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FILE.9

3月14日


「いや~空が赤いね~、なんで赤いんだろ?」

「小隊長ふざけないでくださいよ、もう見飽きるぐらい見慣れた光景じゃないですか、自分としてはいい加減青空を拝みたいです~」


高機動車の前部座席でぼやく葉山にドライバーの隊員がツッコム、彼が率いる小隊は今ある任務を受けて日ノ出駐屯地から北西に向けて直進中である。車輌編成は高機動車3両、軽装甲機動車1両、73式中型トラック1両の計5両と隊員31名に対しては若干過剰気味な装備である。


「まぁそう言うなって林三曹、正直言って今回の任務、物が物だけにあんまり気が進まないんだよねぇ・・・なんか嫌な予感しかしない」

「またぁそんなこと言っていると駐屯地で待機中のタケミカ隊員がまた問題を起こしますよ~」

「あはは・・・勘弁してくれ」


真面目な顔で言う葉山三尉、タケミカヅチ様の行動に相当堪えているようだである。その本人はというと鹿島神宮からの勧請の際に設けられた祠の管理を内閣総理大臣の名の下に任されて駐屯地で留守番中であり、自分を奉っている分社の管理をやらされるなど皮肉以外の何物でもないが意外にもノリノリだそうだ。


「ま、まぁ今はうちの隊から指揮はずれているし大丈夫だろ、うん・・・」

「そうはいってもあの人の事ですから走ってここまで来そうですよねぇ」

「否定できないのが辛い・・・」


「む?呼ばれた気がする」

「タケミカ隊員、これ運んでください~」

「承知した」


他愛もない会話をする葉山三尉と林三曹、駐屯地を出て既に4時間以上立っているがまだ目的の物は見えない揺られる車内で葉山は今回の任務を受けた時の事を思い出す。今から十数時間前のことだ。


「外地の調査ですか?」

「そうだ、正確には日ノ出領域外に確認された未確定地点、えーとXポイントと呼ばれているものの調査だがな・・・政府から正式に命令が来たため君の小隊を向かわせることとなった。葉山三尉」


とある一室で葉山 幸三郎陸将がそう告げる。彼のほかには数人の佐官と今回の調査を命じられた葉山三等陸尉がいた。


「しかしなぜうちの部隊が行くのですか?調査なら別の部隊が編成されていた記憶があるのですが・・・」

「あーそれな、まぁ端的に説明するが・・・」


葉山三尉の疑問に陸将が頭を掻きながら説明する。今回の任務を葉山の小隊が命じられた理由を箇条書きするとこうなる。

・別途に編成していた部隊が忙しく回せそうにない

・政府から直々に指名があった

・(正直言って安易に登場人物増やすと管理がメンドイ)

・今現在、葉山の小隊は仕事が無いため待機中である

・相手が息子だしこちらとしても命令しやすいから


「という訳だ、わかったか?」

「オイ待て、なに平然と職権乱用してやがる。親父」


陸将の説明にうっかり素でツッコんでしまう葉山三尉、普通に上官に対する無礼だが周りも彼と陸将の関係は知っているので気にも留めない、当然陸将も何もなかったかのように話を進める。


「そういうわけで葉山三等陸尉、貴官に未確定地点通称Xポイントの調査を命じる。出発は明日の明朝だ、わかったか?」

「(スルーしたよこの人・・・)は!確かに承けたまわりました」


「って訳でかれこれ6時間くらい走っているけど何か見えた?林三曹」

「いえ何も見えません・・・あ、隊長1時の方向建造物らしきものを確認、あれですかねぇ目的の物って」


林三曹の報告を聞き双眼鏡をのぞく葉山隊長、その先にはドーム状の建物というべきものが見える。高さはおよそ地上から100m前後だろう太陽の光を反射しているせいで見づらいがガラス系の材質でできているのか透明体である。


「(随分でかいな、それにあれもしかしてガラスか?もしそうなら今までよく残っていたな)林、進路を向こうに修正してくれ、小隊長から各員へ間もなく目標地点に到着する。各自準備は済ましておいてくれ、以上」


後続車の者に通信を入れる葉山隊長、一行が到着するころには更に半時間を費やした。


「総員降車!2班3班はここで野営の準備を1班は俺と一緒に周囲を事前調査するからついて来て」

「「「了解」」」


各班長に指示をだし例の建物に歩を進める葉山隊長、近くで見ると改めてその大きさに驚くドームとなっている部分はやはりガラス系の材質のようで陽の光を反射して幻想的な光景を作り出している。それを支える基礎というべき部分は恐らく石材の一種だろう、乳白色の材質で高級感を醸し出している。そんな感想を胸に抱きながら周囲を観察し終える隊長大きさは大体半径500m、高さ100mのドーム状の建物で所々に入り口と思われるアーチが確認できた。だが、そのアーチの向こう側は奥が霞むほど長い緩やかなスロープが続いていて両側には階段のような段差が設けられているがかなり急な構造である。試しに小石を放り投げてみたが地に落ちた音がせずかなりの深さまであるという事が分かる。こりゃロープが必要だなと考察しながら周辺調査を終わらせる。建物内部を含む本格的な調査は翌日にまわすことにした。

そしてその翌日、3班を除く全員で建物内部への侵入を始める葉山隊長、各員個人装備一式を持っての行動である。入り口と思われるアーチの一つから葉山と1班は用意した1000m級ロープでスロープを滑りながら、2班は両脇の階段状の段差を使って降下を始める。そしてロープの残りが半分近くなったところでようやく下に着き息を整える葉山、どうやらトンネルが続いているようで後続の者と合流した後再び歩を進める。光は無いはずなのにどういう訳か辺りがよく見えるので明かりをつけずに長いトンネルを進む、暫くして終わりが近いのか外の光が見えて来る。そしてトンネルを抜けるとそこには・・・


「なんだこれ、すげぇ・・・」


彼らの目の前にはそれがはるか昔に建てられたとは思えないほど綺麗な高層建築物で構成された街並みが広がっていた、どの建物もその高さは500mをゆうに届いているだろう、そしてその街を覆うように頭上にはドームが覆っており赤い空が見える。その光景に葉山を含む誰もが目を奪われしばらくのまま無言で歩み続ける。かつては人であふれていたのだろうが今では痛い程の静寂があたりを支配している。


「・・・と、いかんいかん、任務を忘れるところだった、二人一組で散開して辺りを調査するぞ、林三曹は俺と来てくれ」


現実に戻った葉山が慌てて指示をだす。他の者も素直に従って辺りに散るがやはりこの光景が気になるのだろう、所々で上を見たり建物を触ったりする者が見受けられた。そんな様子を眺めながらあたりを観察する葉山だったが観察しているうちにこのドームを含む建築物群に使われている技術の凄さに気づく、まずドームを支えこの街を囲い込んでいる乳白色の壁だが間近で見るとつなぎ目がない、これはいわば一括形成したと考えていいだろう半径500mの円状の壁を形成できるほどの何か工作機械を保有していたことになる。それだけではなくドームを形成しているガラス系の材質も恐ろしいほどの強度を持っていそうである。ここから80m離れた場所に大きさはまちまちだがクレーターのような穴ぼこがあった。昔隕石が落ちたのだろうが至近距離に墜ちればその衝撃も大きいだろうにもかかわらずドームは崩壊せずにその形を保ち存在していた。更にこの街が収められている穴、自然にできたものではないだろう確実に人為的に掘り起こされたものだ、街一つを収められるほどの穴など日本が掘り起こそうとしたらどれほどの年月がかかるだろうか、そしてこれが建てられている場所を考えると正直言って日本が実行するのは不可能だ、今は赤く焼けた大地となっているがそもそもこの場所は日本の海を基準とすれば-150m・・・もろ海中である。その海の中を更に500mも掘り下げるとなると考えるだけで気が遠くなりそうだ。


「これは俺たち、とんでもない世界に来ちまったかもなぁ・・・」


思わずそう呟く葉山隊長、政府の発表を信じるのならこの世界は6兆年前に生命が滅んだらしいのでこの建築物群はどんなに短く見繕っても築6兆年は立っているのだから、凄いを通り越して恐ろしい建築技術である。日本の建築業者がこれを知ったら卒倒してしまうかもしれない、いや、確実にする。そんなことを考えていると不意に持っていた通信機に通信が入る。調査中の他の隊員からだった、何か見つけたらしく至急来てくれとしきりに話してくる。一緒にいた林三曹を連れて呼ばれた場へ早足で駆けていく、現場に着いたときは既にほかの隊員が集まっていた。


「どうした、何か見つけたのか?」

「あ、隊長、あのですねこの建物なのですが他と比べてやけに小さかったので内部に入ってみたのですがどうやら地下に通じているみたいなんです・・・」


説明しながら後ろの建物を指さす隊員、確かに他の建物と比べれば小さいがそれでも日本の一般的な民家と比べると断然でかい、少し中を覗いてみると確かに地下へと続く階段があった。そして明かりは外から入っておらず、ついてないはずなのに異様に明るく感じる。


「ここの時点で地下500mだぞ、まだ地下があるってどういうことだよ・・・」

「それでどういたしますか、隊長、先に進んで調査をしますか?」


隊員の一人が質問する。確かに任務を考えるとこの先も調査の範囲になるがここは他の所と比べて雰囲気というか空気が違う感じがする。それ故に見つけた隊員も念のために隊長に意見を伺った次第である。


「う~ん、どうしたものか・・・調査はした方がいいだろうけどまだ外の調査も終わっていないからなぁ、一先ず今日は他の所を優先してここの調査は明日にまわした方がいいかもな」


葉山隊長がそう答える。確かに他の所を調査している隊員の報告を聞いているとまだまだ外でも何か見つかりそうである。というよりか既に乗り物らしいものを見つけたとか、謎の稼働音を出している機械を見つけたと報告が盛りだくさんである。一度これらの報告をまとめて向こうの駐屯地に送っておかないといけないこともありここの調査は後にまわすことにした。そのあとも通信機には報告のオンパレードの状態が調査終了まで続いたが今日の活動は比較的平和に終えることが出来てホッと肩を撫でおろす葉山小隊長であった。

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