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ゆめたんか  作者: にゃー
5/7

早絵月まゆは夢をかたる


「いやー、恥ずかしい。

自信あったんだけどなぁ。まさか佳作にも入らないとはね。」


「…………」


「……ゆみ、学校休みだね。」


「…………」


「……天気悪いね。雨降りそう。」


「…………」


「なんでまことが私より落ち込んでるのさ。

慰めのひとつくらいほしいんだけど?」


「………ごめん……。」


「まぁ、ありがたい話だけどね。

まことみたいに人のことでそこまで落ち込めるやつそういないよ。」


違うんだよ、まゆ。

私が……私のせいで……。


「終わったことはもうしょうがないんだよ。

アドバイスもしてもらえたし、次頑張るよ。」


いつもみたいに冷静にまゆは言う。

でもまゆは今日は本を読みながら話さない。


「……まゆは強いね…。

私はまゆみたいに割り切れないや……。」


「らしくないなぁ、もう。」


「……たはは…奈々波さんは実は弱い子なんだよ。」


「ばーか。」


「…………」


「…………」


「…………」


「……………気にしなくていいよ。」


「……え…?」


「……まことは悪くないんだから。」


「……まゆ……夢のこと…覚えて……」


心臓が飛び出そうな気持ちになった。

夢のことを覚えていた上できっとまゆは私を許すだろう。

まゆはそういうやつ。

いつもみたいに優しく私が傷つかないように嬉しい言葉を選んで言ってくれるだろう。

ほんとに泣きたいのは、苦しいのはまゆのはずなのに……そんなのつらいよ。

いっそー


「お前のせいだ!!」


「……まゆ………。」


「って、いっそ責めてほしいとか思ってるよね?まったく、まことはわかりやすいよ。」


ゆみはため息を吐きながらいつもみたいに淡々と言う。


「……そ、そうだよ!!

私とゆみがまゆの願いを壊したんだよ!!

台無しにしたんだよ!!あんなに頑張ってたのに!すごいいい絵だったのに!!

怒ってよ!!責めてよ!!私に優しくなんかしないでよ!!!」


私が悪いはずなのに…まゆが辛いはずなのに…なんで私が怒鳴ってるんだろう。


「気にしなくていいって言ってんじゃん。」


「え……?」


そう言いながらまゆは私を抱きしめてくれた。

誰もいない夕方の教室で少し沈黙が流れる。

寒いせいかまゆの身体が熱く感じる。


「……まゆ……?」


「まこと……それはうぬぼれだよ。」


「………何言ってるかわからないよ…。」


「もし願いがひとつ叶うって言われたって私はコンクールで入賞とらせてなんて言わない。絵が上手く描けるようにしてなんて言わない。私の想いも夢も私だけのものだよ。

まことが笑おうが泣こうが死のうが夢の中で暴れようが隣でいつも応援してくれようが今回の結果は変わらないんだよ。

それを変えれたのは私だけ。

自分の想いだったとしてもナイトメアにだって結果を変えてなんかほしくないんだよ。

何度も言うけどまことたちが壊したのはただの寝ているときに見る夢だよ。

本当は本当になるはずのない夢だよ。

現実なんかじゃない。」


「……でも私は……まゆに笑っててほしくて……願いを叶えてほしくて……。」


涙が止まらない。

涙と鼻水でまゆの肩が濡れていたけどまゆは全く気にしてないようだ。


「 その想いだけでいい。

私の想いに必死になってくれてありがと、まこと。」


「………うわああああぁああああああ!!」


泣いた。

思いっきり泣いた。

まゆの最近少し大きくなってきた胸を思いっきり濡らした。

まゆは優しい。まゆの言葉が本心ってわかるから余計に涙が止まらない。

その偽りのない言葉が、優しさが嬉しかった。


「……それはさておきさ、まことはまだ絵描くの好き?」


「ふえ…?………」


急に言いづらそうにまゆが言った。


確かに中1まで私はまゆと同じで絵を描くのが好きだった。

まゆと毎日のように絵を描いていたしお互い見せ合ったりもした。

まゆの絵が好きだった。

まゆと描く時間が好きだった。

そう思える時間に描いた自分の絵も嫌いじゃなかった。

でも私には才能がなかったみたい。

中1の美術の時間、私の絵はクラスのみんなにバカにされた。

みんなには悪気はなかったと思う。

私はこういうやつだからいつもみたいに冗談みたいに私の絵をみんなはからかった。

その日から私は絵を描くのをやめた。

中1だけはまゆと違うクラスだったからまゆは知らない。

いや、噂かなにかで知っているかもしれないけど追求してくることはなかった。


「…まことにだから言うけど今回のコンクールに入賞できたら美術専門の高校を受験してもいいってお母さんと約束してたんだ。

だからつい力はいっちゃって…。」


「………またお願いしてみようよ。

おばさんだってわかってくれるかもしれないし、私からもー


「なんかね、つまんなかったよ。」


「………え?」


「美術専門の高校に行くためだけに必死になって…どんな絵が評価されるのかとかこういう技術使えばよく見えるとかさ……そんなの考えながら絵描いちゃってなんか楽しく描けなかった…。」


「まゆ……」


それでも……だからこそまゆにはこのコンクールにかける想いが強かったんだ。

私は不安だった。

これを機にまゆが絵を描くのをやめるって言いそうで怖かった。

私はまゆの描いた絵が好き。

楽しそうに絵を描くまゆが好き。

高校に行っても絵を描くのをやめてほしくなかった。


「あ……あのー


「まこと………また私と一緒に絵を描いてほしい……よ。」


「……まゆ………。」


私から少し離れて真剣に申し訳なさそうに恥ずかしそうに、それでも私の目を見てまゆが言う。


「……私は下手だから………。」


「私はまことの絵が好きだよ。

まことの力強い絵が大好きだよ。

まことと絵を描くのが楽しいんだよ。」


「……まゆ……知ってるんでしょ……?

中1の頃のこと……。」


「私はそんなこと聞いてない!

まことが……まこと自身が描きたいか描きたくないか聞いてるの!

私と一緒に描いてくれるか聞いてるんだ!」


「………でも………。」


でも怖いんだ。

人の評価が、笑われるのが怖いんだ。


「私は笑わない!!!

私はまことと絵が描きたい!!」


幼稚園の頃から一緒だった。

一緒だったけどまゆの涙を私ははじめて見たかもしれない。


「………描きたいよ………私だって……まゆとまた一緒に絵……描きたいよ………。」


ほんの一瞬見せた涙をぬぐってまたまっすぐに私の目を見る。


「………うん、決めた。

私、まことと同じ高校いく。

勉強も教える。だから一緒に絵を描こう。」


「え…?まゆならきっと私なんかが行けないような高校にもいけるよ…?」


「私にとってそんなの重要じゃないよ。

私はまことと絵を描くの。ずっと言いたかった。ずっと想ってたことだよ。

私はまことと一緒に絵を描くのが楽しくてその時の絵が自分でも1番好きだったんだ。」


私ははじめてまゆの今まで押し殺してきた想いを知った気がする。

まゆのほんとの、ナイトメアにもわからなかったほんとの想い。

それを叶えれるのはきっとここに……現実にいる私たちなんだ。


「……うん!!絶対!!約束!!

私絶対まゆと同じ高校いって一緒に絵を描く!!描きたい!!」


人の想いは人それぞれあって、人それぞれひとつなんかじゃなくて、ほんとの想いとか偽りの想いとかたくさんあって…

だから人は願って想って悩んで傷つくんだ。

それでも前に進む。


「まゆのほんとの想い、聞こえた……聞こえたよ!」


「うん、ありがとう、まこと。」


私たちはお互いの目を見て笑いあった。


(おーーい)


「……なんか聞こえたね…。」


「この声……不思議少女だ…なんで?」


(まぁ、ぼくくらいになるとそっちの世界に声をとばすくらいわけがないわけだよ)


「なんでもありなんだね……。」


「たはは……夢の世界だからね…。」


(そんなことより、遊馬ゆみが大変なんだ

今すぐきてほしい

きみがきてどうにかなるとは思わないけどいないよりはましだよ、奈々波まこと)


「…なんか感に触るやつだね。」


「ね!言った通りのやつでしょ!?」


「まぁ、ゆみをほっとくわけにもいかないし、まこと、お昼寝でもしなよ。

待ってるから。」


頭をかきながらまゆが言う。


「………あはははは!」


「……いきなりなにさ……。」


いきなり笑う私を見てまゆがきょとんとしてる。

ほんとに無意識なんだ。


「まゆのその癖、私大好きだよ。」


「癖?なにそれ?

それよりちゃんと仲直りしてきなよ?」


「うん!!いってくるね!!」


そういってロッカーにいれておいたふわふわのクッションをひいて机に伏せて寝る準備をする。


「……なんかシュールだね…。」


「笑わせないで!!」


ゆみを助けるために。


謝るために。







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