた事を大まかに説明する。自分で言っといてなんだがかなり突拍子のない話で信じてくれるかどうか疑問であったが彼女はそんな話を遮ることもせず最後まで聞き遂げたあとそれは災難でしたねぇ・・と言葉をかけてくる。むしろそんな事象が自然発生したことに興味があるのか逆に色々と質問攻めされる。どちらかというとこの世界の状況を説明する方が苦労したほどである。そんな感じでいい感じにお互いの理解が深まり始めた時、林三曹がまた何か見つけたのか呼び寄せられる。向かうと彼は何かの制御機器の前にいた、電源が生きているのか画面は白く光って辺りを照らしている。こういう時自分の知らないところでよくわからない機械を安易に触れるのは避けた方が良い大抵は何かよからぬことが起きる。流石に林三曹もそんな不用意な事はせずに知っていそうな人物、要はアンティアさんに話を聞こうと振り返った時、勢い余って背嚢を機器にぶつけ鈍い音を響かす。慌てて林三曹がどこか壊れていないか確認する。幸い目立った傷は無い様でホッとしたのもつかの間、今度はどこからか何かがやってくる音が聞こえてきた。おまけにその音を聞いて葉山の隣にいたアンティアさんがアッ!と声をあげるものだから周りの者が余計に不安になるわけでして・・・


「あの、アンティアさん、もしかしてこの音の正体知っていたりとかしますか?」

「へ?あ、え~とですね・・・」


不意に聞かれて一瞬慌てた彼女が説明をしようとしたのと同時にそれは現れた。大型犬ほどの大きさ、その体は4本足で支えられ移動は足に着いた車輪で行っている俗にロボットと呼びそうなそれの双肩には銃のような何かがつけられており、顔の部分特に目にあたる所で怪しげに赤く光るモノアイ・・・絶対危険物か何かだ。

突然の登場で話す機会を逃したアンティアさんがようやく説明を始める。どうやらこれは警備システムの一つのようで林三曹のあれで間違って起動してしまったようだ。ついでにこちら側を敵と誤認しているおまけ付きすでに嫌な予感しかしない、彼女にどうにかして解除できないか聞いたところ長い事放置していたせいで若干時間が掛かるとのことので、それまでは自分たちの身を守ることを優先してほしいと言い残してその姿を消す。

さて、どうしたものかと言いながら葉山が再びそれを見る。数は3つでそのどれもが同じ造形をしている。彼女の言葉通りならこれは自分たちにとっては危険な代物でそれ相応の対応が必要となるだろう。


「やっぱ破壊するしかないよなぁ・・・」


考えた末そう結論を出す。この場を離れるという手もあるが彼女と再び合流できるか分からないし、これがどこまでを守備範囲としているか不明な以上後ろに待機させている他の班までも巻き込みかねない。そのことも踏まえて林三曹に射撃許可をだす。正統性に関しては相手が武装のようなものを装備していること、こちらを敵と認識していることに加えてこれの所有者に当たる人物からこちらの安全を優先してよいと言質を取っていることから恐らく大丈夫なはずである。

林三曹を加えた数人の隊員が小銃を相手に向け照準を合わせる。そして葉山の命令により引き金が引かれ短く発砲音が響く、撃ちだされた銃弾はそのまま目標に直撃し甲高い音を出しながら弾かれる相手には傷一つついていない。それならばと次は全員で構えてフルオートで撃ちまくる周囲に薬莢を散らばるがそれでも相手は何事もなかったように体勢を整える。

そんなものを目の当たりにした葉山隊長がすかさず撤退命令を出す。正直に言わせてもらうがこれはとてもではないが手に負えない。100発以上の銃弾を浴びせられても傷も凹みも付かない上に装備している武器からは銃弾ではなく何やらエネルギー兵器のようなものであたりを焦がす奴なんか相手にしたこともないしどう対処すればいいかもわからない。必死に走り続ける一行、途中で持っていた手榴弾を使ってみたが少し動きを止めただけで再び光線で壁などを焦がしながら追ってくる。まだ誰にも当たっていないのが幸いだ、もし一発でも当たれば怪我では済まないだろう。

逃避行の末とある一室に入り込み息を潜める。奴が遠ざかっていく音を聞き一先ず息をつく何とか撒けたようである。他の隊員の安全を確認するとみんな無事のようで口々に己の安全を知らせて来る。安心した葉山はこれからの行動について考え始める。部屋の外にはまだ奴らが徘徊しており出られそうにもないし今ある武器では倒せそうにもない。軽MATの一つぐらい持ち込むべきだったかと今更後悔する。ついでにタケミカ隊員なら何とかしそうだな、てか、なんで肝心な時に居ないんだよと思ったり思わなかったり、それでその肝心なタケミカ隊員はというと駐屯地で昼食を取っていたりする。

動くこともできず静かに待っていた葉山達だったが突然頭上からした音に身構える。何かが這うようなその音は丁度葉山がいる所から少し離れた場所で途絶える。暫しの沈黙、緊張でかいた汗が頬をつたって床に落ちる。それと同時に床をぶち破って奴が一機現れた、そこは普通天井からだろと葉山が言いそうになるがそいつが銃口を向けてきたので慌てて横に跳ぶ、さっきいた所は煙を上げて黒く焦げていた。あぶねぇ、そう思ったのも刹那奴は再び葉山に対して銃口を向けようとする。他の隊員が小銃で牽制するが結果は先ほどと同じで傷もつけられない、今度は前に転がるように葉山は避ける。丁度部屋の角に居たせいでそこにしか避けようがなかったからだがそれにより奴との距離が狭まったのが不味かった。重厚な奴の足が葉山に向けて繰り出される。思わず小銃を盾に使ったがその衝撃で手から離れる、床に転がった小銃は真ん中を基点にして曲がっていた。身を守るものを無くした葉山に奴が体当たりして押し倒す。何とかして抜け出そうとする葉山だが奴もそれを許さず他の隊員も葉山が邪魔で手のだしようもない、攻防を続ける葉山だったがその際奴の腹部に当たるところに拳ほどの幅がある隙間を見つける。思わず残っていた手榴弾の安全ピンを抜きそこにねじ込む、異変を感じたのか一瞬奴も動きを止めたその隙に思いっきり蹴り飛ばし距離を取ることに成功、そして奴の腹部から爆発と共に黒い煙が噴き出す。見た目何ともなさそうな奴に顔を歪ませるがそのあとまるで操り糸が切れた人形のように奴が力なく倒れた、だが喜ぶ暇もなく次の瞬間には天井から追加で2機現れる。おまけに降りてきた場所が葉山の両隣という状況、流石の葉山も死を覚悟したがその時赤く光っていた2機のモノアイが何回か点滅した後消えそのまま動かなくなった。


「ふへ~何とか間に合いました~」


そう言って現れたのはさっきまで姿を消していたアンティアさんだった、どうやら無事システムを停止出来たようである。できればもう少し早くしてほしかったとも思わなくはないが一先ず礼を言う葉山、緊張も解け隊員たちも口々に話している中葉山は曲がった自分の小銃を拾って深いため息をつく、装備品の破損なんか絶対あとでどやされることは確実だ、色々あり過ぎて胃に穴が空きそうな気分になる葉山だった。

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